2011年7月2日土曜日

「ソーシャル」を突き詰めたら、結局フォトシェアリングにたどり着くのか?

フォトシェアリングのアプリが軒並み注目を浴びている。その先端を走るのが、SFに拠点を設けるInstagram。

このInstagram、社員はいまだに4人しかいないが、リリースから8ヶ月で、Iphoneのみですでに500万人近いユーザを持つ。この勢いは留まることを知らず、1ヶ月あたり100万人というペースでユーザ数が伸びているという。携帯で撮った写真に特殊効果を加えて(白黒、ビンテージなど)、友達とシェアすることができる。Twitterのように友達をFollowすることもできるし、Facebookのような「Like」機能もある。

実際Facebookでも一番使われる目的はフォトシェアリングだという。つまりフォトシェアリングって「ソーシャル」の肝だと言っても過言ではないのかもしれない。

Instagramがうまくやっているのは、自分のサービスを外部のディベロッパーにも開放している点。写真を使ってアルバムを作ったり、ポストカードにしたりできるアプリが次々と作られている。自分のプロダクトをもとにアプリを作って、ただで宣伝してくれる外部の起業家やディベロッパーたちがいるという、ポジティブな相乗効果が生まれている。

さまざまなニュースメディア、有名人や大企業もブランディングの一環として活用しはじめた。TwitterやFacebookよりもシンプルであること、ビジュアルであることから、アパレル企業のブランディングのチャネルなどに有効だという。

このInstagram、ダウンロードは個人ユーザでも企業ユーザでも無料だ。マネタイズの方法はいまだに明確ではないにも関わらず、すでに750万ドルのファンディングを受けている。

これだけ熱いフォトシェアリング・アプリなので、それだけ競争も激しい。Colorというアプリは一人目のユーザ獲得前にすでに、セコイア・キャピタル、ベイン・キャピタル、そしてシリコンバレー・バンクから合わせて4100万ドルが投資された。

その他最近の新星には、PicPiz、Lightbox、Pixable、Mobli、Pathなど、さまざまな競合がいる。

競争はスタートアップばかりでもない。老舗のFlickrなども、ここぞとばかりにスマートフォンのアプリの開発に力を入れている。PCベースで6,300万のユーザがいる強みを活かし、そのユーザを携帯にも誘導しようという試みだ。

2011年5月23日月曜日

起業家にとって、新たなExitの選択肢

一般的に買収の動機といえば、何を思い浮かべるだろうか。プロダクト、サービスやマーケットシェアを自社で作る時間や技術がないために、手っ取り早い手段としてそれをすでに保有している会社を買ってしまう、というのが主流だと思う。

ただ最近のシリコンバレーでは、Facebook、Google、Zyngaに代表されるテクノロジー企業が、人材が欲しいがための買収を繰り返している。たとえば、優秀な創立者とエンジニアが欲しいがために買収を行い、買収後はプロダクトやサービスを打ち切りにして、その人材を別の分野で再配置する。

この手の買収、"acquired"ではなく、 “acqhired”と呼ばれていたりする。つまりタレントの買収なので、買収額も一人あたりの単価に基づいて計算される。

ちなみにFacebookでその手のタレント目的の買収を繰り返しているディレクターによると、エンジニアは5000万から1億円の価値があるという。

これらの動きは、この地での人材確保の競争が激しくなる一方だということの証だ。実際にグーグルのような大企業でも、もっと小規模なスタートアップでも、規模や知名度に関わらず、十分な人材が確保できないというのは共通の悩みのようだ。各社とも無料での食事提供やIpad支給だったりと、さまざまな手を使ってタレントを釣ろうとしているところにも、その悩みの深さがうかがえる。

その中でもこの手の買収をもっとも強気に繰り返しているのが、Facebookだ。Parakey, Hot Potato, Octazenと、最近買収した小さなスタートアップのプロダクトはほぼすべて打ち切っている。

これらの買収はストックによるものが多く、そのストックを売却するためには通常1年以上は待たないといけない。Facebookいわく、この手の買収はいまや大企業になりつつあるチームに、起業精神をあらためて吹き込んでくれるという、文化に与える効果もあるという。

起業家にとってはそれをはじめからゴールにする人は、少ないだろう。(ていうか、あまりいてほしくない)。だが、数年やってもコアなビジネス自体が伸びない場合は、そういうExitもあり、と考える起業家も多くなってきているようだ。

2011年4月23日土曜日

最近は1999年を彷彿させる投資ブームだが、起業家は手放しで喜ぶわけにもいかない?

起業家にとって朗報だ。

ウォールストリートジャーナルによると、2010年にはここ最近の3年間ではじめて、ベンチャーキャピタルからの投資金額が増加した。2009年には過去12年間で最低だった18.3Bドルから、2010年には21.8Bドルに。

また今年2011年の第一四半期には、7Bドル以上のファンドがすでに集まったという。これは1年前2010年第一四半期と比較すると、76%の増加となる。

一部の投資家は、最近の傾向は、NetScapeの上場から始まった1995年からドットコムバブルがはじけるまでの2000年を彷彿させると言う。ただ一部では、今回のブームは1995年よりももっと持続性が高いという意見も。理由は「リッチなエンジェルやVCが投資に積極的な点は変わらないが、起業家たちの質は今回の方が高い」。それなりにビジネスモデルを見極め、百万人単位のユーザベースを持ち、すでに利益を出している起業家たちが多いためだ。

また最近のトレンドとして、投資家の顔ぶれも変わりつつある。今までシリコンバレーをはじめとしたインターネット系のベンチャーと言えば、ベンチャーキャピタルかエンジェル投資家の独壇場というのが一般的だった。しかし最近では、Goldman SachsやJ.P. Morgan Chaseなどのウォールストリートのバンカーたちが、ネット系の非上場企業への投資に積極的だ。

両投資銀行ともに、インターネットやデジタルメディア企業をターゲットとした投資ファンドを組成して、非上場企業を主に狙った投資を展開している。

例えばTwitter、資金集めに関しても、今どきのスタートアップの象徴のようなもの。

Kleiner Perkins が 3.7Bドルのバリュエーションに基づいて200Mを投資した直後、JP Morganが4.5Bドルのバリュエーションに基づき他投資家から10%のシェアを買っている。

テクノロジー系のベンチャーに対する投資家コミュニティーに新たに足を踏み入れた投資銀行だが、今までの伝統的な投資家からの反応は必ずしもポジティブではない。

それもそのはず、伝統的なシリコンバレーの投資家たちは、資金だけでなくてビジネスやプロダクトのアドバイスやネットワークも提供できるという自負があるし、実際に起業家たちもそれを念頭に置いて誰から資金調達するかを選んだりする。起業家と投資家の関係は、単なる資金提供者と受給者ではないのだ。それ以上の信頼関係とか師弟関係と言っても過言ではないようなものがある。そこに銀行が立ち入ってバリュエーションを引き上げることによって、手が届かなくなるディールなども出てきかねないのだ。

それを防ごうと、インキュベーターやベンチャーキャピタルがいろいろな策を打とうともしている。

ベンチャーにシードを提供しているY Combinatorというベンチャーキャピタル(インキュベーターのようなもの)では、ベンチャーの紹介をするイベントに実績のある伝統的な投資家のみを招待したところ、他の投資家たちの怒りを買った。

また同じY Combinatorの話だが、2人のベテラン投資家Ron Conway氏とYuri Milner氏から6.5Mドルを受け取り、それと引き換えに選び抜かれた40人の起業家へのアクセス(要はその起業家に投資する権利)を約束したという。これまたフェアじゃないと、投資家社会で大きな反響と不満を呼んだ。ちなみにConway氏はグーグルやフェースブック、Twitterへの初期の投資で大成功したベテランの投資家で、Yuri Milner氏はフェースブックにも巨額の投資をしているロシア人投資家だ。

投資家の多様化と言えば、こんな話もある。

Zaarlyという、犬の散歩からお昼ご飯のケータリングまで、今すぐにサービスを求めるユーザとそれを提供できるローカルビジネスを結びつけるサービスがある。「何でも屋」のようなものだ。あるコンファレンスでプロダクトを見た女優のデミ・ムーアがTwitter 経由で宣伝したことも手伝い、コンファレンスから48時間以内には1Mドルもの資金が集まった。そしてこの投資家の中には、デミ・ムーアの夫のアシュトン・クッチャーもいた。

複数の投資家が自分のアイディアに競って投資したがるというのは、起業家にとってはおいしい話だ。ただ選択肢が多い一方で、どこから投資を受けるかという判断は、慎重に行わなければいけない。ファンドをレイズするのは1ラウンドで終わらないかもしれないし、将来、次のアイディアで別会社への投資を募ることになるかもしれない。長期的な付き合いとなる投資家社会との関係だけに、一つ一つの決断が、次のラウンドの選択肢が広げるもしくは狭めることにもなりかねないのだ。

そして起業家にとってのもう一つの難点は、良い人材の確保。大企業が軒並み、給与、ボーナス、オプションの提供などで良い人材を確保に必死となっている。安定かつ金銭的なインセンティブでつなぎ止められている良い人材をそれら大企業から引き抜くのは、とても困難になっているようだ。

2011年4月19日火曜日

オバマ大統領は、グーグルでなくフェースブックを選んだ?

先日アップルが研究開発費を減らしている話をしたけれど、今日はその反対とも言える話を。

先週Googleの2011年Q1決算が報告された。Larry PageがCEOになって初の決算報告ということもあって何かと注目を浴びたが、全体的には好調な出だしという見方が強いようだ。

決算報告によると、第1四半期の売上は前年同期比27%増の85億8000万ドル、純利益は前年同期比17%増で19億6000万ドルから23億ドルに達した。1株あたりの利益は、前年同期の6.06ドルから7.04ドルに増えている。ただ売上高が過去最高なる一方で、コスト増加する結果となった。

TACは20億4000万ドルで前年同期の17億1000万ドルから増加している。このほか研究開発費が12億2600万ドルと前年同期の 8億1800万ドルから増加、販売マーケティング費も同69%増の10億2600万ドルとなり、同社の営業費用は増加傾向にある。

ではそのコストはどこに費やされているのか。

まずは人材の確保。この四半期には1900人の社員が新たに入社、そして昨年末に発表された全社員一律10%の給与アップも実践され、その結果、社員の給与を含むオペレーティングコストは55%アップの28億ドルに達した。グーグルとしては、一層激しくなる人材獲得競争への対策として欠かせないという見方だ。

もう一つは、研究開発費に代表されるモバイルへの積極的な投資。現在はオンライン広告(検索結果と一緒に表示されるスポンサードサーチ)が収入の大部分を担っているものの、長期的なリターンという観点からは、モバイル広告市場がどんどん大きくなるのは間違いない。

実際アンドロイド携帯利用者は、日々350,000人のペースで増えているという。コムスコアによると今年2月時点でアンドロイド携帯のマーケットシェアは33%にまで上り、アップルやブラックベリーを抜いて一位となっている。

では研究開発費をはじめとしたコスト削減に走るアップルと、研究開発や人材への投資を増やし続けるグーグルの違いはどこにあるのか。

それは、各社が何を強み(competitive advantage)としているか、というポジショニングの違いだと思う。グーグルはあくまでも「テクノロジー」の会社というポジショニングをしている。一方のアップルは、デザイン/マーケティングの会社という位置づけだ。テクノロジーの会社であればそのコアに対する投資は生き残るために欠かせない。グーグルの場合はそれが研究開発や優秀なエンジニア人材の確保であり、アップルの場合はマーケティング費用だった。つまり、会社ごとの強みとポジショニングでその投資エリアが変わるというのは、ある意味当然だと言える。

財務指標のボトムライン重視だった前のCEO Eric Schmidtと比較すると、Larry Pageはプロダクトのバックグランドを持つ。これも、ビジネスではなくテクノロジー重視というグーグルの姿勢を今後はさらに強化していく、という意思の表れかもしれない。

このLarry Page、すでに組織の見直しを行って、最近のグーグルの一番の課題である遅くなった意思決定プロセスを改善しようとしている。帝国を築いたと言っても、フェースブックはじめ、次々と現れる新たな競合の中でうかうかとはしていられない。

ちなみに明日の4月20日、オバマ大統領がフェイスブックでタウンホールミーティングを開催する。3年前の大統領選挙キャンペーン時にはグーグルに姿を見せたオバマだが、今回はフェースブックを選んだ(?)とも言える。これもフェースブックがグーグルを脅かす存在になった表れの一つだろうか。

2011年4月9日土曜日

エコなコーヒー:エコなコンセプトを活かしたビジネスがはやっているけど、その顧客となることでもその恩恵を受けられる。

サンフランシスコは一般的に食べ物にうるさい。というのは、味だけでなく、オーガニックかどうか、フェアトレードかどうかなど、生産過程を含めたサプライチェーン全体にもうるさい。そして「正しく」生産、販売されているものを口にするためには、数ドルを余分に払うことは構わないという人たちがたくさんいる。

Bay Area 発祥の食べ物ブランドと言えばいろいろあるけれど、コーヒーショップのblue bottle coffeeなどもその一つ。注文を受けるごとにドリップ方式で入れるコーヒーは、喫茶店文化が根付く日本では珍しくないけど、紙コップに入れて気軽にテイクアウトするコーヒーが主流なアメリカでは、食通の心をくずぐる。

このベイエリア、2010年のデータによると、コーヒーの一人あたり平均消費量は全米のトップに名を連ねている。サンノゼは全米3位、サンフランシスコは全米5位。

そんな中で最近話題のコーヒーショップが、その名も「Bicycle Coffee」。エコとコーヒーをこよなく愛するサンフランシスコ人ならではのコンセプトだが、名前の通り、どこでも自転車でコーヒーを届けてくれる。

ローストしたコーヒー豆がポンドあたり12ドルというから、決して安くはないのだが、その味とコンセプトとこだわりが受けて、創立から2年たった今では、売り上げが毎月20%の勢いで伸びているという。

自転車での配達というのはあくまでもこのビジネスの特徴の一つにすぎず、そのサプライチェーンをさかのぼると、ペルー、エチオピアやパナマなどの生産国からサンフランシスコの取引先の手に渡るまで、可能な限りグリーンな方法での輸送や生産を心がけているのだという。

例えば豆をローストしているサンフランシスコの東に位置するオークランドから配送の拠点になるサンフランシスコへの移動だが、2都市を結ぶベイブリッジが自転車を禁止しているため、BART(地下鉄)やレンタルカー(おそらくZipcarのようなものだと思われる)を利用して輸送しているという。

取引先にしたら、この手のコンセプトを支援しているという態度を示すことで、自ブランドにもポジティブなイメージを与えられる。主な取引先リストの中に、Wholefoodsのようなオーガニック中心のスーパーマーケットが見られるのは驚きではない。意外だったのは、あのZyngaが名前を連ねていること。ヒップで若い人たちに受けるコンセプトのコーヒーを楽しむとともに、コミュニティーをサポートしているPRにもなる。これまた彼らのちょっとしたリクルート戦術の一つなのかもしれない。

2011年4月1日金曜日

落ち込んだ不動産業界に明るい兆し?シリコンバレーに現れた100億円の豪邸。

Digital Sky Technologyの創設者であるロシア人投資家のYuri Milnerが、シリコンバレーのLos Altosに100億円の豪邸を購入して、話題になっている。

このDigital Sky、 アメリカで一番初めに手がけた案件は、フェースブックへの200億円の投資だったという(2009年)から、駆け出しから景気が良い話だ。その後もグルーポン、Zyngaと次々とヒットを飛ばしたというから、確かに宝くじを3回続けて当てたようなものだ。

気になるこの豪邸の中身だが、室内と屋外のプールはもちろんのこと、ボールルームにワインセラー、テニスコート。

「予算なし」で設計されたこの家。個人の家としては公表されている限りではアメリカで一番高い値札だそうだ。

不動産業界にとっては明るいニュースかと思いきや、さすがにここまで来ると一般人への現実とはかけ離れていて、そんな実感はまるで湧かない。

ちなみに、本人がこの豪邸に住む予定は今のところまったくなし(!)という。世界各地に持つ家のコレクションにまた一つ追加、といった軽いノリなんだろう。あえて言えば、シリコンバレーで一発当てるという投資家の夢を具体的な形で見せつけたというところだろうか。

2011年3月31日木曜日

アップルの隠れた秘訣:広く浅くよりも、一つに集中。

スマートフォン業界もタブレット業界も、競合各社はアップルに続けばかりと忙しい。が、各社がアップルに見習うべき点は、商品のデザイン性とかマーケティング戦略だけでないのかもしれない。

限られた会社のリソース(人材、資金、時間など)をいかに配分するか、というのは会社の戦略の大きなポイントだ。その中でも、アップルとその他社でその配分率が際立って異なるコストがある。それは、研究開発費だ。

例えばBlackberryのメーカーであるResearch in Motion(RIM)、2008年から2011年にかけて研究開発費が3倍以上にも増えている。研究開発費の売り上げに対する比率で言えば、5.9%から6.8%に増えた。一方RIMのマーケットシェアだが、2009年の19.7%から、2010年には16.3%に落ちている。

昨年はStormやTorchなどの新製品をリリースしたものの、いずれもアップルやアンドロイドに話題をさらわれて、今では懐かしくさえ思える。

では、ノキアについてはどうか。売り上げに対する研究開発費の比率は2006年の9.5%から2009年には14.4%まで上昇、それが 2010年には 13.8%へと低下した。

対照的に、アップルの研究開発費の比率はこの数年でほぼ安定している。さらに驚くのは、昨年を例にとると、その比率が2.7%にすぎないこと。

アップルはこの10年間で研究開発に投資した金額が、マイクロソフトの1年分(2010年)にも満たないのだそうだ。

多くに手を出してリソースを分散させるよりも一つのモデルに集中する、というのがアップルのやり方だ。少数に賭けるということは、その分リスクも高くなる。アップルの自信の現れでもあるし、逆に、それだけ自分にプレッシャーをかけることが成功の秘訣なのかもしれない。

2011年3月25日金曜日

相変わらず敵なしのジョブス、敵なしのipad

日本ではやむを得ず発売が延期になったipad2だが、他の25カ国では、この金曜日に予定通り発売開始となる。アメリカでは発売直後の週末だけで売り上げが100万台に達成したと噂され、初期モデルに匹敵するか上回る勢いだった。

新しいipadの目玉と言えば、正面と後ろ向きカメラとデュアル・プロセッサーの搭載。外見的には、前のバージョンよりも30%以上薄く(13.4ミリから8.8ミリ)、15%軽くできている(1.5ポンドから1.3ポンド)。にも関わらず値段は499ドルからと据え置きなので、ipadからipad2にアップグレードする人も後を絶たない。

それに刺激されてか、タブレットの先駆けとなったipadに続けとばかりに、各社がタブレット市場に殺到している。

2010年末までに発売されたタブレットの数は30種類。近々発売されることが発表されているのは102種類。今年の世界的なタブレット売上数は4,360万台。ただタブレット市場での今のアップルのシェアは78%と圧倒的なシェアを誇っているのは大した驚きでもない。個人的には、22%もアップル以外のタブレットを持っている人がいるの?と逆に驚いたくらい。

一番の競合とされているのは、モトローラから発売されたXoomだ。プラットフォームはグーグルのHoneycomb。これはグーグルのアンドロイド携帯ではまだ使われていないタブレットのために開発されたもので、Xoomが始めてのケースとなる。

外身的には横長のデザインで、基本的に横向きでの使用が想定されている。ワイドスクリーンのビデオに最適だ。また正面向きのカメラも内蔵で、ビデオチャットができるようになっている。モトローラ曰く、4Gネットワークに対応しているためipadよりも10倍速い通信が可能らしい。

マイナスとして、売りのひとつであるはずのフラッシュが初期モデルではまだ未対応などが挙げられるが、それ以上に大きな壁は値段の高さだろう。ipadの一番安い基本バージョンが499ドル(wifiのみ)なのに対して、xoomは600ドルから。この差は大きい。

そして携帯競争ですでに聞き飽きたくらい繰り返されている点だが、あえてもう一度。忘れてはいけない何よりの利点は、アプリの数だ。350,000のアプリがあって、うち65,000はiphoneの小さいスクリーンとは違ったタブレットの大きなスクリーン用に最適化されている。一方のグーグルは、150,000のアプリのみで、そのうち100しか大きなスクリーンへの最適化が行われていない。

結果としては、十分アップルの脅威になるものを備えているが、100ドルの値段差を払うまでの価値はないと見られるだろうと予想される。

またこのipadが脅威となるのは、同じようなタブレット製品だけではない。例えばkindleなどの電子本用ハードウェア。今回さらに軽くなったipadは、持ち運べる電子本としてさらに使いやすくなる。

3/2のipad2のお披露目イベントに、いつもの出で立ちの黒いタートルネックとジーンズで現れたジョブス氏。すっかりお馴染みになったこの服装だが、地味で目立たない服によって商品のデザイン性を引き立てるという隠れた作戦があるとも言われている。その狙い通りかどうか、またもや世間をあっと言わせたアップル。噂通りの商品だったにも関わらず、ユーザーを失望させず大きな話題性を繰り広げ、さらに競合までをぐんと引き離す力は、さすがとしか言いようがないだろう。

2011年3月21日月曜日

Twitterやフェースブックは、大学の講義すら楽しくする

アメリカ、特にシリコンバレーでは、ビジネスと大学の距離が近い。企業と大学が共同で講義を持ったり、成功した起業家や有名などこかのCEOとかが大学で教えることも多い。

ただ最近は、どちらかと言うと伝統的とされてきた(Web2.0的でない)会社も大学の講義をスポンサーしたがる分野がある。それはオンライン・マーケティング(インターネット・マーケティング)だ。つまり、若い世代をターゲットにマーケティングを繰り広げる際に、学生の知恵を借りようという思惑。

良くあるパートナーシップの形態は、企業が大学に資金や普通では手に入らない顧客情報を提供、その代償として学生が企業のためのプロジェクトを行い、企業はその結果をただで得る。学生にとっても企業と密接に働くことでインターンシップのような経験が得られ、就職活動にプラスとなると好評らしい。

例えば携帯キャリアのスプリントは、ボストンにある大学で「インターネット・マーケティング」のクラスをスポンサーしている。スマートフォンとその無制限の利用を無料で提供する代わりに、学生は同社がボストン地域でリリースする4Gネットワークのサービスについて、インターネットを使ったマーケティングに取り組む。具体的にはブログを書いたり、TwitterやFacebookを使ったり、YouTubeにビデオをアップロードしたりと、インターネットを利用した口コミマーケティングが課題だ。

また企業にとってはおまけの効果がある。

一つ目のおまけは、クラスを取った学生の企業に対するイメージや理解が深まり、新たな顧客になる可能性があるという点。例えばスプリントだったら、サービスを実際に使ってみた結果、AT&Tからスプリントに移り変わるかもしれない。マーケティングを手伝ってくれる学生と言っても、一人の顧客でもあるのだ。

また、良い学生を見つけたら逆に企業側からリクルートすることもできる。

コスト面でも、コースを担当している教授がいるわけだから、手取り足取り教育する必要がないという点で、インターンシップより安くつく(そもそも多くのインターンシップは有給)。大企業にとっては一講義をスポンサーするなんて、安いものだろう。

ちなみにこの手のクラスではその他にも、最近はやりのツールを最大限に利用する秘訣がいろいろと教えられる。例えば一番効果的にTweetできる時間帯:それは朝の11時か夕方の6時らしい。この時間帯にtweetすると、読んでもらえる確立が一番高いとか。

わたしの大学時代にもこんな講義があればもっと楽しく勉強したのに、と思う。何よりも勉強という意識なく学べるのがうらやましい。

2011年3月14日月曜日

ipad2は本体よりもカバーの方が斬新?

アップルのマーケターぶりはやっぱりすごい。今回のipad2で話題騒然かと思いきや、ひそかに話題になっているのはそのケースだったりする。ケースなんて何でもいいんじゃないの?と思いがちだけど、アップル製品の魅力はそのデザイン性が大きいわけで、数万円出して中身を買うんだったら数千円余分に出して外身も格好よく見せたい、というアップル好きの消費者心理を見事に利用している。

わたしもケースに40ドル出してそれでも買ってしまった。。という話を以前書いたけれど、今度のケースは見た目が格好良いだけではない。

このケース、開けた途端にipadが立ち上がるように作られている。ニューヨークタイムズの記事の中では、このケースを冷蔵庫の扉に例えている。起動時間をじっと待たないといけないPCと違って、冷蔵庫は扉を開けた途端に電気が付いて食べたいものにすぐ手が届く。今回のケースも待ち時間なしの冷蔵庫のようなものだというのだ。

通常ipadを起動するには、ボタンを押してスイッチオンして、画面上を指でスワイプしてログイン画面を立ち上げる必要がある。それにかかるのは合計3〜4秒。そんなの大した時間に感じないかもしれないけど、その間にもう一通メールが返信できるかもしれないし、一つtweetが読めるかもしれない。となると、少しの時間短縮可能でもテッキーな人たちにはうれしい。

ipad2のカバーはipad2そのものよりも斬新的だという声まである。このカバーが故にipadからipad2にアップグレードする人も出てくるだろうというくらいだ。

色がいろいろと選べて、39ドルからレザーでできた69ドルまで価格はさまざまだ。

スティーブジョブスによると、このカバーはあとから思いついたものではなく、ipad2の開発と並行してともにデザインされたものだという。アクセサリまで含めてトータル・ブランディングを展開するアップル、さすがというしかない。また、かゆいところに手が届くというか、永久に満足することを知らないテッキーな消費者をどこまでも魅了し続ける。近いうちに音声で起動したりするんじゃないかと思ってしまう。

2011年3月10日木曜日

低迷するサンノゼ空港

サンノゼと言えば750万人近くが住むカリフォルニアで3番目、また全米でも10番目に大きな町。ただ最近、かつてはシリコンバレーへの玄関となっていたサンノゼ空港が利用客低下で悩んでいるという。サンフランシスコの南に位置するサンフランシスコ空港に、利用客が流れているらしい。

位置的にはシリコンバレーの中心とされている複数の町から30分内の距離という理想的な立地条件で、シスコ、グーグル、アップルなど代表的なシリコンバレーの大企業からの距離も、サンフランシスコ空港よりもサンノゼ空港の方が断然近い。

サンフランシスコ空港に流れる原因としては、利便性に欠ける点が大きいという。東海岸向け、例えばニューヨークやボストン向けの便は一日に一本しかないというとても不便な状況なのだ。また国内線だけでなく、国際線への接続も圧倒的に少ない。これは10年前にドットコムバブルがはじけた際に、大手航空会社が軒並みサンノゼから撤退した結果だ。

この傾向を受けて、空港ではいくつかの対策をかかげて大手航空会社を呼び戻そうとしている。

例えば利用料に対して大幅ディスカウントを適用して、便数を増やすよう促したり、レンタカーエリアやセキュリティのオペレーションなどの改善して待ち時間を減らす努力をしていたり。また、Wifiの提供や電源をそこらじゅうにつけるなどの努力も欠かしていない。

シリコンバレー近辺の大手企業にもサポートを促して、地域一体となって再度の活性化をはかっている。例えばeBayやシスコのサポートを受けて、懸命にANAをサンノゼ空港に呼び込もうとしている。

一方、各航空会社の日本行き便についても競争が激しくなることが予想される。サンフランシスコ〜羽田間の運行を始めたJALに対抗して、ANAも差別化をはかる対策を取ることを余儀なくされるだろう。日本行き便の利用客にとっては、いずれにしてもオプションが増えるというのはいいことだけど。

またもう一つの対策案として、空港名に「シリコンバレー」をつけてもっと魅力的な名前に変えることも検討中らしい。

ちなみに現在のサンノゼ空港のオフィシャルな名前は「ミネタ・サンノゼ空港」。この名前にある「ミネタ」さんは、ジョージ・ブッシュ政権時代のTransportation Secretaryで、クリントン政権時代のCommerce Secretaryだったサンノゼ出身のNorman Yoshio Minetaからとったもの。このミネタさん、日本からの移民であった両親のもとに生まれた日系1世で、その昔はサンノゼ市長でもあった。

ミネタさんの名前がシリコンバレーに置き換わるとしたら、日本人としてはちょっと寂しい気もするけど。

2011年2月24日木曜日

マイバッグは、グリーンなサンフランシスコ人にとってますます必需品となりそうだ

サンフランシスコでは、2007年にスーパーなどがプラスティックの買い物袋を使用することを禁止した。全米初となったこの条例では、土に戻しやすい生物 分解素材を使ったものか、もしくは布製のバッグや紙袋の配布が義務づけられている。サンフランシスコではこの条例を適用してから15-20%もプラス ティックの袋のゴミが減ったという結果が出ている。

今では周辺の多くの町でも同じような条例を適用、もしくは検討している。マリンカウンティーでは、この1月に条例が通った。パロアルトは2009年に限定 されたスーパーで始めた条例の範囲を、もっと多くのスーパーに広げようとしている。サニーベルも今年末を目標に条例制定を目指しているという。加えて、 Fremont, Daly Cityなども検討中だとのこと。

プラスティック業界はもちろん大反対で、彼らの主張するポイントは2つ。禁止する代わりにプラスティックのリサイクルプログラムをもっと奨励すべきということと、紙の買い物袋の環境による影響もプラスティックとは変わらないという点。

リサイクルプログラムのメリットとして、買い物客に対して多くのオプションを与えられというのに加えて、コストを押さえられることを挙げている。

と言えば、確かに気になるのが紙の買い物袋。プラスティックに比べてそこまで環境に優しいのか?

サンノゼ市によって行われた調査によると、紙の買い物袋とプラスティックでは、環境への害は対して変わらないという。となると、この条例をさらに広げて、紙の買い物袋まで禁止しようとい動きも盛んになるのは容易に想像できる。

サンノゼでは調査の結果を受けて、2012年から紙の袋に対して10セントの課金を開始、そして2年後には25セントに増やすことを予定している。サンフランシスコでも紙の買い物袋の禁止を検討している。

確か日本の杉並区ではレジ袋1枚5円の有料化を行っていたが(もう変わっているかもしれないけど)、その結果マイバッグ率が80%も上ったそうだ。アメリ カだと買い物の頻度が少ない代わりに一度に大量に買い込むので、もう少し課金しないと十分なインセンティブにならないといったところだろうか。

確かにサンフランシスコ市内にいると、布の袋を3つも4つも持ち歩く人が少なくない。食料品を溜め込むアメリカ人だけに、それだけの買い物袋が必要になる んだろう。アメリカの大都市にしては珍しく、公共のバスやZIpCar(時間制レンタルカーのようなもの)を利用して、布の買い物袋をかついで、1週間分 の食料を買いだめに週末買い物に出かける人を良く目にする。これぞ環境にうるさいサンフランシスコという感じ。

そう言えば、昔は「紙にするかプラスティックにするか?」という質問を良くレジでされたけど、最近はめっきり聞かなくなった。プラスティック業界の主張す る「選択肢がない不便さ」についてだけど、個人的には聞かれたら聞かれたで結構困っていた。選ぶ基準としては、プラスティックだとあとからゴミ袋に使える かなというくらいで、さして好みもないのに適当にどちらかを選んでいた。となると、選択肢が少なくて選ぶ必要がないのは、逆に便利になるなと思ったりする んだけど。

2011年2月23日水曜日

ベンチャー・キャピタルの勝ち負けを決めるのもフェースブック

ベンチャー・ファンドの世界でも不況の影響は大きく、新たなファンドの数も集まる金額も、2007年以降は年々減少している。

ただし金額も数も伸びるところを留まらない分野がある。それは、ウェブベースのコンシューマー・プロダクトだ。

全体的には2010年には109のベンチャー・ファンドが集まり、116億ドルが集まったので、2007年の215のベンチャーファンド、401億ドルという結果と比較すると、大きな落ち込みだ。

ところが大手のウェブベースのコンシューマー会社を投資先に持つような有数のVCについては、ファンド数、金額とともに増加していて、今年もその傾向は変わらないようだ。

パロアルトに拠点を持つAccel Partnersは、フェースブックとグルーポンという2大サイトに投資している。今年は新たに4つのファンド、20億ドルを超える金額を集めたという噂だ。

一方でZyngaとTwitterに投資しているKleiner Perkinsは、10億ドルとの噂。

J.P. Morgan Chaseなどもインターネット系の会社に集中的に投資するファンドを開始するらしい。

すでにフェースブック、グルーポン、Zynga、FourSquareなどに投資実績があるVCが優位にたち、それらのVCにファンドが集まりやすいのは 当然のこと。となると、これから新規に参入しようとするVCは次のフェースブックを探すところからの出発になるが、それにしてもそこまでのファンドが集ま らない。

勝者がどんどん強力になっていく構図のようだ。

2011年2月17日木曜日

フェースブックとは仲良くしておいた方が得か、それとも真っ向から勝負すべきか。各社に迫られる選択。

Wall Street Journal にフェースブックの話が出ていたので、あらためて紹介。

フェースブックは敵か味方か、というのがテーマだ。どう自分をポジショニングするかとも言い換えられる。つまり仲良くしておいた方が得なのか、それとも敵と見てシェア争いを積極的に繰り広げるのがいいのか。各社はそのスタンスを問われている。

今のオンラインサービス業界図に名前を連ねる大物の数々、それらの境界線がはっきりしない構図になりそうな兆しは前からあったけど、最近その傾向がますます色濃くなってきている。その中心に位置して、台風の目のように周辺をかき乱しているのは、フェースブックだ。

例えばヤフー。ここ何年も「ソーシャル」になろうとして、もがいてきた。'360 social network'、'Yahoo mash'、'Yahoo updates'、'Yahoo Pulse'など数々の「ソーシャル」なプロダクトをリリース、昨年にはフェースブックもどきの'like'や'share'機能を追加したものの、どれもいまいちの結果。

となると、それらで見事な成功を重ねてきたフェースブックをヤフーは敵対視しているのだろうか。アドバタイザーの取り合い、またユーザがサイトで過ごす時間という意味では、フェースブックは一番の強敵だと言える。2010年には90億ドルに上ったと言われるオンライン広告費、ヤフーは一位の座を保持したものの、シェアを2009年の16.5%から16.2%に落とした。一方のフェースブックは、7.3%から13.6%へと飛躍的に伸ばしている。

コムスコアによると、ユーザが各サイトで過ごした時間についてもヤフーは2010年に10%減少、そしてその最大の原因はフェースブックだと言う。

一方、ヤフーコンテンツの露出をいかに増やして、yahoo.comにトラフィックとユーザを呼び戻すかという意味では、ヤフーはフェースブックと仲良くしたい。特に数々の独自の「ソーシャル」プロダクトに失敗した今、フェースブックの「ソーシャル」機能の統合を積極的に進めている。すでにヤフーのネットワーク上でフェース ブックのアップデートが見られたり、ヤフー上にフェースブックの'like' や'share'機能も統合されている。

ではグーグルはどうか。グーグルはいまだにフェースブックを「敵」と見なして、独自のソーシャルプロダクトを開発している。ヤフーのようにはまだあきらめてはいないというところだろうか。

フェースブックが誕生した当初は友達とつながるプラットフォームということで検索エンジンは対して脅威に感じていなかった。だが、いまやフェースブックはそれだけのプラットフォームではなく、新たなサイトやコンテンツを発見する場になってきている。つまり検索エンジンが伝統的に得意としていたことを、もっとソーシャルな観点から実現しているのだ。検索エンジンとは、何か調べたいものがはっきりしているときにキーワードをタイプすると、探しているサイトへのリンクを表示してくれるもの。一方のフェースブックをはじめとしたソーシャルネットワークでは、特に何かを探しているわけではないが時間つぶしに面白いビデオだったり記事を読みたいときに、予想外のコンテンツを簡単に発掘できる場になっている。友達が面白いと思ったコンテンツを自分の友達にシェアする。それがどんどん広がって、ついでにコメントまでついて友達の友達にまでシェアされていく。先日のブログでも書いた"Tiger mom"の話は、そんな感じでどんどん広まっていった良い例だ。

検索サービスだけでなく、コンテンツを発見する場、という意味ではTwitterとかぶるところも多い。ただTwitterはマーケティングとかプロモーション的な目的で使われることが一般的に多いから、厳密にはターゲットとするコンテンツの内容は微妙に分けられるんだろうけど、それでも広い意味ではかぶっている。

では、検索エンジン以外はどうか。

ソーシャルゲームの一番手となったZyngaは、フェースブック上で伸びたゲームだからフェースブックに頭が上がらないんだろうけど、その分トラフィックやレベニュー・シェアでフェースブックにも十分代償を払っているから、お互いかけがえのない存在といったところだろう。

ところがZyngaにとっては、今後はその代償がますます大きくなっていきそうだ。というのも、フェースブックの最近の発表によると、今後アプリのディベロッパーはフェースブック専用の通貨を使うことを義務付けられ、その売り上げの30%をフェースブックが確保する。このフェースブック通貨、後には実際の通貨として実際のモノを売買できるようにもするとの噂も。となると、今度はPaypalやアマゾンの競合にもなりかねない。

最近フェースブックがリリースした、ロケーションに基づく「チェックイン」機能では、レビューサイトのYelp、日本でも話題のGrouponと真っ向から敵対することになる。

モバイルの世界、特にモバイル上の広告費という点では、アップルやグーグルとも思いっきり衝突する。

また最後に忘れてはならないのは、味方になろうが敵になろうが、避けられない熾烈な競争が待ち構えているということ。それは人材の確保だ。業界図が日々変化し続ける中、これは常に問題となり、すでに上に挙げたエリアを超えてもっと広く影響しているのだ。

2011年2月12日土曜日

携帯業界の世界的な拠点になりつつあるシリコンバレー

携帯電話メーカーと言えば、ノキアやソニーエリクソンのように本社がフィンランドやスウェーデンだったり、モトローラのように国内でもイリノイ州だったりと、シリコンバレーからはほど遠い場所に拠点を構える大手メーカーが多かった。

ところが来週ソニーエリクソンから発表される携帯は、はじめてシリコンバレーで開発された機種らしい。ちなみにこの新商品では、Playstationも楽しめるとのこと。

今まで携帯機器(ハードウェア)と言えばアジアやヨーロッパ発のものが多く、アメリカは追いつくのに精一杯だった。ところが最近このソニーエリクソンの話にも象徴されるように、携帯電話メーカーの地理的なリソース配分に変化が起きてきている。

今や携帯と言えば、ハードウェアの機能やデザイン性だけ売れる時代ではない。ソフトウェアの重要性は高まる一方で、その結果アプリ市場をリードしているシリコンバレーが必然的に携帯市場の拠点にもなりつつある。

では何故この地域か?アップルやグーグルがOS市場をリードしていることは言うまでもないが、ベンチャーキャピタルをはじめとした投資家の携帯分野に対する投資活動も活発になる一方だ。以前の投稿でも触れたように、Kleiner Perkins Caufield & Buyers が携帯のアプリ開発のためだけのファンドiFundに$200Mをつぎ込んでいるなんていう話もその動きを象徴している。そして結果的に、この地域でのアプリ開発のスタートアップの数も軒並み増えている。

IDCによると、今年スマートフォンの売り上げは全世界で39%の伸びを示し、それらの40%以上はシリコンバレーで開発されたOSを採用するという予想がでている。ということは、携帯関連事業者にとって、アップルやグーグルの近くで開発を行うことのメリットがますます大きくなってくる。

携帯業界の大手は(キャリア、ハードウェアともに)、すでにシリコンバレーにリソースを移し始めている。主な動きとしては、以下の通り。
  • モトローラは、2010年にサニーベルのオフィスの社員数を80%増やしている。
  • ソニーエリクソンが2007年に50人で開設した研究開発センターは、今や6倍にまで拡大している。
  • ノキアはすでにシリコンバレーのオフィスに500人の社員を抱えている。
  • アメリカの携帯キャリアT-Mobileは、マウンテンビューオフィスをいっきに拡大。
  • 今月からiphoneの販売を開始するVerizonも、サンノゼにアプリ開発センターを開く予定。
という各社の動きからも、携帯業界の垂直統合がシリコンバレーを中心に加速していくだろうことも予想される。

2011年2月9日水曜日

それでも買ってしまうアップル商品

今までAT&Tの独占状態だったiphoneの販売、今週からVerizonも売り出すことになった。2社の競争は加熱する一方だけど、その争いが加熱すればするほど得をするのはアップル。お互いが宣伝合戦を繰り広げれば広げるほど、アップルとiphoneの認知度は高まる。

アップルと言えば、最近ipadを使っていて改めて気づいたことがある。ipadとパソコン間のデータの移動がいかに困難かということだ。

iPadを格好良くすっきりと見せるためだろうか、AppleはUSBポートもSDカードスロットも付けていない。持ち運びできるパソコンと位置づけるなら、SDカードの写真を取り込んだり、ファイルをUSBメモリに移したりできるようにするべきだと思うけど。アダプターがあれば使えるけど、あくまでも有料。

デザイン性を重視したとも言えるけど、ある意味アップルの作戦のようでもある。つまりファイルとかアプリの共有を難しくすることで別デバイス間のリソース共有をしづらくして、デバイスごとにインストール、つまり購入することを促しているようだ。

ここでまた活躍したのが、以前のブログでも紹介したdropboxだ。

Dropboxは、無料で利用できるオンラインストレージサービスのひとつで、2Gまでは無料で、年間$99で50Gに拡張することができる。結局わたしもこれを使ってデータ移動の問題を解決した。

さて、話題になっている次世代のipadだが、SDカードスロット内蔵するけどUSBは引き続き搭載せず、とのこと。これらが初期バージョンで搭載されていなかった理由としては、デバイス間のデータ移行を妨げると同時に、次バージョンへのアップグレードする理由を確保しておくために出し惜しみしている作戦のようにも見える。フロントカメラだってユーザーからのニーズが高いだろうことは容易に想像つくけど、次バージョンまで待たせて買わせるという理由を採っておきたかったがために初期バージョンには搭載しなかったようなものだろう。

アップルのこういった態度は、アップルストアでの音楽がitunesでしか効けなかったり、iphoneのアプリの審査に異様に時間がかかったりするようなことからも、驚くことではない。冒頭のAT&TとVerizonの熾烈な競争だって、アップルがしかけたようなものだ。

ちなみにipadのケースをアップルストアで買ったら、40ドル。さすがアップル。もちろん包装の袋から箱まですべすべで格好良くて、捨てるのがもったいないほどだし(しっかりと取っておくことにした)、閉鎖的と文句を言いながら買ってしまうところが、消費者心理をしっかり掴んでいる勝者の証って感じだけど。

2011年2月1日火曜日

iphoneとstarbucksで、アメリカ版お財布携帯の先駆けを狙う

1月半ばに、パイロット版から本格版としてリリースされたスターバックスのiphoneアプリ。お財布携帯的に使えて、携帯電話でコーヒーが買えるというもの。メディアはしきりに騒いでいて、スタバの株価にどう影響するかなど盛り上がっていたけれど、いかに携帯を使った支払い機能において、アメリカが日本から遅れを取っているかの象徴のようだった。

このアプリの使い方だけど、まずはスターバックスのギフトカードとアカウントを持っていることが条件となる。スマートフォン上でアカウントにログインして注文をしたら、レジで携帯電話を渡す。バリスタがスキャナーに携帯を当てて、それで支払い完了。

話題性は十分あったものの、実用性としては「?」。そもそも日本と違ってアメリカはクレジットカード社会なので、カードでの支払いもそんな手間はかからない。3ドルとか5ドルだとサインも不要なので、店員がスキャンするのがクレジットカードからiphoneに変わったというだけ。となると、大した効率性向上にもつながらない気がする。

今後の他の使い方としても、日本のように公共交通機関が発達していれば販売機で切符を購入する手間が省けたりするけど、これまた車社会だからそれほどのインパクトもない。

にわとりと卵って感じだけど、それだからお財布携帯的機能が広まらないのかも。

ちなみにアップルとスターバックスと言えば、2008年にfree iTunes "Pick of the Week" を提供したり、このアプリについても昨年から一緒に開発してきてたりするなどで仲がいいので、今回はとりあえず目新しいものを出して話題作りを狙ったというところだろうか。

さて、支払いに話を戻すけど、コーヒーに毎日3ドル払っているとすると月に100ドル近い出費になる。節約への第一歩として真っ先に指摘されるコーヒー。クレジットカードの明細だとその他もろもろの出費にまぎれてしまって、コーヒーに対する出費だけの合計って把握しにくい。ところがこのアプリを使えばコーヒーにいくら使っているのか履歴もすぐにわかるようになる。スターバックスにとっては利便性と話題性を強調して売り上げ向上を狙っているんだろうけど、顧客に節約の必然性を再自覚させてしまって、コーヒー自粛傾向になったりといったマイナスの効果はないんだろうか?とふと思ったりする。

出費管理と言えば、最近使い始めたmint.comが結構使える。2005年に立ち上げ、2009年にQuickenやTurboTaxを持つ大手ソフトウェア会社Intuitに買収されたこのmint.comだが、口座やクレジットカード情報をすべて登録することによって日々の入金・出費管理をしてくれる。自分で予算設定をしておけば、それを超えた場合にアラームを出してくれたり、出費の内訳をカテゴリー別に管理してくれるので、それこそコーヒーに今月いくら使ったかなどが一目でわかる。セキュリティの面で懸念が多く、わたしも今まで使う気になれなかったけど、周りで使っている人たちが多いことと、大手企業に買収された変な安心感もあって、使い始めたという経緯だ。

話がいったりきたりになってしまったが、お財布携帯的な機能がこっちでもっと盛り上がって各社が似たようなアプリを出し始めると、すべてにまたがって(例えばスタバ、ウォールマート、サブウェイなど)カテゴリ的な出費管理ができるmintのようなアプリがはやるだろう。


2011年1月27日木曜日

外国人が日本でベンチャーを成功させる秘訣

"How to Create a Successful Startup in Japan: In 10 Easy Steps!"(日本でベンチャーを成功させる10のステップ)という面白いブログ記事があったので、紹介したい。

それによると、10のステップとは以下の通り。

1. Know what a startup is
日本でいわゆる「ベンチャー」を始めるのは一大事だということを良く把握する。シリコンバレーでベンチャーを始めるほど気軽なことではなく、とてつもなく 「おおごと」で「普通じゃない」ということ。文化的に根付いていないし成功例も少ないので、世間、家族、政治などの面でサポートを受けにくい。

2. Have a relevant reason for being in Japan, and always evaluate location
日本でないと駄目な理由がしっかりあること。日本人ユーザのニーズをしっかり把握して、この国ならではの問題とビジネスチャンスがあることを再確認する。日本は、シリコンバレーのように、決してベンチャーをはじめるために来る地ではない!

3. Use the culture, learn the language
日本の便利さ(コンビニが代表例)サービスレベルの高さ、故にユーザーが期待するサービスレベルの高さがアメリカと比較して異様に高い。つまりそれだけ働く人の意識も高く、一番のサービスと製品を提供しようと意気込みが強い。
日本で始めるからにはそういう文化と意識をうまく取り入れること、そしてそれを自社のアドバンテージにすること。そういう意識が初期から根付かせておくと、後々の文化の基盤となって、大きなアドバンテージになる。

4. Learn to straddle timezones
これは当たり前のことだけど、時差に慣れること。アメリカとの電話会議は朝一番、ヨーロッパとの電話会議は一日の終わりに。

5. Don’t worry about the local economy
日本経済の落ち込みを気にしないこと。人口減とか政治腐敗とかいろいろと暗いニュースが多いけど、その手の懸念はベンチャー成功要因の0.5%にも満たない。

6. Figure out how to raise money
資金調達については、シリコンバレーは例外だということを良く認識すること。シリコンバレーを一歩出た途端、資金調達は一層困難になることを自覚しておくこと。日本も例外ではないので、シリコンバレーで投資家を探す活動を怠らない。少なくとも初期の資金調達もとをアメリカで見つけておくことは大きなプラス。

7. Create a hiring strategy
日本での採用については、適任の人材があまりいないという意味で困難だけど、競争が少ないという点では有利。良い人材の確保は難しいけど不可能じゃない。また、難しいくらいでないと、良い人材を採れていないという証拠。

8. Consider creating a US entity
日本国外に法人を設けること。これはアメリカからの投資を集めやすいという点に加えて、日本国外で契約社員を雇う場合や、仕事を外注する際に有利となる。日本法人で雇われている場合、所得税の報告などが複雑になるため、多くの外国人は嫌がるため。

9. Focus
シリコンバレーのように、ネットワーキングの機会が頻繁にあるわけではないので、日本にいるとき、アメリカにいるときの時間をしっかりと使い分ける。日本 にいるときはプロダクトを作ることに集中し、アメリカでの出張時にはネットワーキングと資金調達に集中する、というように。

10. Profit!
ビジネスである限り、利益を出さないことには始まらない。日本では一般的に成熟したベンチャーよりも、初期フェーズのベンチャーの買収が多い。また売り上げが少ない段階での上場も比較的やりやすい。ゴールを念頭に置くこと。

これを読んだ上で何点か個人的な感想を追加。

まずカギとなるのは、いかにローカルにとけ込むかだと思う。これはユーザのニーズを把握するというだけでなく、採用の面でも大きなアドバンテージになるはず。日本に住む外国人は社交範囲が駐在員コミュニティに留まるケースが多いけど、それだけだとそれを通してつながる日本人の数も価値観も限られるので、特に良い人材を確保するという点ではそれを超えたネットワークを持っていることが大事だと思う。

また採用に関して追加すると、流暢に英語が話せるということを必須条件としないこと。もちろんスタートアップのフェーズによるけど、数人の枠を超えたら、英語が超堪能でなくてもいいと思う。日本って、英語が話せるということを条件に入れた途端にいきなり候補者が激減してしまう傾向があるけど(少なくとも10年前くらいはそうだったので、今もその状況は劇的には変わっていないはず)、逆に言うとその制限を除いただけで優秀な人材が確保しやすくなる。

これまた採用にも関わる点で、世界どこでも共通する話だと思うけど、優秀な大学とのコネをうまく作ること。例えば在学生や最近の卒業生が知り合いにいると、優秀な学生を紹介してもらってバ イトやインターンとして活躍してもらうことができる。慶応SFCなど特定の大学/学部は例外としても、日本の学生はベンチャーに興味がないのではなくて、きっかけがないだけなんだと思う。だからコネを通して紹介されれば、興味を持ってくれる学生は多くいるはず。物理的に、大学の近くにオフィスを構えるというのも効果的かも。

そして最後に、地方にも注目すること。東京はもちろん潜在的な良い人材がいっぱいいるけど、それだけ競争も激しい。地方にいけば競争は少ないけど良い大学や優秀な学生もいっぱいいる。物理的には東京にオフィスを構える場合でも(そのメリットは十分あるので)、今やネットの時代、リモートでプログラムを書いてもらうことも可能だろう。

以上、優秀な人材の確保に関する点ばかりになってしまったが、それもわたし個人的に、ベンチャーは人が一番大事であり、優秀な人材の確保が一番のチャレンジだと思うので。これってどの国のベンチャーにも共通して言えることだろう。もし2つのオプション、1) 優秀な人材とそこそこのビジネスアイディア、もしくは、2) 先進的なビジネスアイディアとそこそこの人材、からベンチャーの成功率が高い方を選ぶとしたら、正解は1)だと言われる。

2011年1月20日木曜日

シリコンバレーを育てたのは、スパルタ教育かゆとり教育か

2週間ほど前からアメリカ中で話題となっているネタがある。しかもネタとして盛り上がる場所は、子供の遊ぶ公園だったり、スーパーマーケットだったり、昼間のカフェだったり。子育てするお母さんたちの集まる場所で話題になっているのだ。そのネタとは「Tiger Mom」(虎のように厳しい怖いお母さん)。

ことの発端は、Yale大学法学部教授のAmy Chuaの回想録 "Battle Hymn of the Tiger Mother" のプロモーションのために、彼女がWall Street Journalに寄せた記事だった。その名もズバリ、"Why Chinese Mothers Are Superior"(何故中国人の母親は優れているのか)。

ちなみに中国では、ライオンではなくて虎が獣の王様とされているので、"Lion Mother"ではなく、 "Tiger Mother"らしい。

記事の反響の大きさだが、オンラインで100万回以上読まれていて(つまり100万人が読んだと仮定していい)、今週半ばの時点で7000件以上のコメントが寄せられている。コメントの大多数は怒りの声で、さらには彼女のところには脅迫文まで送られているらしい。しかも意外なことに、同じようなバックグラウンドをもつアジア系アメリカ人からの怒りの手紙も少なくなかったという。

ではそこまでアメリカ中に議論を巻き起こした記事、どんな内容なのだろうか。

記事の内容を一言でまとめると、中国系アメリカ人2世である彼女が、いかに厳しく自分の2人の娘を育てたかというもの。多くの読者にショックを与えたエピソードとしては、ピアノの曲がうまく引けずにあきらめようとする7歳の娘に、引けるようになるまで夜通しで練習させ、食事もトイレ休憩もなくピアノの前に縛り付けたというもの。また、気に障るような言動を取った自分の娘を他人の前で「ゴミ」と呼んだり、娘の作ってくれた手作りの誕生日カードの出来に満足がいかず「こんなのいらない」と突き返したり。成績もA以外は問題外で、Aを取れなかった科目については次のテストに向けてとれるまで練習を繰り返させるなど、昼メロドラマでいじわるな義理の母親が娘に対して取りそうな言動の数々だ。

彼女のやり方は確かに極端だけど(しかも読み物として面白くするために、多少大げさに書かれている感もある)、一般的な子育てに関するアジア文化と西欧文化の違いが浮き彫りになっているのも確かだ。

記事の反響を受けて様々な意見がネット上で飛び交っているが、その中で中国人とアメリカ人の子育てに関する違いをまとめているものがあったので、紹介したい。

まず、アメリカ人の親は子供の自信とか気持ちをとても大事にし、子供が自信をなくすことや傷つけることをとても恐れる。一方で中国人の親は、そもそも子供は強いもので、親からの厳しい言葉をバネにして成長すると考える。

次に中国人の考えとしては、子供は親にすべてを負っていて親の期待に応える義務があるというのが基本にある。だから親(家族)のために成功して、将来恩返しすることが期待されている。一方のアメリカ文化では、子供は親を選ぶことができないのだから、親は子供にすべてを与える義務があるという真逆の考え方。

3点目として、中国人の親は、子供にとって何がベストかということを自分が一番知っていると確信している。子供が何をしたいかを尊重するのではなく、親が子供にとって一番だと思うことを優先するのだ。アメリカ文化では、子供が好きなことをさせてあげるという考え方なので、これまた真逆だ。

Chuaも言っているが、根本的な違いとしては、中国人は子供が強いものだと信じて厳しく育てる。それに比べて西欧文化では、子供が傷つきやすいから守ってあげるものだと信じて注意深く育てるところにあるようだ。

では果たしてどっちが正しいのか?というのが疑問になるが、昨年12月に発表された the Program for International Student Assessment (PISA) のレポートによると、世界中で行われた共通テストの結果、理科・数学・国語のすべての教科において平均最高点を取ったのは、上海の子供たちだった。アメリカの子供は国語で17位、理科で23位、数学は 31位に終わっている。もちろん中国どこでも上海の教育水準が見られるわけではないけど、点数という点からは中国(アジア?)方式が勝っていると仮定するのに十分なデータだと思われる。

この結果は謎でも何でもなくて、中国の子供たちがアメリカの子供たちより、もっと一生懸命勉強しているというだけのこと。集中して、長い時間勉強していることが統計的にも証明されている。一方アメリカ人の子供は、教室で過ごす時間よりもテレビを見る時間の方が長いということも報告されている。

となるとアメリカ式の育て方は間違っているのかというと、そういうことでもない。アメリカの高等教育の質と成果は全世界から一目置かれる。これはもちろんカリキュラムとか教授の質とかって要素も多少はあるんだろうけど、ルールや法則に従っていかに早く効率よく問題を解決できるかではなく、法則には必ずしも当てはまらない現実問題をいかに知恵を絞って解決していくか、を重んじるアメリカ教育だからこそだと思う。小さい時からコミュニケーション、チームワーク(協調性)、創造性、リーダーシップなどの経験を繰り返しているから、単なる計算問題を超えた現実問題に直面したときに、法則以上の知識や経験、知恵を駆使しようという柔軟性を持っているような気がする。

それらのソフトスキル(計算力などのハードスキルに対して、コミュニケーションなどのソフトスキル)と質の高い高等教育を特徴とした、アメリカ式教育の結果を証明している地のひとつが、シリコンバレーだと言える。中国や日本をはじめとした各国がシリコンバレーのような文化と場所、そして同じような高等教育システムを作リ出そうと努力してきた。ただこれは一夜にして生まれるものではなく、その地に根付く文化だったり若い人材をサポートするコミュニティーだったり、周りを取り囲むエコシステムがあって始めて存在する。

外国人や移民の両親に育てられた起業家も多いので、彼ら全員がいわゆる「アメリカ式」の教育を受けて育ってきたわけではないけれど、このコミュニティーが「アメリカ式」教育理念を基盤にして成り立っていることは間違いない。

特にシリコンバレーに関して強調してもしきれないのが、失敗の捉え方。失敗を経験として評価し、起業家たちに失敗を恐れずにチャレンジすることを強く促す文化はこの地ならではで、アメリカの「ほめて育てる」式に通じるところがある。それなしでは、今日のシリコンバレーはないと言っても過言ではないだろう。

では、日本はどうだろうか。訓練と練習を繰り返して、パターンを頭に叩き込むことが得意な中国教育について上で述べたが、この点は間違いなく日本にも通じる。

ただ最近は、日本でも子供を傷つけないようにとか、思いやりとか公平性を重んじて、アメリカ型にシフトしてきているようだ。成績表も5段階評価でなく◎○△評価だったり、学芸会なんかも主人公とハッキリ分かる物はやらないとか。。。例えば孫悟空なら孫悟空役が5人もいたりなんて話を聞くと、親の目を気遣う学校のやり方や、競争意識をなくすのに必死な学校の姿には首をかしげたくなる。はじめから一番なんかじゃなくていいよって言われたら、努力してできることも拍子抜けして努力しなくなる。

ほめまくるのがいいのか、叱ってのばすのがいいのか。

ありきたりの結論だけど、どっちも良いところを取り入れるというのがやっぱり一番なんだと思う。ただどちらかと言うと個人的には、小さいときは訓練を繰り返すアジア式、大きくなるにつれてアメリカ式を取り入れるというのが理想なのではと思ったりする。

実際にアメリカでも日本の公文がはやっていて、小さい頃から練習を繰り返して(訓練して)テクニックを身につけるタイプの学習方法が注目されている。一方日本の教育でも(特に高等教育)セミナー式のクラスやグループワークが増えてきている。

ちょっと余談だが、ここシリコンバレー近辺では、アジア系移民が増えたために学校の成績水準(特に数学)があがりすぎ、違う学区に引っ越していくアメリカ人の家庭が多いという話を良く聞く。代表的なのはアップルが本社を構えるクパチーノ市。ここは中国人とインド人の移民が近年急激に増えた地域だ。

この2つの文化の衝突、うまく融合して良い床取りになればいいのだが。そして何よりも、日本が競争意識をうまく伸ばす教育を恐れずに進めてほしい。競争心がなければ向上心もなくなってしまう。中国をはじめとした各国が教育への投資を惜しまない中、どんどん取り残されて、それこそ各国との競争に負けてしまうのでは、と心配になる。

2011年1月16日日曜日

ベンチャーキャピタリストの先駆け ビル・ドレイパー

先日ラジオを聞いていたら、最近発売されたばかりの自著のプロモーションを行うビル・ドレイパー(Bill Draper)のインタビューが流れていた。現在83歳のビル・ドレイパーは、この国で最初のベンチャーキャピタルとされる、ドレイパー・ガイサー・アンド・アンダーソンを1958年に創立したベンチャーキャピタリストであるウィリアム・ドレイバーの息子。1964年に、いまだにアメリカでもトップのベンチャーキャピタルとして名の知れるSutter Hill Venturesを設立。その後ベンチャーキャピタリストとしての活動をいったん休止して、レーガン政権下で合衆国輸出入銀行(Export-Import Bank of the United States)のチェアマンや、国連開発計画(UNDP: United Nations Development Programme)のトップを勤めるなど多彩な職歴の持ち主だ。1994年には再びVCの世界に戻り、Draper InternationalやDraper Richardsを設立、インド、ヨーロッパ、アジアなど海外投資に目を向けてきた。父親、息子とともに、3代に渡ってベンチャー投資を続けている名門の家系で、息子のTim Draper はスカイプの投資などで有名なDraper Fisher Jurvetsonの創設者。

いくつか印象に残ったやりとりを紹介したいと思う。

起業家たちに多くみる失敗は?
多くの起業家は自分ですべてをやりたがる。co-founderなりCEOなり、自分ではカバーしきれない部分やスキル的に無理な部分は他の人に任せる(任せられる)というのは必要。ヤフーの例を出していて、彼がヤフーの創設者Jerry Yangに会った時にうまくいくと思った理由の一つとして、Jerry Yangが自分にはco-founderが必要だということをはじめから認識していたことを挙げていた。すべてを自分でやりたがる、できると思うのではなく、人に仕事をふって任せることができるというのは起業家として大切なこと。

起業家にとって大切なものは?
教育、頭の切れ、熱意。

移民の起業家が増えることについて?またそれを押さえようとする動きについて?
海外からアメリカの大学、大学院に来る学生たちはその国のトップレベルが選び抜かれている。各国のトップを集めておきながら、卒業後は学生ビザが切れたらほぼ強制的に母国に戻す、というのはアメリカ社会として大きな損失だ。ちなみに外国人で知名度のあるアメリカでの起業家としては、Paypalと電気自動車メーカーTeslaの創設者Elon Muskなどがいる。

ベンチャーキャピタリストとして成功した秘訣は?
運が良かった、につきる。ベンチャーキャピタリスト一家の家に生まれたこと、パートナーに恵まれたこと、タイミングが良かったこと、パブリックサービスでの経験で感が磨かれたことなど、運が良かった。輸出入銀行やUNDPを通して、世界中を旅していろんな人と接して広い視野を持つことができた。具体的には、インドが次の大きな投資先だということを早い時期から見極めて、Draper Internationalの設立につながった。

2011年1月12日水曜日

Verizonがiphone販売を発表

アメリカ最大のモバイルプロバイダーVerizonのCEO Ivan Seidenberg氏が、本日2011年1月11日11時に、待望のiphone販売を開始すると発表した。今まで独占状態だったAT&Tが3G対応なのに対して、VerizonサービスはCDMA対応となる。

2月3日から先行予約受付開始して(既存ユーザのみ)、2月10日から販売開始。機種の価格は16GBモデルは200ドルで32GBモデルは300ドルなので、AT&Tとほぼ同じに設定されている。

見た目もAT&Tバージョンと比較して、アンテナ部分など多少違うらしいので(改善?)、すでに出回っているAT&Tのiphone 4用にデザインされているアクセサリーやケースが使えない可能性もあるらしい。

今回のVerizonとアップルの提携(と言ってもプロジェクトは2年前から始まっていたらしいが)が業界に与える影響については、憶測が絶えない。特に注目されるのは、今までiphoneの独占販売を行っていたAT&Tと、iphoneの一番のライバルとされるアンドロイド(グーグル)だ。

AT&Tはかねてから、ネットワーク・カバレージの狭さやシグナルの弱さがユーザの不満の種になっている。もちろん場所によるが、一般的に他のキャリアよりもカバレッジが劣るというもっぱらの評判だ。それがゆえに、今まで、AT&Tにキャリアが限られたiphoneへの乗り換えを拒む人がいたほど。今回Verizonという選択肢が増えることによって、アップル/iphoneはそのような新規ユーザの獲得を狙う。

また、キャリアのオプションが増えることによって、iphoneのアプリ市場もさらに盛り上がるだろう。アプリ開発で良く比較されるアンドロイドにとっても、脅威となることは間違いない。ただし、そもそもアンドロイドのメインのターゲットはテクノロジーに強いユーザだという見方もあるので、キャリアの選択やアプリの数がどれほどアンドロイドユーザの心を動かすかは不明だ。

ちなみにこのVerizon CEO、後のインタビューにてiphoneはいまだにあまり触ったことがないとポロリとこぼしたという。自分の会社で今まで扱っていない商品だったため、というのが言い訳らしいが。

2011年1月7日金曜日

2010年のベスト iphone アプリ

今回は、techcrunchによる2010年のiphoneトップアプリ40に名前のあがった中から、いくつかのアプリについてコメントしたい。

1. Google Voice

まずは、わたしの生活に欠かせなくなったGoogle Voice。アンドロイドの携帯にデフォルトでインストールされていたために使い始めたが、それ以来手放せなくなった。キャリアから割り当てられる実際の電話番号とは別のセカンダリの番号を取得できる。本当の番号を教えたくない場合などに便利。もちろんセカンダリの番号でも電話はかかるが、この番号は簡単に変更することが可能だし、グーグル経由でかかってくるとブロックなどもしやすい。

留守電が入った場合、メールボックスにアクセスしなくても音声メッセージを文字化してメールしてくれる。こっちの電話の場合はメールボックスにアクセスする場合も課金対象になるので、その点経済的。しかも打ち合わせの途中でメッセージが入った場合でも電話をかけるために席を外さなくても画面上で確認できる。時々意味不明な文字化がなされるが、一般的に精度は相当高い。

その上、Google Voice経由だと無料でテキストメッセージを送れるのもうれしい。

2. Instagram

このアプリは、携帯で撮った写真に特殊なフィルタを加えてアーティスティックに仕上げ、その上クリック一つでその写真をInstagramのネットワーク自体だけでなく、フェースブック、Twitter、Flickrや Foursquareなどでシェアすることができる。リリース後6日間で10万人をユーザを得たというこのアプリ、「ソーシャル性」が人気の大きな秘訣だ。写真に加えるフィルタは白黒やセピア色など11種類から選べて、1タップで簡単に選ぶことができる。このアプリは無料だということももちろん大きいだろう。

3. Dropbox

Dropbox(ドロップボックス)とは、ウェブ上に自分専用のハードディスクを持つことのできるオンラインストレージサービス。すでにPCユーザに人気のプロダクトだが、iphoneでも使えることによって、自宅と仕事場のPC間だけでなく、iPhoneと、どこでもファイルを共有できて本当に便利。アカウントを持っていることが条件だが、2ギガまでのストレージスペースは無料だ。

4. Angry birds

言うまでもなく昨年一番の人気ゲーム。有料であるにも関わらず、わたしの周りでもインストールしている人がいないと言ってもいいほどだ。とても単純なゲームで直感的であるにも関わらず、レベルがあがるごとにクリアしていくのが難しいので病み付きになりやすい。それに加えてコミカルなキャラクターと低価格(0.99ドル)が受けて昨年の大ヒットとなった。ちなみにアンドロイド版は無料。

ちなみにぬいぐるみなどのキャラクターグッズはすでに売り出されているが、近々映画化(!)の話まで出ているらしい。

5. Plants vs. Zombies

このゲーム、個人的には試していないのだが、同様にはまるゲームとして盛り上がりを見せた。Plants(植物) 対Zombies(ゾンビ)という、一見して内容の想像し難いタイトルになっているものの、植物を「Tower」、ゾンビを侵入してくる敵と見立てた、最近流行のTower Defense系 (防衛系?)のゲーム。このタワーディフェンス系では、キャラクターを配置し侵略してくる敵を迎撃する。配置するための資源が限られているので、うまく戦略を練ることが必要になる。Angry Birdsと比べるともっと頭を使うけど、それだけはまりやすいとも言える。