2009年9月29日火曜日

アップルは邪悪か

人気者になったり大成功をおさめると敵が増えるのは成功者の避けられない「さが」だが、それは企業についても同じこと。例えば、「Don't be evil」をモットーに掲げたグーグルも今や「evil」を脅かす存在まで成長し、その結果「google is evil」とバッシングされることがたびたび。それだけ注目が集まって羨む人が増えると言うことなので、敵やバッシングが増えるのは成功の証とも取れるが。

最近良く目にするのは、アップルの「邪悪」ぶりだ。すべてが「オープン化」に向かう中、まったく逆の閉鎖的な、「自社製品囲い込み」戦略を取っている。例えばItuneが使えるのはアップル製品上のみ(iphone, ipod)に限られるし、iphoneを売る権利をAT&Tに独占させている。オープンにして競争を促すという流れに逆流しているような行動がいくつも見られるのだ。

ここ数ヶ月議論を呼んでいるのは、Googleが「Google Voice(グーグル・ボイス)」というアプリをiphone用にを開発したものの、アップルがそれをiphoneアプリのラインナップに加えることを拒否したという噂だ。Googleの苦情に対してアップルは「拒否していない」と反論し、言った言わない問題に発展した結果、アップルのアプリ承認プロセスに対してFCC(米連邦通信委員会)の調査が入るまでに至った。一部では、iphone販売を独占契約しているAT&Tからのプレッシャーによるものだという話も出ている。グーグル・ボイスとはインターネット経由の電話転送システムで、消費者が無料の登録電話番号を取得すれば、この番号に電話がかかってきた時にその登録者の使っているすべての電話を呼び出す仕組み。音声メッセージをテキスト化する機能や、国際電話の割引サービスもある。インターネット電話の利用を促す効果があると同時に、成人向けチャットや電話会議など高額の接続料金がかかる一部のサービスに接続できないように制限していて、それが電話会社のビジネスへの妨げになっているとして、リリース当初からAT&Tは非難し続けている。固定電話の利用激減の打撃を受けるAT&Tにとっては、その勢いにさらに拍車をかける厄介な存在であることは間違いない。

ただ、グーグルだけがこの不透明な「アプリ承認プロセス」の犠牲者ではない。未成年者に不適切だという成人向けアプリの基準がいまいち曖昧な結果、不適切な言葉を含んだ辞書アプリが拒否されたという話もある。

全製品をアップルで固める、その外に出るとどの製品も使えないという囲い込み戦略。
アップルほどのデザイン力、マーケティング力そしてプロダクトに自信があれば、そこまでしなくても消費者はついてきそうなものだけど、逆に言えばそこまで自信があるからこそ取れる戦略なのかもしれない。

2009年9月17日木曜日

呪われた9月

リーマン・ブラザーズの破たん、メリルリンチの買収、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済など、世界的なファイナンシャルクライシスの引き金となった出来事が起きたのはちょうど1年前の昨年9月だ。

世界的株価大暴落を記録したブラックマンデーは1987年10月19日、さらにさかのぼってウォール街の大暴落 が起きた1929年のブラックサースデーは10月24日、とともに10月に起きている。ただ9月時点でその兆しを見えていたと言う(もちろんあとから「兆し」を指摘するのは簡単なのは承知の上で)。

Dow Jones Industry Averageによると、株価1日あたりの下降率では10月が最悪月とされているが、1950年から2008年までの月あたり変動率の平均値を見ると9月が飛び抜けて悪い。そもそも9月以外はプラス方向に伸びている平均値が、9月だけマイナス値という散々な結果なのだ。

昨年の9月にはDow Jones Industrial Average の昨年9月の下降率は6%で異常だったとしても、1929年以来9月の平均変動率はマイナス1.4%。一方S&P500に関しても、9月の平均変動率は1929年以来マイナス1.3%となっていて、唯一マイナスを記録した月になっている。

では何故9月なのか?

まずは、心理的な要素が大きいと言われている。もちろん今年に限っては去年の苦い経験がまだ記憶に新しいが、それ以前からも前述のような統計に基づいて、9月というと何かと不安になってしまう投資家も多いという。「9月は呪われた月」という連想によって投資を控える心理が働くらしい。また9月と言えばバケーションが終わり、冬に向けて一日一日が短くなって時期でもあり、全体的にネガティブなムードになりがちだ。今まで望みも薄く持ち続けていた株を、投資家が一気に処分してすっきりしたくなる時期だったりもするらしい。ちょっと気の早い年末大掃除と言ったところだろうか。

また一般的に、1年の後半は投資活動が鈍ると言われている。ボーナスや早めの税金申告によって戻ってきたキャッシュも、個人年金積立て制度 や401k(確定拠出型年金制度)につぎ込むケースが多いのだ。

他の要素としては、9月は第3四半期の最終月であるため、多くのアナリストが企業の業績見込みや評価を下げるということ。あと1四半期を残し、楽観的な評価を現実的(保守的?)な評価に下げる時期だ。企業側も1年の終わりに近づき、業績予想修正をかけたりする。

ただし、今年の9月はいつもの9月とは違いそうだ。失業率は相変わらず高いものの、住宅市場は回復の兆しを見せ始めているし、Consumer Confidence(消費者信頼感指数)も上昇傾向にある。9月中旬までは特に株価が落ち込んだ様子もなく、順調に伸びている。ここ数ヶ月の傾向としても、一端下降してもすぐに復活する場合が多い。回復のサイクルが早いので、一端売りに出た投資家もマーケットの回復を見込んで戻ってくる、というパターンが多く見られている。今年の9月は汚名を回復できるのか。

2009年9月4日金曜日

Cause Marketing(マーケティングを通した社会貢献)の落とし穴?

日本でも企業の社会貢献、という話題を耳にするようになってだいぶ発つが、最近その一つとして考えられる「コーズマーケティング」についての面白い記事を目にしたので紹介したい。

まずは、一言でマーケティングと言っても、タイプや定義によっていろんな名前がついている。主なものには、buzz marketing(バズマーケティング)、草の根マーケティング、viral marketing(口コミ)、Influencer marketing, Cause marketing(コーズマーケティング)。これらは必ずしも相互に排他的ではないので、バズマーケティングでもありながら口コミマーケティングとも分類される例もある。
その中で、コーズマーケティングとは、「社会主義に敏感な人々から敬意やサポートを集めるために社会正義をサポートすること」と定義されている。社会問題に積極的に取り組んでいる企業を消費者がサポートすることにより、企業のイメージは向上、売り上げも向上、そして消費者も社会問題に貢献できる(少なくとも、そういう達成感が得られる)。企業はその結果新しい消費者層にアピールできる、社員の士気を高めるなどの付属的な効果も期待できる。

このコーズマーケティングにアメリカで毎年費やされる金額、ある団体の調査によると、1983年にはほぼゼロだったのが、2006年には13億ドル(1300億円)までに達したという。

例えばスーパーで洗剤を選ぶ際に、一つのメーカーは環境問題に取り組むNPOに売り上げの一部を寄付しているが、別のメーカーは売り上げのすべてが洗剤会社に行く。2つの商品の値段が対して変わらないとすると、大半の消費者は前者を選ぶだろう。何故なら同じ値段を払っても一方は社会貢献したという自己満足が得られるが、もう一方は何の得もないから。消費者にとっての負担は同じであるのにも関わらず、一つ目の商品の方が得した感が強いのだ(物理的に得するわけではないけど、心理的に得した気分になる)。

アメリカで代表的なプログラムにはProduct Red(プロダクトレッド)キャンペーンとPink ribbon(ピンクリボン)キャンペーンというのがある。Product Redは2006年にカリフォルニア州の政治家Robert Shriverによって始まり、U2のリードボーカルのBonoがプロモートしていることでも有名。参加企業はGap, Dell, Appleという蒼々たる顔ぶれで、売り上げの一部がAIDSやマラリア、ツベルクリンなどの問題に取り組むNPOに寄付されている。

ピンクリボンキャンペーンとは、同様に企業の売り上げの一部を乳癌をサポートする研究機関などNPOへ寄付するプログラムだ。毎年10月にキャンペーン期間が設定され、ヨープレイン(ヨーグルトの会社)、コーンフレークの会社、化粧品会社、キャンベルスープ、と大手企業が名前を連ねる。こちらも蒼々たる有名人が協力することで有名だ。1991年に創設されて以来、130もの企業が参加し、3,000万ドル(30億円)近い寄付金を集めたという。

それだけ聞くと企業にとっても消費者にとっても、そして社会にとってもメリットがあるバラ色のマーケティング手法のように見えるが、このコーズマーケティング、短期的には見えないコストが隠れている。

問題点その1は、企業がこの手のキャンペーンに参加することによって、社会問題取り組みへの責任を果たしたかのような錯覚に陥ったり、根本的な問題を見逃しかねないこと。例えば過去にいくつもの企業で問題になったように、商品を作る過程でアンフェアな労働条件や児童労働を使って、商品を生産しているかもしれない。もしくは、生産過程で環境を害する物質を廃棄しているかもしれない。にも関わらず、環境問題に取り組むNPOや途上国の発展を促す組織に売り上げ金の一部を寄付する、というのはそもそも矛盾している気がするし、企業は責任逃れをしているようにも見られる。マーケティングという表面的なイメージによってそもそもの根深い問題が隠されてしまうのだ。

問題点その2は、消費者にとっての気軽さにある。本来「社会問題」とは、その現実や課題を学んで理解して、一緒に解決策を考えていくのが理想的な取り組みだが、コーズマーケティングはそのようなプロセスをすっ飛ばして、消費者があまりにも気軽に「社会貢献」したかのような気になれてしまう。その結果、問題の根本を見たり考えたりする機会を失い、同時に大きな社会問題があたかも簡単に解決できてしまうかのような錯覚にすら陥ってしまいかねない。また、消費することによって社会問題解決に貢献する、というのも何だか矛盾があるような気がする。消費や無駄を押さえよう、という中で消費することを正当化する企業の思惑にすぎない、とも言えない。

そして第3の問題点は、必ずしも正確ではない認識やイメージを消費者に与えてしまうこと。例えば前述のピンクリボンキャンペーン、成功して急速に認知度を高めた結果、乳がんに対する認識や関心は急激に高まったが、同時に乳がんがもっとも多い死因だというイメージも与えてしまった。実際にはアメリカの女性の中で一番多い死因は乳がんではなく心臓病で、35〜64歳の女性に限って言えば癌で亡くなるケースが一番多いものの、癌の中でも一番多いのは皮膚がんであり、乳がんではないらしい。

日本ではまだ馴染みの薄いコーズマーケティングだが、企業の社会責任が問われる中で今後一層このような手法が広まることが予想される。

ではどうすれば以上のような事態が防げるのか?批判するのは簡単だけど、代替策を提案するのは難しい。まず企業は、根本的な問題に取り組むこと。具体的には社員の扱いや生産過程での無駄や公害を減らしたり、労働条件を改善すること。消費者として気をつけることは、不要な消費を通して社会問題に貢献したような錯覚に陥らないように気をつけること、そして問題の根本的なところに目を向けるように意識することなどが第一歩と言えるだろう。