2013年8月29日木曜日

遠距離でのつながりを可能にしたインターネットが、今度は崩壊したご近所関係を再構築しようとしている。Nextdoorの人気の理由。


日本でのLINEに代表されるサービスの成功を後押ししたとされる、「ソーシャルネットワークのプライベート化」だが、その傾向はアメリカ、シリコンバレーでもじょじょに広まりつつある。

わたし自身も最近サインアップして、最近周りでも良く聞くようになったのが、Nextdoorという地域に特化したネットワークだ。

シリコンバレーを中心に始まったこのネットワーク、今では17800の近所がすでにネットワークに参加している。

主な利用目的としては、不要品の売り買いといったクラシファイド的なものから、近所での不審な人物を見かけたとか、事件があったとか、ネコが行方不明だとか、不動産情報(売買というよりも、夏の間だけ家を借りたいとか貸したいなど)の情報まで幅広い。

クラシファイドだったらCraig's List、不動産の貸し借りだったらAirBnBなどに代表される他サービスが存在するが、一番Nextdoorが差別化できるのは地域の事故や事件、不審者情報などだろう。車の窓を割って侵入されたとか、ジョギング中に不審者に攻撃されて被害を受けたとか、安全に関わるような情報を即時受け取ることができ、その周辺には近寄らないなどの対策が立てられる。これはすべて、近所/コミュニティーの信頼関係の上に成り立っている。

ではどうやって、住民をなりすました犯罪者がネットワークに加入しないことを確信するのか。

サインアッププロセスの中で、住所確認をするステップを必ず踏んで、その地域の住民であることが確認されないと加入が承認されない。オプションとしては、電話番号による確認、ハガキ郵送での確認、クレジットカードでの確認などの他にも、すでにメンバーになっている「承認済み」のユーザーからの紹介などの方法がある。

このNextdoor、Benchmark CapitalやGreylock Partnersに代表されるVCにバックアップされていて、現在の収益はゼロ。ただここまで細分化された地域に特化したサービス(サンフランシスコの中だけで20近くの「近所」が指定されている)、そして、信頼性の上に成り立っているサービスということで、その地域の小売業などにとっては格好の宣伝プラットフォームになるだろう。

マネタイズの潜在が大きいだけに、広告といえども、いかにユーザーに有益な情報を行き過ぎない方法で届けるかがチャレンジになる。

リアルな世界での「ご近所の付き合い」が薄れ、まったくと言っていいほどなくなってきたこの時代に、Nextdoorのように、オンラインを通した近所付き合いがまた始まろうとしている。

テクノロジーという視点から考えると、物理的な距離を超えたつながりを可能にしたインターネットが、今度は物理的に近い人たちのつながりを再構築しようとしている、という発想がとても面白い。


2013年8月24日土曜日

学研のおばさんが教材の代わりに靴を届けてくれるような感じ?ShoedazzleとJustFabの合併に見る、日本でのファッションの定期購入サービスの可能性。


先日、ファッション界の定期購入サービス大手、ShoedazzleJustFab が合併を発表した。どちらもロスに拠点を持つサブスクリプション(定期購入)型のサービスを展開する会社で、Shoedazzleは名前の通り靴が中心、JustFabは靴からジーンズから子供服とファッションアイテムを幅広く取り扱っている。月額40ドル程度のサブスクリプション費用を払うと、「スタイリスト」によって厳選された自分のテイストにあったとされるファッションアイテムが毎月送られてくる(*ただ、Shoedazzleの料金体系は今年のはじめに変わったようだ)。自分でショッピングする手間が省ける他、「スタイリスト」が選別してくれるファッションだからスタイルに自信がなくても安心して着れるというメリットがある。

今回の合併によって、2014年には400ミリオンドルの売り上げと3,300万人以上のユーザーを世界中に抱えるまでに成長する見込みとのことだ。両社を合わせると、毎月100万人の新規ユーザーが獲得するペースで伸びているという。

こういったビジネスモデル、実は消費者よりも企業側に大きなメリットがあったりもする。何よりも大きいのは、ファッション業界では難しい定期的な安定した収入が期待できるという点。また、毎月配送するファッションアイテムを選ぶのは企業側なので、店頭やオンラインストアで売るモデルに比較すると、在庫管理がしやすい。さらには、メーカー/ブランドと協調して、消費者からのフィードバックを来月の売れ筋予想に利用したり、メーカー側での在庫管理向上に利用できるという点もある。

日本ではそこまで浸透していないモデルだが、欧米ではどの分野でもこの手の人気サービスが存在し、その数は増える一方だ。(リストについては、このサイトを参照)

双方にとってウィン・ウィンのビジネスモデルのように見えるが、どのファッションビジネスにも共通するように、ブランド力がものを言う。ブランドやセンスの信頼性をしっかりと確立して、ユーザーがこのサイトからのおすすめ商品なら信頼できると思わせるような、強いブランド力がカギとなる。

この2社に関しても例外ではなく、そのブランド力に大きく貢献しているのが蒼々たる顔ぶれのセレブリティーだ。ShoedazzleのインベスターはBrian Lee, Robert Shapiro, そしてKim Kardashian、一方のJustFabは、Kimora Lee Simmonsが「celebrity designer and creative director」として関わっている。JustFabはベンチャーキャピタルから110ミリオンドルの投資を受け、Shoedazzleは66ミリオンドルの投資を受けている。

日本ではそこまで浸透していないモデル、ということを前述したが、その点についてもう少し掘り下げてみたい。

オンラインだろうがオフライン(店頭ショッピング)だろうが、特にファッションに関しては、日本では「ショッピング」というイベントを楽しむ傾向が強いような気がする。忙しい働く女性に関しても、ショッピングというイベントを通してストレス発散、なんていう話も良く聞く。店頭でのショッピングである必要はなく、オンラインであっても、ファッション雑誌を見るようにいろんな写真やサイトをクリックして、違うスタイルを「ウィンドウショッピング」して楽しむ人は実際多いだろう。

ただちょっと考えてみると、ファッション業界以外では、学研の学習シリーズとか、生協の宅配サービスとか(購入するものを選べる点が多少異なるが)、概念自体は日本の方が昔から根付いているような気もする。もちろん消費型の食品とか学習教材(消費とは言わないかもしれないが、洋服のように長期間使用するものでもない)とファッションは一様に比較できないが、概念自体に大きな抵抗はない気がする。

逆に言うと、単なる「定期購入」に、もう少しソーシャル性とかショッピング要素を組み入れたら面白いかもしれない。例えば、店頭で取った写真や雑誌の切り抜きをもとに、こんなイメージのスタイルを送ってほしいとリクエストできる機能とか、自分の写真を送って細く見えるコーディネートとか背が高く見えるコーディネートを選んでほしいとか。日本のユーザーならではの付加価値をつければ、面白い分野だと思う。


2013年8月20日火曜日

大手企業のCEOは一般人よりもソーシャルメディア性が低い?


Forbesの記事によると、アメリカのトップ500企業を率いるCEOのうち、ソーシャルメディアを活用しているのは3分の1に過ぎない。

「活用」の定義は、ソーシャルネットワークのアカウントを持っているということだ。

では、実際にどのソーシャルメディアが一番使われているのか。

CEOという職業柄から容易に想像できるように、LinkedInがもっとも利用されている。ヒューレットパッカードのCEOのMeg Whitmanのように、コネクション数が265,852まで達する「ソーシャル」なCEOもいる。

一般ユーザーがソーシャルメディアと聞いて、まず思い浮かぶ、代表格Twitterはどうだろうか。

CEO間でのTwitter利用率は5.6%という予想外に低い数値に留まった。昨年の3.6%から上昇したものの、アメリカ人の18%がTwitterを利用しているという統計からも、一般ユーザーの利用度よりも格段に低いのがわかる。

もう一つの代表格フェースブックに至っては、7.6%という結果だ。アメリカの成人の67%がフェースブックにアカウントを持っているのに、CEO間での浸透率はそれとは比較にならないほどの低い数値に留まった。

もう少しマニアックな(?)域に入るグーグルプラスについては、500人中たった5人の利用という散々な結果だった。

では、日本のCEOはどうだろうか。

同じようなデータは残念ながら見つからなかったが、ソーシャルメディアを活用している企業のリストはこのようになっている。

これらの企業のCEOの、個人としてのアカウントをランダムに検索してみたが、わたしが見た限りでは見つからなかった。

一方、有名人のツイッターアカウントの一覧を見てみると、総勢たるIT企業のCEOが名前を連ねている。いわゆる「トップ企業」に入る企業もあれば、業績よりも話題性が先行して、有名人となったというような起業家の名前も、ちらほら見られる。

トップ企業のリーダー間でのソーシャルメディア浸透率が、一般ユーザー間でのそれに追いついていないというのは気になるところだ。

ただ、これも業界やCEOの世代によって当然異なるだろう。

IT業界をはじめとする新しい業界や、若い企業、世代の間では、今やCEOが会社の顔だけでなく、個人としてそのビジョンを発信することが求められるし(CEOとしてだったり、個人としてだったり)、それによって若者のロールモデルのようになっていく。ある意味セレブ的な存在になる。

そういう意識を持った若いリーダーや若い業界のリーダーは、個人としてソーシャルメディアにプレゼンスを持つ重要性の意識が必然的に高くなる。一方で、伝統的な業界だったり、コンシューマーではなくエンタープライズ相手のビジネスに従事しているような企業は、そのような意識もまだまだ低いものと思われる。

ただ、アカウントを持つだけでは十分ではなく、どれだけ面白いメッセージをある程度の頻度で発することができるかが、企業の代表またビジネスマン個人として、ソーシャルメディアを最大限活用するカギとなるだろう。

2013年8月9日金曜日

サンフランシスコがあらたなシリコンバレーだということが、ますます顕著になってきた


今日は2年ほど前に書いた内容を、再度考察してみたい。「シリコンバレー日記」というブログ名の原点に戻って、「シリコンバレー」とは一体どこを指すのか?ということ。2年前の記事では、シリコンバレーの拠点が南から徐々にサンフランシスコに移りつつあるという話をしたが、その傾向が一層顕著になってきている。

一昔前のシリコンバレーと言えば、eBay、ヤフー、グーグル、フェースブックなどに代表されるサニーベル、マウンテンビュー、パロアルトなどサンフランシスコから車で1〜1.5時間ほど南に位置する郊外の街を指す代名詞のようなものだったが、最近の傾向を見るとその定義自体が変わってきているのが良くわかる。話題になった最近のスタートアップを見てみると(今やスタートアップではないが、かつてのスタートアップも含めて)、例えばTwitter、Pinterest、Zyngaなどはすべてサンフランシスコに拠点をもうけている。それ以外にも数多くのスタートアップや新しいビジネスがサンフランシスコから発信されたり、サウスベイからサンフランシスコに拠点を移しているのを目の当たりにし、みんな何となくそれは感覚的にわかっていた。ふと気づけば、ここ最近このブログで取り上げた会社も、ほとんどがサンフランシスコを拠点としている。Uber, AirBnB, Pinterestなどなど。Pinterestはパロアルトで始まった会社だが、成長とともに拠点をサンフランシスコに移している。

数年前は何となく定量化する程度だったが、今回はそれを決定的にするデータを見つけたので、紹介したい。

その記事というのは、こちら

まず下の2つの地図だが、ベンチャーキャピタルの投資額とベンチャーキャピタルによるディール数の分散を示している。サンフランシスコが位置する左上の丸が飛び抜けて大きく、続いてその南部を中心に点が分散しているのがわかる。次に密集している南部のエリアはマウンテンビュー、パロアルト近辺にあたるが、規サンフランシスコの規模と比較すると桁違いなのが一目瞭然だ。





一方、下の表は郵便番号ごとのベンチャーキャピタルによる投資額のランキングだ。トップ2はいずれもサンフランシスコで、5位にもサンフランシスコ市内の郵便番号がランク入りしている。その他はやり強いのは、グーグルが拠点を構えるマウンテンビューや、スタンフォード大学のあるパロアルト、そしてそのやや北(サンフランシスコ寄り)に位置するレッドウッドシティーだ。

続いて次の表は、市別のベンチャーキャピタルの投資額のランキングだ。郵便番号ごとのブレイクダウンで見るよりもストレートに、サンフランシスコでのベンチャーキャピタルの活動が飛び抜けて活発なことが一目でわかる。


もう一つの指標としては、サンフランシスコのオフィススペースの高騰化があげられる。わたし自身もサンフランシスコのオフィススペースを探した経験があり、オーナーがかなり強気な条件を突きつけてきたのを覚えている。一番驚いたのは、会社の財政状態を見る以前に、特定の業種には貸さないというポリシーを突きつけてきたオーナー。ソーシャルゲーム会社のZynga(ジンガ)に関する悪評が不動産関係者に広まりゲーム会社には物件をリースするなという警告が流れたというのが背景らしかった。噂によると、ジンガはリースで規定された以上の社員数を詰め込み、その結果物件の良いコンディションを守れなかったというようなことらしい。
ただし、サンフランシスコに会社を構える会社でもその多くは、サウスベイやイーストベイからの公共機関での交通の便を考えたオフィス選びをする。サンフランシスコに拠点を置いて若いエンジニアやアーティストをリクルートする傍ら、いまだにエンジニアに好まれるとされる(特に比較的年齢が上で、家族持ちのエンジニア)サウスベイからも有能なタレントをリクルーティングしたいという意向の現れだ。

つまりリクルーティングは引き続き大きな課題で(それどころか、ますます困難になる一方だ)、有能な人材に最大限アクセスできる立地条件、というのが多くの会社にとっての最優先の条件なんだろう。