2008年11月22日土曜日

Business School

Business Weekのビジネススクールのランキングが発表された。ビジネススクール関係者にとっては毎年恒例のイベント化した感があるが、今年またこの先数年のラン キングは例年と違う意味で注目される。今年のランキングにはまだそれほど反映されていないだろうが、ランキングは卒業生の就職先、就職後の給料などが大き く加味される。例えばファイナンス系に強いとされるNew York Universityでは卒業生の40%がファイナンス系の業界(投資銀行、プライベートエクイティ、ヘッジファンドなど)に就職してきた。この不景気の 中、投資銀行はほとんど雇っていない。わたしの知り合いの話だと、例えばある投資銀行サンフランシスコオフィスのビジネススクール卒業生雇用数は去年の 10人から2人に減ったとのこと。となると、その40%の学生の受け皿を別業界で探さなければいけない。でもどこに?次のターゲットは戦略系コンサルらし いが、多少状況がましなコンサルと言えども(少なくともわたしの周りでは大規模なリストラの話は聞かないし、逆にビジネススクールに出向いて積極的にリク ルート活動しているとのこと。実際、某大手コンサルファームのサンフランシスコオフィスにいるわたしの友達はこの期間、フルタイムのリクルーターの役割を アサインされている)、あふれた40%強を吸収できるわけがない。テクノロジー系も大手はどこも雇用凍結だ。この就職状況が来年また再来年のランキングに どう影響してくるか、興味深いところだ。

この当分とどまることがなさそうな不景気、失業率の上昇という外部要因に加え、 'Millennials'と呼ばれるビジネススクール世代ならではの特徴もある。'Millennials'とは1980〜2000年に生まれた 7,800万人の世代のことなのだが、26〜28歳が平均年齢のビジネススクール世代と一致する。一般的にこの世代に関して言われるのが、前向きでやる気 に溢れているのだが、人一倍ケアが必要ということらしい。手取り足取りで指導してくれる少人数のセミナー、アドバイザーとのカウンセリングセッションの充 実など、ビジネススクール側もこの世代の要望を極力カリキュラムにも反映しようと努力している。実際、カウンセリングの利用率が昨年に比べて37%あがっ た学校もあるらしい。

また彼らはオンライン世代で、一日に受け取るメール数がとてつもなく多く、またメール以外でもオンラインでの活動に 忙しいので、メールを一通一通に目を通す時間がない。そこである就職課はコミュニケーションのフォーマットをメールからブログに変更した。スタンフォード ビジネススクールでは、学校が始まる前の合格者と学校のコミュニケーション、合格者同士のコミュニケーションを促進するためにFacebookでコミュニ ティを立ち上げている。

日本では少子化が進み、大学の生き残り競争が激しくなっている。アメリカでは少子化問題はそれほど深刻ではないも のの(ベビーブーマーが親となり、子供の数は実際増えている。それに加えて、移民数の増加も寄与しているらしい。)、そもそも学校のオプションが多い上に 大学院以上の教育がある意味コモディティ化しているので(実際シリコンバレーの企業ではMBAだらけ)、どのように差別化して'良い'学生を獲得するかが 大きな課題になっている。マーケティングや学生のお客様主義など多少行き過ぎた感もあるアメリカのビジネススクールだが、日本の大学も学ぶ点がいろいろあ るのではないだろうか。

2008年11月17日月曜日

アメリカの競争優位性

歴史に残る選挙が終わりメディアもしばらくは休みモードに入るかと思いきや、選挙後もメディア合戦はとまらない。McCain敗北とObama勝利を分 析、それぞれの政治人生を超えた秘話、子供時代、家族との裏話、そしてもちろんPalinの今後について、などなど。選挙活動中はとかく、今までの経歴や 個人的な交遊関係に関する批判、ちょっとした失言をつつき合い、言った言わない議論などを繰り返す2人の候補者に対して、議論の焦点は今後の政策にあるべ きと強く批判してきたメディアだが、皮肉にもその焦点を見失っているのはメディア側のようだ。
この1年以上選挙を追いかけてきたObama, McCainの専属リポーターや、選挙のために特別番組で忙しくしていたアンカーたち、今後は職を失うのではないかと人ごとながら心配していたが、このメ ディア合戦の勢いはとどまることを知らない。選挙は終わりではなくあくまでも始まりに過ぎず、これからObama政権がどのようにこの歴史的な不景気や ファイナンス業界の立て直しに取り組んでいくのか、というところに関心が集まっているのはもっともだ。ただ、純粋に関心が集まっているのか、それともここ 数ヶ月のお祭り騒ぎに勢いづいてしまい止まれないのか、ふと首をかしげてしまうこともある。

そんな中、先日ビジネスウィークで面白い記事 を見かけた。かの有名なMichael Porterが、今だから見直すアメリカの「国の競争優位」について書いている。個人的な話になってしまうが、わたし自身がアメリカに来た理由、来てから 肌身感じたこと、などがうまく言葉にまとまっていたので、是非ここに書き留めたいと思った。

まずは1つ目。言うまでもなく、アメリカには起業文化とそれを支える環境とインフラが整っていること。そしてそれは次以降にあげていく多くの「国の競争優位性」基盤となっている。

2 つ目、アメリカの起業文化はサイエンスやエンジニアリングの発展に大きく支えられていて、その点では世界一と言えるだろう。他の国々がR&Dに予算やリ ソースを費やしているのに対して、アメリカはその革新を研究の世界に閉じ込めず、ビジネスに結びつけることが抜群にうまい。2007年、アメリカでは合計 80,000件の特許がレジスターされた。この数はアメリカ以外すべての国で受理された特許数の合計数をすでに上回っている。

3つ目、アメリカは世界トップレベルの教育機関が集まっている。優秀な研究者や教授を抱える教育機関はさらに世界中から優秀な学生を引きつける、という良い循環を生み出していて、優秀な人材を抱えた結果、学術界とビジネスのつながりはさらに強力になっていく。

4つ目、アメリカが競争とフリーマーケットへのコミットメントが人一倍強い社会であること。非効率なものを排除してより良いものを取り入れようとする文化であり、その結果、リストラや常に生産性の向上を目指す精神が根付いている。

5 つ目、これがわたしが個人的には一番面白いと思うのだが、アメリカという国はエリアや州に専門性がある。ひとつのまとまったアメリカの経済、というよりも まさに違う強みを持った複数のエリアの寄せ集めなのである。エンターテイメントと言えばハリウッド、バイオと言えばボストン、というように。その専門分野 に伴って産業や教育機関が発達し、より優秀な頭脳を全国から引きつけてさらに専門性を強めていく。各州やエリアがそれぞれの強み、つまり「競争優位性」を 意識し、積極的にそれを州の発展に利用していこうと努力する。

6点目。アメリカは、若者が起業して大金を手にした末、それをすべて失っても、また新しい会社を立ち上げて成功するということが起こり得る数少ない国の一つである。リスクをとることが評価され、リスクとリターンの法則が実証される場所である。

そして最後に、アメリカのもつ多様性、変化を恐れない実行力、そして失ったものを惜しみつつも次に進んでいくポジティブさがある。

こ れってアメリカのことっていうよりもシリコンバレーの話?と思わせるほど、この地にいるとほぼすべての点が実感できる。個人的な経験に結びつく点、知り合 いやテレビを通して間接的に経験する点、もちろん理解のレベルはそれぞれだが、この国に来て4年そこそこのわたしが何となくうなづいてしまうのである。こ れもこの国の強みのひとつではないだろうか、とふと思った。つまり多様性を価値あるものと見なし、そして透明性が高い社会だからこそ、外国人のわたしに も、何となくうなづけて、個人的な経験に結びついたような気になってしまう。

そして逆に言うと、これらのポイントは今まで何度も聞かれた質問「何故日本にシリコンバレーが生まれないのか?」の答えにもなっているような気がする。