2009年3月23日月曜日

Business School 続編

以前にビジネススクールの変貌ぶりについて触れたが、最近たて続けに暴露されている倫理問題でまたビジネススクールの真価について疑問があがっている。というのも最近ニュースのヘッドラインを賑わしている「ビッグファイブ」のリーダーたちは全員「MBA」ホルダー。未来のビジネスリーダーを送り出すビジネススクールがこの惨事を無視しているわけにはいかなくなってきたのだ。

ではビジネススクールの教育が、今日ニュースを騒がせているリーダーたちの非常識な行動にどう影響を与えたのかというと、いくつかの理由があげられる。ビジネススクールのカリキュラムがあまりにもシステム化されて、現実の世界からかけ離れてしまっていること。あまりにも株主の利益を最大化することに集中しすぎて、社会問題、倫理問題を軽視化してきたこと。リスク管理は大事と言いながらも、結局はリスクを取ってリターンを最大化することを強調しすぎたこと。

わたし自身のビジネススクールの経験から言っても、短時間でケーススタディーに書かれた問題に対していかに効率良く即答するかという訓練を受けたという実感がある。ケーススタディーというのはその手の訓練を積むには効果的だが、あまりにもそこに重きを置きすぎると、現実で直面する倫理とか人間関係とか社会性とかもろもろの要素を忘れがちだ。もちろんそういう側面に重きを置く授業はまた別に設定されているのだが、2つを組み合わせて一緒に考える授業はほぼなかったように覚えている。

また2001年のエンロン事件をきっかけに、多くのビジネススクールが倫理問題を授業に組み込み始めた時期でもあった。わたしの行ったビジネススクールでも倫理が必修になっていたが、その授業の内容はこれまたアメリカの資本主義の象徴したような内容で初日に唖然としたのを覚えている。倫理というよりも、ビジネス人たちによる都合良く定義された「ビジネス倫理」を教えられたようなものだった。倫理問題に取り組む際のフレームワークが与えられ、いくかの観点や関連者の立場から得点をつけるようになっている。さまざまなケースにそのフレームワークを当てはめて、その得点が最大化する回答がもっとも良いとされるという、現実世界をまったく無視したようなものだった。またそこで取り上げるケーススタディも日本の小学校の道徳で取り上げるような内容だったりして、これまたびっくりした。実は日本の小学校で道徳の時間に見た教育テレビの番組は、良くできた「ケーススタディ」だったんだなと納得した。(と言っても日本の政治家やビジネスマンの方が倫理意識がしっかりしているとも思えないので、小学校の道徳の時間が解決策になるわけでもない)

では今後ビジネススクールはどう変わるべきなのか。カリキュラムの見直しはもちろんのこと、わたしはビジネススクールの文化を変える必要があるのではと思う。金融やコンサル会社に行くのが王道のキャリアパス、という雰囲気が生徒の間だけでなく教授や授業で使う教材にまで漂っている。訓練を受けたビジネス人たちを必要としていて、それ故に卒業生たちがもっとスキルを活かせるだろう事業会社やヘルスケア、また今後大事になってくるいわゆる「グリーンテクノロジー」、そういう分野に卒業生を送り出す役割が学校側にもあるのではないだろうか。授業費があまりにも高く学費ローンを支払うために給料の高い金融に行かざるを得ないという事情もあるが、一方で多くの学校がNPOに就職する卒業生に対してローンの軽減化したりもしている。それもこれも授業費が高い故の結果であり、対策である。そもそもビジネススクールの校舎の改築に何百億円もかけていないで、その分を授業費に還元すればいいのに、と思う。授業費を下げて学生がその後の給料に縛られずに自由にキャリアを選べるようになれば、少しは金融、コンサル熱は冷めるかもしれない。

2009年3月13日金曜日

コメディアン対ビジネス・ジャーナリスト

米国のコメディ専門チャンネルコメディ・セントラルで放映されているザ・デイリー・ショーの司会者ジョン・スチュワートとCNBCの投資情報番組「Mad Money」を担当するジム・クレーマーがテレビ局を超えた激しいやり取りを繰り返していて、話題になっている。

コメディ・セントラルはコメディ専門チャネルで、見ているだけでIQの下がりそうな番組から時事ネタを扱う報道番組まで多彩に提供している。看板番組ザ・デイリー・ショーのジョン・スチュワートは、政治ネタを中心にむしろ報道メディアを批判することで有名だ。ネタにされた政治家たちはさぞかし怒っているんだろうと思いきや、ここはさすがアメリカとでも言おうか、翌週には本人がうれしそうに番組のインタビューに登場したりする。去年の選挙戦の直前にはオバマも登場して、ジョン・スチュワートの突っ込みや皮肉に大笑いしていた。

一方CNBCは日本の日経CNBCとしてもお馴染みのように、「ビジネスニュースならCNBC」の売り文句で株式情報、ビジネスニュースを一日中放映している。ただ日経CNBCと違うのは、お固いビジネス情報番組でありながらも登場するアナウンサーや評論家のキャラクターはとても濃いということ。数週間前には、シカゴ市場からの中継を担当していたCNBCのリック・サンテリが生中継中にキレて、「家のローン救済策は馬鹿げている!何で俺たちが隣人のローンの支払いをしなきゃいけないんだ?大統領聞いてるか!?」と大声で叫びだした。周りにいるサクラなのか本当に市場で働いている人なのかわからない10人くらいのトレーダーらしき人たちもそれに大声で同意。スタジオにいるキャスターもタジタジになる始末だった。その反響はあまりにも大きく、サンテリ氏にホワイトハウスのロバート・ギブス報道官がプレスコンファレンス中に反論するまでに至った。そんな中、熱いキャスターやコメンテーターの筆頭としてあげられるのがCNBCで「Mad Money」を担当しているジム・クレーマーだ。もとヘッジファンドのマネージャーのジャーナリストは常にテンションが高く、いきなり椅子を床に叩きつけたり、とんでもない奇声を上げるので、発作を起こして倒れないかといつも見ていてヒヤヒヤする。この「Mad Money」という番組、基本的にはどの株が今の一押し株かを宣伝するのだが、この度の株大暴落という始末では売りも買いもあったものではない。ジョン・スチュアートがクレーマーの最近の無責任な「株買い」発言を取り上げながらNCBCに対する批判を繰り返していたら、クレーマーが「コメディアンに何がわかる」と自分の番組や他局の番組上で反論。テレビ局を超えたちょっとした口喧嘩が始まった。

その結果、クレーマーがザ・デイリー・ショーのゲストに登場するという直接対決が決まったのだ。ちょうど先週放送されたのだが、スチュワート曰く「現実には2つの世界が存在している。まじめにコツコツと働くサラリーマンには401Kなど年金制度が長期的に一番特で安心と促しておきながら、それを元金に株市場で大儲けする短期利益のみを狙う投資銀行や投資家が存在する世界。CNBCは後者のための番組で、株投資のリスクなど含めて中立的な視点から情報を届けていない。株式投資を過度に促すような情報の流し方をしていて、情報番組としての責任を果たしていない」。確かにCNBCの番組、その中でも特に「Mad Money」はエンターテイメント化していて、プロの投資家ではなく一般人に対して投資をゲーム感覚で促す傾向がある。もちろん実際にそれを真に受けてやるかどうかは個人の責任だが、テレビの影響はあまりにも大きい。特に自らを「正統派ビジネス情報提供番組」として位置づけているCNBCであれば、影響はさらに大きいと思われる。対談の結果だが、クレーマーからの反論は驚くほどほとんどなかった。彼も番組でキャラを演じているにすぎず、人気が出てしまったが故にエンターテイメント性に歯止めが効かなくなったような印象も受ける。この大不況がCNBCの報道姿勢をどう変えるのか。

2009年3月9日月曜日

恐るべしTwitter

ここ半年ほどで良く名前を聞くようになったTwitter。再び名前を聞くようになった、という方が正確かもしれない。ここシリコンバレーでは、スタートアップがメディアやブログで騒がれるサイクルがあるように見える。それは純粋に企業が伸びている場合や画期的なサービスを出した場合もあれば、買収の話が持ち上がったためだったり、もしくは投資しているベンチャーキャピタルが何か仕掛けているのでは?と思わざるを得ない場合もある。つまり口コミの仕掛人がいるように思えることが結構あるのだ。というのも、特にサービスが変わったわけでもないし買収の話があったわけでもないのに、いきなりメディアのカバーが増えるケースをたまに見かけるので。Twitterの場合、去年後半から今年始めにかけて、このすべてが一度に起こった印象がある。

2006年にアメリカでサービス開始、日本でも去年サービスが始まったようだが、サービスはいたってシンプルだ。'What are you doing?'という質問に答える形式のアップデートを送り合うサービスになっている。そのアップデート(通称tweetsと呼ばれる)は誰が読むのかというと、自分の友達だったり見ず知らずの人に一斉にブロードキャストされる。逆に誰のアップデートでも受け取れる。一言で言うと、'real-time message broadcasting system that goes beyond members’ 。似たものとしては、フェースブックのアップデート機能があるが、これはお互いに友達の輪に入っていないとアップデートが受け取れない(ただ最近この規制もなくなった)が、Twitterでは友達ではない大統領オバマからもアップデートが受け取れてしまう。ウェブ経由、テキストメッセージ、インスタントメッセージの3形式でアップデートが送れるので、モバイルから今何を食べているとか、今誰と会ってるとか女子高生のノリなメッセージを送り合える。実際日本にある似たようなサービスはその手の用途の大半らしいが、このTwitter、アメリカでは政治界や芸能界での影響力をどんどん強めているようだ。

というのも、去年の選挙戦をきっかけに、Barack Obama、Hillary Clintonをはじめ、多様な顔ぶれの政治家がTweetsを送りまくっている。有名人では、Britney Spears、Lance Armstrongなど。彼らにとってはマーケティングツールであると同時に、(特に政治家にとっては)それ以上に若者層を理解しているというメッセージを送る効果が大きい。実際、選挙戦中はもっぱらObamaのブラックベリー対McCainのアナログさが話題になっていたように、政治家にとって若者層との距離を縮めることは常に挑戦なんだろう(麻生総理の漫画オタク宣言もその努力の一つ)。例えばObamaの勝利が確定した翌日のメッセージ:We just made history. All of this happened because you gave your time, talent and passion. All of this happened because of you. Thanks。また個人だけではなく、企業が公式アカウントを持って、新製品の情報発信などを消費者に送る手段としても急激に伸びている。主な企業としては、シスコ、サンマイクロシステムズ、IBM, WholeFoodsなど。雑誌のTimeがニュースを配信していたり、NASAが火星での新発見について情報を配信するなど、いまや高校生のチャット機能を超えたとてつもないパワーを持ち始めている。

もう一つの利用方法としては、ちょっと大げさに聞こえるかもしれないが、世の中のニュースやはやりごとのスナップショットが見えてしまう。何百人という人たちが今何に興味を持っていてどういうトピックスについて情報を配信し合っているかというキーワードベースのトレンドが見れるようになっているので、それを見るとある意味今起こっている出来事のサマリーが見えてくる。しかもオンラインニュースや検索サービスで探すよりも早かったりする。メディアは数人の記者が情報を集めるまで記事にならない一方で、Twitterは何百人のユーザが全員記者のように情報提供できるのだ。

それ以外にTwitterがやたらと騒がれるようになったわけ、それはフェースブックからの買収提案。去年500 million(USドル)をオファーされたが、それを拒否。そんな中今年の2月、第3ラウンドのファンディングをクローズしたと発表。35 million (USドル)以上を集めたとのことです。この不景気の影響で投資を集めるのがどんどん難しくなっている中、このニュースで周囲はまた「これは何かあるのでは」とさらに騒ぎ立てたのだ。

では実際にどれくらい伸びたのか。Twitterにとって、2008年後半が大躍進の期間だった。2008年当初は50万人だったユニークユーザが2008年11月と12月には各月100万人以上増加したらしい。結果的に2007年12月時点と2008年12月時点のユーザ数を比較すると、752%の成長率を見せている。絶対数としてはまだまだfacebookやmyspaceに及ばないが、成長率でははるかにうわまった。

そう言えば最近ロスで熱い夜食と言えば韓国風タコス(韓国風焼き肉をタコスと同じ生地で包んだもの)!毎晩夜遊びや飲み帰りの若者に大人気らしい。この屋台Kogi(http://kogibbq.com/)もTwitter経由で人気が出たらしい。数ヶ月で口コミが広がり、今日どこに出店するかなどの情報もTwitterで配信されている。セレブや大企業だけでなく、アントレプレナーが低予算で(ていうかほぼ無料)口コミを仕掛けるには最適な手段かもしれない。毎日変わる出店場所も、もちろんTwitterで更新されている。

会社への忠誠心と個人主義

最近ヤフーのCEO Carol Bartzが「ヤフーマップではなくグーグルマップを使っている」と発言をしたことがちょっとした話題になっていたのだが、たまたま同じ頃、不況で苦しむ日本の電機メーカーが続々と「社員キャンペーン」を開始しているという記事を目にした。例えばパナソニックでは、今年の7月までに管理職が10万円以上の自社製品の購入が「推進」されているとのこと。NECでは全社員対象で、「自社製品を積極的に購入して会社への忠誠心を示す」ことが社内向けのホームページで推奨されているらしい。アメリカ人の友達に話すと予想通り、信じられないとの反応が返ってくると同時に、いつも通りの熱い「個人主義」論にはまっていく。

その議論はおいておくとして、無関係に見えるこの2つの話も、何か会社への忠誠心と個人主義のバランスに行きつく気がする。日本の若者層の中では当然変わってきているんだろうが、一部の大企業では今でも個人と会社が一体化されていて、不況時にはそれが強調される。苦しいときこそ一緒に乗り切ろうという精神?なんだと思う。
シリコンバレーは会社が苦しくなるほどそういった忠誠心が薄れてくる。いつリストラされるかわからないわけだし、会社自体がいつどうなるかわからない状態で依存しすぎるのはリスクが高すぎる、ということに尽きると思う。一生面倒見てくれるわけでもないし、それを望むわけでもないのであれば、会社は自分の成長の場として利用すべき、という意識がとても強い。当然と言えば当然の成り行きだ。
ヤフー Carol Bartzの発言は、CEOという立場での発言なので不要な発言だったように思えるが、所詮CEOもキャリアを積み上げている個人であって、この経験も彼女のレジュメをより華やかに飾り立てる一項目に過ぎないのだろう。

2009年3月2日月曜日

ペットボトル自粛運動

サンフランシスコでは2007年に、費用が高く公害悪化の原因だとして、市職員に対してペットボトル飲料水禁止令を出した。背景にはコスト削減だけでなく、ペットボトル入り飲料水の製造および輸送に係る石油使用量に及ぶ環境への配慮もある。同市では、同じ年に職員によるスーパーでのビニール袋使用禁止令も発令されている。先日わたしがサンフランシスコで行ったレストランも「環境に優しい」ことをテーマとしていて、ペットボトル飲料水は一切使わないことを看板にあげていた。それ以外にもできるだけ地元で生産された食材を使うなど、地元の農業を支えるとともに環境に配慮していることを掲げるレストランは増えている。
このような市とか団体レベルでの自粛活動は以前から随分盛んだったのだが、問題はその意識が一般消費者の家庭での行動にどこまで浸透しているか、ということ。最近目にした'Beverage Marketing Corp.'のデータによると、ペットボトル入り水の消費の成長率は2005年をピークに落ちていく一方らしい。特に2007年から2008年にかけての落ち目は著しく、これはちょうど市や団体が積極的にペットボトル自粛活動を始めた年と重なる。またさらにそれを裏付けるように、BritaとかPURに代表される家庭用浄水器の売り上げ成長率は10%を超え、軒並み順調らしい。
ここベイエリアでは日本ではやっているマイ箸ではないけど、マイペットボトルを持ち歩くことはある種のメッセージ性を持っている。スタンフォード大学で行われるイベントなどに行くと日本でのポケットティッシュのような感覚で学校のロゴ入りの水筒が配られるし、会社に入ってもはじめの'welcome package'には必ず水筒が含まれている。
知人からの情報によると、グーグルのメインキャンパスでもペットボトル入りの水は置かれなくなったとか。今は蒸留水の入っている大きなタンクが各フロアに置かれていて、紙コップもしくは持参の水筒に必要に応じて水を補給するシステムになっているようだ。グーグルが取り入れたという時点で、ある意味真の業界標準になったと言える?かも。