2009年5月26日火曜日

ホテルの生き残り競争

この不景気で全業界が影響を受けているが、その影響(打撃)の程度は業界や企業によってさまざまだ。

まずこの不景気を追い風に伸びている企業とは、マクドナルド、ウォールマートなど格安感を売りにしているサービス。両社とも、そもそもある一定の顧客層にしかウケなかったサービスだったが、不景気で伸びる強みをここぞと利用して、顧客層を広げようとしている。マクドナルドは、最近アイスモカもどきのエスプレッソベースのドリンクを新発売して、相当のコストをかけて宣伝している。テレビでのコマーシャル、街のバス停、雑誌、と至るところで目にするようになった。おしゃれなイメージで売り出して若い女性をターゲットにしているのが明らかだ。一方のウォールマートも他の大手スーパーに先駆けてiphoneを売り出したりと、新たな顧客層の開拓に積極的だ。この不景気をうまく利用して、安くて質が悪いというイメージを一新しようという意気込みが感じられる。

その一方で人一倍打撃を受けているのは旅行業界。ビジネスマンの出張費であれ、家族旅行であれ、旅行費は真っ先に削られる。その他にもサラリーマンはリストラを心配して休みを取るのを控えるなど、心理的な「節約」モードが影響する。

ある最近のリサーチによると、今年2009年の全米でのホテルの宿泊率は、2007年の63%、2008年の60%からさらに下がって55.7%になると予測されている。となっては、いくら高級ホテルであれ、あの手この手で客寄せをせざるを得ない。リッツカールトンは宿泊数に応じて無料の食事やスパサービスの提供、フォーシーズンはホテルのプールを近所の人に20ドルで解放しているらしい。ウェスティンやシェラトンの親会社のスターウッズは誕生日に応じた特別価格を提供、例えば1960年生まれだったら60ドルというように年配ほどお得になっている。他のホテルではチェックイン時にフラフープで20秒以上続けられれば無料の部屋アップグレードなど、工夫されたものも混じっている。
また、高利益として注目されているのが病院とホテルの提携。手術後の患者を収容する先としてホテルを利用してもらうという新たなビジネスチャンス。

でもよく考えれば、ほぼ日本ですでに行われていることだなと気づいたりする。プールのホテルを宿泊客以外に提供する夏休みプラン、プールだけでなく温泉日帰りプラン。病院との提携についても、1日以上に及ぶ人間ドックはホテルでの宿泊に豪華食事が付いていたりする。一般的に日本のホテルのプラン数の多さとか無料サービスの豊富さにつくづく驚かされる。地元の名産品サービス、花火観戦プラン、レイトチェックアウト、蛍が見れるプラン、浴衣無料貸出し、など数えだしたらキリがない。これは旅行業界を超えて言えることかもしれないけど、日本人はそこにない需要を生み出すことにかけて天才的だと思う。例えばレディースプランなんてこっちで提供したら差別だって訴えられそうだけど、日本のシティホテルでは人気プランの一つだったりする。一人旅プランなんていうのも、別にプランにしてもらわなくても勝手に一人旅すればいいわけだが、そういう名目でパッケージ化されると行きやすくなる(?)と同時にお得感が増すような気がする。レディースプランだと女性ウケする食事やデザートが中心だったりと細やなところまで行き届いているので、パーケージを購入すれば余計な心配はしなくていいのである。メディアの影響力も手伝って、雑誌やテレビで取り上げられることでさらに人気が出る。

アメリカ人旅行者は一般的に自立していて自分で計画することに慣れているので(少なくとも国内では)今まで日本のような宿泊プランが存在しなかったのかもしれないが、この不景気の中新たなマーケットを作り出す取り組みとして、女性などをターゲットにしたきめ細かいプランがはやるかもしれない。

2009年5月18日月曜日

Google故障の影響力

先週の木曜日、Googleの主なサービス、検索、Gmail、Youtubeなどが、一斉にダウンした。公式ブログによると、1時間ほどの故障で全グーグルユーザーの14%が影響を受けたという。グーグルユーザーの14%と言えば、数百万人というユーザ数になる。

個人レベルでは、一時的に検索が使えなくなったりメールにアクセスできなくなり、不便だったという程度に過ぎないかもしれないが、もっと広い視点ではこの打撃は相当だったと予想される。例えば各患者のデータをグーグルで管理している病院、グーグルを会社のメールとして使っていたりプロジェクトの進捗管理をgoogle docsに依存しているスタートアップ、またアドセンスをマーケティングの手段として、もしくは収入源として頼っているウェブサイトや会社にとっては、「不便」では片付けられない打撃になりかねない。グーグルの影響力の大きさを改めて実感させられると同時に、1企業のサービスに全世界が依存することの不安

例えば今話題になっている自動車業界。主な自動車メーカーが総倒れしていく結果、その自動車メーカーの下請けとして成り立っていた業界やその先のディーラー含めて、サプライチェーン全体が大きな打撃を受けている。まさにドミノ倒れ。
また他に例えるとしたら、東京に代表されるような一極集中型都市の経済構造のようにも見える。東京が地震に見舞われたら日本全体が機能しなくなるのではと不安になるけど、グーグルが今までのペースで影響力を増していけば、同じようなことが言えるかも。

2009年5月7日木曜日

成功企業の法則-秘訣は「2本の矢」にあり

今期で8シーズン目を迎え、相変わらずの人気を保っている’Dancing with the stars’というテレビ番組がある。日本でも以前、芸能人が大会に向け社交ダンスの練習に明け暮れる姿を追うという番組があったが、この ‘Dancing with the stars’ では、有名人とプロのダンサーがペアを組んで、毎回与えられたテーマに合わせてダンスを披露、最後まで勝ち残ったペアが優勝となる。審査員による採点があるものの、次に勝ち進めるかどうかは視聴者による人気投票によって決まる。’American Idol’のダンス版、のようなもの。ただ有名人と言っても、”もと”プロスポーツ選手とか、”もと”有名だった人(しかもいわゆるB級芸能人)が多いので、ここで育っていないわたしにとっては知らない人たちばかりで、つまらない。そんな理由で今まで見たことがなかったが、今シーズンは面白いメンツがそろっていて何かと話題になっているので、興味本位で番組について調べてみた。

8シーズン目の目玉は Charlie Sheen と離婚したDenise Richards、のはずだったのだが、シーズンが始まったと同時に話題を総なめにした有名人がいる。あのSteve Jobsとアップルを創設したSteve Wozniak だ。お世辞にもダンスどころか何の運動にも向いていなさそうな体つき、B級スターのように仕事にも金銭的にも困っているわけでもない彼が、何故また恥をさらけ出すようにダンス番組への出演を承諾したのか、???だが、今までの遍歴を見てみると何となく納得がいってしまう。

Steve Jobsはいまやもっとも成功したビジネスマンの一人、健康問題が噂になっているものの、ジョブスあってのアップル、というカリスマ的な存在になっている。その一方でWozniak は、1981年に自身が操縦していた飛行機で墜落事故を起こし、一時的な記憶喪失に陥る。それが転機となったのか、アップルを引退してからは地元の小学生に向けたIT教育をサポートしたり、若いベンチャーをメンターとしてサポートしたり、レゴで作るロボット大会に参加したり、とジョブスとはまったく違う人生を歩み出したのだ。私生活でもセグウェイに乗ってポロをしたり、女優でコメディアンのKathy Griffinと付き合っていたり、と次々と奇妙な話題を振りまいてきた。

ふと考えると、2人組で起業するケースって結構多い。ここシリコンバレーで言えばヤフー、グーグル、HP、VM Ware、Youtubeなど。アップルの2人のようにその後の人生がここまでが極端に異なることは少なくとも、性格の違いという意味では、少なからず似たような傾向があるようにも思える。例えばヤフーのJerry Yang と David Filo。Jerry Yangは最近までCEOだったことにも象徴されるように創設以来表舞台にたつことが多かったが、一方のDavid Filo はいまだに会社にいるものの、ほとんど公の場に姿を見せない。メディアとか表舞台が大嫌いらしい。

日本企業の場合はどうだろう。ソニーは技術者 井深大とビジネスマン盛田 昭夫、ホンダは技術型経営者の本田宗一郎とビジネスマン藤沢武夫のコンビで世界のソニーとホンダを生み出した。その他にも創設者という肩書きにはなっていないものの、陰の立役者、みたいな存在がいたケースは結構多いと思う。

直感的に2人組が1人よりも良いというというのはわかる。多すぎず少なすぎず、意見交換する相手がいながら意見が発散しすぎない。世界の伝説には良く3人組ヒーローが登場するし、「3本の矢」のことわざにもあるように、3人組も多くてもよさそうだが、ビジネスの世界では決定者が2人以上になるとスピード感が落ちるのだろう。

ベンチャーキャピタリストかつエッセーイストの Paul Grahamによるエッセー’The 18 Mistakes That Kill Startups’ の中には、“1人での起業”が“ミステイク”の一つとしてあげられている。2人いれば、いろんなアイディアを議論し合えるだけでなく、間違った決断を下しそうになったときにお互いにストッパーとなれる。ただそれ以上に彼が大きな理由としてあげているのが、精神的な支えとプレッシャー。初期のスタートアップはつらいことの繰り返しで、一人では乗り越えられないことが多い。人間の本性として、「相手をがっかりさせない」というプレッシャーは前向きなエネルギーになって、力を最大限に発揮できる源になるのだと言う。ただその一方で、”創設者間での衝突”も大きな”ミステイク”としてあげられている。つまり1人よりも2人だけど、もちろん誰でもいいというわけではない。多くの衝突の原因は、ビジネス展開をしていく上でのアイディアや方向性の不一致というよりも、性格自体や2人の関係にそもそもの問題があると言う。例えば馬が合わないのにスキルがあるから、とか、仲が良いから、というだけで一緒に起業するのはもっとも危険で、未然に防ぐべきだと警告している。

では実際に、世の中のいわゆる“成功した企業”は、何人で創設された場合が多いのか?創立者の人数の統計データを見つけたのでここで紹介。2007年時点のデータなので最近のベンチャーは含まれていないのと、全米ならずNokiaやInfosys, Canonなども含まれているのだが、ざっと一覧を見た感じ、少なくとも半分はシリコンバレーの企業のようだ。



人数に反比例して企業数は少なくなっているが、中でも1人と2人での起業が大半を占めることが分かる。またここで注目したいのが、そもそも1人で起業するケースは飛び抜けて多いだろうということ。つまり成功率を計算すれば、1人のケースの母数は果てしなく高いため、2人のケースの成功率の方が断然高いと想像できる。

話は戻って Wozniak のダンスの成果は、というと、ついに4月1週目に視聴者の十分な投票を得られずに終わりとなってしまった。ただ番組始まって以来の最低スコア(審査員による)記録を出し続けた彼が今まで残れたのも、シリコンバレー中心に形成されるギークたちのコミュニティーの応援があったからだ。
フェースブックでは「 Vote for Woz 」というグループが立ち上がっていたりWozniak が自身のウェブサイトでサポートを呼びかけていたり、噂ではi-phone のアプリケーションまで作られるという話だった。(3月時点で本人が計画を明かしていたが、もう番組に残っていないので実際にリリースされたかどうかは不明)
もちろん前回取り上げたTwitterも最大限利用。奇跡的に4回も勝ち残ったのは、恐るべきギークたちの力と言えるだろう。

Wozniak とJobs、アップルという同じ場所から出発した2人だが、30年以上たってみると、2人の人生はここまで違っている。それぞれ個人的な好みはあるものの、どちらも不幸な人生だと言う人はいないだろう。Jobsはビジネスマンとしての成功者、一方 Wozniak は人生を謳歌している成功者という気がする。人種とかバックグランドの多様性はもちろんのこと、こういう人生感(や価値観)の多様性が、このシリコンバレーをさらに特別な場所にしているような気がする。