2009年12月29日火曜日

不景気脱出のカギは中国、インド、そして女性?

この不景気の中を救うのは女性消費者だという話を良く耳にする。全般的に女性の経済力が強まっているのはもちろんのこと、女性は男性に比べて生活必需品の購入決定権を握っていることが多いなどというのが、大きな根拠のようだ。

世界レベルで比較すると、現時点で女性の収入合計額($10.5 trillion = 約932兆円)は男性の合計収入額($23.4 trillion = 約2078兆円)の半分にも及ばないが、それでも差は縮まりつつあるという。一人あたりの平均給料増加率を見ると、女性が8.1%であるのに対して、男性の収入の伸びは5.8%に留まる。一人あたりの給与の増加に加えて女性労働者数自体も増えていることを考えると、女性の合計収入額が伸びることは容易に想像できる。では、実際どれくらいの勢いで伸びているのか。全世界の女性の収入合計額の成長率は、インドと中国という2大国を合わせた消費成長率の、2倍以上にも及ぶと見込まれている。女性労働力とインドや中国と言った大国を比較するのも奇妙な感じがするが、キャリアウーマンを集めて一つの国を作ったら、インドや中国に匹敵する成長を見せる大国ができる、と言ったところだろうか。

裕福な国での女性の社会への進出が目覚ましいことは言うまでもないが、この数年で中国やベトナムなど途上国でも、女性の社会進出率は70%に及んでいる。他にも世界的な寿命の伸び(健康面の向上)や出産率の低下なども、 間接的ではあるが、強まる女性のキャリア志向を示唆している。

社会に進出する女性の全体数が増えれば、大企業の経営者や上層部まで上りつめる女性も増えるだろうと予想するのは当然の流れだと思われる。

では実際、会社の経営者、経営陣層に進出する女性の数はどのような推移を示しているだろうか。その指標の一つとなる、大企業内での女性CEOの数を調べてみた。アメリカのフォーチューンマガジンによるランキングFortune 1000, Fortune 500(ともにアメリカ企業のみ対象)とFortune Global 500(全世界の企業対象)それぞれの中で、女性CEOを持つ企業数をプロットしたものが以下のグラフとなる。



ここに見られるように、アメリカに限って言えば、フォーチュン500企業内での女性CEOの数、フォーチュン1000企業での女性CEOの数ともここ近年増加していて、この傾向はさらに強まると予想されている。ますます増える大学卒、修士号持ちなどの高等教育を受けた女性が社会に進出して、ミドルマネージメントに成長する10年くらい内には、フォーチュン500企業内の女性CEO数は100人まで増加するとも言われている。

一方、世界的なランキングに基づいた女性トップの数を見ても、アメリカ限定の場合と比較してやや遅れを見せるものの、増加傾向にあることは明らかだ。

では伸びる女性労働力、このたびの不景気でどの程度打撃を受けているのだろうか。

ある調査によると、今回の不景気で失業した労働者の80%以上は男性だという。伝統的に男性優位な業界とされる、ファイナンスや製造が不況の影響を一番強く受けたことが原因の一つとされている。ただし、女性男性間での相対的な打撃の大きさを比率で見てみる(女性または男性の失業者数/女性または男性の労働者数)、しかも役職別に見ると、新たな傾向が浮き上がる。

CEOや 上級管理職(Senior-level executives)や重役につく女性に限って言えば、19%が職を失ったことに比較して、男性経営者内での失業率は6%に留まった。ただし、上級管理職 以下(Senior-level executives以下)に限ると、男女ともに11%に留まるというから興味深い。つまり上の職位に着く女性ほど、男性と比較して失業率が高くなっているのだ。いまいちしっくりくる説明は見つからないものの、一つの仮説としては、女性経営者は男性独特のスポーツのネタで盛り上がったり、付き合いで飲みに行ったり、休日にゴルフしたりと、男性経営陣同士が持つような仲間意識を築くのが難しいということがあげられる。そこまで上の職位でなければ、政治力や男性の仲良しクラブ的なノリにどこまでついていけるかに左右されず、実力や仕事に対する姿勢で評価されることが多いため、男女間での差がそこまで出なかったのだと思われる。

では冒頭の不景気の話に戻り、女性が何故不景気脱出のカギになるかということを改めて考えてみたい。

ご想像の通り、消費活動の大部分は女性によって行われる。ボストンコンサルティングの調査によると、全世界での年間総消費額(個人消費のみ)が$18.4 trillion(1634兆円)であるのに対して、女性による消費額は$12 trillion(1066兆円)となっている。食費の90%、電化製品の55%、そして新しい車も実は女性によって購買が決定されていることが多い。つまり女性が経済力を保つ、もしくは向上させることによって、消費活動も活発化する。それに加えて、女性はヘルスケアや教育など、直接的・間接的に社会に貢献することに対する投資をする傾向が強く、また、リスクの高い投資活動などは控えがちということもわかっている。そう言った性格的な面も、不景気を生き残るカギとなりそうだ。

また先述のように、この不景気で失業したのは男性が多いことを考慮すると、女性の収入に頼っている家計家庭の割合が増えていることになる。その結果、女性の家庭での購買決定力はさらに大きくなることだろう。

その他の女性消費者の傾向としては、商品や会社、ブランドに対して忠実だということ。ソーシャルネットワークサイトや口コミで商品の情報を周囲に発信するのが大好き、という女性も多い。

企業にとってこれは何を意味するのか?男性消費者をターゲットにした製品、アルコール、たばこなどは間違いなく打撃を受けるだろう。一方で女性消費者の心を しっかりとつかんでいる企業は(一般的に、Visa, Wal-Mart, Nestle, Johnson & Johnson などは女性に人気があるとされている)、女性の経済力が増加することによって恩恵を受けるだろう。

先日、フォーチューン500の女性CEOの一人であるAndrea Jungの講演を聞いてきた。彼女が強調していたメッセージは、肩書きや給与などに基づいて「頭」でキャリアを選ぶのではなく、情熱やどれくらいワクワクしているかという「心」の声に耳を傾けて決定をしろということだった。ファイナンスクライシス以降、表面的な価値観がガタガタと崩れていく中で、情熱を持って働いている人は強い。わたしの個人的な経験による限られたサンプル数から判断すると、仕事となると日米関わらず、女性は男性に比べて、好きなことを追求している人が多いような気がする。男女問わず、仕事の表面的な価値が崩れたときに情熱を失わない人は、景気の波に関わらず成長していく、ということは間違いないだろう。