2009年12月29日火曜日

不景気脱出のカギは中国、インド、そして女性?

この不景気の中を救うのは女性消費者だという話を良く耳にする。全般的に女性の経済力が強まっているのはもちろんのこと、女性は男性に比べて生活必需品の購入決定権を握っていることが多いなどというのが、大きな根拠のようだ。

世界レベルで比較すると、現時点で女性の収入合計額($10.5 trillion = 約932兆円)は男性の合計収入額($23.4 trillion = 約2078兆円)の半分にも及ばないが、それでも差は縮まりつつあるという。一人あたりの平均給料増加率を見ると、女性が8.1%であるのに対して、男性の収入の伸びは5.8%に留まる。一人あたりの給与の増加に加えて女性労働者数自体も増えていることを考えると、女性の合計収入額が伸びることは容易に想像できる。では、実際どれくらいの勢いで伸びているのか。全世界の女性の収入合計額の成長率は、インドと中国という2大国を合わせた消費成長率の、2倍以上にも及ぶと見込まれている。女性労働力とインドや中国と言った大国を比較するのも奇妙な感じがするが、キャリアウーマンを集めて一つの国を作ったら、インドや中国に匹敵する成長を見せる大国ができる、と言ったところだろうか。

裕福な国での女性の社会への進出が目覚ましいことは言うまでもないが、この数年で中国やベトナムなど途上国でも、女性の社会進出率は70%に及んでいる。他にも世界的な寿命の伸び(健康面の向上)や出産率の低下なども、 間接的ではあるが、強まる女性のキャリア志向を示唆している。

社会に進出する女性の全体数が増えれば、大企業の経営者や上層部まで上りつめる女性も増えるだろうと予想するのは当然の流れだと思われる。

では実際、会社の経営者、経営陣層に進出する女性の数はどのような推移を示しているだろうか。その指標の一つとなる、大企業内での女性CEOの数を調べてみた。アメリカのフォーチューンマガジンによるランキングFortune 1000, Fortune 500(ともにアメリカ企業のみ対象)とFortune Global 500(全世界の企業対象)それぞれの中で、女性CEOを持つ企業数をプロットしたものが以下のグラフとなる。



ここに見られるように、アメリカに限って言えば、フォーチュン500企業内での女性CEOの数、フォーチュン1000企業での女性CEOの数ともここ近年増加していて、この傾向はさらに強まると予想されている。ますます増える大学卒、修士号持ちなどの高等教育を受けた女性が社会に進出して、ミドルマネージメントに成長する10年くらい内には、フォーチュン500企業内の女性CEO数は100人まで増加するとも言われている。

一方、世界的なランキングに基づいた女性トップの数を見ても、アメリカ限定の場合と比較してやや遅れを見せるものの、増加傾向にあることは明らかだ。

では伸びる女性労働力、このたびの不景気でどの程度打撃を受けているのだろうか。

ある調査によると、今回の不景気で失業した労働者の80%以上は男性だという。伝統的に男性優位な業界とされる、ファイナンスや製造が不況の影響を一番強く受けたことが原因の一つとされている。ただし、女性男性間での相対的な打撃の大きさを比率で見てみる(女性または男性の失業者数/女性または男性の労働者数)、しかも役職別に見ると、新たな傾向が浮き上がる。

CEOや 上級管理職(Senior-level executives)や重役につく女性に限って言えば、19%が職を失ったことに比較して、男性経営者内での失業率は6%に留まった。ただし、上級管理職 以下(Senior-level executives以下)に限ると、男女ともに11%に留まるというから興味深い。つまり上の職位に着く女性ほど、男性と比較して失業率が高くなっているのだ。いまいちしっくりくる説明は見つからないものの、一つの仮説としては、女性経営者は男性独特のスポーツのネタで盛り上がったり、付き合いで飲みに行ったり、休日にゴルフしたりと、男性経営陣同士が持つような仲間意識を築くのが難しいということがあげられる。そこまで上の職位でなければ、政治力や男性の仲良しクラブ的なノリにどこまでついていけるかに左右されず、実力や仕事に対する姿勢で評価されることが多いため、男女間での差がそこまで出なかったのだと思われる。

では冒頭の不景気の話に戻り、女性が何故不景気脱出のカギになるかということを改めて考えてみたい。

ご想像の通り、消費活動の大部分は女性によって行われる。ボストンコンサルティングの調査によると、全世界での年間総消費額(個人消費のみ)が$18.4 trillion(1634兆円)であるのに対して、女性による消費額は$12 trillion(1066兆円)となっている。食費の90%、電化製品の55%、そして新しい車も実は女性によって購買が決定されていることが多い。つまり女性が経済力を保つ、もしくは向上させることによって、消費活動も活発化する。それに加えて、女性はヘルスケアや教育など、直接的・間接的に社会に貢献することに対する投資をする傾向が強く、また、リスクの高い投資活動などは控えがちということもわかっている。そう言った性格的な面も、不景気を生き残るカギとなりそうだ。

また先述のように、この不景気で失業したのは男性が多いことを考慮すると、女性の収入に頼っている家計家庭の割合が増えていることになる。その結果、女性の家庭での購買決定力はさらに大きくなることだろう。

その他の女性消費者の傾向としては、商品や会社、ブランドに対して忠実だということ。ソーシャルネットワークサイトや口コミで商品の情報を周囲に発信するのが大好き、という女性も多い。

企業にとってこれは何を意味するのか?男性消費者をターゲットにした製品、アルコール、たばこなどは間違いなく打撃を受けるだろう。一方で女性消費者の心を しっかりとつかんでいる企業は(一般的に、Visa, Wal-Mart, Nestle, Johnson & Johnson などは女性に人気があるとされている)、女性の経済力が増加することによって恩恵を受けるだろう。

先日、フォーチューン500の女性CEOの一人であるAndrea Jungの講演を聞いてきた。彼女が強調していたメッセージは、肩書きや給与などに基づいて「頭」でキャリアを選ぶのではなく、情熱やどれくらいワクワクしているかという「心」の声に耳を傾けて決定をしろということだった。ファイナンスクライシス以降、表面的な価値観がガタガタと崩れていく中で、情熱を持って働いている人は強い。わたしの個人的な経験による限られたサンプル数から判断すると、仕事となると日米関わらず、女性は男性に比べて、好きなことを追求している人が多いような気がする。男女問わず、仕事の表面的な価値が崩れたときに情熱を失わない人は、景気の波に関わらず成長していく、ということは間違いないだろう。

2009年11月14日土曜日

Google中国の生みの親が辞任したワケとは?北京がシリコンバレーになる可能性


Googleは中国では通用しない?


今年9月の初め、Google Chinaの社長をつとめてきた Lee Kai-Fuがいきなりの辞任を発表した。一般的にどの外資企業も中国市場では苦戦しているが、検索業界も例外ではない。地元企業の百度(Baidu)がマーケットシェア61%という独占地位を確保、アメリカで一位のグーグルも日本で一位のヤフーも中国でのマーケットシェアはそれぞれ29%、10%以下と、付け入る隙がない。(調査会社の Analysis International による)

比較のために日本の検索業界のマーケットシェアを紹介すると、1位のヤフーが51%、2位のグーグルが38%で、アメリカでは、1位のグーグルが65%、2位のヤフーが20%弱となっている(ともにコムスコア社による)。つまり百度(Baidu)は中国において、日本でのヤフー、アメリカでのグーグルに匹敵する独占状態を確保していることがわかる。さらに調査会社によっては、百度(Baidu)のシェアが76%、グーグルは20%に留まるとしていると見積もっているところもある。そもそも「マーケットシェア」は定義や測定方法によってまちまちなのが現状だが、それにしても百度(Baidu)が独占地位を確保しているという点については、どの情報ソースを見ても一貫している。

Kai-fu LeeがGoogle Chinaのトップに就任した2005年にはグーグルのシェアはほぼゼロだったことを考えると、20〜30%にまでに伸ばした功績は評価される。ただ一方で、やっぱり百度(Baidu)の独占状態を揺るがすには至らなかった、というネガティブな評価もあるようだ。

Googleの期待に応えられなかったKai-fu Lee

このKai-Fu Lee、グーグルに移る前はマイクロソフトの研究所でVPを務めていて、2005年にGoogle Chinaトップに就任した際には、グーグルがライバル企業のマイクロソフトから中核を担う人材を引き抜いた違法行為を犯したとして、マイクロソフトが雇用契約違反で同氏とグーグルを訴えたという経緯がある。(余談だが、そんなマイクロソフトは半年ほど前にヤフーからコアな人材を引き抜いていたりするのだが)。その際にグーグルがKai-fu Leeに提示した給与は10億円相当だったということもあり、話題になったのも記憶に新しい。

そんな鳴り物入りでGoogle Chinaを背負ってたつことになっただけに、今回の辞任の理由にも注目が集まるのは当然だろう。アメリカ本社の経営陣との不仲説、中国内でのコアなメンバーとの不仲説、またグーグルのやり方では勝ち目がないと見て見切りをつけたという説などいろいろな噂は絶えないが、本人はインタビューで辞任の理由をこう語っている。「グーグルのマーケットシェアの拡大や中国独自のサービスもいくつか軌道に乗せたことで、自分の役目は十分に果たした。今の中国ではそれなりに成長したベンチャーに対するファンディングは集まりやすいが、早期のベンチャーに対するエンジェルファンディングが圧倒的に不足している。そのようなアーリーステージのベンチャーやアイディアを抱えた若者たちに、エンジェルファンディング、シードファンディング、さらにビジネスの立ち上げを支援できるようなプラットフォームを合わせて提供する場を作りたい。」中国を次のシリコンバレーにするというビジョンを見据えての、第一歩のようにも聞こえる。

北京はシリコンバレーになれるのか

新しく立ち上げる投資ファンドとスタートアップのインキュベーターの名前は’Innovation Works’。ハングリー精神に富んだ北京の学生や起業家の卵たちに起業するためのインフラ、リソース、金銭的かつ精神的サポートを与えて、育ったらスピンアウトしてさらに大きく育てていくというのがビジネスモデルらしい。

またこの’Innovation Works’、 中国のエリート大学の一つである清華大学(Tsinghua University) のキャンパス内にオフィスを構えるのだと言う。シリコンバレーのベンチャーや投資家たちがスタンフォード大学との間に築いたような関係を再現しようとしているように見える。

Kai-fu Leeの新たな挑戦は、裏を返すと、不景気にも関わらず、中国のベンチャー市場、そこに集まる投資額、ビジネスチャンスはまだまだ成長の余地があるというメッセージにも受け取れる。

では実際に中国において、ベンチャーキャピタルによるベンチャーに対する投資額や投資案件、またベンチャーの規模やステージ別での投資額の比較を数値で見てみたい。

以下のグラフは、中国における四半期ごとのベンチャーへの投資案件数と投資額を示している。(ソース:Zero2IPO Research Center)



これによると、2008年第2四半期以来下降する一方だった投資案件数と投資額ともに、2009年第2四半期には初めての上昇傾向を示している。前期の2009年第1四半期と比較すると案件数は87%、投資額は77%の伸びとなり、2008年の数値にはまだまだ及ばないものの、わずかながら復活の兆しを見せている。(ただしすべてのファンドが投資額と詳細を公表しているわけではないので、この数値は公表されたものに基づいたデータ、となります)

それではこれらの投資額、ベンチャーのステージごとに均等に分散されているのだろうか。Kai-fu Leeの話によれば、アーリーステージのベンチャーに対しての投資額は少ないということだったが、実際のところはどうか。

以下のグラフでの’early stage’は早期、‘expansion stage’は中期/拡大期、‘late stage’は後期(それなりに成長した)ベンチャーということになる。これからわかるように、拡大期にあるベンチャーが案件数の60%以上、そして投資額の50%以上を占めている。



でも考えてみれば、一番資金が必要そうなのは拡大期にあるベンチャーだし、投資する側としてもリスクはアーリーステージほど高くなく、かつレイトステージよりも高いリターンが見込めるという点で、一番おいしい投資分野のような気もする。となると、この傾向はどの国でも同じなのでは?

そんな疑問に答えるために、アメリカのデータと比較してみたい。



データのソースもステージの定義も異なるので一概には比較できないのだが、Seed, Series Aがアーリーステージ, Series B, Series C, Series Dが拡大期(Expansion Stage)、Series E, Series Fがレイトステージ(Late stage)に相当すると仮定すると、アーリーステージのベンチャーが44%、拡大期が53%、レイトステージ4%という結果になる (‘undisclosed’を除外して計算)。 確かに27%がアーリーステージ、60%が拡大期だった前述の中国のデータと比較すると、アーリーステージ(early Stage)と拡大期(Expansion Stage)の差はさほど大きくない。

また、アメリカと中国の比較という観点で、分野ごとの投資額/案件の分散にも目を向けてみたい。

まずは中国の分散から。投資額で見ると、ITを押さえて’Traditional’に対する投資が際立っている。クリーンテクノロジーやバイオ分野とITを合計しても35%ほどにしか過ぎず、まだまだ伝統的な分野が強いことがわかる。急速に発展する経済のスピードに追いつこうとするインフラ整備を考えると、不思議な数値ではない。



一方のアメリカでは「予想通り」、テクノロジー系が大部分を占めている。中国の投資案件数で大部分を占めていた’traditional’に匹敵するのは、’energy’ ‘industrial’ ‘transportation’ (もしくはその一部)あたりだろうか。となると、その合計はわずか15%にしかすぎない。



またこの分散の違いがある意味、アーリーステージへの投資案件数を左右する一つの原因になっているのかもしれない。例えばインターネット系のベンチャーとインフラ系のベンチャーを比較すると、初期投資額はかなり異なるだろうと予想される。インターネット系であれば、極端な話、パソコンとブロードバンドさえあればビジネスをはじめられるケースも少なくない。一方インフラ系となれば、相当の初期投資がないとアイディアを形にするすべもない。

中国内はもちろんのこと世界にまたがる広い人脈、多彩なビジネス経験、ビジネス界に大きな影響力を持つKai-fu Lee、北京を次のシリコンバレーに成長させることはできるのか。中国市場を理解してシリコンバレーを理解しているからこそ、シリコンバレーのモデルをそのままコピーするのではなく、中国版シリコンバレーを作りあげていくのに最適な人材だと言える。 その実現に向けて、大きな機動力になることは間違いない。

2009年11月10日火曜日

オンラインテレビHuluは、テレビの敵か味方か

少し前の話になるが、9月20日に第61回エミー賞(Emmy Award)が開催された。エミー賞は、アメリカのテレビドラマ、コメディー、コマーシャルなどのテレビで放映されるコンテンツに関連する業績に与えられるもので、「24」、「sex and the city」など日本でもお馴染みの番組も全盛期には様々な部門で賞を総嘗めしている。

今年のエミー賞中継は視聴率が6%上昇した結果、この3年間での最高視聴率を記録した。約 1,332万人が中継を見た計算になる。それ以外にも、例年と違うという点で今までにない面白い顔ぶれを揃えたのは、コマーシャル部門だ。ノ ミネート作品とそのスポンサーを見ると、Amex, Nike, Budweiser, Coca-Cola, Bud Light, Career Builder, Sprint Nextel と毎年お馴染みの大企業が並ぶ中、オンラインTV「Hulu」がリスト入りしたのだ。

「Hulu」とは2007年に始まったオンラインテレビで、NBC, Fox, ABCを初めとした数々の大手テレビ局や映画会社と提携して、ドラマ、ショーや映画をネット上で提供している。ノ ミネート作品となったのは、このHuluがスーパーボールのために作ったコマーシャル。「30 Rock」という最近一番人気のコメディーで主役をつとめるアレック・ボールドウィン(Alec Baldwin)を起用し、人間の姿をしたエイリアンに見立てた。CM自体特に面白いというわけではないものの、スタートアップが大物を起用したというこ ともあり話題を呼んだことは確かだ。
ちなみにこの「30 Rock」、今年のエミー賞でベストコメディー賞を受賞してノリに乗っているコメディーなので、そんな事実からもHuluが「単なる有名人」ではなく、旬な大物を使ったことがわかるだろう。

Huluの企業形態はジョイントベンチャーで、NBC Universal, Fox Entertainment Group (親会社はNews Corp), ABC Inc (親会社はThe Walt Disney Company)が主な出資者だ。つまりNBC, Fox, ABCのドラマやショーは必然的にカバーしているので、大手テレビ局の中で欠けているのはCBSのみ、ということになる。そのCBS、Huluと提携して いない最後の大手一社となった今、ますますHuluに敵対心をむき出しにしている。
最近の記事によると、CBS以外大手テレビ局の視聴率が軒並み下降気味なのはHuluを代表としたオンラインテレビの影響(責任?)だという見解を示している。噂によるとCBSでは、オンラインでのコンテンツ流出を規制するため、ケーブルテレビの契約者などすでにお金を払っている視聴者のみにオンラインでのドラマ視聴の権利を限定すべきだ、などという後ろ向きな意見も出ている。
それに対して他の大手テレビ局は、独自のサイトで自社のドラマやショーを流しつつ、並行してHuluというチャネルも利用して、リーチを増やそうとしているので、CBSとのスタンスの違いは顕著だ。

大手のテレビ局まで脅かす存在になったHuluだが、そのプロダクトの魅力は何なのか。

実はわたしも毎日のようにHuluで「テレビ」を見ているヘビーユーザの一人だが、放映時間とかに縛られず見られる気軽さ、パソコンさえあればどこでも見られる気軽さはテレビに代え難い。また、たったの1日遅れでサイトにアップロードされるので、1シーズン待たないとドラマが見られないといったこともなく、快適だ。しかもテレビに比べてコマーシャルは短い。

もちろん無料だという点も大きな魅力ではあるが、そもそも高速インターネットサービスに加入していないと見られないのである意味「無料」ではないというこ と、また、アメリカではケーブルテレビ会社から電話・テレビ・インターネットサービスを1つのパッケージとして購入しているユーザが多いということなどを 考えると、無料であるということだけでなく、利便性もその人気に一役買っているだろうと思われる。

そんなわけで、着々とユーザと知名度を伸ばしているように見えるHuluだが、他のテレビ局サイトと比較してどのような伸びを示しているのか。テレビ局の公式サイトと言えばブランド力はダントツだし、多くのトラフィックを集まることは簡単に予想される。また、各テレビ局サイトでも当然各社のショーやドラマは見られるようになっているので、内容的にはHuluと大差ない。つまりABCのサイトに行けば、Huluに行くのと同様に人気の’Lost’が見られるので、見たいドラマさえ決まっていれば、どっちのサイトで見ても大して変わりはないのだ。では、ユーザはどっちを選ぶのか、そしてその理由は?



(※データへのアクセスが制限されていたため、グラフ内の数値は概算値になっています)

以上のグラフでは、Huluと他の大手テレビ局サイトへのトラフィックを比較している。全体的に上昇傾向であるものの、5〜6月の夏休みシーズン始まりに 伴って3つのテレビ局とも下降傾向を示している。アメリカのテレビ局は夏休みシーズンになると、古いエピソードを再放送して9月の新シーズンに備えるの で、この時期に軒並みトラフィックが落ちているのは納得がいく。だが面白いことにhulu.comだけはその影響を受けず、2009年7月には大手テレビ局のサイトを抜かして一位に躍り出た。

検索用語別のトラフィック分布を見てみると、さらに面白いことがわかる。



これは、各サイトがどのような検索用語に基づいた検索結果からトラフィックを誘導しているか、を示したものだ(2009年6月時点でのデータ)。「Network Name」を見ると、検索サイトからhulu.comに流れるトラフィックの約56%が、「hulu video」 のようなテレビ局名/会社名を含む、つまり「hulu」という言葉を含む検索用語による検索結果からの誘導だということがわかる。Nbcを例に取ると、「nbc tv」などの検索用語からのトラフィックが一番左のカテゴリー「Network Name」内の「nbc.com」という軸にカウントされている。

2つ目のカテゴリーはショーやドラマの名前が含まれる検索用語で、「24 episodes」などが例として挙げられる。

最後のカテゴリーは「無料のコンテンツ」を強調した用語で、例えば「watch free TV」など。

これを見ると、Huluのトラフィック上昇の原因と成功のカギが見えてくる。

まず目につくのは、Huluに関しては「Hulu」という名前を検索用語に使う人が断然多いということ。Foxや nbcはそれぞれ17%、14%であるのに対して、Huluは56%にも上り、他のカテゴリーと比較しても56%というのは一番高い数値だ。つまり、「特 定のテレビショーを見たい」というよりも、「見たいドラマが決まっているわけではないので、まずはHuluに行ってみたいものを探す」、もしくは「huluに行けば探しているショーが見つかる」、という意識がユーザに強く植え付けられていることがわかる。

夏休み再放送サイクルに突入して、すでに見たエピソードを見るよりも、他にまだ見ていない面白いドラマを見つけたいというニーズが高まり、この傾向に拍車をかけたとも言える。

また3つ目のカテゴリーからは、他の大手テレビ局サイトも無料コンテンツを提供しているのに関わらず、「無料コンテンツ」というキーワードからトラフィックをうまく誘導しているのはHuluだけだということもわかる。サイトの作り方を含めて、「無料コンテンツならHulu」というイメージをうまく確立した。

ではそのビジネスモデルはどうなっているのか。

今現在は、各ショーの初めや間に、テレビよりも多少短いコマーシャルが挟まり、それによって収入を得ているという単純なビジネスモデルだ。1年ほど前から は、はじめに長いコマーシャルを見てあとはコマーシャル無しか、途中に複数の短いコマーシャルを見るかなどの選択肢をユーザに与えたりしている。ただ近年 の伸びを経て、これに加えて、subscription ベースとペイパービューのサービスを検討中だとも漏らしている

それに加え、つい最近、他のユーザのコメントなどが見られるようなフェースブック・アプリをリリースした。これを使うと、右手には番組の画面、左側は同じ番組を見ているほかのユーザからのコメント(自分の友達だけを選ぶことも可能)を見ることができるので、リビングルームで友達とテレビを見ている感覚が味わえる

オンラインでの無料コンテンツの配信サービスの課題は常にビジネスモデルにあるとされていたが、Huluのコマーシャルが他の大手企業コマーシャルと同様にエミー賞で評価されたという事実は、伝統的なテレビ界とオンラインテレビ界との垣根がだんだん低くなっていることを間接的に示唆しているのかもしれない

2009年10月16日金曜日

アメリカの起業家も高齢化?

テクノロジー系のスタートアップの成功例と言えば、グーグル、フェースブック、Twitter、Youtubeに代表されるような、20代30代の学生や若者がノリで始めた会社がビジネスとして花開いたという手の話が主流と思われがちだ。この仮定が正しければ、人口の高齢化はアメリカの起業ブームにマイナスに働くと思われるところだが、今年の6月にKauffman Foundationが面白い調査結果を発表している。

この調査によるとアメリカの現状は、「高齢化にも関わらず起業ブームが終わらないアメリカ」ではなくて、「高齢化に支えられる起業ブーム」だというのだ。

Duke大学の調査によると、テクノロジー系分野で起業する人の平均年齢は何と39歳らしい。意外にも高齢?と驚く人が多いのではないだろうか。またここ数十年間のデータによると、起業する確立が一番高いのは55〜64歳の年齢層となっている。一般的に20〜34歳はリスクを顧みず起業を恐れないイメージがあるが、この年齢層の起業率が実は一番低いとされているのだ。これも意外な結果。しかもこの傾向は、ドットコムブーム前後の11年間に強い傾向として現れ始めている。ドットコムブームと言えば、若い起業家がもてはやされてセレブかした印象が強いにも関わらず。。。

その傾向を後押ししたのは何なのか?背景としては、一生一つの会社に長く勤める終身雇用率が減少していることに加え、最近の不景気が挙げられるという。もともと30歳以下は仕事を変わる頻度が高いというのは昔からの傾向だが、35〜64歳の年齢層に限っては、終身雇用率はこの50年間で急激にさがった。平均寿命の向上、健康な高齢者が増えていることを加味すると、この傾向はさらに強まっていくと思われる。つまり自発的な退職にせよ、不景気で退社を余儀なくされる場合にせよ、高齢層の起業を後押しする要因が増えているのだ。

大企業は存続し続けるという仮説が否定された今、高齢者の起業ブームはさらに続くと予想されている。

また、起業率最高の年齢層55〜64歳はベビーブーム層とちょうど重なり、人口ピラミッドの中でも最大の年齢層だったりもする。経済の復活のカギは起業家が握るとも言われる中、かすかな希望を与えてくれるデータではないだろうか。


この投稿は、Yahoo! Japan映像トピックスで紹介されました。リンクはこちら。

2009年9月29日火曜日

アップルは邪悪か

人気者になったり大成功をおさめると敵が増えるのは成功者の避けられない「さが」だが、それは企業についても同じこと。例えば、「Don't be evil」をモットーに掲げたグーグルも今や「evil」を脅かす存在まで成長し、その結果「google is evil」とバッシングされることがたびたび。それだけ注目が集まって羨む人が増えると言うことなので、敵やバッシングが増えるのは成功の証とも取れるが。

最近良く目にするのは、アップルの「邪悪」ぶりだ。すべてが「オープン化」に向かう中、まったく逆の閉鎖的な、「自社製品囲い込み」戦略を取っている。例えばItuneが使えるのはアップル製品上のみ(iphone, ipod)に限られるし、iphoneを売る権利をAT&Tに独占させている。オープンにして競争を促すという流れに逆流しているような行動がいくつも見られるのだ。

ここ数ヶ月議論を呼んでいるのは、Googleが「Google Voice(グーグル・ボイス)」というアプリをiphone用にを開発したものの、アップルがそれをiphoneアプリのラインナップに加えることを拒否したという噂だ。Googleの苦情に対してアップルは「拒否していない」と反論し、言った言わない問題に発展した結果、アップルのアプリ承認プロセスに対してFCC(米連邦通信委員会)の調査が入るまでに至った。一部では、iphone販売を独占契約しているAT&Tからのプレッシャーによるものだという話も出ている。グーグル・ボイスとはインターネット経由の電話転送システムで、消費者が無料の登録電話番号を取得すれば、この番号に電話がかかってきた時にその登録者の使っているすべての電話を呼び出す仕組み。音声メッセージをテキスト化する機能や、国際電話の割引サービスもある。インターネット電話の利用を促す効果があると同時に、成人向けチャットや電話会議など高額の接続料金がかかる一部のサービスに接続できないように制限していて、それが電話会社のビジネスへの妨げになっているとして、リリース当初からAT&Tは非難し続けている。固定電話の利用激減の打撃を受けるAT&Tにとっては、その勢いにさらに拍車をかける厄介な存在であることは間違いない。

ただ、グーグルだけがこの不透明な「アプリ承認プロセス」の犠牲者ではない。未成年者に不適切だという成人向けアプリの基準がいまいち曖昧な結果、不適切な言葉を含んだ辞書アプリが拒否されたという話もある。

全製品をアップルで固める、その外に出るとどの製品も使えないという囲い込み戦略。
アップルほどのデザイン力、マーケティング力そしてプロダクトに自信があれば、そこまでしなくても消費者はついてきそうなものだけど、逆に言えばそこまで自信があるからこそ取れる戦略なのかもしれない。

2009年9月17日木曜日

呪われた9月

リーマン・ブラザーズの破たん、メリルリンチの買収、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済など、世界的なファイナンシャルクライシスの引き金となった出来事が起きたのはちょうど1年前の昨年9月だ。

世界的株価大暴落を記録したブラックマンデーは1987年10月19日、さらにさかのぼってウォール街の大暴落 が起きた1929年のブラックサースデーは10月24日、とともに10月に起きている。ただ9月時点でその兆しを見えていたと言う(もちろんあとから「兆し」を指摘するのは簡単なのは承知の上で)。

Dow Jones Industry Averageによると、株価1日あたりの下降率では10月が最悪月とされているが、1950年から2008年までの月あたり変動率の平均値を見ると9月が飛び抜けて悪い。そもそも9月以外はプラス方向に伸びている平均値が、9月だけマイナス値という散々な結果なのだ。

昨年の9月にはDow Jones Industrial Average の昨年9月の下降率は6%で異常だったとしても、1929年以来9月の平均変動率はマイナス1.4%。一方S&P500に関しても、9月の平均変動率は1929年以来マイナス1.3%となっていて、唯一マイナスを記録した月になっている。

では何故9月なのか?

まずは、心理的な要素が大きいと言われている。もちろん今年に限っては去年の苦い経験がまだ記憶に新しいが、それ以前からも前述のような統計に基づいて、9月というと何かと不安になってしまう投資家も多いという。「9月は呪われた月」という連想によって投資を控える心理が働くらしい。また9月と言えばバケーションが終わり、冬に向けて一日一日が短くなって時期でもあり、全体的にネガティブなムードになりがちだ。今まで望みも薄く持ち続けていた株を、投資家が一気に処分してすっきりしたくなる時期だったりもするらしい。ちょっと気の早い年末大掃除と言ったところだろうか。

また一般的に、1年の後半は投資活動が鈍ると言われている。ボーナスや早めの税金申告によって戻ってきたキャッシュも、個人年金積立て制度 や401k(確定拠出型年金制度)につぎ込むケースが多いのだ。

他の要素としては、9月は第3四半期の最終月であるため、多くのアナリストが企業の業績見込みや評価を下げるということ。あと1四半期を残し、楽観的な評価を現実的(保守的?)な評価に下げる時期だ。企業側も1年の終わりに近づき、業績予想修正をかけたりする。

ただし、今年の9月はいつもの9月とは違いそうだ。失業率は相変わらず高いものの、住宅市場は回復の兆しを見せ始めているし、Consumer Confidence(消費者信頼感指数)も上昇傾向にある。9月中旬までは特に株価が落ち込んだ様子もなく、順調に伸びている。ここ数ヶ月の傾向としても、一端下降してもすぐに復活する場合が多い。回復のサイクルが早いので、一端売りに出た投資家もマーケットの回復を見込んで戻ってくる、というパターンが多く見られている。今年の9月は汚名を回復できるのか。

2009年9月4日金曜日

Cause Marketing(マーケティングを通した社会貢献)の落とし穴?

日本でも企業の社会貢献、という話題を耳にするようになってだいぶ発つが、最近その一つとして考えられる「コーズマーケティング」についての面白い記事を目にしたので紹介したい。

まずは、一言でマーケティングと言っても、タイプや定義によっていろんな名前がついている。主なものには、buzz marketing(バズマーケティング)、草の根マーケティング、viral marketing(口コミ)、Influencer marketing, Cause marketing(コーズマーケティング)。これらは必ずしも相互に排他的ではないので、バズマーケティングでもありながら口コミマーケティングとも分類される例もある。
その中で、コーズマーケティングとは、「社会主義に敏感な人々から敬意やサポートを集めるために社会正義をサポートすること」と定義されている。社会問題に積極的に取り組んでいる企業を消費者がサポートすることにより、企業のイメージは向上、売り上げも向上、そして消費者も社会問題に貢献できる(少なくとも、そういう達成感が得られる)。企業はその結果新しい消費者層にアピールできる、社員の士気を高めるなどの付属的な効果も期待できる。

このコーズマーケティングにアメリカで毎年費やされる金額、ある団体の調査によると、1983年にはほぼゼロだったのが、2006年には13億ドル(1300億円)までに達したという。

例えばスーパーで洗剤を選ぶ際に、一つのメーカーは環境問題に取り組むNPOに売り上げの一部を寄付しているが、別のメーカーは売り上げのすべてが洗剤会社に行く。2つの商品の値段が対して変わらないとすると、大半の消費者は前者を選ぶだろう。何故なら同じ値段を払っても一方は社会貢献したという自己満足が得られるが、もう一方は何の得もないから。消費者にとっての負担は同じであるのにも関わらず、一つ目の商品の方が得した感が強いのだ(物理的に得するわけではないけど、心理的に得した気分になる)。

アメリカで代表的なプログラムにはProduct Red(プロダクトレッド)キャンペーンとPink ribbon(ピンクリボン)キャンペーンというのがある。Product Redは2006年にカリフォルニア州の政治家Robert Shriverによって始まり、U2のリードボーカルのBonoがプロモートしていることでも有名。参加企業はGap, Dell, Appleという蒼々たる顔ぶれで、売り上げの一部がAIDSやマラリア、ツベルクリンなどの問題に取り組むNPOに寄付されている。

ピンクリボンキャンペーンとは、同様に企業の売り上げの一部を乳癌をサポートする研究機関などNPOへ寄付するプログラムだ。毎年10月にキャンペーン期間が設定され、ヨープレイン(ヨーグルトの会社)、コーンフレークの会社、化粧品会社、キャンベルスープ、と大手企業が名前を連ねる。こちらも蒼々たる有名人が協力することで有名だ。1991年に創設されて以来、130もの企業が参加し、3,000万ドル(30億円)近い寄付金を集めたという。

それだけ聞くと企業にとっても消費者にとっても、そして社会にとってもメリットがあるバラ色のマーケティング手法のように見えるが、このコーズマーケティング、短期的には見えないコストが隠れている。

問題点その1は、企業がこの手のキャンペーンに参加することによって、社会問題取り組みへの責任を果たしたかのような錯覚に陥ったり、根本的な問題を見逃しかねないこと。例えば過去にいくつもの企業で問題になったように、商品を作る過程でアンフェアな労働条件や児童労働を使って、商品を生産しているかもしれない。もしくは、生産過程で環境を害する物質を廃棄しているかもしれない。にも関わらず、環境問題に取り組むNPOや途上国の発展を促す組織に売り上げ金の一部を寄付する、というのはそもそも矛盾している気がするし、企業は責任逃れをしているようにも見られる。マーケティングという表面的なイメージによってそもそもの根深い問題が隠されてしまうのだ。

問題点その2は、消費者にとっての気軽さにある。本来「社会問題」とは、その現実や課題を学んで理解して、一緒に解決策を考えていくのが理想的な取り組みだが、コーズマーケティングはそのようなプロセスをすっ飛ばして、消費者があまりにも気軽に「社会貢献」したかのような気になれてしまう。その結果、問題の根本を見たり考えたりする機会を失い、同時に大きな社会問題があたかも簡単に解決できてしまうかのような錯覚にすら陥ってしまいかねない。また、消費することによって社会問題解決に貢献する、というのも何だか矛盾があるような気がする。消費や無駄を押さえよう、という中で消費することを正当化する企業の思惑にすぎない、とも言えない。

そして第3の問題点は、必ずしも正確ではない認識やイメージを消費者に与えてしまうこと。例えば前述のピンクリボンキャンペーン、成功して急速に認知度を高めた結果、乳がんに対する認識や関心は急激に高まったが、同時に乳がんがもっとも多い死因だというイメージも与えてしまった。実際にはアメリカの女性の中で一番多い死因は乳がんではなく心臓病で、35〜64歳の女性に限って言えば癌で亡くなるケースが一番多いものの、癌の中でも一番多いのは皮膚がんであり、乳がんではないらしい。

日本ではまだ馴染みの薄いコーズマーケティングだが、企業の社会責任が問われる中で今後一層このような手法が広まることが予想される。

ではどうすれば以上のような事態が防げるのか?批判するのは簡単だけど、代替策を提案するのは難しい。まず企業は、根本的な問題に取り組むこと。具体的には社員の扱いや生産過程での無駄や公害を減らしたり、労働条件を改善すること。消費者として気をつけることは、不要な消費を通して社会問題に貢献したような錯覚に陥らないように気をつけること、そして問題の根本的なところに目を向けるように意識することなどが第一歩と言えるだろう。

2009年8月31日月曜日

9月に新製品発表?業界の枠を超えて伸び続けるiPhoneとiPodのこれまで

今年も早いもので、もうすぐ9月を迎えようとしている。アメリカの9月と言えば学校の始まる時期なので、新生活のスタートという清々しい印象が強い。これは企業にとっても同様で、9月はビジネス界にとっても大きな節目の時期だ。例えば住宅マーケット、学校が始まる9月までに引っ越しを済ませたいという理由で夏休み中は需要が高まり、新学期が始まると落ち着く傾向にあると言われる。小売業については、9月はクリスマス商戦の幕開け。「新学期セール」なるものを打ち出して新生活に備える顧客を魅了しようとする一方で、サンクスギビングやクリスマスなどのホリデー商戦を目前に控え、新商品を打ち出したり、そのマーケティングに力を入れ出す時期である。多くのアメリカの小売業にとって、ホリデーシーズンの売り上げはその一年の業績を決めるほど大きな影響力を持つ。社運がかかっている、と言っても過言ではないのだ。ここシリコンバレーも例外ではなく、毎年この時期に「バズ」を繰り出す常連企業がいくつかある。その筆頭に名を挙げるのはアップルだ。

アップルは毎年9月に新しい目玉商品を発表してきたという歴史もあり、8月後半にさしかかった今、今年のアップルはどんな商品で世間を驚かせるのかというのがブロガーやコミュニティの間で話題になっている。ここ近年のアップル主流商品と言えばiPodとiphone だけに、それらの進化版が出てくるのではという憶測が強い。

では、まずは最近のアップルの業績状況、特にiPhoneとiPodに焦点を絞って見てみたい。



<グラフ1>は iPhoneの売上数と売上高を示したものだ。2007年の発売以来、前年同期比は300〜8000%にまでに及び(グラフのスケールに違いすぎるため、グラフからは割愛)、順調な伸びを示している。売上数の変動は3G, 3GSなど新バージョンの発売時期に合わせて明確に上下しているが、それでも売上高は着実に伸びているようだ。



<グラフ2>では、同様にiPod(iPod basic, iPod mini, iPod nano, shuffle, iPod touch) の売上数と売上高、またそれに加えて売上数と売上高の前年同期比も一緒にプロットしてみた。

このグラフからもわかるように、先四半期の2009年第3四半期(2009年4月〜6月)には売上数1,020万個という7%の減少を示し、2001年の発売以来初めて、前年同期比マイナスを記録した。(ちなみにアップルの会計年度はカレンダーイヤーよりも3ヶ月遅れているので、第3四半期は7〜9月ではなく、4〜6月となる)

では、実際この2つのプロダクトラインを比較した際、アップルのプロダクトの中で「スター」の座を獲得したのはどっちなのか?ここ近年の話題性から判断すると断然iPhoneだという気がするが、実際の「実力」、つまり売上高に対する貢献度はどのようになっているのか。<グラフ3>では、アップル全体の売上高に対してiPhoneとiPodそれぞれの貢献度をプロットしてみた。すると意外なことに、実力に基づく「スター」の座についていたのは、先四半期までiPod。そしてそれが入れ替わったのは、たった数ヶ月前のことだった。



ここでさらに、7月の業績報告で明らかにされた面白いデータを紹介したい。この鈍化傾向にあるiPodカテゴリの中で、実は倍以上に売り上げを伸ばした商品が一つだけあると言う。それはiPod touch だった。逆に言うと、iPod touchの好調な売り上げによってiPod全体へのダメージは最小限に押さえられた、とも言えるだろう。(詳細な内訳データは残念ながら非公開)

では、iPod touchとは何者なのか?2007年9月に発表され(これも9月!)、簡単に言えば、電話機能のないiPhoneだ。iPhoneと同じバージョン Mac OS Xが搭載されているので、標準のiPodの機能に加えて、ユーチューブのビデオを見たり、メールしたり、ウェブサーフィンしたりというのも問題なくできる。アップルは公式な内訳数を公開していないが、 今までの売り上げは2,000万個と見られている。

ここで前後するが、アップル恒例の9月の新商品お披露目の予測に話を戻したい。実は多くの業界人やブロガーは、 今年はiPod touch関連、もしくはその進化版では?という予測をたてているのだ。どのように変身するかというアイディアは様々だが、堅実なところでは、メモリーが 2倍になり、カメラ機能が搭載されることにより、写真をブログにアップロードしたり、ビデオを撮ってYoutubeにアップロードできるようになるだろう、などなど。

ある記事によるとマイク機能もつくとか。となると、電話機能はないものの、スカイプなどを使ってインターネット電話が可能になる。つまりいわゆるキャリアを通した電話はかけられないものの、広い定義での「電話機能」は備えることになり、「電話機能のないiPhone」というジレンマ(?)から脱することができるかもしれない。

またさらには、Amazon Kindleに対抗したような電子本機能も備えるのでは、という噂も。すでに McGraw Hill や Pearson を含んだ12の大手教科書出版社がiPhoneと iPod touchへのコンテンツ提供の話をアップルと進めてるという話も出ている。となると、電話や音楽プレーヤーの域を超えて、現在はアマゾンが独占している電子本業界 (Amazon Kindle DX )、さらには出版業界の域まで踏み込んでくることになる。しかもここまで機能を備えてくると、ネットブック業界もうかうかしていられないだろう。

‘phone’じゃないからiPhoneの仲間に入れてもらえないiPod touch, でも機能性的にはiPodという枠には収まらない多様性を兼ね備えている。何だか、どこにもフィットできないはみ出しもの、みたいな可哀想な気すらしてくるが、この9月でさらに進化を遂げて、ついにiPhoneの仲間入りができるのか、はたまたiPhoneにもないような機能までを身につけてスターの座を奪回するのか。。。楽しみなところだ。

そして最後にちょっと余談。以前のTwitterの記事の中でも書いたけど、この業界について面白いなと思うのは、「業界」とか「カテゴリ」という垣根がないこと。ソーシャルネットワークというカテゴリで誕生したTwitterが、検索を脅かす(というか魅了する?)存在にまで成長している。iPodももともとは携帯型音楽プレーヤーだったのが、iPod touch という形に進化して、今では電子本、ネットブックやゲーム機までを脅かす存在にまでなっている。

今から10年前、どれだけの出版業者がアップルを潜在的な脅威と見ただろう?もしかしたらこの先10年後には、アップルは思いもよらない業界に進出しているかもしれない。例えば住宅業界、なんてことも?何の根拠もないけど、そんな無責任な想像してみるのも面白い。

とりあえず今は10年後よりも来月、ということで、アップルが9月にどう世間を驚かしてくれるのかを楽しみにしたい。

2009年8月4日火曜日

驚異の顧客主義「Zappos.com」 ネットで靴を売るためにはここまでやる!

先月末、Amazon.comがオンライン靴販売サイトZappos(ザッポス)の買収を発表した。買収額は8億ドルとも900億ドルとも言われている。Amazon自体、2007年に独自の靴販売サイトendless.com を立ち上げていたが、このサイトはいまいち伸び悩みを見せていたため(赤字続きだとの噂もあり)、急速に伸びている競合のZapposの買収に踏み切ったと思われる。

Zapposは1999年に創立、靴を中心に衣料、バッグ、アクセサリーなどをオンラインで販売していて、ラスベガスに本社を持つ。 ここ最近では不景気にも関わらず、2008年には20%近い伸びを示した結果、予測よりも2年早く売り上げが$1 billion(10億ドル)に達したことで話題になった。

以下のグラフは、Zapposのセールスの伸びと、オンライン小売業全体のセールス(靴に限らず、小売業すべて含む)に占めるZapposのセールスの割合の伸びを示している。

ここからもわかるように、2つの指標とも、不景気にも関わらず急激な伸びを見せている。もちろんZapposも不景気の影響をまったく受けていないわけではなく、今年はじめには小規模なリストラなどコスト削減を余儀なくされたが、それはどの会社でも起こっていること。それ以上に特に目立った打撃は受けていないようだ。



アパレルや靴関連のオンライン販売なんて競争が激しく、また差別化がとても難しそうだが、そんな中で知名度を一気に広め、急成長を遂げたのにはいくつかの理由がある。

まずは徹底したカスタマサポート。24時間年中無休のコールセンターと無料の送料・返送料(365日以内の返品はOK)を基本的なポリシーとして掲げている。それに加えて全国4営業日での配送を確約しているが、多くの場合は翌日には配送されると言う。つまり確約を満たせば良し、とするのではなく、ユーザの期待を常に超えることを目的としている。

また、電話での対応も徹底している。最近ではコストや余計なトラブルを最小限に押さえるため、電話番号をウェブサイト上の目に着きやすい場所には載せず、メールやオンラインで質問や苦情を申告するようにユーザを導こうとする小売業サイトが増えている。サイトによっては、ホームページから10回くらいクリックした挙げ句にようやく隅に小さく書かれたカスタマサポートの番号を見つける、という例も少なくない。

その一方でZapposのサイトに行くと、フリーダイヤルの番号は全ページの一番上に記載されている。彼らのコールセンターでは、台本なし、時間制限なし、冷たい自動音声的な対応なし、というように、物騒な対応をされる伝統的なカスタマーサポートとはまったく異なる経験を提供している。

ただそれだけだったら、他の競合が真似できないこともなさそうだが、彼らのカスタマーサポートを特別なものにしているのは、そう言った文面に書かれたポリシーだけではなく、徹底したお客様主義が浸透しているその企業文化だ。

その象徴的な例は、それだけ重用視しているカスタマサポートの採用方法だ。

Zapposは新たにカスタマサポート要員を採用する際、4週間のトレーニングを義務づけ、ここでみっちりと会社の戦略、文化、顧客第一主義を叩き込む。トレーニング終了後に「オファー」が出されるのだが、その内容が普通じゃない。「今日会社を辞めれば、トレーニングを含めた今までの業務時間の給料に加えて、1000ドルのボーナスを払う」というのだ。会社としてトレーニングを受けさせるという投資をした上に、社員にボーナスを払って辞めさせるってどういうことなのか?

実はこのオファー、新社員に対する最終試験でもあり、1000ドルの現金に目がくらんで辞めるような社員であれば、この仕事に対する長期的な熱意や覚悟が足らず、そんな人員は不要だと言うことらしい。もし会社と新入社員の相性が悪いようであれば、無理して残ってもらうよりもお金を出してでも辞めてもらった方がお互いのために良い結果になる。それだけ強烈なカルチャーだということ、また、それだけカルチャーを重視しているということの裏付けとも言えるだろう。トレーニングを受けたコールセンターの新入社員の10%程度はこの時点で現金を選んで、会社を辞めていくという。

このオファー(退職金?)、そもそもは100ドルから始まったのだが、その後500ドルになり、1000ドルにまでなった。

ではこの会社の差別化のポイントは、お客様主義を徹底したカスタマサポート重視の文化だけなのか?

もう一つ面白い特徴を発見。それはソーシャルネットワークの積極的な活用だ。

Forresterリサーチによると、今日では、ネット利用者がソーシャルネットワークに費やす時間がemailに費やす時間を超えているらしい。また、トップ500のオンライン小売業サービス提供者のうち56.8%が フェースブック、28.6%がmyspaceにページを持ち、41.4%がユーチューブにチャンネルを持ち、20.4%がTwitterにアカウントを持っている。その統計データを見ると、Zapposがソーシャルネットワークを活用しているのも当然のように見える。ただその活用のレベルが半端ではなく、これまた「徹底」しているのだ。

と言うのも、ZapposのCEO Tony Hsieh自身が熱烈なソーシャルネットワーク、特にTwitterファン。会社についてのビデオブログを一日に最低一度は更新、社員の間でTwitterを使って状況を更新し合うサイトまで立ち上げている(もちろん他のTwitterのアカウントと同様、一般に公開)。

これは、以前にこのブログで紹介したような「新商品情報を発信」と言ったような典型的な企業の活用方法とはちょっと異なる。直接的なマーケティングツールとして利用しているわけではなく、どちらかと言うと社員が友達同士と話すノリで「今何してる?」という問いについて情報交換していて、それを外部にも公開しているのだ。外部に対する情報発信よりも、社内のコミュニケーションツールとして利用、社員間の結束を高める狙いが大きいと思われる。で、その結果、その様子が外部にも公開されて、「仲が良さそうで楽しそうな会社だな」とポジティブなイメージをアピールできればラッキー。

実際、メディアを通した大規模なマーケティングなんてする余裕がない小さいスタートアップのイメージって、そういったことの積み重ねで確立されていくことが多い。(最近Zapposのテレビコマーシャルを見かけたので、最近ではそういう余裕も出てきたのかもしれないけど、それもここ最近だけの話で、今までの積み重ねはすべて口コミと思われる)

でもその効果ってどうやって量れるのか?企業文化が企業の業績に対して持つ影響力って直接的に量ることは難しいが、間接的にそれを証明するようなデータを紹介したい。

まずわかりやすいのは、 雑誌Fortune による “100 best companies to work for” 入りを果たしたということ。これは給与やボーナスなど金銭なベネフィット、文化、給与以外の福利厚生、研修の充実、キャリア展開へのサポート、社員へのアンケートなどいくつかの観点から働くのにベストな企業をランキングしている。社員がハッピーな会社はさらに有能な社員を引きつけ、好循環が続く。

もう一つのデータポイントは、新規ユーザがどのようにZapposを知ったかと言うこと。

44 % のZappos新規ユーザーはオンライン上での広告によりサービスを知り、 43%はいわゆる口コミで知ったという。口コミ効果がここまで高いというのは、友達から聞いたり、誰かのブログで話題になったり、会社の特徴がビジネス関連の記事で取り上げられたりということの積み重ね、つまり徹底したカスタマサポートや強い企業文化が多く話題になって注目を浴びたことの結果だろう。多少間接的だが、ある意味企業文化が業績に好影響を与えたことの裏付けだとも言える。

また、ここまで口コミ効果が高いのなら、メディア広告に高額を投資するより、サービス自体の向上に投資した方が賢い。「ユーザーが快適にサービスを利用できるようにサービスの質向上に努力していれば、ユーザは自然に良い評判を流してくれる」、というのが彼らの信念で、上のデータはそれを見事に証明している。

そして最後に興味深いのは、以上に紹介した点がすべてうまくつながっていること。

顧客重視の文化を作りあげてそれを新入社員だけでなくて外部にも公開。それによって口コミ効果は一層高まり(もちろんカスタマサポートの質の高さも大きな要素)、顧客数とともに組織も拡大。文化がカギなわけだから、新入社員の採用が慎重に行う。選ばれた社員たちは、トレーニングとソーシャルネットワークを通して文化をさらに強化していく。

オンラインでの靴マーケットはまだ成長の余地があると予測されている。アマゾンに買収されたことで、今後の海外進出もやりやすくなるだろう。この強烈な文化をいかに世界中に浸透させていくか、というのが課題の一つだ。

2009年7月10日金曜日

イラクとTwitter

一時期は話題に上らない日がなかったイラクだが、選挙戦が落ち着いてからは、ニュースのヘッドラインを飾るのは相次ぐ企業の経営破綻や不景気に集中していて、イラク関連のニュースはめっきり減っている。

と思ったら、最近テクノロジー欄でイラクの話題をちらほら見かけるようになった。フェースブックは今年の3月からアラビア語に対応した結果、5月から6月の1ヶ月でユーザ数が400か45,000に激増。またその成長を後押しするかのように、4月に米国務省がGoogle, Twitter, Youtube, AT&T などのエグゼクティブとシリコンバレーのスタートアップ一団をイラクに派遣した。イラク政府の幹部や会社経営陣に対して新しいウェブ技術の導入を紹介、国のトップと国民がコミュニケーションを図る有効な手段としての活用を促すという目的だ。また、テクノロジーを駆使することによって、国の安定化と政治の透明性を高めるという大きなゴールも視野に入れている。

そのツアーの結果、グーグルはYoutubeを使って政治的な報道とか政府からのメッセージを流すことを計画。つまりYouTubeが国営テレビ局のような役割を果たすことになる。またその直後にイラクのサリフ副首相もTwitterを開始、今では1500人程度が’フォロー’している。いかに普及させるかという教育問題はもちろんのこと、インフラが整っていないだけに携帯からの利便性を高めるなどチャレンジは山積みだが、テクノロジーがそうやって世界を変えていくのを見るとわくわくする。

また思いがけないところでテクノロジーの話題と言えば、先週ウィンブルドンを見てたところ、ここでも話題は何故かTwitterに。Serena Williamsが試合前のロッカールームで「飲食禁止」という張り紙を発見、主催者によってロッカールームに用意されているバナナやスナックを食べちゃいけないってこと?とTweetを発信している。試合直前にそんなことする余裕があると言えばさすがだが(そしてもちろんその試合は余裕勝ち)、他にストレッチとか何かやることあるんじゃないかなぁと思ったりする。でもそれだけ病み付きになるということだろう。

2009年6月15日月曜日

加速するPrius人気

トヨタが2010年発売予定のルーフ一体型ソーラーパネル付きプリウスがアメリカでも話題になっている。トヨタは相当数のテレビコマーシャルを打っていて、その中でもソーラーパネルを強調、さらなる「グリーン」性を全面に打ち出している。数週間前には、日本と中国での生産に続いてベイエリアにあるGMとトヨタの合弁工場NUMIでのプリウス生産を検討中との噂が出回った。ただ今月初めに起こったGM倒産という困難な財政状況もあり、いまのところ公式には否定されている。カリフォルニアは環境規制が厳しいこと、また一般に環境問題への関心が高いため、アメリカの中で需要が高いエリアの一つとなっていて、トヨタが打ち出している「需要の高いところのみで生産する」という方針には沿っているのだが。

しかしこのソーラーパネル、意外なことにバッテリーへの充電はできず、駐車中の車内の換気に留まるというのにはがっかり。リモートで空調をオンにすることができるなどのおまけつきだが、それでも、日向に駐車した車に戻った際にエアコンをがんがんつけて車内を冷やす電力が節約できるというだけらしい。バッテリーにつなげて充電して、そのパワーだけで車を動かせるようになるようになるにはまだ何年も先、とのこと。

それでもすでにウェイトリストができているこの新型プリウス、その関心と需要に目をつけて、標準プリウスに取り付けられるソーラーパネルを生産しているSolar Electric Vehiclesという会社がある。これによって、一日あたり15マイル走行できるだけのパワーが得られるらしい。この外付けシステムは3500ドル、一つ生産するのに1週間程度かかる。注文が殺到していて、この数週間は注文を裁くだけでいっぱいいっぱいだという。自分で取り付けることもできるという手軽なものだ。

いずれにしても明るい第一歩だが、それでも課題は多い。まずバッテリーにつなげて車を動かすためには巨大な表面積が必要で、車一台のルーフの表面積ではまったく足りないのだ。車のルーフに取り付けるのではなく、例えば駐車場の屋根全体にソーラーパネルを取り付けるなどした方が現実的だという声もあがっている。

もう一つの課題は、ソーラーパネルのコストが高いことだ。ただ、高まる需要に伴いコストはだんだん下がり、生産性はあがっていて、ある調査によると、2010年までにはパネルの材料となるCrystalline siliconシリコンの生産量も、生産性も大きく進化するとされている。今日1ワットあたり1.9ドルかかるコストが、5年以内には1ドルに下がると見込まれている。特にエネルギー費用が高いとされているニューヨーク、San Diego, San Francisco, Las Vegas, Phoenixでは、2015年までには今Natural Gasで作られているエネルギーだが、そのコストを超すとされている。

つまり日射時間の長く、既存のエネルギーコストが高いカリフォルニアでは、ますますソーラーパネルを促進するインセンティブが高まる。

2009年6月14日日曜日

マラソンブームは日本だけじゃない!シリコンバレーにはリッチなランナーが多かった

遅ればせながら、つい最近日本のランニングブームについて知った。今まで運動と言えば、ヨガくらいしかしていなかった友達さえ、「皇居の周りを走っている」とか「東京マラソンの抽選に漏れた〜」と悔しがっているので何ごとかと思ったら、実は全国的なブームだったんですね。

確かに今までファッションとレストラン情報が中心だった女性向けのウェブサイトを見ても、「 うしろ姿も手を抜かない! 褒められRUNファッション」とか、「女性らしく華やかに。上半身は色使いが決め手」とか、スポーツが目的でありながらファッション化している様子が伺える。

ブームのきっかけは2007年に始まった東京マラソンとのことだが、その東京マラソン、今年は35,000人の定員に対して、 261,981人の応募があったと言う(10K含む)。昨年からしても68%の伸びという、驚異的な倍率。

各スポーツメーカも、このブームを利用しない手はない。ランニング専門店をオープンしてランニングウェアのラインナップを充実させたり、雑誌で特集を組んだり、また定期的に練習会を企画しているらしい。ランニングスカート?という新たな市場の開拓に代表されるように、ビジネスチャンスを逃さないというところがいかにも日本らしい!(いまだに実物を見たことのなく、テニス用のスコートとの違いがいまいちわかっていませんが。。。)

いずれにしても、東京がランニングによって活性化して、かつビジネス的にも新たなマーケットが確立して、その上みんな健康になるのであれば、それに超したことはない。

一方海外では、ホノルルマラソンとかニューヨークシティマラソンとか、ボストンマラソンとか、数万人規模の代表的なマラソン大会は数多くあり、歴史も長い。ここサンフランシスコでもランニング文化は広く浸透していて、街のそこらじゅうをランナーが駆け巡っている。とにかくランナーと犬が多い街だ。特に日曜朝のサンフランシスコは極端。そもそも早起きしているのは、ジョギングしている人、ヨガに行く人、そして犬の散歩をしている人くらいだとも言える。つまり週末朝のサンフランシスコは、ランナー、ヨガマットを肩にかけたベジタリアンっぽい細身の女性たち、それから犬の散歩をする飼い主がほぼ大半を占めていると言っても大げさではない。

しかもこのエリアには、ハードコアなランナーがやたらと多い。湾沿いのマリーナと呼ばれるエリアはゴールデンゲートが見える絶景のランニングコースだということもあり、ランニング用に設計された乳母車に赤ちゃんを載せて押しながら走るママランナー、犬と一緒に走るランナー、サンフランシスコ特有の急な坂を駆け上っては下り、また駆け上るという体育会系なノリの年配ランナーたちが結構いるのだ。

友達や同僚と話していても、ジョギングやマラソンの浸透率を実感する。ジョギング、という軽いノリではなく、ハーフマラソンはもちろんのこと、フルマラソン、さらにはトライアスロンの経験者も結構いるのだ(しかも女性も多い!)

そこで全米、カリフォルニア、そしてシリコンバレー〜サンフランシスコにかけた地域、いわゆる「ベイエリア」のマラソン人口は果たしてどれくらいなのか、調べてみた。

まずは全米規模のデータから。



ロードレースを完走した人口の推移を見ると、年々着実に増加の一途をたどっている(ロードレースとは、5キロからフルマラソン、市民大会からオリンピックまで、公式タイムの出るレースは何でも含まれる)。2007年のデータだとほぼ900万人。データがないために残念ながら未確認だが、同じ伸び率が適用されると仮定すれば、2009年には1000万人は超えていてもおかしくない。

では次に、主要都市レベルでのデータ。以下のグラフは、アメリカの主要都市の中で「ランナー」の比率が高い都市のランキングになっている。これによると、 San Francisco /Oakland/San Joseを含むベイエリアは、第一位。一年を通して天気は良く湿気も低く、また健康志向が強いことを考えれば、納得のいく結果だ。



でも「ランナー」の定義って?そんな疑問に答えるべく、「ランナー」という曖昧な定義を「マラソン完走者」という明確な定義に置き換えた、各市の全人口に対するマラソン完走者の比率ランキングを紹介。すると予想に反して、カリフォルニアの市が一気にランキングから消える。前述のグラフ2よりももっと細かい「市」レベルで集計しているランキングなので一概にグラフ2と比較することはできないが、それにしてもベイエリアどころかカリフォルニアの中でもランクインした都市は Irvineのみ、という散々な結果だ。



ここでこのデータの提供者は、マラソン完走者率と各市の相関性を調べている。まずは公園の数を調べたが、何の相関性も見つからず。次に人口密度に目をつけたが、 これも失敗。人口密度の高い市も低い市も、ともに完走者数トップに名をあげているのだ。

彼がいろいろな角度から分析した結果、ようやく見つけた法則はマラソン完走者数と住民の職業分布との相関性だった。管理職、プロフェッショナル(専門職)、つまり高学歴なエリートサラリーマンたちが多い市で、高いマラソン完走者率が見られたのだ。高い生活水準と安定した経済力がマラソン完走者率のカギだった、ということになる。
となるとベイエリアは典型的なランナーの街として、ランキングに名を連ねそうだけど、何故グラフ3からは漏れているのか??その答えとなる別のランキングを見つけた。

以下のグラフは、市ごとの平均マラソン完走タイムのワースト10だ。このタイムが遅い市ほど、トレーニングを積み重ねたエリートランナーが少なく、初級者ランナーの比率が多いということになる。見ておわかりのように、何とすべてカリフォルニアの市で占められているのだ!



以上の複数のデータを合わせると、カリフォルニア、特にベイエリアは初心者を含めて、走るという習慣がより広く浸透しているということになる。マラソンでタイムを競うようないわゆる「エリートランナー」という観点では、全米トップ10にかすりもしないが、ゆるい定義の「ランナー」の比率では全米一。つまりランニングの敷居が低く、誰でも挑戦できるという環境と文化を作り出しているということになる。

さらに、前述のランニングと職業分布の相関性からも、ベイエリアのランナー数が多いのは納得がいく。健康志向が高いことに加え、ストレス発散の効果も期待されるランニングは、ハイテクエリアに住むエリートたちに最適な趣味であり、息抜きになっているのだ。シリコンバレーで数多く生まれるサクセスストーリーの秘訣はランニング?にあるのかも。

2009年6月7日日曜日

iphone人気の理由はアプリにあり?

日本では伸び悩んでいるiPhoneだが、アメリカでの人気は留まるところを知らない。シリコンバレーという土地柄もあるんだろうけど、わたしの同僚の間でのiPhone所持率は50%を超えている。またこれも土地柄なのかもしれないが、ユーザーとして所持するだけではなく、ディベロッパーとしてiPhone用のアプリケーションを開発するという点でも盛り上がりを見せている。多くの企業やサービスがPCウェブ用の既存アプリケーションをiPhone用に書き替えるというケースはもちろんのこと、iPhone向けとして新たに開発されるアプリの数も急増。本業や学業の傍ら気軽に作ったアプリケーションが大当たりして立派な収入源になるという夢のある成功例が増えているため、ある種トレンドのようにすらなっているのだ。右のグラフに見られるように、iPhoneアプリ数は順調に増加中。今年5月中旬時点で46,000以上が公開されていて、この豊富さがiPhone人気の大きな理由とも言われる。とあっては、競合が目をつけないわけはない。


Blackberryを手がける RIM(Research in motion)は、今期からディベロッパーが開発したアプリケーションを集めた「AppWorld Website」をリリース。このオンラインストアを設けることによって、アプリケーションの「ワンストップショッピング」化を実現させようとしている。ではアップルとの違いは何なのか?

まずはディベロッパーにとっての違いから。ブラックベリーの場合、ディベロッパーは自分のアプリケーションをオンラインストアに登録するのに、「登録料」という名目で200ドルを払わないといけない。その上、RIM の審査を通らないとオンラインストアに参加することができない。RIMはこのプロセスを通すことで、掲載アプリの質を保とうとしている。一方iPhone の登録料は99ドルから299ドルと異なるが、これは主に個人ディベロッパーか企業ディベロッパーかの違いによるものだ。個人であれば、99ドルが主流と仮定できるが、これは年間料なので毎年更新するたびに払わないといけない。では、ディベロッパーの大きなインセンティブとなるレベニューシェアの割合はどのように違うのか。アップルは全収益の70%をディベロッパーに支払うのに対してRIMは80%。審査が厳しい分、分配率も高いと言ったところだろうか。

では我々ユーザにとってのメリット、デメリットは?ブラックベリーについてまずあげられるのが、各アプリケーションの単価が高いこと。iPhoneのアプリケーションは無料や99セントのものが多く、平均価格も2.5ドルに留まる。対してブラックベリーのアプリケーションは最低で2.99ドル、平均するとほぼ3-4ドルにまでなる。ただ一方で、iPhoneよりも複雑なものが多い。つまり複雑なだから単価も高い、とも言える。ちなみにこの値段、初期ダウンロード時にかかるだけで、一度インストールしてしまえばその後は無料だ。ブラックベリーのもう一つの欠点は、決済がPaypalを通してのみ行われること。Paypalという外部システムに頼っていること(しかもPaypalの安定性はいまいち?)、また利用者がPaypalのアカウントを持っていることが条件になるという点は、大きなマイナス点だと言える。

ここでもう少しアプリケーションの質と単価について考えてみたい。先に触れたように、iPhoneは無料もしくはせいぜい99セントのものが多い。ただ質はと言えば、あきれるというか、笑うしかないというか、本当にくだらないものも多い。実際「ゲーム」と呼ばれるものは5分の1にも満たず、「エンターテインメント」に分類されるものがゲームに並ぶくらい多いのだ。



「エンターテインメント」カテゴリーに分類されるアプリとは、例えばiPhoneを銃のように見立てて遊ぶもの。アプリケーションを立ち上げると銃の絵が画面に現れて、発射ボタンを押すと銃のような音をたてる。ただそれだけ。それによって得点が稼げるわけでも敵を倒すわけでもないので、ゲームと呼ぶにはほど遠い。また日本人にもウケそうなのが、暇つぶしのプチプチ。画面を緩衝材として使われるシート状のプチプチ(ポリエチレン製の無数の気泡のシート)に見立てて、単に気泡をつぶしていく。ゲームとして早さを競うわけでもなく、ただ単にプチプチをつぶすというだけ。他にはライターのように着火できる(もちろん画面上でだけ)というアプリケーションもある。強く振ったり吹いたりすると火が揺れたりする。

さらに一歩進化した「ゲーム」と呼ばれるカテゴリーを見てみても、一番人気はFlight Controlという超単純な飛行機操縦ゲーム。ランダムに画面上に現れる飛行機やヘリコプター同士が衝突しないように、着陸路に誘導する。だんだん飛行機の数が増えてくるので着陸路は忙しくなり、その分手早く誘導しないといけないのだが、それでも着陸路数が急激に変わったり構造が複雑になるわけではない。そんな至って単純なこのゲームは99セントで売られていて、今年の3月以降で70万ダウンロードを、ピーク時には一日2万ダウンロードを記録したという。

これほど単純なゲーム(ゲームとも呼べないようなものも含めて)がiPhoneユーザーにウケている、という一見不思議に見えるこの傾向。実はこのような単純アプリケーションが、iPhoneの勢いを支えていると言っても過言ではないのだ。ある見解によると、こういうものがはやるのにはいくつかの理由があるという。まずは空き時間が数分あれば手軽にできること。頭を使って考える必要がなく、しかも複雑なゲームではないので完結しなくてもいい。いつでも始められていつでも辞められるので、たった5分の待ち時間にでも気軽に遊べてしまう。そしてその気軽さがゆえに、罪悪感を感じることなく遊べる。つまりたった5分だったら時間を無駄にしている罪悪感もないし、逆に有効に利用しているような錯覚にすら陥る。1時間続けて集中しないと満足感が得られない複雑なロールプレーゲームとは違う。また罪悪感と言えば、金銭的な負担が少ないのも大きなポイントだろう。無料かせいぜい99セントであれば、10回で飽きたとしても、まいっかと思えてしまう。

iPhoneユーザ一人あたりの平均アプリケーション数は20で、どの競合と比較しても飛び抜けて高いというデータが出ている。また、i-phoneユーザのアプリケーションあたりの平均利用回数は10回程度というデータも出ている。これは無料や99セントという格安な値段のものが多いという結果だろう。

このようなデータからもわかるように、iPhoneは電話を超えて多様プラットフォームと化している。裏を返せば、それが日本ではいまいちウケていない要因とも言えるだろう。では、実際にユーザがiPhoneを電話として使っている時間と、音声以外のアプリケーションを利用している時間に特徴は見られるのか。

1年前のデータなので最新とは言えないが、International Business Timesによると、iPhoneユーザが電話として利用する時間はたった46.5%だということが判明 。一方でブラックベリーの利用者は71.7% が電話として利用していた。また、同レポートによると、利用時間のうちiPhoneからのインターネットへのアクセス時間は12%以上。他の携帯電話からのネットへのアクセス時間は2.4%であることと比較すると、異様に高い数値だと言える。
また平均iPhoneユーザは全利用時間の11.9% 、音楽を聞いている。他の携帯電話ユーザでは、この数値も 2.5% にとどまる。これらのデータに証明されるように、iPhoneは単なる電話としてではなく、エンターテイメントのプラットフォームとして、携帯電話以上の機能とイメージを確立したと言える。

この影響は携帯電話、スマートフォン業者だけには留まらない。例えば任天堂が今年の4月に発売して順調な伸びを見せているDSi、その好調な要因のひとつはアップルを真似たオンラインのアプリケーションストアだと言われている。ディベロッパーの開発したゲームが数ドルで売られていて、ユーザはiPhoneのように即座にオンラインストアからアプリをダウンロードして遊ぶことができる。このように、伝統的な携帯電話業者ではないゲーム会社が競合としてあがってくること自体、アップルがいかに携帯市場外に影響力を広げ、ある意味新たな市場を開拓したかということが裏付けられる。

とはいえども、当面の脅威は伝統的「同業者」のスマートフォン、ブラックベリーやGoogleのアンドロイド、また新機種の発売を発表したPalm。例えばブラックベリーの場合、ビジネス用途が主流というブランドイメージの転換、オンラインストアの活性化(ユーザがいないところにはディベロッパーは集まらないし、逆もしかり、というネットワーク効果をどう作り出せるか)、そしてアップルのようにユーザを常に飽きさせないスピード感をいかに備えるか、などさまざまな挑戦が待ち受けている。スマートフォン競争は一層熾烈になると予想されるが、消費者にとってオプションが増えるのは大歓迎だ。

2009年6月1日月曜日

Twitterは企業の味方か敵か

以前話題に取り上げたTwitter、個人ユーザだけではなくセレブや企業もプロモーション活動やユーザからの情報源として多いに活用していると書いたが、最近そのオープンさが逆に企業の悩みの種となっている。企業の公式アカウントであれば企業の完全コントロール化にあり心配ないが、問題は社員や企業関係者からのランダムな情報発信。社員や契約社員が、企業の幹部、クライアントや顧客に関する悪口を発信したり、ある会社の面接を受けた人がその会社に対する悪印象をネット上に発信するケースが増えているという。

もちろんTwitter以前も、ブログやフェースブックなど社員がネット上で会社の話題をネットに持ち込むことは可能だったが、Twitterによってその「気軽さ」に拍車がかかった。携帯から発信できることも手伝って(フェースブックは最近まで携帯からの書き込みが制限されていた)、ちょっとしたぼやきを酔っぱらったついでに友達に愚痴る感覚でブロードキャストしてしまうのである。競合に社内機密を流してしまったり、社員や企業幹部の悪口を書いたり、また顧客の愚痴をこぼしたり。不適切なTweetsのせいでクビになるというケースも出てきている。

その対策の一つとして、ソーシャルネットワークサイトへの社内からのアクセスを制限している企業も増えているが、会社外からのアクセスや携帯からのアクセスまで制限することはできない。また、アクセス制限をすることが必ずしも根本的な解決にはならない。やるなと言われれば抜け道を見つけてさらにやりたくなるのが人間の心理。また、企業にとってもこの新たなツールを最大限利用すれば新規顧客層にリーチできるという大きなビジネスチャンスでもあるので、完全にそのツールを禁止したくない。ただマネージメント層の多くはTwitter世代でないがゆえ、実際に自分や周りの友達が利用していなければ、その心理もルールもわからないのだ。

このジレンマを克服すべく、最近では外部のコンサルティングチームを雇ったり社内に専属チームを作って「Twitter対策」に積極的に乗り出す企業も増えているという。例えばGEは10人ほどのチームを立ち上げて、社名に関するTweetsを積極的にモニターしている。また、「ぼやき」を社外に流す前に社内ネットワーク内で解決しようという試みも行われている。つまり、社内ソーシャルネットワークを立ち上げて、不満をまずは社内で解決しようというわけだ。ただ身元がすぐにわかってしまう社内という枠で、社員がどれだけオープンになれるのかというのは疑問だけど。

個人的には、学校でのIT教育の一環としてソーシャルネットワークを利用する上でのマナーとか道徳とかをどんどん積極的に教えるべきだと思う(長期的な対策だけど)。そういうクラスは単なるテクノロジーだけを教えるのではなく、マナーもきちんと理解させるべき。この手の問題って特に目新しいものでも複雑なものでもなく、基本的な道徳観と常識があれば簡単に応用できるものだと思う。となれば、子供にも簡単に理解できるはず。

2009年5月26日火曜日

ホテルの生き残り競争

この不景気で全業界が影響を受けているが、その影響(打撃)の程度は業界や企業によってさまざまだ。

まずこの不景気を追い風に伸びている企業とは、マクドナルド、ウォールマートなど格安感を売りにしているサービス。両社とも、そもそもある一定の顧客層にしかウケなかったサービスだったが、不景気で伸びる強みをここぞと利用して、顧客層を広げようとしている。マクドナルドは、最近アイスモカもどきのエスプレッソベースのドリンクを新発売して、相当のコストをかけて宣伝している。テレビでのコマーシャル、街のバス停、雑誌、と至るところで目にするようになった。おしゃれなイメージで売り出して若い女性をターゲットにしているのが明らかだ。一方のウォールマートも他の大手スーパーに先駆けてiphoneを売り出したりと、新たな顧客層の開拓に積極的だ。この不景気をうまく利用して、安くて質が悪いというイメージを一新しようという意気込みが感じられる。

その一方で人一倍打撃を受けているのは旅行業界。ビジネスマンの出張費であれ、家族旅行であれ、旅行費は真っ先に削られる。その他にもサラリーマンはリストラを心配して休みを取るのを控えるなど、心理的な「節約」モードが影響する。

ある最近のリサーチによると、今年2009年の全米でのホテルの宿泊率は、2007年の63%、2008年の60%からさらに下がって55.7%になると予測されている。となっては、いくら高級ホテルであれ、あの手この手で客寄せをせざるを得ない。リッツカールトンは宿泊数に応じて無料の食事やスパサービスの提供、フォーシーズンはホテルのプールを近所の人に20ドルで解放しているらしい。ウェスティンやシェラトンの親会社のスターウッズは誕生日に応じた特別価格を提供、例えば1960年生まれだったら60ドルというように年配ほどお得になっている。他のホテルではチェックイン時にフラフープで20秒以上続けられれば無料の部屋アップグレードなど、工夫されたものも混じっている。
また、高利益として注目されているのが病院とホテルの提携。手術後の患者を収容する先としてホテルを利用してもらうという新たなビジネスチャンス。

でもよく考えれば、ほぼ日本ですでに行われていることだなと気づいたりする。プールのホテルを宿泊客以外に提供する夏休みプラン、プールだけでなく温泉日帰りプラン。病院との提携についても、1日以上に及ぶ人間ドックはホテルでの宿泊に豪華食事が付いていたりする。一般的に日本のホテルのプラン数の多さとか無料サービスの豊富さにつくづく驚かされる。地元の名産品サービス、花火観戦プラン、レイトチェックアウト、蛍が見れるプラン、浴衣無料貸出し、など数えだしたらキリがない。これは旅行業界を超えて言えることかもしれないけど、日本人はそこにない需要を生み出すことにかけて天才的だと思う。例えばレディースプランなんてこっちで提供したら差別だって訴えられそうだけど、日本のシティホテルでは人気プランの一つだったりする。一人旅プランなんていうのも、別にプランにしてもらわなくても勝手に一人旅すればいいわけだが、そういう名目でパッケージ化されると行きやすくなる(?)と同時にお得感が増すような気がする。レディースプランだと女性ウケする食事やデザートが中心だったりと細やなところまで行き届いているので、パーケージを購入すれば余計な心配はしなくていいのである。メディアの影響力も手伝って、雑誌やテレビで取り上げられることでさらに人気が出る。

アメリカ人旅行者は一般的に自立していて自分で計画することに慣れているので(少なくとも国内では)今まで日本のような宿泊プランが存在しなかったのかもしれないが、この不景気の中新たなマーケットを作り出す取り組みとして、女性などをターゲットにしたきめ細かいプランがはやるかもしれない。

2009年5月18日月曜日

Google故障の影響力

先週の木曜日、Googleの主なサービス、検索、Gmail、Youtubeなどが、一斉にダウンした。公式ブログによると、1時間ほどの故障で全グーグルユーザーの14%が影響を受けたという。グーグルユーザーの14%と言えば、数百万人というユーザ数になる。

個人レベルでは、一時的に検索が使えなくなったりメールにアクセスできなくなり、不便だったという程度に過ぎないかもしれないが、もっと広い視点ではこの打撃は相当だったと予想される。例えば各患者のデータをグーグルで管理している病院、グーグルを会社のメールとして使っていたりプロジェクトの進捗管理をgoogle docsに依存しているスタートアップ、またアドセンスをマーケティングの手段として、もしくは収入源として頼っているウェブサイトや会社にとっては、「不便」では片付けられない打撃になりかねない。グーグルの影響力の大きさを改めて実感させられると同時に、1企業のサービスに全世界が依存することの不安

例えば今話題になっている自動車業界。主な自動車メーカーが総倒れしていく結果、その自動車メーカーの下請けとして成り立っていた業界やその先のディーラー含めて、サプライチェーン全体が大きな打撃を受けている。まさにドミノ倒れ。
また他に例えるとしたら、東京に代表されるような一極集中型都市の経済構造のようにも見える。東京が地震に見舞われたら日本全体が機能しなくなるのではと不安になるけど、グーグルが今までのペースで影響力を増していけば、同じようなことが言えるかも。

2009年5月7日木曜日

成功企業の法則-秘訣は「2本の矢」にあり

今期で8シーズン目を迎え、相変わらずの人気を保っている’Dancing with the stars’というテレビ番組がある。日本でも以前、芸能人が大会に向け社交ダンスの練習に明け暮れる姿を追うという番組があったが、この ‘Dancing with the stars’ では、有名人とプロのダンサーがペアを組んで、毎回与えられたテーマに合わせてダンスを披露、最後まで勝ち残ったペアが優勝となる。審査員による採点があるものの、次に勝ち進めるかどうかは視聴者による人気投票によって決まる。’American Idol’のダンス版、のようなもの。ただ有名人と言っても、”もと”プロスポーツ選手とか、”もと”有名だった人(しかもいわゆるB級芸能人)が多いので、ここで育っていないわたしにとっては知らない人たちばかりで、つまらない。そんな理由で今まで見たことがなかったが、今シーズンは面白いメンツがそろっていて何かと話題になっているので、興味本位で番組について調べてみた。

8シーズン目の目玉は Charlie Sheen と離婚したDenise Richards、のはずだったのだが、シーズンが始まったと同時に話題を総なめにした有名人がいる。あのSteve Jobsとアップルを創設したSteve Wozniak だ。お世辞にもダンスどころか何の運動にも向いていなさそうな体つき、B級スターのように仕事にも金銭的にも困っているわけでもない彼が、何故また恥をさらけ出すようにダンス番組への出演を承諾したのか、???だが、今までの遍歴を見てみると何となく納得がいってしまう。

Steve Jobsはいまやもっとも成功したビジネスマンの一人、健康問題が噂になっているものの、ジョブスあってのアップル、というカリスマ的な存在になっている。その一方でWozniak は、1981年に自身が操縦していた飛行機で墜落事故を起こし、一時的な記憶喪失に陥る。それが転機となったのか、アップルを引退してからは地元の小学生に向けたIT教育をサポートしたり、若いベンチャーをメンターとしてサポートしたり、レゴで作るロボット大会に参加したり、とジョブスとはまったく違う人生を歩み出したのだ。私生活でもセグウェイに乗ってポロをしたり、女優でコメディアンのKathy Griffinと付き合っていたり、と次々と奇妙な話題を振りまいてきた。

ふと考えると、2人組で起業するケースって結構多い。ここシリコンバレーで言えばヤフー、グーグル、HP、VM Ware、Youtubeなど。アップルの2人のようにその後の人生がここまでが極端に異なることは少なくとも、性格の違いという意味では、少なからず似たような傾向があるようにも思える。例えばヤフーのJerry Yang と David Filo。Jerry Yangは最近までCEOだったことにも象徴されるように創設以来表舞台にたつことが多かったが、一方のDavid Filo はいまだに会社にいるものの、ほとんど公の場に姿を見せない。メディアとか表舞台が大嫌いらしい。

日本企業の場合はどうだろう。ソニーは技術者 井深大とビジネスマン盛田 昭夫、ホンダは技術型経営者の本田宗一郎とビジネスマン藤沢武夫のコンビで世界のソニーとホンダを生み出した。その他にも創設者という肩書きにはなっていないものの、陰の立役者、みたいな存在がいたケースは結構多いと思う。

直感的に2人組が1人よりも良いというというのはわかる。多すぎず少なすぎず、意見交換する相手がいながら意見が発散しすぎない。世界の伝説には良く3人組ヒーローが登場するし、「3本の矢」のことわざにもあるように、3人組も多くてもよさそうだが、ビジネスの世界では決定者が2人以上になるとスピード感が落ちるのだろう。

ベンチャーキャピタリストかつエッセーイストの Paul Grahamによるエッセー’The 18 Mistakes That Kill Startups’ の中には、“1人での起業”が“ミステイク”の一つとしてあげられている。2人いれば、いろんなアイディアを議論し合えるだけでなく、間違った決断を下しそうになったときにお互いにストッパーとなれる。ただそれ以上に彼が大きな理由としてあげているのが、精神的な支えとプレッシャー。初期のスタートアップはつらいことの繰り返しで、一人では乗り越えられないことが多い。人間の本性として、「相手をがっかりさせない」というプレッシャーは前向きなエネルギーになって、力を最大限に発揮できる源になるのだと言う。ただその一方で、”創設者間での衝突”も大きな”ミステイク”としてあげられている。つまり1人よりも2人だけど、もちろん誰でもいいというわけではない。多くの衝突の原因は、ビジネス展開をしていく上でのアイディアや方向性の不一致というよりも、性格自体や2人の関係にそもそもの問題があると言う。例えば馬が合わないのにスキルがあるから、とか、仲が良いから、というだけで一緒に起業するのはもっとも危険で、未然に防ぐべきだと警告している。

では実際に、世の中のいわゆる“成功した企業”は、何人で創設された場合が多いのか?創立者の人数の統計データを見つけたのでここで紹介。2007年時点のデータなので最近のベンチャーは含まれていないのと、全米ならずNokiaやInfosys, Canonなども含まれているのだが、ざっと一覧を見た感じ、少なくとも半分はシリコンバレーの企業のようだ。



人数に反比例して企業数は少なくなっているが、中でも1人と2人での起業が大半を占めることが分かる。またここで注目したいのが、そもそも1人で起業するケースは飛び抜けて多いだろうということ。つまり成功率を計算すれば、1人のケースの母数は果てしなく高いため、2人のケースの成功率の方が断然高いと想像できる。

話は戻って Wozniak のダンスの成果は、というと、ついに4月1週目に視聴者の十分な投票を得られずに終わりとなってしまった。ただ番組始まって以来の最低スコア(審査員による)記録を出し続けた彼が今まで残れたのも、シリコンバレー中心に形成されるギークたちのコミュニティーの応援があったからだ。
フェースブックでは「 Vote for Woz 」というグループが立ち上がっていたりWozniak が自身のウェブサイトでサポートを呼びかけていたり、噂ではi-phone のアプリケーションまで作られるという話だった。(3月時点で本人が計画を明かしていたが、もう番組に残っていないので実際にリリースされたかどうかは不明)
もちろん前回取り上げたTwitterも最大限利用。奇跡的に4回も勝ち残ったのは、恐るべきギークたちの力と言えるだろう。

Wozniak とJobs、アップルという同じ場所から出発した2人だが、30年以上たってみると、2人の人生はここまで違っている。それぞれ個人的な好みはあるものの、どちらも不幸な人生だと言う人はいないだろう。Jobsはビジネスマンとしての成功者、一方 Wozniak は人生を謳歌している成功者という気がする。人種とかバックグランドの多様性はもちろんのこと、こういう人生感(や価値観)の多様性が、このシリコンバレーをさらに特別な場所にしているような気がする。

2009年4月13日月曜日

First Dog

この週末、Obama周辺で騒がれているのは子犬。キャンペーン期間中からObama姉妹への「公約」だった子犬の到着がこの火曜日にようやく実現するらしい。振り返れば昨年選挙戦が終わって以来の長い道のりだった。Obama側は動物保護協会からは「優良プリーダーで育てられた恵まれた血統付き子犬よりも、飼い主のいないシェルターの犬を引き取るべき」という一環したプレッシャーを受けながら、最終的に落ち着いたのは、ブリーダー出身で一度飼い主に引き取られたものの、何かの都合で再びブリーダーのもとに返された「ホームレス子犬」だった。Portugese water dogという種類は一般的にかなりアクティブらしいので、アンティークや貴重品の多いホワイトハウスでは活発すぎるのでは?という心配の声もあがっているらしい。さてこのブリーダー、さぞかし誇りに思って大々的に名前を宣伝するのかと思いきや、匿名のままで通すだろうと推測されている。何故かというと、血統書付きの子犬を買い手から返されたという汚点、そして何よりもこの手の話題で注目をあびると何かと荒さがしの的になりやすいという前例からだ。例えばVice PresidentのJoe Bidenが引き取ったジャーマンシェファードを育てたブリーダーは、名前を明かしたその後から、散々な目に会っている。「シェルターの犬を引き取るべきだった」「血統書付き犬を欲しいがために今までの犬を捨てて、ブリーダーから新たな犬を買う人が増えている」とか言う非難の的にされ(ちょっと的違いな気がするが)、州の役員が家まできて立ち入り調査をする始末。裁判沙汰にまでなって無実が証明されたものの、そのたびに弁護士を雇って、精神的にもコスト的にも参っているという。

ふと興味を持って、捨てられたペットを引き取る橋渡しをしている団体のサイトを見たら、リスティング数は全米の中でもカリフォルニア州がダントツに多かった。全人口が多いことに比例してペット数が多い(それだけ捨てられるペット数も多い)こと、またそれゆえに団体が力を入れて、その結果リスティング数が増えたとも言えるが、この近辺はペットを家族同然に扱う文化が色濃いと思っていたので、意外だった。少なくともサンフランシスコ〜シリコンバレー近辺で見かける犬たちは、広い家で家族の一員としてのびのびと生活しているように見えるし(東京の一人あたりのスピースよりも確実に広いスペースを占領している!)、会社によっては犬を連れてきて勤務時間中は職場に置いておけたりもするから、世界一幸せな犬たちに見える。でもふと見渡すと、わたしの周りでもシェルターから犬を引き取って飼っている友達や知り合いは相当多い。一度捨てられた犬が、近所の家族に救われて平和な暮らしを見つけるという循環システムが存在しているだけなのかもしれない。

またブリーダーが非難の的となっているもう一つの理由には、異なる品種間の配合を人工的に行うブリーダーが増えているという背景がある。売れるからとか可愛いからという人間の身勝手な理由で、むやみに人工的な雑種作りに励んでいるブリーダーが多いのだと言う。大統領一家のする選択、子犬にしても着る洋服にしてもお抱えシェフの選択にしても、全国民が一致で賛成する選択肢は不可能だし、くだらない記事も氾濫している。ただそれによって、この手の社会問題が浮き彫りにされるのは悪くないかも。

2009年4月8日水曜日

H1Bの狭き門

H1Bビザというのはアメリカで働く場合にもっとも一般的な就労ビザで、最長6年間の就労が認められる。毎年4月1日に募集が始まり、最近では毎年6万5000人ほどのビザが認められていた。この定員を超えた場合は抽選となる。NYテロ事件以来、発行されるビザの数が減ってビザの取得がだんだん難しくなっていたのだが、それに追い打ちをかけるように最近の急激な失業率の増加で、アメリカ人の働き口を奪いかねない外国人の雇用をもっと厳しく規制すべきという議論が持ち上がっている。

この就労ビザ、もとはアメリカ人の中からは見つけるのが難しいスキルを持った有能な外国人社員を採用する、というアメリカ企業・経済を支える名目のもとで始まっている。ところが現実的には明確がガイドラインがあるわけではない上に、最近はアウトソーシングを請け負う会社の利用が急激に増えている。つまり、有能な外国人を使ってアウトソーシング企業がアメリカで成長をとげれば、アメリカ企業のアウトソース化を促すことになり、結果的にアメリカ人の働き口を奪っていくことになる。失業率の増加という超短期的な影響に加えて、こういった中長期的な懸念も広がっている。

一般的にシリコンバレーの企業はハイテク系が多いこともあり、外国人労働者への依存度は極めて高い。わたしの会社を見ても、半分以上は外国出身者ではないだろうかという勢い。エンジニア系のチームでは特に、インド人と中国人が圧倒的に多い。また外国人社員が多いことで有名なマイクロソフトは、2007年にカナダに大きなオフィスを設けて、有能な外国人を雇っている。カナダだったらアメリカにも地理的に近い上に(特にマイクロソフトの本社のあるシアトルには近い)、アメリカと違って外国人が雇いやすい、というのが理由だ。

歴史的な不景気の中、不安が広がるのはもっともだと思う。でもこの手の政策、短期的な効果を期待して早まると長期的なダメージが大きいのでは。スキルを持った外国人を雇うことによってアメリカ企業が成長すれば、結果的にアメリカ景気にとってはプラスになる。アメリカが外国人労働者への門を閉じてしまえば、マイクロソフトの例のように、カナダや他国が有能な外国人をどんどん囲い込んでいくかもしれない。そして何よりも、移民の国であるアメリカのアイデンティティがだんだん崩れていってしまう。

2009年3月23日月曜日

Business School 続編

以前にビジネススクールの変貌ぶりについて触れたが、最近たて続けに暴露されている倫理問題でまたビジネススクールの真価について疑問があがっている。というのも最近ニュースのヘッドラインを賑わしている「ビッグファイブ」のリーダーたちは全員「MBA」ホルダー。未来のビジネスリーダーを送り出すビジネススクールがこの惨事を無視しているわけにはいかなくなってきたのだ。

ではビジネススクールの教育が、今日ニュースを騒がせているリーダーたちの非常識な行動にどう影響を与えたのかというと、いくつかの理由があげられる。ビジネススクールのカリキュラムがあまりにもシステム化されて、現実の世界からかけ離れてしまっていること。あまりにも株主の利益を最大化することに集中しすぎて、社会問題、倫理問題を軽視化してきたこと。リスク管理は大事と言いながらも、結局はリスクを取ってリターンを最大化することを強調しすぎたこと。

わたし自身のビジネススクールの経験から言っても、短時間でケーススタディーに書かれた問題に対していかに効率良く即答するかという訓練を受けたという実感がある。ケーススタディーというのはその手の訓練を積むには効果的だが、あまりにもそこに重きを置きすぎると、現実で直面する倫理とか人間関係とか社会性とかもろもろの要素を忘れがちだ。もちろんそういう側面に重きを置く授業はまた別に設定されているのだが、2つを組み合わせて一緒に考える授業はほぼなかったように覚えている。

また2001年のエンロン事件をきっかけに、多くのビジネススクールが倫理問題を授業に組み込み始めた時期でもあった。わたしの行ったビジネススクールでも倫理が必修になっていたが、その授業の内容はこれまたアメリカの資本主義の象徴したような内容で初日に唖然としたのを覚えている。倫理というよりも、ビジネス人たちによる都合良く定義された「ビジネス倫理」を教えられたようなものだった。倫理問題に取り組む際のフレームワークが与えられ、いくかの観点や関連者の立場から得点をつけるようになっている。さまざまなケースにそのフレームワークを当てはめて、その得点が最大化する回答がもっとも良いとされるという、現実世界をまったく無視したようなものだった。またそこで取り上げるケーススタディも日本の小学校の道徳で取り上げるような内容だったりして、これまたびっくりした。実は日本の小学校で道徳の時間に見た教育テレビの番組は、良くできた「ケーススタディ」だったんだなと納得した。(と言っても日本の政治家やビジネスマンの方が倫理意識がしっかりしているとも思えないので、小学校の道徳の時間が解決策になるわけでもない)

では今後ビジネススクールはどう変わるべきなのか。カリキュラムの見直しはもちろんのこと、わたしはビジネススクールの文化を変える必要があるのではと思う。金融やコンサル会社に行くのが王道のキャリアパス、という雰囲気が生徒の間だけでなく教授や授業で使う教材にまで漂っている。訓練を受けたビジネス人たちを必要としていて、それ故に卒業生たちがもっとスキルを活かせるだろう事業会社やヘルスケア、また今後大事になってくるいわゆる「グリーンテクノロジー」、そういう分野に卒業生を送り出す役割が学校側にもあるのではないだろうか。授業費があまりにも高く学費ローンを支払うために給料の高い金融に行かざるを得ないという事情もあるが、一方で多くの学校がNPOに就職する卒業生に対してローンの軽減化したりもしている。それもこれも授業費が高い故の結果であり、対策である。そもそもビジネススクールの校舎の改築に何百億円もかけていないで、その分を授業費に還元すればいいのに、と思う。授業費を下げて学生がその後の給料に縛られずに自由にキャリアを選べるようになれば、少しは金融、コンサル熱は冷めるかもしれない。

2009年3月13日金曜日

コメディアン対ビジネス・ジャーナリスト

米国のコメディ専門チャンネルコメディ・セントラルで放映されているザ・デイリー・ショーの司会者ジョン・スチュワートとCNBCの投資情報番組「Mad Money」を担当するジム・クレーマーがテレビ局を超えた激しいやり取りを繰り返していて、話題になっている。

コメディ・セントラルはコメディ専門チャネルで、見ているだけでIQの下がりそうな番組から時事ネタを扱う報道番組まで多彩に提供している。看板番組ザ・デイリー・ショーのジョン・スチュワートは、政治ネタを中心にむしろ報道メディアを批判することで有名だ。ネタにされた政治家たちはさぞかし怒っているんだろうと思いきや、ここはさすがアメリカとでも言おうか、翌週には本人がうれしそうに番組のインタビューに登場したりする。去年の選挙戦の直前にはオバマも登場して、ジョン・スチュワートの突っ込みや皮肉に大笑いしていた。

一方CNBCは日本の日経CNBCとしてもお馴染みのように、「ビジネスニュースならCNBC」の売り文句で株式情報、ビジネスニュースを一日中放映している。ただ日経CNBCと違うのは、お固いビジネス情報番組でありながらも登場するアナウンサーや評論家のキャラクターはとても濃いということ。数週間前には、シカゴ市場からの中継を担当していたCNBCのリック・サンテリが生中継中にキレて、「家のローン救済策は馬鹿げている!何で俺たちが隣人のローンの支払いをしなきゃいけないんだ?大統領聞いてるか!?」と大声で叫びだした。周りにいるサクラなのか本当に市場で働いている人なのかわからない10人くらいのトレーダーらしき人たちもそれに大声で同意。スタジオにいるキャスターもタジタジになる始末だった。その反響はあまりにも大きく、サンテリ氏にホワイトハウスのロバート・ギブス報道官がプレスコンファレンス中に反論するまでに至った。そんな中、熱いキャスターやコメンテーターの筆頭としてあげられるのがCNBCで「Mad Money」を担当しているジム・クレーマーだ。もとヘッジファンドのマネージャーのジャーナリストは常にテンションが高く、いきなり椅子を床に叩きつけたり、とんでもない奇声を上げるので、発作を起こして倒れないかといつも見ていてヒヤヒヤする。この「Mad Money」という番組、基本的にはどの株が今の一押し株かを宣伝するのだが、この度の株大暴落という始末では売りも買いもあったものではない。ジョン・スチュアートがクレーマーの最近の無責任な「株買い」発言を取り上げながらNCBCに対する批判を繰り返していたら、クレーマーが「コメディアンに何がわかる」と自分の番組や他局の番組上で反論。テレビ局を超えたちょっとした口喧嘩が始まった。

その結果、クレーマーがザ・デイリー・ショーのゲストに登場するという直接対決が決まったのだ。ちょうど先週放送されたのだが、スチュワート曰く「現実には2つの世界が存在している。まじめにコツコツと働くサラリーマンには401Kなど年金制度が長期的に一番特で安心と促しておきながら、それを元金に株市場で大儲けする短期利益のみを狙う投資銀行や投資家が存在する世界。CNBCは後者のための番組で、株投資のリスクなど含めて中立的な視点から情報を届けていない。株式投資を過度に促すような情報の流し方をしていて、情報番組としての責任を果たしていない」。確かにCNBCの番組、その中でも特に「Mad Money」はエンターテイメント化していて、プロの投資家ではなく一般人に対して投資をゲーム感覚で促す傾向がある。もちろん実際にそれを真に受けてやるかどうかは個人の責任だが、テレビの影響はあまりにも大きい。特に自らを「正統派ビジネス情報提供番組」として位置づけているCNBCであれば、影響はさらに大きいと思われる。対談の結果だが、クレーマーからの反論は驚くほどほとんどなかった。彼も番組でキャラを演じているにすぎず、人気が出てしまったが故にエンターテイメント性に歯止めが効かなくなったような印象も受ける。この大不況がCNBCの報道姿勢をどう変えるのか。

2009年3月9日月曜日

恐るべしTwitter

ここ半年ほどで良く名前を聞くようになったTwitter。再び名前を聞くようになった、という方が正確かもしれない。ここシリコンバレーでは、スタートアップがメディアやブログで騒がれるサイクルがあるように見える。それは純粋に企業が伸びている場合や画期的なサービスを出した場合もあれば、買収の話が持ち上がったためだったり、もしくは投資しているベンチャーキャピタルが何か仕掛けているのでは?と思わざるを得ない場合もある。つまり口コミの仕掛人がいるように思えることが結構あるのだ。というのも、特にサービスが変わったわけでもないし買収の話があったわけでもないのに、いきなりメディアのカバーが増えるケースをたまに見かけるので。Twitterの場合、去年後半から今年始めにかけて、このすべてが一度に起こった印象がある。

2006年にアメリカでサービス開始、日本でも去年サービスが始まったようだが、サービスはいたってシンプルだ。'What are you doing?'という質問に答える形式のアップデートを送り合うサービスになっている。そのアップデート(通称tweetsと呼ばれる)は誰が読むのかというと、自分の友達だったり見ず知らずの人に一斉にブロードキャストされる。逆に誰のアップデートでも受け取れる。一言で言うと、'real-time message broadcasting system that goes beyond members’ 。似たものとしては、フェースブックのアップデート機能があるが、これはお互いに友達の輪に入っていないとアップデートが受け取れない(ただ最近この規制もなくなった)が、Twitterでは友達ではない大統領オバマからもアップデートが受け取れてしまう。ウェブ経由、テキストメッセージ、インスタントメッセージの3形式でアップデートが送れるので、モバイルから今何を食べているとか、今誰と会ってるとか女子高生のノリなメッセージを送り合える。実際日本にある似たようなサービスはその手の用途の大半らしいが、このTwitter、アメリカでは政治界や芸能界での影響力をどんどん強めているようだ。

というのも、去年の選挙戦をきっかけに、Barack Obama、Hillary Clintonをはじめ、多様な顔ぶれの政治家がTweetsを送りまくっている。有名人では、Britney Spears、Lance Armstrongなど。彼らにとってはマーケティングツールであると同時に、(特に政治家にとっては)それ以上に若者層を理解しているというメッセージを送る効果が大きい。実際、選挙戦中はもっぱらObamaのブラックベリー対McCainのアナログさが話題になっていたように、政治家にとって若者層との距離を縮めることは常に挑戦なんだろう(麻生総理の漫画オタク宣言もその努力の一つ)。例えばObamaの勝利が確定した翌日のメッセージ:We just made history. All of this happened because you gave your time, talent and passion. All of this happened because of you. Thanks。また個人だけではなく、企業が公式アカウントを持って、新製品の情報発信などを消費者に送る手段としても急激に伸びている。主な企業としては、シスコ、サンマイクロシステムズ、IBM, WholeFoodsなど。雑誌のTimeがニュースを配信していたり、NASAが火星での新発見について情報を配信するなど、いまや高校生のチャット機能を超えたとてつもないパワーを持ち始めている。

もう一つの利用方法としては、ちょっと大げさに聞こえるかもしれないが、世の中のニュースやはやりごとのスナップショットが見えてしまう。何百人という人たちが今何に興味を持っていてどういうトピックスについて情報を配信し合っているかというキーワードベースのトレンドが見れるようになっているので、それを見るとある意味今起こっている出来事のサマリーが見えてくる。しかもオンラインニュースや検索サービスで探すよりも早かったりする。メディアは数人の記者が情報を集めるまで記事にならない一方で、Twitterは何百人のユーザが全員記者のように情報提供できるのだ。

それ以外にTwitterがやたらと騒がれるようになったわけ、それはフェースブックからの買収提案。去年500 million(USドル)をオファーされたが、それを拒否。そんな中今年の2月、第3ラウンドのファンディングをクローズしたと発表。35 million (USドル)以上を集めたとのことです。この不景気の影響で投資を集めるのがどんどん難しくなっている中、このニュースで周囲はまた「これは何かあるのでは」とさらに騒ぎ立てたのだ。

では実際にどれくらい伸びたのか。Twitterにとって、2008年後半が大躍進の期間だった。2008年当初は50万人だったユニークユーザが2008年11月と12月には各月100万人以上増加したらしい。結果的に2007年12月時点と2008年12月時点のユーザ数を比較すると、752%の成長率を見せている。絶対数としてはまだまだfacebookやmyspaceに及ばないが、成長率でははるかにうわまった。

そう言えば最近ロスで熱い夜食と言えば韓国風タコス(韓国風焼き肉をタコスと同じ生地で包んだもの)!毎晩夜遊びや飲み帰りの若者に大人気らしい。この屋台Kogi(http://kogibbq.com/)もTwitter経由で人気が出たらしい。数ヶ月で口コミが広がり、今日どこに出店するかなどの情報もTwitterで配信されている。セレブや大企業だけでなく、アントレプレナーが低予算で(ていうかほぼ無料)口コミを仕掛けるには最適な手段かもしれない。毎日変わる出店場所も、もちろんTwitterで更新されている。

会社への忠誠心と個人主義

最近ヤフーのCEO Carol Bartzが「ヤフーマップではなくグーグルマップを使っている」と発言をしたことがちょっとした話題になっていたのだが、たまたま同じ頃、不況で苦しむ日本の電機メーカーが続々と「社員キャンペーン」を開始しているという記事を目にした。例えばパナソニックでは、今年の7月までに管理職が10万円以上の自社製品の購入が「推進」されているとのこと。NECでは全社員対象で、「自社製品を積極的に購入して会社への忠誠心を示す」ことが社内向けのホームページで推奨されているらしい。アメリカ人の友達に話すと予想通り、信じられないとの反応が返ってくると同時に、いつも通りの熱い「個人主義」論にはまっていく。

その議論はおいておくとして、無関係に見えるこの2つの話も、何か会社への忠誠心と個人主義のバランスに行きつく気がする。日本の若者層の中では当然変わってきているんだろうが、一部の大企業では今でも個人と会社が一体化されていて、不況時にはそれが強調される。苦しいときこそ一緒に乗り切ろうという精神?なんだと思う。
シリコンバレーは会社が苦しくなるほどそういった忠誠心が薄れてくる。いつリストラされるかわからないわけだし、会社自体がいつどうなるかわからない状態で依存しすぎるのはリスクが高すぎる、ということに尽きると思う。一生面倒見てくれるわけでもないし、それを望むわけでもないのであれば、会社は自分の成長の場として利用すべき、という意識がとても強い。当然と言えば当然の成り行きだ。
ヤフー Carol Bartzの発言は、CEOという立場での発言なので不要な発言だったように思えるが、所詮CEOもキャリアを積み上げている個人であって、この経験も彼女のレジュメをより華やかに飾り立てる一項目に過ぎないのだろう。

2009年3月2日月曜日

ペットボトル自粛運動

サンフランシスコでは2007年に、費用が高く公害悪化の原因だとして、市職員に対してペットボトル飲料水禁止令を出した。背景にはコスト削減だけでなく、ペットボトル入り飲料水の製造および輸送に係る石油使用量に及ぶ環境への配慮もある。同市では、同じ年に職員によるスーパーでのビニール袋使用禁止令も発令されている。先日わたしがサンフランシスコで行ったレストランも「環境に優しい」ことをテーマとしていて、ペットボトル飲料水は一切使わないことを看板にあげていた。それ以外にもできるだけ地元で生産された食材を使うなど、地元の農業を支えるとともに環境に配慮していることを掲げるレストランは増えている。
このような市とか団体レベルでの自粛活動は以前から随分盛んだったのだが、問題はその意識が一般消費者の家庭での行動にどこまで浸透しているか、ということ。最近目にした'Beverage Marketing Corp.'のデータによると、ペットボトル入り水の消費の成長率は2005年をピークに落ちていく一方らしい。特に2007年から2008年にかけての落ち目は著しく、これはちょうど市や団体が積極的にペットボトル自粛活動を始めた年と重なる。またさらにそれを裏付けるように、BritaとかPURに代表される家庭用浄水器の売り上げ成長率は10%を超え、軒並み順調らしい。
ここベイエリアでは日本ではやっているマイ箸ではないけど、マイペットボトルを持ち歩くことはある種のメッセージ性を持っている。スタンフォード大学で行われるイベントなどに行くと日本でのポケットティッシュのような感覚で学校のロゴ入りの水筒が配られるし、会社に入ってもはじめの'welcome package'には必ず水筒が含まれている。
知人からの情報によると、グーグルのメインキャンパスでもペットボトル入りの水は置かれなくなったとか。今は蒸留水の入っている大きなタンクが各フロアに置かれていて、紙コップもしくは持参の水筒に必要に応じて水を補給するシステムになっているようだ。グーグルが取り入れたという時点で、ある意味真の業界標準になったと言える?かも。

2009年2月23日月曜日

夢をほどくLiquidatorたち

毎日レイオフのニュースが絶えず、スタートアップが続々と倒産していく中、企業の清算処理を請け負うファームは大忙しとの記事がビジネスウィークに出ていた。固定資産の処理、知的財産の売却、弁護士の手配など主な清算処理をすべて請け負う。「起業家の夢をほどく」のが仕事だと言う。あるファームでは、例年は月2件のペースだった案件数が、最近は月あたり12件にまで増えているという。そして今後はもっと忙しくなることが予測される。。。

シリコンバレーは起業家を育てるのに効率の良いエコシステムが確率しているだけでなく、トラブルに陥った企業を処理するのもとても効率が良い。記事によると、清算処理をアウトソースするメリットというのは実は後片付けとキャッシュ化が素早くできるだけでなく、そう言った後処理から有能なベンチャーキャピタリストやアントレプレナーを自由にしてあげて、彼らが一刻も早く次のビジネスチャンスに取りかかれるように、というメリットも大きいのだと言う。つまりここシリコンバレーのエコシステムは終点があるわけではなく、常に周り続ける終わりのない循環システムになっている。さすがに今の景気ではそうそう簡単に次の起業、というわけにはいかないだろうか、そこで夢を終わらせないその精神力には脱帽する。

コンサルティングファームの友達と話していたら、最近新規に受注するプロジェクトは企業のリストラクチュアリングの手伝いが多いと言う。それでもキャンセルになったプロジェクト数をカバーするほどの案件数にはとても満たないので、プロジェクトをアサインされるだけでラッキーで大喜びらしい。わたしも小さなことで仕事の不満を言わないで、仕事があるだけでラッキーだなぁと言い聞かせる毎日。

2009年2月2日月曜日

格差社会

日本では半年ほど前、若い世代で格差拡大が広まっているとか、ワーキング・プアなどの言葉が雑誌を飾っていたけれど、ここアメリカでも同じような話があがっている。もちろんアメリカと日本では背景がまったく異なるので、一概には比較できない。アメリカ社会は歴史的に格差の存在が前提にあり、それを昇り詰めていくことがアメリカンドリームとされていた。つまり、そもそもの出発点やスタンダードは日本とまったく異なる。ただ、格差が広がっているという相対的な傾向は共通しているようだ。

日本の場合は、今まで存在しなかった(もしくは、存在していても顕著ではなかった)階層とその格差が認識できるほど顕著になってきたわけだが、アメリカでは存在していた格差、特に超富裕層とミドルクラス間の格差はどんどん広がっている傾向にある。1940年代から1970年代までの間は、アメリカのミドルクラスの給与は富裕層と同じくらいのペースで上昇していたものの、最近では富裕層の超富裕化が加速している。その結果、一段一段がどんどん高くなり、所得階層の階段を駆け上っていくことが難しくなっている。

つまりアメリカでは良い大学を出たところで、また大学院まで進んでも、今となっては上位クラスに駆け上がれる切符が約束されるわけではない。起業をするにしても特にこの不景気でVCなどの投資家からのファンドも極端に減っている。投資判断もかなり厳しくなっていて、他との差別化、そしていかに早く確実にマネタイズできるかがシビアに問われる。どこかに就職するとしても、確かに自分の周りを見渡しても、同じようなレジメを持った学生が労働市場にありふれていて、労働市場が飽和状態な印象を受ける。(もちろん歴史的な不景気とここの土値柄上、似たようなスキルセットを持った人材が集まっているという背景を踏まえた上でも)

ただ一つ、格差拡大に反して縮まっているもの、それはミドルクラスと富裕層の服装だと言ってみんな笑っている。シリコンバレーでは特に顕著だが、CEOや上層部と、普通の 平社員が見た目では区別できない。ここではジーパンにボタンダウン姿が標準の服装だし、年齢的にも20歳代のCEOがうろうろしているので、その点では広がる格差に反して、見た目上はその傾向が見えにくくなっているかもしれない。わたしも先日Google CEO Eric Schmidtを近くのモールで見かけた。ジーパンにTシャツで、子供とアイスクリーム食べていた。本当に普通の近所のおじさん。

とにかく最近はシリコンバレー全体に静けさが漂っている。終わらないレイオフに息を潜めて生き残りを願っているような緊張感もありつつ、一方で、ここまでの不景気ならあがいてもどうしようもないというあきらめ感や変なリラックス感が漂っているようにも感じられる。ただ必ずしも沈んだ雰囲気一色というわけでもなく、こんな状況でも個人個人は前向きで、この社会の根底にある楽観性を改めて認識させられる。