2010年12月29日水曜日

ヒップな若手人材がスタートアップの拠点を決める?人材の集まるところに拠点を構えるスタートアップ。

このブログを気軽に「シリコンバレー日記」と名付けたものの、良く調べてみると「シリコンバレー」というエリア名には、定義上21もの町が含まれるらしい。

とは言っても、つい最近までの「シリコンバレー」は、南部のいわゆる「ペニンスラ」が中心だった。ここに含まれるのは、スタンフォード大学の位置するパロアルト(Palo Alto)やレッドウッドシティー(Redwood City)、グーグル本社のあるマウンテンビュー(Mountain View)、さらに南に位置するサンノゼ(San Jose)、サニーベル(Sunnyvale)、サンタクララ(Santa Clara)、クバチーノ(Cupertino)などで、アップル、HP、eBayなどが本社を構えている。

この状況に最近変化が起きている。近年の多くのスタートアップの拠点が、「ペニンスラ」よりさらに北部のサンフランシスコ都市部に移りつつあるのだ。代表するのがZyngaTwitterYelpDiggなどだが、明日のTwitterを目指す無名のスタートアップも、このトレンドに従ってサンフランシスコに拠点を構える傾向が強いようだ。

この背景の一つとしては、ここ近年はやりの産業の性質があげられる。アップル、グーグルやHPに代表されるようなハードウェア系やインフラに投資が必要な産業というよりは、既存のiphone、アンドロイドやfacebookというプラットフォームの上に載せる、いかにクリエイティブなアプリを作るかといったアイディア勝負の競争が繰り広げられているのだ。

となると、スタートアップは若い人材や創造性を備えた人材を求め、必然的にそういう人材の集まる都市部にオフィスを構えるという流れになる。

ライフスタイル的に都会で少しとがった傾向を好む若い人材のことを、こっちでは俗語で「hipster」(ヒップスター)と呼ぶ。仕事には没頭するけどファッションやライフスタイルにもこだわりがある。食通で単にグルメな人もいれば、有機野菜や健康食に没頭する人もいる。環境問題への意識も高いので、Zipcarに代表されるような車のシェアリングサービスも人気がある。洗練された現代のヒッピーといったところだろうか?

この傾向を検証すべく、実際にベンチャーキャピタルからの投資案件数や投資額が都市別にどのような推移を示しているのか、調べてみた。

残念ながら2010年第2〜4四半期のデータは見つけられなかったので、多少2009年から2010年初めにかけての多少古いデータになってしまうが、それでも2009〜2010年にかけての傾向が少なからず掴めると思う。

まずはバックグラウンドとして、州べつのVCからの投資額と投資案件数の推移を比較してみたい。2009年第2四半期〜2010年第1四半期にかけて、不動のトップ3はカリフォルニア州、ボストンのあるマサチューセッツ州、そしてニューヨーク州となっている。カリフォルニアが全体的に下がり気味とは言うものの、まだダントツの一位であることは変わりない。マサチューセッツ州はヘルスケアや環境ビジネスなど、どちらかというと多額の投資を必要とする業界に強いことが投資額%の増加につながっているのだと思われる。一方、カリフォルニアで増えているアプリやゲームの開発などは、それほどの投資額を必要としない。

次に、分野別ではない町ごとの投資額、案件数のランキング。分野に問わず、VCからの投資案件数と投資額を町別にランキングしたものだ。















これまた残念ながら2009年の第2、3四半期のデータしかないのだが、案件数と投資額ともに、サンフランシスコがパロアルト(Palo Alto)やサニーベル(Sunnyvale)を引き離していっきに一位に踊り出ているのが顕著だ。カリフォルニア全体で見ると、マウンテンビュー(Mountain view)、サンタクララ(Santa Clara)、メンロパーク(Menlo Park)などは揃って増加傾向にあるが、逆にパロアルトに関しては、2009年第3四半期から第4四半期にかけて、投資額で100Mドル、約35%の減少となった。

2009年後半と言えば、サンフランシスコに本社を構えるZyngaが、ソーシャルゲーム業界では過去最大の約180億円という投資を受けたタイミングでもあり、ランキングもその影響を強く受けた。マウンテンビューに拠点を構える競合のPlaydomも大きな投資を受けたタイミングではあったが、それでも約43億円なのでZyngaにはとてもかなわない。ちなみにこのplaydom、2010年7月にディズニーに約700億円で買収されている。

次に「インターネット」分野別でのランキングを見てみたい。インターネットという分野に限った条件で、VCからの投資額と投資案件数を町別にランキングしたものだ。こちらについては2009年第3、4四半期と2010年第1四半期のデータが見つかった。
































サンフランシスコはいずれの四半期も、投資案件数と投資額ともに一位であるが、数値自体も一部を除いて上昇していることに注目してもらいたい。2010年第1四半期の投資額は、2位のニューヨークに迫られてきているものの、投資案件数では逆にニューヨークを引き離す形となった。また他のシリコンバレーの町と比較すると、Redwood city、Menlo Park、Mountain View が毎期順位も絶対数値も下げている一方で、サンフランシスコだけが一位の座と数値を保っていることがわかる。


では、この傾向が業界や労働市場にもたらす影響とは?以前にも何度が書いているように、いまや業界の垣根があってないようなもの。検索のグーグルとソーシャルネットワークのフェースブックが競合関係にあり、アップルとグーグルが携帯で競っている。その携帯の上に載るアプリの開発と言えば、手をつけていない会社がないと言えるほどだろう。

垣根がなくなって同じ土俵で勝負するということは、どの会社も同じような人材を欲しがるということ。グーグル、アップルなどの大手が社員用にサンフランシスコから無料のシャトルバスを走らせるようになってから、すでにだいぶ経つが、いまやサンフランシスコに面白いスタートアップが溢れ帰り、1時間以上の通勤をしてまで大手に入社したいという人も減ってきている。

これらのスタートアップの多くは、グーグルなどの買収候補になることも多いので、運が良ければ(もしくは悪ければ?)結果的には買収されてマウンテンビューの本社に吸収されてしまう、というパターンも少なくない。ただそこは、サンフランシスコをこよなく愛するヒップスター。そうなればなったで、またサンフランシスコに拠点を構える新たなスタートアップを見つけて、転職を繰り返していくのだ。

2010年12月19日日曜日

2011年のキーワードはゲーム化。いかにユーザに遊び感覚でインセンティブを与えるかがカギ!

Zynga, Foursquareに代表されるように、ゲーム、ソーシャルゲームが特徴的だった2010年だったが、この「ゲーム化」現象は2011年も引き続きブームになると思われる。業界人の予測による、特に注目される分野やトレンドとして以下が挙げられていた。

まずは健康系。wii fitにも代表されるように、ここ近年のフィットネスとゲームとの融合は目覚ましいが、その傾向はますます加速すると予想される。そもそもフィットネスは消費カロリーとか運動時間とかって進捗を数値で表してポイント制を導入しやすい分野なので、さらなるゲーム化が進むことは容易に想像できる。

次にあげられているのは、教育。昔から、堅苦しく学習している感を持たせずに遊び感覚で学ぶというのは常に教材の鉄則だったが、ポイント制とかバッジ獲得(Foursquareみたいに)といったメカニズムを使って学習のインセンティブをさらに高めることができる。ある意味、学校で良い点数を取ると☆のシールや花丸マークがもらえるのと同じことなので、その点メカニズムがすでに確立していると言える。あとはそれをオンラインに持ってくることと、友達と競うとかなどの「ソーシャル」性を追加すること。

環境に優しいグリーン業界もゲーム制を活かせる業界だ。例えばリサイクルに出したらポイント獲得、車でなく自転車に乗ったらさらにポイント獲得、というようにポイント制を導入することでユーザのインセンティブを高められる。

伝統的な会社による、この「ゲームメカニズム」の応用。例えば航空会社のマイレージプログラムや、ホテルに宿泊することで稼ぐホテルチェーンのポイントプログラムも、ある意味foursquareに代表される「チェックイン」システムの先駆けのようなもの。今後はこれらのサービスのゲーム性が高まるとともに、zyngaなど のゲーム会社がマイレージを彼らのバーチャルグッズと交換するなど、現実とバーチャル間の融合がさらに強まる可能性がある。

そして最後に挙げられているのが、この手のアプローチが大企業によってより盛んに利用されるだろうということ。一般的に新しいテクノロジーやビジネスモデルが出てきたときには、リスクを取りやすいスタートアップなどの若い会社が開拓して、それが成功とわかった時点で、保守的かつ伝統的な大企業がそれを適応する。ソーシャルゲームの世界でも例外ではなく、大企業を説得するのに十分な成功例とビジネスケースが確立した。来年はみんながこぞってこのメカニズムをどう自分のビジネスに利用できるか、という応用の年になりそうだ。

2010年12月18日土曜日

一体「ソーシャル」って?

ネット業界に限らない話だが、ビジネスの世界では「first mover advantage」という、先にやったもの勝ちという概念がある(つまり後発者が真似をするのは困難)。

今や「ソーシャル」が魔法のキーワードのようになって各社が起業や買収合戦を繰り広げているが、ふと思えば、その「ソーシャル」を先駆けて広めようとしていたサービスや会社が、最近ぱっとしない。彼らはこの「first mover advantage」を掴めなかったのだろうか?

例えばDigg。以前はNews Corp, Google, Current Mediaなどによる買収対象として騒がれたものの、ここ数年は特に大きなプロダクトのリリースがあったわけでもない。4千万のユーザはいるというものの、”News Sharing”という意味では、フェースブックやツイッターがいまや主流となっている。

またヤフー傘下にあるdeliciousに関しても、今週行われたヤフーのリストラの一環として、サービスの縮小、閉鎖もしくは売りに出すことが噂されている。

一方でDiggと良く比較されながらもいまだにユーザ層を伸ばしている会社として、「StumbleUpon」がある。Diggと似ているのは、それぞれのサイトを「好き。嫌い」と判断、その結果多くのユーザに評価されたものを他のユーザにも推薦するというもの。Diggが新しいニュースネタを発見するサイトであるのに対して、StumbleUponはカテゴリーごとに新たなウェブサイトを発見するサイトとなっている。ちょっと余談だけど2001年に創設されたこの会社と創設者を有名にしたのは、2007年にebayに買収されたものの、2009年に創設者と投資家によって買い戻されて、その結果また独立したスタートアップ規模の会社に戻ったという歴史。(Skypeのこともあるし、ebayってその手の話が多いような。。。)

さて、ここでの前提(そして問題)は、ネット上の統計的な好き嫌いという好みはどのユーザにも通用するということ。たぶん誰もが経験したことがあるだろうけど、わたしだってサンフランシスコで日本食レストランを探しているときには、ランダムな推薦よりも日本人からの推薦を重視したい。いまやどの会社も、もっと関連性を高めるためにそのユーザとより好みが近いユーザ層からの推薦だったり、そのユーザの友達の輪からの推薦を重視するという方向に進んでいる。

ただここでもわかるように、「ソーシャル」と言ったときの一番のユーズケースは根本的に10年前から変わっていない。新たなコンテンツ、商品やレストランを発見するときに、友達からの推薦を利用するというもの。もちろん一緒にゲームをするとかFantasy Sportsでつながる楽しみという意味での「ソーシャル」も増えているけど、情報のシェアという方が実生活でより「使える」ので、より多くの注目、ニーズそしてお金が集まってくる。ネット上のあらゆるユーザによるランダムな推薦を受けても、そのユーザの趣味嗜好が同じかどうかわからないし、それを信用できるかどうかも疑問だ。一方で自分の良く知っている人からのお薦めだったら、より安心して試す気になるだろう。ゲームは一緒に同じ体験を共有して楽しいに過ぎないけど、実生活での問題点の解決にはならない。

この「ソーシャル」化、昔ながらの検索エンジンにも少なからず影響を与えている。

検索エンジンのそもそもの役目としては、ユーザが目的のウェブサイトにたどりつくのを助けるというものだった。つまり調べたいことがある人が目的を持って使い、目的を果たしたところでその役目は終わるものだった。ただ最近の傾向としては、必ずしも目的がなくても暇つぶしに雑誌をめくる感覚でウェブにアクセスする人たちが多くなってきている。特に携帯経由でのアクセスではその傾向がより強いものと思われる。となると、検索ボックスにキーワードを入力するのではなく、受け身的に情報を受けたくなるもの。もちろん携帯でのキーワード入力はしにくいこともその傾向を後押ししている。自分の行動を振り返ってみても、いまやグーグルを通してではなくフェースブックのフィードを通して新たな情報やサイトを発見することが多いことを考えると、グーグルはじめ検索エンジンも変わらずを得ないことが明らかだ。

マイクロソフトの検索エンジンBingは、フェースブックとのパートナーシップにより、フェースブック上ですでにある機能「likes」を検索結果に反映する。つまり”xbox”と検索したときに、検索結果の一つがフェースブック上の友達によって「likes」と推薦されていたら、それがBingの検索結果ページに表示される。つまり味気ない単なる10のリンクだけでなく、友達からの推薦というパーソナル(かつソーシャル)な情報が追加される。

基本的なアイディアは先述のStumbleUponDiggとたいして変わらない。つまりこの数年間、「ソーシャル」についてのコアなアイディア自体はさして変わっていないことになる。問題はExecution - 誰がそのアイディアをうまく形にできるのか、に尽きるようだ。

2010年12月11日土曜日

グーグルの参入でさらに活気づくebook業界

アマゾンのkindleが3分の2のマーケットシェアを占めているebook市場だが、クリスマス商戦を目前に控えた今週、アマゾンとグーグルがそろってウェブベースでのebookストアのリリースを発表した。

グーグルは「google books」と名でウェブベースでのebookストアを今年内に始める一方で、アマゾンもkindle以外の他のデバイスやウェブブラウザ上で読める、ebookコンテンツのリリースを発表。Androidやiphone 用には無料のアプリも提供される。

今までのebook利用では、デバイスの購入が大きな壁となっていた。アマゾンのkindleだったり、Barnes & Nobleの Nook、 Apple ipad、Android ベースのタブレットなど、指定されたデバイスを購入して始めてebookが読めたからだ。今回のウェブベースのサービス開始によって、iPad、iPod touch、iPhone、Mac、PC、BlackBerry、Androidベースのデバイス、 そしてウェブブラウザが立ち上がる環境ならどこでも本が読めるようになる。

ではアマゾンとグーグルの違いは?大きな違いの一つは、アマゾンでは第3者である出版社、作者、ブロガーなどがebookコンテンツを自分のサイトから直接売って、アフィリエート代を稼ぐことができるという点。一方のグーグルは第3者がコンテンツを売るというモデルがまだできていない。

購入可能な本の数だが、アマゾンでは75万冊の本がダウンロード可能、一方のグーグルは2004年以来、Google books projectのもとで今までに1千5百万冊の本をすでにデジタル化している。最終的には1億5千万冊まで増やすというから、現在の10倍を目指していることになる。1千5百万冊のうち300万冊については売る権利を持っていて、うち200万冊は無料(著作権がすでに無効になったりしているもの)、そして近いうちに数十万冊が購入可能になるという。

ウェブベースになることによるユーザへの利点としては、特定のデバイスを購入する必要がなくなるだけではない。コンテンツの値段自体も下げられる可能性がある。伝統的な本のビジネスだと紙代とか印刷代とか流通にかかるコストなど、削減しようのないコストがいくつも発生してくるが、ウェブベースであればそのほとんどのコストは無関係となる。もちろん作者への支払い分など削減できない部分もあるし、サーバーとかサイトのメンテナンスコストとか他の種のコストが発生してくるものの、直感的にコスト全体は押さえられると想像できる。

また、オンラインで本を購入することによって、そのユーザの購入履歴をトラックすることができる。その人がどんな本が好きだとか友達がどんな本を推薦しているかっていうのは、貴重なユーザのデータとなる。そのデータを利用してより各ユーザに関連性の高い広告を提供したり、本のコンテンツそのものの中に広告を埋め込むこともできるというのだ。つまり、より関連性の高い広告を提供することによって広告収入の増加、そして結果的にコンテンツ自体の値段を下げられる可能性がある。

となると1冊10ドル(アマゾン、グーグルともに10ドル近辺が多い)という単価はまだそれでも高いのでは?という声も。出版社や作者側からすると物理的な本に比べてどんどん下がるebookの値段に対する抵抗は留まらないが、kindle経由で読む場合とウェブベース読む場合に値段が同じだというのはちょっと不思議な気がする。

kindle経由でしか読めなかったときには、ハードウェアコストの一部を肩代わりするためにソフトウェアでも余分に課金しないといけないとか、コンテンツを提供するための無料のワイヤレスのコストをどこかでカバーしなければいけなかった。ただウェブベースになった途端、それらのコストは一切発生しなくなるわけだから、それにも関わらず値段が変わらないというのはおかしいのでは?という声も。

今年デジタルブック市場の売り上げは966億円にのぼり、デバイスの数量としては1千5百万個が売れたという。激しくなる競争とともに、2011年にはますます伸びる市場の一つであることは間違いない。また、そのコスト構造も競争が激しくなると同時にどんどん進化していくだろう。

2010年12月5日日曜日

プロダクトやユーザ獲得においてすでにライバル心を燃やすグーグルとフェースブック。この2社間で繰り広げられるもう一つの競争と言えば?

以前にもブログで何度が書いたが、最近シリコンバレーの会社間でのデキル社員の獲得競争が一層激しくなってきている。一般的にその点では、サイズに関わらずどの会社も四苦八苦している。理由としては、限られたタレント数に対してスタートアップを含める会社数が増えている、つまり需要に対して十分な供給がないためだ。また各社のエリア境界が不明確になってきて、どの会社も同じようなスキルセットや経験をもった社員を欲しがることも背景にある。どの会社もiphoneやアンドロイドの開発者が欲しいというように。

知名度のないスタートアップにとって有能な社員の獲得はとてつもなく困難なのは言うまでもない。ただ、グーグルなど大手にとっても有能な社員の転職の流れを留めることが難しくなってきている。逆に言えば、社員にとっては給料アップを狙ったステップアップの転職がしやすい環境だということだ。

中でも一層と激しい競争を繰り広げているのはグーグル対フェースブック。

前回、サンクスギビング直前にグーグルが立て続けに新プロダクトをリリースした話に触れたが、同じ週にグーグルが世間を騒がせたもう一つのネタと言えば、今や恒例となった年末ボーナス(キャッシュで約10万円)と全社員に10%の給与アップを約束したこと。大物プレーヤー間での業界のマーケットシェア競争がますます激しくなると同時に、有能な社員の確保についての競争はさらに激しくなってきていることを示している。グーグル社員の主な転職先としては、LinkedIn, Facebook, Twitter, Zyngaに代表されるようなIPO前の大物スタートアップだが、その中でも一番脅威とされるのがフェースブックだ。

現在すでに、フェースブック社員の10-12%はもとグーグル社員と言われる。そしてその転職の流れはとどまることを知らない。アメリカではボスが自分の部下やチーム全体を新たな転職先に引き抜くということがよくあるので、キーパーソンを逃すと、その配下にいるチーム全体を失うリスクも高いのだ。

実際にグーグルは今年11月頭に、フェースブックに行きたい意思を示したStaff Engineerに対して、3.5億円の特例ボーナスを提示して引き止めたらしい。ちょっと補足すると、グーグルのStaff EngineerというのはEngineer, Sr. Engineerに続くタイトルで、上にはSr. Staff Engineer, Manager, Director, VP と続く(正確にはもっと階層があるかもしれないが)。そこまで上のタイトルではないにのも関わらず、そんな額を提示するというのはかなりの切迫感を感じる証拠だ。

噂によると、グーグルがこの手の引き止めのためのオファーを出すことは珍しくない。そしてその結果、80%の社員は考え直してグーグルに留まるのだという。一番のくどき文句は、転職先となるIPO直前のスタートアップのバリュエーションについての不透明性。会社の価値が100Billionドル(約10兆円)という予想が本当であれば、社員のオプションの価値はとてつもない高額になりかねないが、その一方でそんな値段がつかないリスクはそれ以上に高い。その一方、グーグルの市場価値というのはすでに確立して手堅いもの。とてつもないアップサイドもない代わり、すごい損することだってないのだ。

グーグルとフェースブックに代表されるタレント確保競争は、まだまだ始まったばかり。これから来年に向けて他のプレーヤーも巻き込んでさらに加速していくだろう。

2010年12月3日金曜日

サンクスギビング直前のリリース合戦。カギはローカル、ショッピングそしてソーシャル。

一般的にこの業界では、サンクスギビングを境に新プロダクトのリリースがぱったり止まる。日本の年末年始と同じようなもので、年末に向けて社員が休みを取り始めるのがサンクスギビングなので、新たなコードリリースが新たなメンテナンスを要することを控えて、多くの会社がコードフリーズ期間に入る。つまり、サンクスギビング前には今年最後のチャンスとばかりに、新プロダクトや新機能のリリースが立て続けに行われるということだ。

今年のサンクスギビング直前の11月15日の週に、立て続けのプロダクトリリースを繰り広げてひと際目を引いたのはグーグルだった。

まずはローカル情報のレビューなどを集めるHotpot というサービスをリリース。

ソーシャルネットワークを使った「地域情報ベースのお薦めの情報サーチエンジン」と位置づけている。今までの地域情報検索エンジンはレビューのソースに重きを置いていたが、今回のHotpotはもっと「パーソナル」にデザインされているという。つまり今までだったらYelpに代表されるような大手サイトからのレビューが上位にランクされていたのに対し、この新サービスではユーザ各自の好き嫌いや友達からのおすすめが検索結果により色濃く反映されるようになるので、人それぞれで検索結果が異なってくるのだ。ということで「パーソナル」。

グーグルがその週にリリースした他の機能は、プロダクトサーチの強化。プロダクトサーチと言えばショッピング目的なのでローカル(地域情報)とは一見無関係と思えるが、この機能追加は地域情報に関連している。オンラインで買い物する場合は商品の在庫状況が当然購入プロセスの中で提示されるが、小売り店など実際の店舗で買い物をしようとした場合、在庫状況は実際に行ってみるか、電話しないと確認できない。今回グーグルは70ほどのリテール・ブランドと手を組んで(Best Buy Williams-Sonomaなど)、店舗での在庫状況を検索結果として表示する機能を追加した。

またショッピングつながりと言えば、同じ週にリリースしたBoutiques.comというサイトがある。カメラとかゲームといった電化製品はスペックや製品番号がはっきり定義されているので検索がしやすいが、洋服、靴やアクセサリーはそういうわけにはいかない。サイズや色だけではなく、デザインやスタイルなど必ずしも言葉では明確に示されない要素が必要となってくる。オンラインでのアパレル製品を購入するユーザは増える一方なので、この難関をいかに克服するかが検索エンジンやファッションサイトの常に大きな課題とされてきた。このBoutiques.comでは、シルエット、色、スタイルだったりと、電化商品や本とは違った角度で検索結果を絞り込む機能を備えている。また好きなスタイルをもとに、似たイメージのコーディネートをおすすめしたりという機能もある。またファッション雑誌的な要素も兼ねていて、名の知れたブロガーやスタイリストなどがバーチャル・プティックを開いて、ユーザはそのブティックから直接洋服やアクセサリーを購入できるようになっている。実際に使ってみると、まだまだ改善の余地ありというベータ版にすぎない印象はあるものの、新境地に積極的に取り組むグーグルの意気込みが感じられる。もう一つ目を引く点としては、このサイトにはグーグルというブランドやロゴがどこにもないこと。ファッションという新境地でグーグルというブランド力が必ずしも強みとなるわけではないという判断だと思われる。

以上の3つが、一週間内に立て続けに行われたグーグルのリリースだ。ホリデーシーズン直前ということもあるが、グーグルがローカルとショッピング(そしてこの2つのオーバーラップは大きい)に相当力を入れているのが顕著だ。この2分野はビジネス(マネタイズ)という点でも、もっともポテンシャルのあるエリアだということも忘れてはいけない。

そしてもう一つの共通点は「ソーシャル」。レストラン情報なりファッション情報なり、友達からのおすすめや友達と情報を積極的にシェアするような作りになっている。

最後にちょっと余談になるが、ローカルとショッピングと言えば、この数日で噂となっているグーグルのグルーポンの買収話もその重要性を象徴している。グルーポンとは、地域ごとの中小ビジネス(全国規模のチェーン店も参加したりするけど、基本的には地域ごとに提供されるクーポンの種類が違っている)が1〜2日限定でクーポンを提供し、ある一定の人数が購入したら始めてそのクーポンが成立するというのもの。例えば、サンフランシスコのエステサロンが50%オフのクーポンを50ドルで売るとする。100人が購入したら始めてそのクーポンが有効になるが、もし99人しか購入しなかったら非成立となる。グルーポンはこの手のサービスの中では圧倒的に独占状態に近く、グーグルがそのユーザ層とブランドを利用して彼らのプロダクトサーチやローカルサーチに利用するという限りない可能性を秘めている。噂では6千億円に近い買収額が提示されたというとことだが、果たして真相はどうなのだろうか。