2009年5月7日木曜日

成功企業の法則-秘訣は「2本の矢」にあり

今期で8シーズン目を迎え、相変わらずの人気を保っている’Dancing with the stars’というテレビ番組がある。日本でも以前、芸能人が大会に向け社交ダンスの練習に明け暮れる姿を追うという番組があったが、この ‘Dancing with the stars’ では、有名人とプロのダンサーがペアを組んで、毎回与えられたテーマに合わせてダンスを披露、最後まで勝ち残ったペアが優勝となる。審査員による採点があるものの、次に勝ち進めるかどうかは視聴者による人気投票によって決まる。’American Idol’のダンス版、のようなもの。ただ有名人と言っても、”もと”プロスポーツ選手とか、”もと”有名だった人(しかもいわゆるB級芸能人)が多いので、ここで育っていないわたしにとっては知らない人たちばかりで、つまらない。そんな理由で今まで見たことがなかったが、今シーズンは面白いメンツがそろっていて何かと話題になっているので、興味本位で番組について調べてみた。

8シーズン目の目玉は Charlie Sheen と離婚したDenise Richards、のはずだったのだが、シーズンが始まったと同時に話題を総なめにした有名人がいる。あのSteve Jobsとアップルを創設したSteve Wozniak だ。お世辞にもダンスどころか何の運動にも向いていなさそうな体つき、B級スターのように仕事にも金銭的にも困っているわけでもない彼が、何故また恥をさらけ出すようにダンス番組への出演を承諾したのか、???だが、今までの遍歴を見てみると何となく納得がいってしまう。

Steve Jobsはいまやもっとも成功したビジネスマンの一人、健康問題が噂になっているものの、ジョブスあってのアップル、というカリスマ的な存在になっている。その一方でWozniak は、1981年に自身が操縦していた飛行機で墜落事故を起こし、一時的な記憶喪失に陥る。それが転機となったのか、アップルを引退してからは地元の小学生に向けたIT教育をサポートしたり、若いベンチャーをメンターとしてサポートしたり、レゴで作るロボット大会に参加したり、とジョブスとはまったく違う人生を歩み出したのだ。私生活でもセグウェイに乗ってポロをしたり、女優でコメディアンのKathy Griffinと付き合っていたり、と次々と奇妙な話題を振りまいてきた。

ふと考えると、2人組で起業するケースって結構多い。ここシリコンバレーで言えばヤフー、グーグル、HP、VM Ware、Youtubeなど。アップルの2人のようにその後の人生がここまでが極端に異なることは少なくとも、性格の違いという意味では、少なからず似たような傾向があるようにも思える。例えばヤフーのJerry Yang と David Filo。Jerry Yangは最近までCEOだったことにも象徴されるように創設以来表舞台にたつことが多かったが、一方のDavid Filo はいまだに会社にいるものの、ほとんど公の場に姿を見せない。メディアとか表舞台が大嫌いらしい。

日本企業の場合はどうだろう。ソニーは技術者 井深大とビジネスマン盛田 昭夫、ホンダは技術型経営者の本田宗一郎とビジネスマン藤沢武夫のコンビで世界のソニーとホンダを生み出した。その他にも創設者という肩書きにはなっていないものの、陰の立役者、みたいな存在がいたケースは結構多いと思う。

直感的に2人組が1人よりも良いというというのはわかる。多すぎず少なすぎず、意見交換する相手がいながら意見が発散しすぎない。世界の伝説には良く3人組ヒーローが登場するし、「3本の矢」のことわざにもあるように、3人組も多くてもよさそうだが、ビジネスの世界では決定者が2人以上になるとスピード感が落ちるのだろう。

ベンチャーキャピタリストかつエッセーイストの Paul Grahamによるエッセー’The 18 Mistakes That Kill Startups’ の中には、“1人での起業”が“ミステイク”の一つとしてあげられている。2人いれば、いろんなアイディアを議論し合えるだけでなく、間違った決断を下しそうになったときにお互いにストッパーとなれる。ただそれ以上に彼が大きな理由としてあげているのが、精神的な支えとプレッシャー。初期のスタートアップはつらいことの繰り返しで、一人では乗り越えられないことが多い。人間の本性として、「相手をがっかりさせない」というプレッシャーは前向きなエネルギーになって、力を最大限に発揮できる源になるのだと言う。ただその一方で、”創設者間での衝突”も大きな”ミステイク”としてあげられている。つまり1人よりも2人だけど、もちろん誰でもいいというわけではない。多くの衝突の原因は、ビジネス展開をしていく上でのアイディアや方向性の不一致というよりも、性格自体や2人の関係にそもそもの問題があると言う。例えば馬が合わないのにスキルがあるから、とか、仲が良いから、というだけで一緒に起業するのはもっとも危険で、未然に防ぐべきだと警告している。

では実際に、世の中のいわゆる“成功した企業”は、何人で創設された場合が多いのか?創立者の人数の統計データを見つけたのでここで紹介。2007年時点のデータなので最近のベンチャーは含まれていないのと、全米ならずNokiaやInfosys, Canonなども含まれているのだが、ざっと一覧を見た感じ、少なくとも半分はシリコンバレーの企業のようだ。



人数に反比例して企業数は少なくなっているが、中でも1人と2人での起業が大半を占めることが分かる。またここで注目したいのが、そもそも1人で起業するケースは飛び抜けて多いだろうということ。つまり成功率を計算すれば、1人のケースの母数は果てしなく高いため、2人のケースの成功率の方が断然高いと想像できる。

話は戻って Wozniak のダンスの成果は、というと、ついに4月1週目に視聴者の十分な投票を得られずに終わりとなってしまった。ただ番組始まって以来の最低スコア(審査員による)記録を出し続けた彼が今まで残れたのも、シリコンバレー中心に形成されるギークたちのコミュニティーの応援があったからだ。
フェースブックでは「 Vote for Woz 」というグループが立ち上がっていたりWozniak が自身のウェブサイトでサポートを呼びかけていたり、噂ではi-phone のアプリケーションまで作られるという話だった。(3月時点で本人が計画を明かしていたが、もう番組に残っていないので実際にリリースされたかどうかは不明)
もちろん前回取り上げたTwitterも最大限利用。奇跡的に4回も勝ち残ったのは、恐るべきギークたちの力と言えるだろう。

Wozniak とJobs、アップルという同じ場所から出発した2人だが、30年以上たってみると、2人の人生はここまで違っている。それぞれ個人的な好みはあるものの、どちらも不幸な人生だと言う人はいないだろう。Jobsはビジネスマンとしての成功者、一方 Wozniak は人生を謳歌している成功者という気がする。人種とかバックグランドの多様性はもちろんのこと、こういう人生感(や価値観)の多様性が、このシリコンバレーをさらに特別な場所にしているような気がする。

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