2009年6月7日日曜日

iphone人気の理由はアプリにあり?

日本では伸び悩んでいるiPhoneだが、アメリカでの人気は留まるところを知らない。シリコンバレーという土地柄もあるんだろうけど、わたしの同僚の間でのiPhone所持率は50%を超えている。またこれも土地柄なのかもしれないが、ユーザーとして所持するだけではなく、ディベロッパーとしてiPhone用のアプリケーションを開発するという点でも盛り上がりを見せている。多くの企業やサービスがPCウェブ用の既存アプリケーションをiPhone用に書き替えるというケースはもちろんのこと、iPhone向けとして新たに開発されるアプリの数も急増。本業や学業の傍ら気軽に作ったアプリケーションが大当たりして立派な収入源になるという夢のある成功例が増えているため、ある種トレンドのようにすらなっているのだ。右のグラフに見られるように、iPhoneアプリ数は順調に増加中。今年5月中旬時点で46,000以上が公開されていて、この豊富さがiPhone人気の大きな理由とも言われる。とあっては、競合が目をつけないわけはない。


Blackberryを手がける RIM(Research in motion)は、今期からディベロッパーが開発したアプリケーションを集めた「AppWorld Website」をリリース。このオンラインストアを設けることによって、アプリケーションの「ワンストップショッピング」化を実現させようとしている。ではアップルとの違いは何なのか?

まずはディベロッパーにとっての違いから。ブラックベリーの場合、ディベロッパーは自分のアプリケーションをオンラインストアに登録するのに、「登録料」という名目で200ドルを払わないといけない。その上、RIM の審査を通らないとオンラインストアに参加することができない。RIMはこのプロセスを通すことで、掲載アプリの質を保とうとしている。一方iPhone の登録料は99ドルから299ドルと異なるが、これは主に個人ディベロッパーか企業ディベロッパーかの違いによるものだ。個人であれば、99ドルが主流と仮定できるが、これは年間料なので毎年更新するたびに払わないといけない。では、ディベロッパーの大きなインセンティブとなるレベニューシェアの割合はどのように違うのか。アップルは全収益の70%をディベロッパーに支払うのに対してRIMは80%。審査が厳しい分、分配率も高いと言ったところだろうか。

では我々ユーザにとってのメリット、デメリットは?ブラックベリーについてまずあげられるのが、各アプリケーションの単価が高いこと。iPhoneのアプリケーションは無料や99セントのものが多く、平均価格も2.5ドルに留まる。対してブラックベリーのアプリケーションは最低で2.99ドル、平均するとほぼ3-4ドルにまでなる。ただ一方で、iPhoneよりも複雑なものが多い。つまり複雑なだから単価も高い、とも言える。ちなみにこの値段、初期ダウンロード時にかかるだけで、一度インストールしてしまえばその後は無料だ。ブラックベリーのもう一つの欠点は、決済がPaypalを通してのみ行われること。Paypalという外部システムに頼っていること(しかもPaypalの安定性はいまいち?)、また利用者がPaypalのアカウントを持っていることが条件になるという点は、大きなマイナス点だと言える。

ここでもう少しアプリケーションの質と単価について考えてみたい。先に触れたように、iPhoneは無料もしくはせいぜい99セントのものが多い。ただ質はと言えば、あきれるというか、笑うしかないというか、本当にくだらないものも多い。実際「ゲーム」と呼ばれるものは5分の1にも満たず、「エンターテインメント」に分類されるものがゲームに並ぶくらい多いのだ。



「エンターテインメント」カテゴリーに分類されるアプリとは、例えばiPhoneを銃のように見立てて遊ぶもの。アプリケーションを立ち上げると銃の絵が画面に現れて、発射ボタンを押すと銃のような音をたてる。ただそれだけ。それによって得点が稼げるわけでも敵を倒すわけでもないので、ゲームと呼ぶにはほど遠い。また日本人にもウケそうなのが、暇つぶしのプチプチ。画面を緩衝材として使われるシート状のプチプチ(ポリエチレン製の無数の気泡のシート)に見立てて、単に気泡をつぶしていく。ゲームとして早さを競うわけでもなく、ただ単にプチプチをつぶすというだけ。他にはライターのように着火できる(もちろん画面上でだけ)というアプリケーションもある。強く振ったり吹いたりすると火が揺れたりする。

さらに一歩進化した「ゲーム」と呼ばれるカテゴリーを見てみても、一番人気はFlight Controlという超単純な飛行機操縦ゲーム。ランダムに画面上に現れる飛行機やヘリコプター同士が衝突しないように、着陸路に誘導する。だんだん飛行機の数が増えてくるので着陸路は忙しくなり、その分手早く誘導しないといけないのだが、それでも着陸路数が急激に変わったり構造が複雑になるわけではない。そんな至って単純なこのゲームは99セントで売られていて、今年の3月以降で70万ダウンロードを、ピーク時には一日2万ダウンロードを記録したという。

これほど単純なゲーム(ゲームとも呼べないようなものも含めて)がiPhoneユーザーにウケている、という一見不思議に見えるこの傾向。実はこのような単純アプリケーションが、iPhoneの勢いを支えていると言っても過言ではないのだ。ある見解によると、こういうものがはやるのにはいくつかの理由があるという。まずは空き時間が数分あれば手軽にできること。頭を使って考える必要がなく、しかも複雑なゲームではないので完結しなくてもいい。いつでも始められていつでも辞められるので、たった5分の待ち時間にでも気軽に遊べてしまう。そしてその気軽さがゆえに、罪悪感を感じることなく遊べる。つまりたった5分だったら時間を無駄にしている罪悪感もないし、逆に有効に利用しているような錯覚にすら陥る。1時間続けて集中しないと満足感が得られない複雑なロールプレーゲームとは違う。また罪悪感と言えば、金銭的な負担が少ないのも大きなポイントだろう。無料かせいぜい99セントであれば、10回で飽きたとしても、まいっかと思えてしまう。

iPhoneユーザ一人あたりの平均アプリケーション数は20で、どの競合と比較しても飛び抜けて高いというデータが出ている。また、i-phoneユーザのアプリケーションあたりの平均利用回数は10回程度というデータも出ている。これは無料や99セントという格安な値段のものが多いという結果だろう。

このようなデータからもわかるように、iPhoneは電話を超えて多様プラットフォームと化している。裏を返せば、それが日本ではいまいちウケていない要因とも言えるだろう。では、実際にユーザがiPhoneを電話として使っている時間と、音声以外のアプリケーションを利用している時間に特徴は見られるのか。

1年前のデータなので最新とは言えないが、International Business Timesによると、iPhoneユーザが電話として利用する時間はたった46.5%だということが判明 。一方でブラックベリーの利用者は71.7% が電話として利用していた。また、同レポートによると、利用時間のうちiPhoneからのインターネットへのアクセス時間は12%以上。他の携帯電話からのネットへのアクセス時間は2.4%であることと比較すると、異様に高い数値だと言える。
また平均iPhoneユーザは全利用時間の11.9% 、音楽を聞いている。他の携帯電話ユーザでは、この数値も 2.5% にとどまる。これらのデータに証明されるように、iPhoneは単なる電話としてではなく、エンターテイメントのプラットフォームとして、携帯電話以上の機能とイメージを確立したと言える。

この影響は携帯電話、スマートフォン業者だけには留まらない。例えば任天堂が今年の4月に発売して順調な伸びを見せているDSi、その好調な要因のひとつはアップルを真似たオンラインのアプリケーションストアだと言われている。ディベロッパーの開発したゲームが数ドルで売られていて、ユーザはiPhoneのように即座にオンラインストアからアプリをダウンロードして遊ぶことができる。このように、伝統的な携帯電話業者ではないゲーム会社が競合としてあがってくること自体、アップルがいかに携帯市場外に影響力を広げ、ある意味新たな市場を開拓したかということが裏付けられる。

とはいえども、当面の脅威は伝統的「同業者」のスマートフォン、ブラックベリーやGoogleのアンドロイド、また新機種の発売を発表したPalm。例えばブラックベリーの場合、ビジネス用途が主流というブランドイメージの転換、オンラインストアの活性化(ユーザがいないところにはディベロッパーは集まらないし、逆もしかり、というネットワーク効果をどう作り出せるか)、そしてアップルのようにユーザを常に飽きさせないスピード感をいかに備えるか、などさまざまな挑戦が待ち受けている。スマートフォン競争は一層熾烈になると予想されるが、消費者にとってオプションが増えるのは大歓迎だ。

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