2009年11月14日土曜日

Google中国の生みの親が辞任したワケとは?北京がシリコンバレーになる可能性


Googleは中国では通用しない?


今年9月の初め、Google Chinaの社長をつとめてきた Lee Kai-Fuがいきなりの辞任を発表した。一般的にどの外資企業も中国市場では苦戦しているが、検索業界も例外ではない。地元企業の百度(Baidu)がマーケットシェア61%という独占地位を確保、アメリカで一位のグーグルも日本で一位のヤフーも中国でのマーケットシェアはそれぞれ29%、10%以下と、付け入る隙がない。(調査会社の Analysis International による)

比較のために日本の検索業界のマーケットシェアを紹介すると、1位のヤフーが51%、2位のグーグルが38%で、アメリカでは、1位のグーグルが65%、2位のヤフーが20%弱となっている(ともにコムスコア社による)。つまり百度(Baidu)は中国において、日本でのヤフー、アメリカでのグーグルに匹敵する独占状態を確保していることがわかる。さらに調査会社によっては、百度(Baidu)のシェアが76%、グーグルは20%に留まるとしていると見積もっているところもある。そもそも「マーケットシェア」は定義や測定方法によってまちまちなのが現状だが、それにしても百度(Baidu)が独占地位を確保しているという点については、どの情報ソースを見ても一貫している。

Kai-fu LeeがGoogle Chinaのトップに就任した2005年にはグーグルのシェアはほぼゼロだったことを考えると、20〜30%にまでに伸ばした功績は評価される。ただ一方で、やっぱり百度(Baidu)の独占状態を揺るがすには至らなかった、というネガティブな評価もあるようだ。

Googleの期待に応えられなかったKai-fu Lee

このKai-Fu Lee、グーグルに移る前はマイクロソフトの研究所でVPを務めていて、2005年にGoogle Chinaトップに就任した際には、グーグルがライバル企業のマイクロソフトから中核を担う人材を引き抜いた違法行為を犯したとして、マイクロソフトが雇用契約違反で同氏とグーグルを訴えたという経緯がある。(余談だが、そんなマイクロソフトは半年ほど前にヤフーからコアな人材を引き抜いていたりするのだが)。その際にグーグルがKai-fu Leeに提示した給与は10億円相当だったということもあり、話題になったのも記憶に新しい。

そんな鳴り物入りでGoogle Chinaを背負ってたつことになっただけに、今回の辞任の理由にも注目が集まるのは当然だろう。アメリカ本社の経営陣との不仲説、中国内でのコアなメンバーとの不仲説、またグーグルのやり方では勝ち目がないと見て見切りをつけたという説などいろいろな噂は絶えないが、本人はインタビューで辞任の理由をこう語っている。「グーグルのマーケットシェアの拡大や中国独自のサービスもいくつか軌道に乗せたことで、自分の役目は十分に果たした。今の中国ではそれなりに成長したベンチャーに対するファンディングは集まりやすいが、早期のベンチャーに対するエンジェルファンディングが圧倒的に不足している。そのようなアーリーステージのベンチャーやアイディアを抱えた若者たちに、エンジェルファンディング、シードファンディング、さらにビジネスの立ち上げを支援できるようなプラットフォームを合わせて提供する場を作りたい。」中国を次のシリコンバレーにするというビジョンを見据えての、第一歩のようにも聞こえる。

北京はシリコンバレーになれるのか

新しく立ち上げる投資ファンドとスタートアップのインキュベーターの名前は’Innovation Works’。ハングリー精神に富んだ北京の学生や起業家の卵たちに起業するためのインフラ、リソース、金銭的かつ精神的サポートを与えて、育ったらスピンアウトしてさらに大きく育てていくというのがビジネスモデルらしい。

またこの’Innovation Works’、 中国のエリート大学の一つである清華大学(Tsinghua University) のキャンパス内にオフィスを構えるのだと言う。シリコンバレーのベンチャーや投資家たちがスタンフォード大学との間に築いたような関係を再現しようとしているように見える。

Kai-fu Leeの新たな挑戦は、裏を返すと、不景気にも関わらず、中国のベンチャー市場、そこに集まる投資額、ビジネスチャンスはまだまだ成長の余地があるというメッセージにも受け取れる。

では実際に中国において、ベンチャーキャピタルによるベンチャーに対する投資額や投資案件、またベンチャーの規模やステージ別での投資額の比較を数値で見てみたい。

以下のグラフは、中国における四半期ごとのベンチャーへの投資案件数と投資額を示している。(ソース:Zero2IPO Research Center)



これによると、2008年第2四半期以来下降する一方だった投資案件数と投資額ともに、2009年第2四半期には初めての上昇傾向を示している。前期の2009年第1四半期と比較すると案件数は87%、投資額は77%の伸びとなり、2008年の数値にはまだまだ及ばないものの、わずかながら復活の兆しを見せている。(ただしすべてのファンドが投資額と詳細を公表しているわけではないので、この数値は公表されたものに基づいたデータ、となります)

それではこれらの投資額、ベンチャーのステージごとに均等に分散されているのだろうか。Kai-fu Leeの話によれば、アーリーステージのベンチャーに対しての投資額は少ないということだったが、実際のところはどうか。

以下のグラフでの’early stage’は早期、‘expansion stage’は中期/拡大期、‘late stage’は後期(それなりに成長した)ベンチャーということになる。これからわかるように、拡大期にあるベンチャーが案件数の60%以上、そして投資額の50%以上を占めている。



でも考えてみれば、一番資金が必要そうなのは拡大期にあるベンチャーだし、投資する側としてもリスクはアーリーステージほど高くなく、かつレイトステージよりも高いリターンが見込めるという点で、一番おいしい投資分野のような気もする。となると、この傾向はどの国でも同じなのでは?

そんな疑問に答えるために、アメリカのデータと比較してみたい。



データのソースもステージの定義も異なるので一概には比較できないのだが、Seed, Series Aがアーリーステージ, Series B, Series C, Series Dが拡大期(Expansion Stage)、Series E, Series Fがレイトステージ(Late stage)に相当すると仮定すると、アーリーステージのベンチャーが44%、拡大期が53%、レイトステージ4%という結果になる (‘undisclosed’を除外して計算)。 確かに27%がアーリーステージ、60%が拡大期だった前述の中国のデータと比較すると、アーリーステージ(early Stage)と拡大期(Expansion Stage)の差はさほど大きくない。

また、アメリカと中国の比較という観点で、分野ごとの投資額/案件の分散にも目を向けてみたい。

まずは中国の分散から。投資額で見ると、ITを押さえて’Traditional’に対する投資が際立っている。クリーンテクノロジーやバイオ分野とITを合計しても35%ほどにしか過ぎず、まだまだ伝統的な分野が強いことがわかる。急速に発展する経済のスピードに追いつこうとするインフラ整備を考えると、不思議な数値ではない。



一方のアメリカでは「予想通り」、テクノロジー系が大部分を占めている。中国の投資案件数で大部分を占めていた’traditional’に匹敵するのは、’energy’ ‘industrial’ ‘transportation’ (もしくはその一部)あたりだろうか。となると、その合計はわずか15%にしかすぎない。



またこの分散の違いがある意味、アーリーステージへの投資案件数を左右する一つの原因になっているのかもしれない。例えばインターネット系のベンチャーとインフラ系のベンチャーを比較すると、初期投資額はかなり異なるだろうと予想される。インターネット系であれば、極端な話、パソコンとブロードバンドさえあればビジネスをはじめられるケースも少なくない。一方インフラ系となれば、相当の初期投資がないとアイディアを形にするすべもない。

中国内はもちろんのこと世界にまたがる広い人脈、多彩なビジネス経験、ビジネス界に大きな影響力を持つKai-fu Lee、北京を次のシリコンバレーに成長させることはできるのか。中国市場を理解してシリコンバレーを理解しているからこそ、シリコンバレーのモデルをそのままコピーするのではなく、中国版シリコンバレーを作りあげていくのに最適な人材だと言える。 その実現に向けて、大きな機動力になることは間違いない。

2009年11月10日火曜日

オンラインテレビHuluは、テレビの敵か味方か

少し前の話になるが、9月20日に第61回エミー賞(Emmy Award)が開催された。エミー賞は、アメリカのテレビドラマ、コメディー、コマーシャルなどのテレビで放映されるコンテンツに関連する業績に与えられるもので、「24」、「sex and the city」など日本でもお馴染みの番組も全盛期には様々な部門で賞を総嘗めしている。

今年のエミー賞中継は視聴率が6%上昇した結果、この3年間での最高視聴率を記録した。約 1,332万人が中継を見た計算になる。それ以外にも、例年と違うという点で今までにない面白い顔ぶれを揃えたのは、コマーシャル部門だ。ノ ミネート作品とそのスポンサーを見ると、Amex, Nike, Budweiser, Coca-Cola, Bud Light, Career Builder, Sprint Nextel と毎年お馴染みの大企業が並ぶ中、オンラインTV「Hulu」がリスト入りしたのだ。

「Hulu」とは2007年に始まったオンラインテレビで、NBC, Fox, ABCを初めとした数々の大手テレビ局や映画会社と提携して、ドラマ、ショーや映画をネット上で提供している。ノ ミネート作品となったのは、このHuluがスーパーボールのために作ったコマーシャル。「30 Rock」という最近一番人気のコメディーで主役をつとめるアレック・ボールドウィン(Alec Baldwin)を起用し、人間の姿をしたエイリアンに見立てた。CM自体特に面白いというわけではないものの、スタートアップが大物を起用したというこ ともあり話題を呼んだことは確かだ。
ちなみにこの「30 Rock」、今年のエミー賞でベストコメディー賞を受賞してノリに乗っているコメディーなので、そんな事実からもHuluが「単なる有名人」ではなく、旬な大物を使ったことがわかるだろう。

Huluの企業形態はジョイントベンチャーで、NBC Universal, Fox Entertainment Group (親会社はNews Corp), ABC Inc (親会社はThe Walt Disney Company)が主な出資者だ。つまりNBC, Fox, ABCのドラマやショーは必然的にカバーしているので、大手テレビ局の中で欠けているのはCBSのみ、ということになる。そのCBS、Huluと提携して いない最後の大手一社となった今、ますますHuluに敵対心をむき出しにしている。
最近の記事によると、CBS以外大手テレビ局の視聴率が軒並み下降気味なのはHuluを代表としたオンラインテレビの影響(責任?)だという見解を示している。噂によるとCBSでは、オンラインでのコンテンツ流出を規制するため、ケーブルテレビの契約者などすでにお金を払っている視聴者のみにオンラインでのドラマ視聴の権利を限定すべきだ、などという後ろ向きな意見も出ている。
それに対して他の大手テレビ局は、独自のサイトで自社のドラマやショーを流しつつ、並行してHuluというチャネルも利用して、リーチを増やそうとしているので、CBSとのスタンスの違いは顕著だ。

大手のテレビ局まで脅かす存在になったHuluだが、そのプロダクトの魅力は何なのか。

実はわたしも毎日のようにHuluで「テレビ」を見ているヘビーユーザの一人だが、放映時間とかに縛られず見られる気軽さ、パソコンさえあればどこでも見られる気軽さはテレビに代え難い。また、たったの1日遅れでサイトにアップロードされるので、1シーズン待たないとドラマが見られないといったこともなく、快適だ。しかもテレビに比べてコマーシャルは短い。

もちろん無料だという点も大きな魅力ではあるが、そもそも高速インターネットサービスに加入していないと見られないのである意味「無料」ではないというこ と、また、アメリカではケーブルテレビ会社から電話・テレビ・インターネットサービスを1つのパッケージとして購入しているユーザが多いということなどを 考えると、無料であるということだけでなく、利便性もその人気に一役買っているだろうと思われる。

そんなわけで、着々とユーザと知名度を伸ばしているように見えるHuluだが、他のテレビ局サイトと比較してどのような伸びを示しているのか。テレビ局の公式サイトと言えばブランド力はダントツだし、多くのトラフィックを集まることは簡単に予想される。また、各テレビ局サイトでも当然各社のショーやドラマは見られるようになっているので、内容的にはHuluと大差ない。つまりABCのサイトに行けば、Huluに行くのと同様に人気の’Lost’が見られるので、見たいドラマさえ決まっていれば、どっちのサイトで見ても大して変わりはないのだ。では、ユーザはどっちを選ぶのか、そしてその理由は?



(※データへのアクセスが制限されていたため、グラフ内の数値は概算値になっています)

以上のグラフでは、Huluと他の大手テレビ局サイトへのトラフィックを比較している。全体的に上昇傾向であるものの、5〜6月の夏休みシーズン始まりに 伴って3つのテレビ局とも下降傾向を示している。アメリカのテレビ局は夏休みシーズンになると、古いエピソードを再放送して9月の新シーズンに備えるの で、この時期に軒並みトラフィックが落ちているのは納得がいく。だが面白いことにhulu.comだけはその影響を受けず、2009年7月には大手テレビ局のサイトを抜かして一位に躍り出た。

検索用語別のトラフィック分布を見てみると、さらに面白いことがわかる。



これは、各サイトがどのような検索用語に基づいた検索結果からトラフィックを誘導しているか、を示したものだ(2009年6月時点でのデータ)。「Network Name」を見ると、検索サイトからhulu.comに流れるトラフィックの約56%が、「hulu video」 のようなテレビ局名/会社名を含む、つまり「hulu」という言葉を含む検索用語による検索結果からの誘導だということがわかる。Nbcを例に取ると、「nbc tv」などの検索用語からのトラフィックが一番左のカテゴリー「Network Name」内の「nbc.com」という軸にカウントされている。

2つ目のカテゴリーはショーやドラマの名前が含まれる検索用語で、「24 episodes」などが例として挙げられる。

最後のカテゴリーは「無料のコンテンツ」を強調した用語で、例えば「watch free TV」など。

これを見ると、Huluのトラフィック上昇の原因と成功のカギが見えてくる。

まず目につくのは、Huluに関しては「Hulu」という名前を検索用語に使う人が断然多いということ。Foxや nbcはそれぞれ17%、14%であるのに対して、Huluは56%にも上り、他のカテゴリーと比較しても56%というのは一番高い数値だ。つまり、「特 定のテレビショーを見たい」というよりも、「見たいドラマが決まっているわけではないので、まずはHuluに行ってみたいものを探す」、もしくは「huluに行けば探しているショーが見つかる」、という意識がユーザに強く植え付けられていることがわかる。

夏休み再放送サイクルに突入して、すでに見たエピソードを見るよりも、他にまだ見ていない面白いドラマを見つけたいというニーズが高まり、この傾向に拍車をかけたとも言える。

また3つ目のカテゴリーからは、他の大手テレビ局サイトも無料コンテンツを提供しているのに関わらず、「無料コンテンツ」というキーワードからトラフィックをうまく誘導しているのはHuluだけだということもわかる。サイトの作り方を含めて、「無料コンテンツならHulu」というイメージをうまく確立した。

ではそのビジネスモデルはどうなっているのか。

今現在は、各ショーの初めや間に、テレビよりも多少短いコマーシャルが挟まり、それによって収入を得ているという単純なビジネスモデルだ。1年ほど前から は、はじめに長いコマーシャルを見てあとはコマーシャル無しか、途中に複数の短いコマーシャルを見るかなどの選択肢をユーザに与えたりしている。ただ近年 の伸びを経て、これに加えて、subscription ベースとペイパービューのサービスを検討中だとも漏らしている

それに加え、つい最近、他のユーザのコメントなどが見られるようなフェースブック・アプリをリリースした。これを使うと、右手には番組の画面、左側は同じ番組を見ているほかのユーザからのコメント(自分の友達だけを選ぶことも可能)を見ることができるので、リビングルームで友達とテレビを見ている感覚が味わえる

オンラインでの無料コンテンツの配信サービスの課題は常にビジネスモデルにあるとされていたが、Huluのコマーシャルが他の大手企業コマーシャルと同様にエミー賞で評価されたという事実は、伝統的なテレビ界とオンラインテレビ界との垣根がだんだん低くなっていることを間接的に示唆しているのかもしれない

2009年10月16日金曜日

アメリカの起業家も高齢化?

テクノロジー系のスタートアップの成功例と言えば、グーグル、フェースブック、Twitter、Youtubeに代表されるような、20代30代の学生や若者がノリで始めた会社がビジネスとして花開いたという手の話が主流と思われがちだ。この仮定が正しければ、人口の高齢化はアメリカの起業ブームにマイナスに働くと思われるところだが、今年の6月にKauffman Foundationが面白い調査結果を発表している。

この調査によるとアメリカの現状は、「高齢化にも関わらず起業ブームが終わらないアメリカ」ではなくて、「高齢化に支えられる起業ブーム」だというのだ。

Duke大学の調査によると、テクノロジー系分野で起業する人の平均年齢は何と39歳らしい。意外にも高齢?と驚く人が多いのではないだろうか。またここ数十年間のデータによると、起業する確立が一番高いのは55〜64歳の年齢層となっている。一般的に20〜34歳はリスクを顧みず起業を恐れないイメージがあるが、この年齢層の起業率が実は一番低いとされているのだ。これも意外な結果。しかもこの傾向は、ドットコムブーム前後の11年間に強い傾向として現れ始めている。ドットコムブームと言えば、若い起業家がもてはやされてセレブかした印象が強いにも関わらず。。。

その傾向を後押ししたのは何なのか?背景としては、一生一つの会社に長く勤める終身雇用率が減少していることに加え、最近の不景気が挙げられるという。もともと30歳以下は仕事を変わる頻度が高いというのは昔からの傾向だが、35〜64歳の年齢層に限っては、終身雇用率はこの50年間で急激にさがった。平均寿命の向上、健康な高齢者が増えていることを加味すると、この傾向はさらに強まっていくと思われる。つまり自発的な退職にせよ、不景気で退社を余儀なくされる場合にせよ、高齢層の起業を後押しする要因が増えているのだ。

大企業は存続し続けるという仮説が否定された今、高齢者の起業ブームはさらに続くと予想されている。

また、起業率最高の年齢層55〜64歳はベビーブーム層とちょうど重なり、人口ピラミッドの中でも最大の年齢層だったりもする。経済の復活のカギは起業家が握るとも言われる中、かすかな希望を与えてくれるデータではないだろうか。


この投稿は、Yahoo! Japan映像トピックスで紹介されました。リンクはこちら。

2009年9月29日火曜日

アップルは邪悪か

人気者になったり大成功をおさめると敵が増えるのは成功者の避けられない「さが」だが、それは企業についても同じこと。例えば、「Don't be evil」をモットーに掲げたグーグルも今や「evil」を脅かす存在まで成長し、その結果「google is evil」とバッシングされることがたびたび。それだけ注目が集まって羨む人が増えると言うことなので、敵やバッシングが増えるのは成功の証とも取れるが。

最近良く目にするのは、アップルの「邪悪」ぶりだ。すべてが「オープン化」に向かう中、まったく逆の閉鎖的な、「自社製品囲い込み」戦略を取っている。例えばItuneが使えるのはアップル製品上のみ(iphone, ipod)に限られるし、iphoneを売る権利をAT&Tに独占させている。オープンにして競争を促すという流れに逆流しているような行動がいくつも見られるのだ。

ここ数ヶ月議論を呼んでいるのは、Googleが「Google Voice(グーグル・ボイス)」というアプリをiphone用にを開発したものの、アップルがそれをiphoneアプリのラインナップに加えることを拒否したという噂だ。Googleの苦情に対してアップルは「拒否していない」と反論し、言った言わない問題に発展した結果、アップルのアプリ承認プロセスに対してFCC(米連邦通信委員会)の調査が入るまでに至った。一部では、iphone販売を独占契約しているAT&Tからのプレッシャーによるものだという話も出ている。グーグル・ボイスとはインターネット経由の電話転送システムで、消費者が無料の登録電話番号を取得すれば、この番号に電話がかかってきた時にその登録者の使っているすべての電話を呼び出す仕組み。音声メッセージをテキスト化する機能や、国際電話の割引サービスもある。インターネット電話の利用を促す効果があると同時に、成人向けチャットや電話会議など高額の接続料金がかかる一部のサービスに接続できないように制限していて、それが電話会社のビジネスへの妨げになっているとして、リリース当初からAT&Tは非難し続けている。固定電話の利用激減の打撃を受けるAT&Tにとっては、その勢いにさらに拍車をかける厄介な存在であることは間違いない。

ただ、グーグルだけがこの不透明な「アプリ承認プロセス」の犠牲者ではない。未成年者に不適切だという成人向けアプリの基準がいまいち曖昧な結果、不適切な言葉を含んだ辞書アプリが拒否されたという話もある。

全製品をアップルで固める、その外に出るとどの製品も使えないという囲い込み戦略。
アップルほどのデザイン力、マーケティング力そしてプロダクトに自信があれば、そこまでしなくても消費者はついてきそうなものだけど、逆に言えばそこまで自信があるからこそ取れる戦略なのかもしれない。

2009年9月17日木曜日

呪われた9月

リーマン・ブラザーズの破たん、メリルリンチの買収、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済など、世界的なファイナンシャルクライシスの引き金となった出来事が起きたのはちょうど1年前の昨年9月だ。

世界的株価大暴落を記録したブラックマンデーは1987年10月19日、さらにさかのぼってウォール街の大暴落 が起きた1929年のブラックサースデーは10月24日、とともに10月に起きている。ただ9月時点でその兆しを見えていたと言う(もちろんあとから「兆し」を指摘するのは簡単なのは承知の上で)。

Dow Jones Industry Averageによると、株価1日あたりの下降率では10月が最悪月とされているが、1950年から2008年までの月あたり変動率の平均値を見ると9月が飛び抜けて悪い。そもそも9月以外はプラス方向に伸びている平均値が、9月だけマイナス値という散々な結果なのだ。

昨年の9月にはDow Jones Industrial Average の昨年9月の下降率は6%で異常だったとしても、1929年以来9月の平均変動率はマイナス1.4%。一方S&P500に関しても、9月の平均変動率は1929年以来マイナス1.3%となっていて、唯一マイナスを記録した月になっている。

では何故9月なのか?

まずは、心理的な要素が大きいと言われている。もちろん今年に限っては去年の苦い経験がまだ記憶に新しいが、それ以前からも前述のような統計に基づいて、9月というと何かと不安になってしまう投資家も多いという。「9月は呪われた月」という連想によって投資を控える心理が働くらしい。また9月と言えばバケーションが終わり、冬に向けて一日一日が短くなって時期でもあり、全体的にネガティブなムードになりがちだ。今まで望みも薄く持ち続けていた株を、投資家が一気に処分してすっきりしたくなる時期だったりもするらしい。ちょっと気の早い年末大掃除と言ったところだろうか。

また一般的に、1年の後半は投資活動が鈍ると言われている。ボーナスや早めの税金申告によって戻ってきたキャッシュも、個人年金積立て制度 や401k(確定拠出型年金制度)につぎ込むケースが多いのだ。

他の要素としては、9月は第3四半期の最終月であるため、多くのアナリストが企業の業績見込みや評価を下げるということ。あと1四半期を残し、楽観的な評価を現実的(保守的?)な評価に下げる時期だ。企業側も1年の終わりに近づき、業績予想修正をかけたりする。

ただし、今年の9月はいつもの9月とは違いそうだ。失業率は相変わらず高いものの、住宅市場は回復の兆しを見せ始めているし、Consumer Confidence(消費者信頼感指数)も上昇傾向にある。9月中旬までは特に株価が落ち込んだ様子もなく、順調に伸びている。ここ数ヶ月の傾向としても、一端下降してもすぐに復活する場合が多い。回復のサイクルが早いので、一端売りに出た投資家もマーケットの回復を見込んで戻ってくる、というパターンが多く見られている。今年の9月は汚名を回復できるのか。

2009年9月4日金曜日

Cause Marketing(マーケティングを通した社会貢献)の落とし穴?

日本でも企業の社会貢献、という話題を耳にするようになってだいぶ発つが、最近その一つとして考えられる「コーズマーケティング」についての面白い記事を目にしたので紹介したい。

まずは、一言でマーケティングと言っても、タイプや定義によっていろんな名前がついている。主なものには、buzz marketing(バズマーケティング)、草の根マーケティング、viral marketing(口コミ)、Influencer marketing, Cause marketing(コーズマーケティング)。これらは必ずしも相互に排他的ではないので、バズマーケティングでもありながら口コミマーケティングとも分類される例もある。
その中で、コーズマーケティングとは、「社会主義に敏感な人々から敬意やサポートを集めるために社会正義をサポートすること」と定義されている。社会問題に積極的に取り組んでいる企業を消費者がサポートすることにより、企業のイメージは向上、売り上げも向上、そして消費者も社会問題に貢献できる(少なくとも、そういう達成感が得られる)。企業はその結果新しい消費者層にアピールできる、社員の士気を高めるなどの付属的な効果も期待できる。

このコーズマーケティングにアメリカで毎年費やされる金額、ある団体の調査によると、1983年にはほぼゼロだったのが、2006年には13億ドル(1300億円)までに達したという。

例えばスーパーで洗剤を選ぶ際に、一つのメーカーは環境問題に取り組むNPOに売り上げの一部を寄付しているが、別のメーカーは売り上げのすべてが洗剤会社に行く。2つの商品の値段が対して変わらないとすると、大半の消費者は前者を選ぶだろう。何故なら同じ値段を払っても一方は社会貢献したという自己満足が得られるが、もう一方は何の得もないから。消費者にとっての負担は同じであるのにも関わらず、一つ目の商品の方が得した感が強いのだ(物理的に得するわけではないけど、心理的に得した気分になる)。

アメリカで代表的なプログラムにはProduct Red(プロダクトレッド)キャンペーンとPink ribbon(ピンクリボン)キャンペーンというのがある。Product Redは2006年にカリフォルニア州の政治家Robert Shriverによって始まり、U2のリードボーカルのBonoがプロモートしていることでも有名。参加企業はGap, Dell, Appleという蒼々たる顔ぶれで、売り上げの一部がAIDSやマラリア、ツベルクリンなどの問題に取り組むNPOに寄付されている。

ピンクリボンキャンペーンとは、同様に企業の売り上げの一部を乳癌をサポートする研究機関などNPOへ寄付するプログラムだ。毎年10月にキャンペーン期間が設定され、ヨープレイン(ヨーグルトの会社)、コーンフレークの会社、化粧品会社、キャンベルスープ、と大手企業が名前を連ねる。こちらも蒼々たる有名人が協力することで有名だ。1991年に創設されて以来、130もの企業が参加し、3,000万ドル(30億円)近い寄付金を集めたという。

それだけ聞くと企業にとっても消費者にとっても、そして社会にとってもメリットがあるバラ色のマーケティング手法のように見えるが、このコーズマーケティング、短期的には見えないコストが隠れている。

問題点その1は、企業がこの手のキャンペーンに参加することによって、社会問題取り組みへの責任を果たしたかのような錯覚に陥ったり、根本的な問題を見逃しかねないこと。例えば過去にいくつもの企業で問題になったように、商品を作る過程でアンフェアな労働条件や児童労働を使って、商品を生産しているかもしれない。もしくは、生産過程で環境を害する物質を廃棄しているかもしれない。にも関わらず、環境問題に取り組むNPOや途上国の発展を促す組織に売り上げ金の一部を寄付する、というのはそもそも矛盾している気がするし、企業は責任逃れをしているようにも見られる。マーケティングという表面的なイメージによってそもそもの根深い問題が隠されてしまうのだ。

問題点その2は、消費者にとっての気軽さにある。本来「社会問題」とは、その現実や課題を学んで理解して、一緒に解決策を考えていくのが理想的な取り組みだが、コーズマーケティングはそのようなプロセスをすっ飛ばして、消費者があまりにも気軽に「社会貢献」したかのような気になれてしまう。その結果、問題の根本を見たり考えたりする機会を失い、同時に大きな社会問題があたかも簡単に解決できてしまうかのような錯覚にすら陥ってしまいかねない。また、消費することによって社会問題解決に貢献する、というのも何だか矛盾があるような気がする。消費や無駄を押さえよう、という中で消費することを正当化する企業の思惑にすぎない、とも言えない。

そして第3の問題点は、必ずしも正確ではない認識やイメージを消費者に与えてしまうこと。例えば前述のピンクリボンキャンペーン、成功して急速に認知度を高めた結果、乳がんに対する認識や関心は急激に高まったが、同時に乳がんがもっとも多い死因だというイメージも与えてしまった。実際にはアメリカの女性の中で一番多い死因は乳がんではなく心臓病で、35〜64歳の女性に限って言えば癌で亡くなるケースが一番多いものの、癌の中でも一番多いのは皮膚がんであり、乳がんではないらしい。

日本ではまだ馴染みの薄いコーズマーケティングだが、企業の社会責任が問われる中で今後一層このような手法が広まることが予想される。

ではどうすれば以上のような事態が防げるのか?批判するのは簡単だけど、代替策を提案するのは難しい。まず企業は、根本的な問題に取り組むこと。具体的には社員の扱いや生産過程での無駄や公害を減らしたり、労働条件を改善すること。消費者として気をつけることは、不要な消費を通して社会問題に貢献したような錯覚に陥らないように気をつけること、そして問題の根本的なところに目を向けるように意識することなどが第一歩と言えるだろう。

2009年8月31日月曜日

9月に新製品発表?業界の枠を超えて伸び続けるiPhoneとiPodのこれまで

今年も早いもので、もうすぐ9月を迎えようとしている。アメリカの9月と言えば学校の始まる時期なので、新生活のスタートという清々しい印象が強い。これは企業にとっても同様で、9月はビジネス界にとっても大きな節目の時期だ。例えば住宅マーケット、学校が始まる9月までに引っ越しを済ませたいという理由で夏休み中は需要が高まり、新学期が始まると落ち着く傾向にあると言われる。小売業については、9月はクリスマス商戦の幕開け。「新学期セール」なるものを打ち出して新生活に備える顧客を魅了しようとする一方で、サンクスギビングやクリスマスなどのホリデー商戦を目前に控え、新商品を打ち出したり、そのマーケティングに力を入れ出す時期である。多くのアメリカの小売業にとって、ホリデーシーズンの売り上げはその一年の業績を決めるほど大きな影響力を持つ。社運がかかっている、と言っても過言ではないのだ。ここシリコンバレーも例外ではなく、毎年この時期に「バズ」を繰り出す常連企業がいくつかある。その筆頭に名を挙げるのはアップルだ。

アップルは毎年9月に新しい目玉商品を発表してきたという歴史もあり、8月後半にさしかかった今、今年のアップルはどんな商品で世間を驚かせるのかというのがブロガーやコミュニティの間で話題になっている。ここ近年のアップル主流商品と言えばiPodとiphone だけに、それらの進化版が出てくるのではという憶測が強い。

では、まずは最近のアップルの業績状況、特にiPhoneとiPodに焦点を絞って見てみたい。



<グラフ1>は iPhoneの売上数と売上高を示したものだ。2007年の発売以来、前年同期比は300〜8000%にまでに及び(グラフのスケールに違いすぎるため、グラフからは割愛)、順調な伸びを示している。売上数の変動は3G, 3GSなど新バージョンの発売時期に合わせて明確に上下しているが、それでも売上高は着実に伸びているようだ。



<グラフ2>では、同様にiPod(iPod basic, iPod mini, iPod nano, shuffle, iPod touch) の売上数と売上高、またそれに加えて売上数と売上高の前年同期比も一緒にプロットしてみた。

このグラフからもわかるように、先四半期の2009年第3四半期(2009年4月〜6月)には売上数1,020万個という7%の減少を示し、2001年の発売以来初めて、前年同期比マイナスを記録した。(ちなみにアップルの会計年度はカレンダーイヤーよりも3ヶ月遅れているので、第3四半期は7〜9月ではなく、4〜6月となる)

では、実際この2つのプロダクトラインを比較した際、アップルのプロダクトの中で「スター」の座を獲得したのはどっちなのか?ここ近年の話題性から判断すると断然iPhoneだという気がするが、実際の「実力」、つまり売上高に対する貢献度はどのようになっているのか。<グラフ3>では、アップル全体の売上高に対してiPhoneとiPodそれぞれの貢献度をプロットしてみた。すると意外なことに、実力に基づく「スター」の座についていたのは、先四半期までiPod。そしてそれが入れ替わったのは、たった数ヶ月前のことだった。



ここでさらに、7月の業績報告で明らかにされた面白いデータを紹介したい。この鈍化傾向にあるiPodカテゴリの中で、実は倍以上に売り上げを伸ばした商品が一つだけあると言う。それはiPod touch だった。逆に言うと、iPod touchの好調な売り上げによってiPod全体へのダメージは最小限に押さえられた、とも言えるだろう。(詳細な内訳データは残念ながら非公開)

では、iPod touchとは何者なのか?2007年9月に発表され(これも9月!)、簡単に言えば、電話機能のないiPhoneだ。iPhoneと同じバージョン Mac OS Xが搭載されているので、標準のiPodの機能に加えて、ユーチューブのビデオを見たり、メールしたり、ウェブサーフィンしたりというのも問題なくできる。アップルは公式な内訳数を公開していないが、 今までの売り上げは2,000万個と見られている。

ここで前後するが、アップル恒例の9月の新商品お披露目の予測に話を戻したい。実は多くの業界人やブロガーは、 今年はiPod touch関連、もしくはその進化版では?という予測をたてているのだ。どのように変身するかというアイディアは様々だが、堅実なところでは、メモリーが 2倍になり、カメラ機能が搭載されることにより、写真をブログにアップロードしたり、ビデオを撮ってYoutubeにアップロードできるようになるだろう、などなど。

ある記事によるとマイク機能もつくとか。となると、電話機能はないものの、スカイプなどを使ってインターネット電話が可能になる。つまりいわゆるキャリアを通した電話はかけられないものの、広い定義での「電話機能」は備えることになり、「電話機能のないiPhone」というジレンマ(?)から脱することができるかもしれない。

またさらには、Amazon Kindleに対抗したような電子本機能も備えるのでは、という噂も。すでに McGraw Hill や Pearson を含んだ12の大手教科書出版社がiPhoneと iPod touchへのコンテンツ提供の話をアップルと進めてるという話も出ている。となると、電話や音楽プレーヤーの域を超えて、現在はアマゾンが独占している電子本業界 (Amazon Kindle DX )、さらには出版業界の域まで踏み込んでくることになる。しかもここまで機能を備えてくると、ネットブック業界もうかうかしていられないだろう。

‘phone’じゃないからiPhoneの仲間に入れてもらえないiPod touch, でも機能性的にはiPodという枠には収まらない多様性を兼ね備えている。何だか、どこにもフィットできないはみ出しもの、みたいな可哀想な気すらしてくるが、この9月でさらに進化を遂げて、ついにiPhoneの仲間入りができるのか、はたまたiPhoneにもないような機能までを身につけてスターの座を奪回するのか。。。楽しみなところだ。

そして最後にちょっと余談。以前のTwitterの記事の中でも書いたけど、この業界について面白いなと思うのは、「業界」とか「カテゴリ」という垣根がないこと。ソーシャルネットワークというカテゴリで誕生したTwitterが、検索を脅かす(というか魅了する?)存在にまで成長している。iPodももともとは携帯型音楽プレーヤーだったのが、iPod touch という形に進化して、今では電子本、ネットブックやゲーム機までを脅かす存在にまでなっている。

今から10年前、どれだけの出版業者がアップルを潜在的な脅威と見ただろう?もしかしたらこの先10年後には、アップルは思いもよらない業界に進出しているかもしれない。例えば住宅業界、なんてことも?何の根拠もないけど、そんな無責任な想像してみるのも面白い。

とりあえず今は10年後よりも来月、ということで、アップルが9月にどう世間を驚かしてくれるのかを楽しみにしたい。