今年も早いもので、もうすぐ9月を迎えようとしている。アメリカの9月と言えば学校の始まる時期なので、新生活のスタートという清々しい印象が強い。これは企業にとっても同様で、9月はビジネス界にとっても大きな節目の時期だ。例えば住宅マーケット、学校が始まる9月までに引っ越しを済ませたいという理由で夏休み中は需要が高まり、新学期が始まると落ち着く傾向にあると言われる。小売業については、9月はクリスマス商戦の幕開け。「新学期セール」なるものを打ち出して新生活に備える顧客を魅了しようとする一方で、サンクスギビングやクリスマスなどのホリデー商戦を目前に控え、新商品を打ち出したり、そのマーケティングに力を入れ出す時期である。多くのアメリカの小売業にとって、ホリデーシーズンの売り上げはその一年の業績を決めるほど大きな影響力を持つ。社運がかかっている、と言っても過言ではないのだ。ここシリコンバレーも例外ではなく、毎年この時期に「バズ」を繰り出す常連企業がいくつかある。その筆頭に名を挙げるのはアップルだ。
アップルは毎年9月に新しい目玉商品を発表してきたという歴史もあり、8月後半にさしかかった今、今年のアップルはどんな商品で世間を驚かせるのかというのがブロガーやコミュニティの間で話題になっている。ここ近年のアップル主流商品と言えばiPodとiphone だけに、それらの進化版が出てくるのではという憶測が強い。
では、まずは最近のアップルの業績状況、特にiPhoneとiPodに焦点を絞って見てみたい。
<グラフ1>は iPhoneの売上数と売上高を示したものだ。2007年の発売以来、前年同期比は300〜8000%にまでに及び(グラフのスケールに違いすぎるため、グラフからは割愛)、順調な伸びを示している。売上数の変動は3G, 3GSなど新バージョンの発売時期に合わせて明確に上下しているが、それでも売上高は着実に伸びているようだ。
<グラフ2>では、同様にiPod(iPod basic, iPod mini, iPod nano, shuffle, iPod touch) の売上数と売上高、またそれに加えて売上数と売上高の前年同期比も一緒にプロットしてみた。
このグラフからもわかるように、先四半期の2009年第3四半期(2009年4月〜6月)には売上数1,020万個という7%の減少を示し、2001年の発売以来初めて、前年同期比マイナスを記録した。(ちなみにアップルの会計年度はカレンダーイヤーよりも3ヶ月遅れているので、第3四半期は7〜9月ではなく、4〜6月となる)
では、実際この2つのプロダクトラインを比較した際、アップルのプロダクトの中で「スター」の座を獲得したのはどっちなのか?ここ近年の話題性から判断すると断然iPhoneだという気がするが、実際の「実力」、つまり売上高に対する貢献度はどのようになっているのか。<グラフ3>では、アップル全体の売上高に対してiPhoneとiPodそれぞれの貢献度をプロットしてみた。すると意外なことに、実力に基づく「スター」の座についていたのは、先四半期までiPod。そしてそれが入れ替わったのは、たった数ヶ月前のことだった。
ここでさらに、7月の業績報告で明らかにされた面白いデータを紹介したい。この鈍化傾向にあるiPodカテゴリの中で、実は倍以上に売り上げを伸ばした商品が一つだけあると言う。それはiPod touch だった。逆に言うと、iPod touchの好調な売り上げによってiPod全体へのダメージは最小限に押さえられた、とも言えるだろう。(詳細な内訳データは残念ながら非公開)
では、iPod touchとは何者なのか?2007年9月に発表され(これも9月!)、簡単に言えば、電話機能のないiPhoneだ。iPhoneと同じバージョン Mac OS Xが搭載されているので、標準のiPodの機能に加えて、ユーチューブのビデオを見たり、メールしたり、ウェブサーフィンしたりというのも問題なくできる。アップルは公式な内訳数を公開していないが、 今までの売り上げは2,000万個と見られている。
ここで前後するが、アップル恒例の9月の新商品お披露目の予測に話を戻したい。実は多くの業界人やブロガーは、 今年はiPod touch関連、もしくはその進化版では?という予測をたてているのだ。どのように変身するかというアイディアは様々だが、堅実なところでは、メモリーが 2倍になり、カメラ機能が搭載されることにより、写真をブログにアップロードしたり、ビデオを撮ってYoutubeにアップロードできるようになるだろう、などなど。
ある記事によるとマイク機能もつくとか。となると、電話機能はないものの、スカイプなどを使ってインターネット電話が可能になる。つまりいわゆるキャリアを通した電話はかけられないものの、広い定義での「電話機能」は備えることになり、「電話機能のないiPhone」というジレンマ(?)から脱することができるかもしれない。
またさらには、Amazon Kindleに対抗したような電子本機能も備えるのでは、という噂も。すでに McGraw Hill や Pearson を含んだ12の大手教科書出版社がiPhoneと iPod touchへのコンテンツ提供の話をアップルと進めてるという話も出ている。となると、電話や音楽プレーヤーの域を超えて、現在はアマゾンが独占している電子本業界 (Amazon Kindle DX )、さらには出版業界の域まで踏み込んでくることになる。しかもここまで機能を備えてくると、ネットブック業界もうかうかしていられないだろう。
‘phone’じゃないからiPhoneの仲間に入れてもらえないiPod touch, でも機能性的にはiPodという枠には収まらない多様性を兼ね備えている。何だか、どこにもフィットできないはみ出しもの、みたいな可哀想な気すらしてくるが、この9月でさらに進化を遂げて、ついにiPhoneの仲間入りができるのか、はたまたiPhoneにもないような機能までを身につけてスターの座を奪回するのか。。。楽しみなところだ。
そして最後にちょっと余談。以前のTwitterの記事の中でも書いたけど、この業界について面白いなと思うのは、「業界」とか「カテゴリ」という垣根がないこと。ソーシャルネットワークというカテゴリで誕生したTwitterが、検索を脅かす(というか魅了する?)存在にまで成長している。iPodももともとは携帯型音楽プレーヤーだったのが、iPod touch という形に進化して、今では電子本、ネットブックやゲーム機までを脅かす存在にまでなっている。
今から10年前、どれだけの出版業者がアップルを潜在的な脅威と見ただろう?もしかしたらこの先10年後には、アップルは思いもよらない業界に進出しているかもしれない。例えば住宅業界、なんてことも?何の根拠もないけど、そんな無責任な想像してみるのも面白い。
とりあえず今は10年後よりも来月、ということで、アップルが9月にどう世間を驚かしてくれるのかを楽しみにしたい。
2009年8月31日月曜日
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