テクノロジー系のスタートアップの成功例と言えば、グーグル、フェースブック、Twitter、Youtubeに代表されるような、20代30代の学生や若者がノリで始めた会社がビジネスとして花開いたという手の話が主流と思われがちだ。この仮定が正しければ、人口の高齢化はアメリカの起業ブームにマイナスに働くと思われるところだが、今年の6月にKauffman Foundationが面白い調査結果を発表している。
この調査によるとアメリカの現状は、「高齢化にも関わらず起業ブームが終わらないアメリカ」ではなくて、「高齢化に支えられる起業ブーム」だというのだ。
Duke大学の調査によると、テクノロジー系分野で起業する人の平均年齢は何と39歳らしい。意外にも高齢?と驚く人が多いのではないだろうか。またここ数十年間のデータによると、起業する確立が一番高いのは55〜64歳の年齢層となっている。一般的に20〜34歳はリスクを顧みず起業を恐れないイメージがあるが、この年齢層の起業率が実は一番低いとされているのだ。これも意外な結果。しかもこの傾向は、ドットコムブーム前後の11年間に強い傾向として現れ始めている。ドットコムブームと言えば、若い起業家がもてはやされてセレブかした印象が強いにも関わらず。。。
その傾向を後押ししたのは何なのか?背景としては、一生一つの会社に長く勤める終身雇用率が減少していることに加え、最近の不景気が挙げられるという。もともと30歳以下は仕事を変わる頻度が高いというのは昔からの傾向だが、35〜64歳の年齢層に限っては、終身雇用率はこの50年間で急激にさがった。平均寿命の向上、健康な高齢者が増えていることを加味すると、この傾向はさらに強まっていくと思われる。つまり自発的な退職にせよ、不景気で退社を余儀なくされる場合にせよ、高齢層の起業を後押しする要因が増えているのだ。
大企業は存続し続けるという仮説が否定された今、高齢者の起業ブームはさらに続くと予想されている。
また、起業率最高の年齢層55〜64歳はベビーブーム層とちょうど重なり、人口ピラミッドの中でも最大の年齢層だったりもする。経済の復活のカギは起業家が握るとも言われる中、かすかな希望を与えてくれるデータではないだろうか。
この投稿は、Yahoo! Japan映像トピックスで紹介されました。リンクはこちら。
2009年10月16日金曜日
2009年9月29日火曜日
アップルは邪悪か
人気者になったり大成功をおさめると敵が増えるのは成功者の避けられない「さが」だが、それは企業についても同じこと。例えば、「Don't be evil」をモットーに掲げたグーグルも今や「evil」を脅かす存在まで成長し、その結果「google is evil」とバッシングされることがたびたび。それだけ注目が集まって羨む人が増えると言うことなので、敵やバッシングが増えるのは成功の証とも取れるが。
最近良く目にするのは、アップルの「邪悪」ぶりだ。すべてが「オープン化」に向かう中、まったく逆の閉鎖的な、「自社製品囲い込み」戦略を取っている。例えばItuneが使えるのはアップル製品上のみ(iphone, ipod)に限られるし、iphoneを売る権利をAT&Tに独占させている。オープンにして競争を促すという流れに逆流しているような行動がいくつも見られるのだ。
ここ数ヶ月議論を呼んでいるのは、Googleが「Google Voice(グーグル・ボイス)」というアプリをiphone用にを開発したものの、アップルがそれをiphoneアプリのラインナップに加えることを拒否したという噂だ。Googleの苦情に対してアップルは「拒否していない」と反論し、言った言わない問題に発展した結果、アップルのアプリ承認プロセスに対してFCC(米連邦通信委員会)の調査が入るまでに至った。一部では、iphone販売を独占契約しているAT&Tからのプレッシャーによるものだという話も出ている。グーグル・ボイスとはインターネット経由の電話転送システムで、消費者が無料の登録電話番号を取得すれば、この番号に電話がかかってきた時にその登録者の使っているすべての電話を呼び出す仕組み。音声メッセージをテキスト化する機能や、国際電話の割引サービスもある。インターネット電話の利用を促す効果があると同時に、成人向けチャットや電話会議など高額の接続料金がかかる一部のサービスに接続できないように制限していて、それが電話会社のビジネスへの妨げになっているとして、リリース当初からAT&Tは非難し続けている。固定電話の利用激減の打撃を受けるAT&Tにとっては、その勢いにさらに拍車をかける厄介な存在であることは間違いない。
ただ、グーグルだけがこの不透明な「アプリ承認プロセス」の犠牲者ではない。未成年者に不適切だという成人向けアプリの基準がいまいち曖昧な結果、不適切な言葉を含んだ辞書アプリが拒否されたという話もある。
全製品をアップルで固める、その外に出るとどの製品も使えないという囲い込み戦略。
アップルほどのデザイン力、マーケティング力そしてプロダクトに自信があれば、そこまでしなくても消費者はついてきそうなものだけど、逆に言えばそこまで自信があるからこそ取れる戦略なのかもしれない。
最近良く目にするのは、アップルの「邪悪」ぶりだ。すべてが「オープン化」に向かう中、まったく逆の閉鎖的な、「自社製品囲い込み」戦略を取っている。例えばItuneが使えるのはアップル製品上のみ(iphone, ipod)に限られるし、iphoneを売る権利をAT&Tに独占させている。オープンにして競争を促すという流れに逆流しているような行動がいくつも見られるのだ。
ここ数ヶ月議論を呼んでいるのは、Googleが「Google Voice(グーグル・ボイス)」というアプリをiphone用にを開発したものの、アップルがそれをiphoneアプリのラインナップに加えることを拒否したという噂だ。Googleの苦情に対してアップルは「拒否していない」と反論し、言った言わない問題に発展した結果、アップルのアプリ承認プロセスに対してFCC(米連邦通信委員会)の調査が入るまでに至った。一部では、iphone販売を独占契約しているAT&Tからのプレッシャーによるものだという話も出ている。グーグル・ボイスとはインターネット経由の電話転送システムで、消費者が無料の登録電話番号を取得すれば、この番号に電話がかかってきた時にその登録者の使っているすべての電話を呼び出す仕組み。音声メッセージをテキスト化する機能や、国際電話の割引サービスもある。インターネット電話の利用を促す効果があると同時に、成人向けチャットや電話会議など高額の接続料金がかかる一部のサービスに接続できないように制限していて、それが電話会社のビジネスへの妨げになっているとして、リリース当初からAT&Tは非難し続けている。固定電話の利用激減の打撃を受けるAT&Tにとっては、その勢いにさらに拍車をかける厄介な存在であることは間違いない。
ただ、グーグルだけがこの不透明な「アプリ承認プロセス」の犠牲者ではない。未成年者に不適切だという成人向けアプリの基準がいまいち曖昧な結果、不適切な言葉を含んだ辞書アプリが拒否されたという話もある。
全製品をアップルで固める、その外に出るとどの製品も使えないという囲い込み戦略。
アップルほどのデザイン力、マーケティング力そしてプロダクトに自信があれば、そこまでしなくても消費者はついてきそうなものだけど、逆に言えばそこまで自信があるからこそ取れる戦略なのかもしれない。
2009年9月17日木曜日
呪われた9月
リーマン・ブラザーズの破たん、メリルリンチの買収、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済など、世界的なファイナンシャルクライシスの引き金となった出来事が起きたのはちょうど1年前の昨年9月だ。
世界的株価大暴落を記録したブラックマンデーは1987年10月19日、さらにさかのぼってウォール街の大暴落 が起きた1929年のブラックサースデーは10月24日、とともに10月に起きている。ただ9月時点でその兆しを見えていたと言う(もちろんあとから「兆し」を指摘するのは簡単なのは承知の上で)。
Dow Jones Industry Averageによると、株価1日あたりの下降率では10月が最悪月とされているが、1950年から2008年までの月あたり変動率の平均値を見ると9月が飛び抜けて悪い。そもそも9月以外はプラス方向に伸びている平均値が、9月だけマイナス値という散々な結果なのだ。
昨年の9月にはDow Jones Industrial Average の昨年9月の下降率は6%で異常だったとしても、1929年以来9月の平均変動率はマイナス1.4%。一方S&P500に関しても、9月の平均変動率は1929年以来マイナス1.3%となっていて、唯一マイナスを記録した月になっている。
では何故9月なのか?
まずは、心理的な要素が大きいと言われている。もちろん今年に限っては去年の苦い経験がまだ記憶に新しいが、それ以前からも前述のような統計に基づいて、9月というと何かと不安になってしまう投資家も多いという。「9月は呪われた月」という連想によって投資を控える心理が働くらしい。また9月と言えばバケーションが終わり、冬に向けて一日一日が短くなって時期でもあり、全体的にネガティブなムードになりがちだ。今まで望みも薄く持ち続けていた株を、投資家が一気に処分してすっきりしたくなる時期だったりもするらしい。ちょっと気の早い年末大掃除と言ったところだろうか。
また一般的に、1年の後半は投資活動が鈍ると言われている。ボーナスや早めの税金申告によって戻ってきたキャッシュも、個人年金積立て制度 や401k(確定拠出型年金制度)につぎ込むケースが多いのだ。
他の要素としては、9月は第3四半期の最終月であるため、多くのアナリストが企業の業績見込みや評価を下げるということ。あと1四半期を残し、楽観的な評価を現実的(保守的?)な評価に下げる時期だ。企業側も1年の終わりに近づき、業績予想修正をかけたりする。
ただし、今年の9月はいつもの9月とは違いそうだ。失業率は相変わらず高いものの、住宅市場は回復の兆しを見せ始めているし、Consumer Confidence(消費者信頼感指数)も上昇傾向にある。9月中旬までは特に株価が落ち込んだ様子もなく、順調に伸びている。ここ数ヶ月の傾向としても、一端下降してもすぐに復活する場合が多い。回復のサイクルが早いので、一端売りに出た投資家もマーケットの回復を見込んで戻ってくる、というパターンが多く見られている。今年の9月は汚名を回復できるのか。
世界的株価大暴落を記録したブラックマンデーは1987年10月19日、さらにさかのぼってウォール街の大暴落 が起きた1929年のブラックサースデーは10月24日、とともに10月に起きている。ただ9月時点でその兆しを見えていたと言う(もちろんあとから「兆し」を指摘するのは簡単なのは承知の上で)。
Dow Jones Industry Averageによると、株価1日あたりの下降率では10月が最悪月とされているが、1950年から2008年までの月あたり変動率の平均値を見ると9月が飛び抜けて悪い。そもそも9月以外はプラス方向に伸びている平均値が、9月だけマイナス値という散々な結果なのだ。
昨年の9月にはDow Jones Industrial Average の昨年9月の下降率は6%で異常だったとしても、1929年以来9月の平均変動率はマイナス1.4%。一方S&P500に関しても、9月の平均変動率は1929年以来マイナス1.3%となっていて、唯一マイナスを記録した月になっている。
では何故9月なのか?
まずは、心理的な要素が大きいと言われている。もちろん今年に限っては去年の苦い経験がまだ記憶に新しいが、それ以前からも前述のような統計に基づいて、9月というと何かと不安になってしまう投資家も多いという。「9月は呪われた月」という連想によって投資を控える心理が働くらしい。また9月と言えばバケーションが終わり、冬に向けて一日一日が短くなって時期でもあり、全体的にネガティブなムードになりがちだ。今まで望みも薄く持ち続けていた株を、投資家が一気に処分してすっきりしたくなる時期だったりもするらしい。ちょっと気の早い年末大掃除と言ったところだろうか。
また一般的に、1年の後半は投資活動が鈍ると言われている。ボーナスや早めの税金申告によって戻ってきたキャッシュも、個人年金積立て制度 や401k(確定拠出型年金制度)につぎ込むケースが多いのだ。
他の要素としては、9月は第3四半期の最終月であるため、多くのアナリストが企業の業績見込みや評価を下げるということ。あと1四半期を残し、楽観的な評価を現実的(保守的?)な評価に下げる時期だ。企業側も1年の終わりに近づき、業績予想修正をかけたりする。
ただし、今年の9月はいつもの9月とは違いそうだ。失業率は相変わらず高いものの、住宅市場は回復の兆しを見せ始めているし、Consumer Confidence(消費者信頼感指数)も上昇傾向にある。9月中旬までは特に株価が落ち込んだ様子もなく、順調に伸びている。ここ数ヶ月の傾向としても、一端下降してもすぐに復活する場合が多い。回復のサイクルが早いので、一端売りに出た投資家もマーケットの回復を見込んで戻ってくる、というパターンが多く見られている。今年の9月は汚名を回復できるのか。
2009年9月4日金曜日
Cause Marketing(マーケティングを通した社会貢献)の落とし穴?
日本でも企業の社会貢献、という話題を耳にするようになってだいぶ発つが、最近その一つとして考えられる「コーズマーケティング」についての面白い記事を目にしたので紹介したい。
まずは、一言でマーケティングと言っても、タイプや定義によっていろんな名前がついている。主なものには、buzz marketing(バズマーケティング)、草の根マーケティング、viral marketing(口コミ)、Influencer marketing, Cause marketing(コーズマーケティング)。これらは必ずしも相互に排他的ではないので、バズマーケティングでもありながら口コミマーケティングとも分類される例もある。
その中で、コーズマーケティングとは、「社会主義に敏感な人々から敬意やサポートを集めるために社会正義をサポートすること」と定義されている。社会問題に積極的に取り組んでいる企業を消費者がサポートすることにより、企業のイメージは向上、売り上げも向上、そして消費者も社会問題に貢献できる(少なくとも、そういう達成感が得られる)。企業はその結果新しい消費者層にアピールできる、社員の士気を高めるなどの付属的な効果も期待できる。
このコーズマーケティングにアメリカで毎年費やされる金額、ある団体の調査によると、1983年にはほぼゼロだったのが、2006年には13億ドル(1300億円)までに達したという。
例えばスーパーで洗剤を選ぶ際に、一つのメーカーは環境問題に取り組むNPOに売り上げの一部を寄付しているが、別のメーカーは売り上げのすべてが洗剤会社に行く。2つの商品の値段が対して変わらないとすると、大半の消費者は前者を選ぶだろう。何故なら同じ値段を払っても一方は社会貢献したという自己満足が得られるが、もう一方は何の得もないから。消費者にとっての負担は同じであるのにも関わらず、一つ目の商品の方が得した感が強いのだ(物理的に得するわけではないけど、心理的に得した気分になる)。
アメリカで代表的なプログラムにはProduct Red(プロダクトレッド)キャンペーンとPink ribbon(ピンクリボン)キャンペーンというのがある。Product Redは2006年にカリフォルニア州の政治家Robert Shriverによって始まり、U2のリードボーカルのBonoがプロモートしていることでも有名。参加企業はGap, Dell, Appleという蒼々たる顔ぶれで、売り上げの一部がAIDSやマラリア、ツベルクリンなどの問題に取り組むNPOに寄付されている。
ピンクリボンキャンペーンとは、同様に企業の売り上げの一部を乳癌をサポートする研究機関などNPOへ寄付するプログラムだ。毎年10月にキャンペーン期間が設定され、ヨープレイン(ヨーグルトの会社)、コーンフレークの会社、化粧品会社、キャンベルスープ、と大手企業が名前を連ねる。こちらも蒼々たる有名人が協力することで有名だ。1991年に創設されて以来、130もの企業が参加し、3,000万ドル(30億円)近い寄付金を集めたという。
それだけ聞くと企業にとっても消費者にとっても、そして社会にとってもメリットがあるバラ色のマーケティング手法のように見えるが、このコーズマーケティング、短期的には見えないコストが隠れている。
問題点その1は、企業がこの手のキャンペーンに参加することによって、社会問題取り組みへの責任を果たしたかのような錯覚に陥ったり、根本的な問題を見逃しかねないこと。例えば過去にいくつもの企業で問題になったように、商品を作る過程でアンフェアな労働条件や児童労働を使って、商品を生産しているかもしれない。もしくは、生産過程で環境を害する物質を廃棄しているかもしれない。にも関わらず、環境問題に取り組むNPOや途上国の発展を促す組織に売り上げ金の一部を寄付する、というのはそもそも矛盾している気がするし、企業は責任逃れをしているようにも見られる。マーケティングという表面的なイメージによってそもそもの根深い問題が隠されてしまうのだ。
問題点その2は、消費者にとっての気軽さにある。本来「社会問題」とは、その現実や課題を学んで理解して、一緒に解決策を考えていくのが理想的な取り組みだが、コーズマーケティングはそのようなプロセスをすっ飛ばして、消費者があまりにも気軽に「社会貢献」したかのような気になれてしまう。その結果、問題の根本を見たり考えたりする機会を失い、同時に大きな社会問題があたかも簡単に解決できてしまうかのような錯覚にすら陥ってしまいかねない。また、消費することによって社会問題解決に貢献する、というのも何だか矛盾があるような気がする。消費や無駄を押さえよう、という中で消費することを正当化する企業の思惑にすぎない、とも言えない。
そして第3の問題点は、必ずしも正確ではない認識やイメージを消費者に与えてしまうこと。例えば前述のピンクリボンキャンペーン、成功して急速に認知度を高めた結果、乳がんに対する認識や関心は急激に高まったが、同時に乳がんがもっとも多い死因だというイメージも与えてしまった。実際にはアメリカの女性の中で一番多い死因は乳がんではなく心臓病で、35〜64歳の女性に限って言えば癌で亡くなるケースが一番多いものの、癌の中でも一番多いのは皮膚がんであり、乳がんではないらしい。
日本ではまだ馴染みの薄いコーズマーケティングだが、企業の社会責任が問われる中で今後一層このような手法が広まることが予想される。
ではどうすれば以上のような事態が防げるのか?批判するのは簡単だけど、代替策を提案するのは難しい。まず企業は、根本的な問題に取り組むこと。具体的には社員の扱いや生産過程での無駄や公害を減らしたり、労働条件を改善すること。消費者として気をつけることは、不要な消費を通して社会問題に貢献したような錯覚に陥らないように気をつけること、そして問題の根本的なところに目を向けるように意識することなどが第一歩と言えるだろう。
まずは、一言でマーケティングと言っても、タイプや定義によっていろんな名前がついている。主なものには、buzz marketing(バズマーケティング)、草の根マーケティング、viral marketing(口コミ)、Influencer marketing, Cause marketing(コーズマーケティング)。これらは必ずしも相互に排他的ではないので、バズマーケティングでもありながら口コミマーケティングとも分類される例もある。
その中で、コーズマーケティングとは、「社会主義に敏感な人々から敬意やサポートを集めるために社会正義をサポートすること」と定義されている。社会問題に積極的に取り組んでいる企業を消費者がサポートすることにより、企業のイメージは向上、売り上げも向上、そして消費者も社会問題に貢献できる(少なくとも、そういう達成感が得られる)。企業はその結果新しい消費者層にアピールできる、社員の士気を高めるなどの付属的な効果も期待できる。
このコーズマーケティングにアメリカで毎年費やされる金額、ある団体の調査によると、1983年にはほぼゼロだったのが、2006年には13億ドル(1300億円)までに達したという。
例えばスーパーで洗剤を選ぶ際に、一つのメーカーは環境問題に取り組むNPOに売り上げの一部を寄付しているが、別のメーカーは売り上げのすべてが洗剤会社に行く。2つの商品の値段が対して変わらないとすると、大半の消費者は前者を選ぶだろう。何故なら同じ値段を払っても一方は社会貢献したという自己満足が得られるが、もう一方は何の得もないから。消費者にとっての負担は同じであるのにも関わらず、一つ目の商品の方が得した感が強いのだ(物理的に得するわけではないけど、心理的に得した気分になる)。
アメリカで代表的なプログラムにはProduct Red(プロダクトレッド)キャンペーンとPink ribbon(ピンクリボン)キャンペーンというのがある。Product Redは2006年にカリフォルニア州の政治家Robert Shriverによって始まり、U2のリードボーカルのBonoがプロモートしていることでも有名。参加企業はGap, Dell, Appleという蒼々たる顔ぶれで、売り上げの一部がAIDSやマラリア、ツベルクリンなどの問題に取り組むNPOに寄付されている。
ピンクリボンキャンペーンとは、同様に企業の売り上げの一部を乳癌をサポートする研究機関などNPOへ寄付するプログラムだ。毎年10月にキャンペーン期間が設定され、ヨープレイン(ヨーグルトの会社)、コーンフレークの会社、化粧品会社、キャンベルスープ、と大手企業が名前を連ねる。こちらも蒼々たる有名人が協力することで有名だ。1991年に創設されて以来、130もの企業が参加し、3,000万ドル(30億円)近い寄付金を集めたという。
それだけ聞くと企業にとっても消費者にとっても、そして社会にとってもメリットがあるバラ色のマーケティング手法のように見えるが、このコーズマーケティング、短期的には見えないコストが隠れている。
問題点その1は、企業がこの手のキャンペーンに参加することによって、社会問題取り組みへの責任を果たしたかのような錯覚に陥ったり、根本的な問題を見逃しかねないこと。例えば過去にいくつもの企業で問題になったように、商品を作る過程でアンフェアな労働条件や児童労働を使って、商品を生産しているかもしれない。もしくは、生産過程で環境を害する物質を廃棄しているかもしれない。にも関わらず、環境問題に取り組むNPOや途上国の発展を促す組織に売り上げ金の一部を寄付する、というのはそもそも矛盾している気がするし、企業は責任逃れをしているようにも見られる。マーケティングという表面的なイメージによってそもそもの根深い問題が隠されてしまうのだ。
問題点その2は、消費者にとっての気軽さにある。本来「社会問題」とは、その現実や課題を学んで理解して、一緒に解決策を考えていくのが理想的な取り組みだが、コーズマーケティングはそのようなプロセスをすっ飛ばして、消費者があまりにも気軽に「社会貢献」したかのような気になれてしまう。その結果、問題の根本を見たり考えたりする機会を失い、同時に大きな社会問題があたかも簡単に解決できてしまうかのような錯覚にすら陥ってしまいかねない。また、消費することによって社会問題解決に貢献する、というのも何だか矛盾があるような気がする。消費や無駄を押さえよう、という中で消費することを正当化する企業の思惑にすぎない、とも言えない。
そして第3の問題点は、必ずしも正確ではない認識やイメージを消費者に与えてしまうこと。例えば前述のピンクリボンキャンペーン、成功して急速に認知度を高めた結果、乳がんに対する認識や関心は急激に高まったが、同時に乳がんがもっとも多い死因だというイメージも与えてしまった。実際にはアメリカの女性の中で一番多い死因は乳がんではなく心臓病で、35〜64歳の女性に限って言えば癌で亡くなるケースが一番多いものの、癌の中でも一番多いのは皮膚がんであり、乳がんではないらしい。
日本ではまだ馴染みの薄いコーズマーケティングだが、企業の社会責任が問われる中で今後一層このような手法が広まることが予想される。
ではどうすれば以上のような事態が防げるのか?批判するのは簡単だけど、代替策を提案するのは難しい。まず企業は、根本的な問題に取り組むこと。具体的には社員の扱いや生産過程での無駄や公害を減らしたり、労働条件を改善すること。消費者として気をつけることは、不要な消費を通して社会問題に貢献したような錯覚に陥らないように気をつけること、そして問題の根本的なところに目を向けるように意識することなどが第一歩と言えるだろう。
2009年8月31日月曜日
9月に新製品発表?業界の枠を超えて伸び続けるiPhoneとiPodのこれまで
今年も早いもので、もうすぐ9月を迎えようとしている。アメリカの9月と言えば学校の始まる時期なので、新生活のスタートという清々しい印象が強い。これは企業にとっても同様で、9月はビジネス界にとっても大きな節目の時期だ。例えば住宅マーケット、学校が始まる9月までに引っ越しを済ませたいという理由で夏休み中は需要が高まり、新学期が始まると落ち着く傾向にあると言われる。小売業については、9月はクリスマス商戦の幕開け。「新学期セール」なるものを打ち出して新生活に備える顧客を魅了しようとする一方で、サンクスギビングやクリスマスなどのホリデー商戦を目前に控え、新商品を打ち出したり、そのマーケティングに力を入れ出す時期である。多くのアメリカの小売業にとって、ホリデーシーズンの売り上げはその一年の業績を決めるほど大きな影響力を持つ。社運がかかっている、と言っても過言ではないのだ。ここシリコンバレーも例外ではなく、毎年この時期に「バズ」を繰り出す常連企業がいくつかある。その筆頭に名を挙げるのはアップルだ。
アップルは毎年9月に新しい目玉商品を発表してきたという歴史もあり、8月後半にさしかかった今、今年のアップルはどんな商品で世間を驚かせるのかというのがブロガーやコミュニティの間で話題になっている。ここ近年のアップル主流商品と言えばiPodとiphone だけに、それらの進化版が出てくるのではという憶測が強い。
では、まずは最近のアップルの業績状況、特にiPhoneとiPodに焦点を絞って見てみたい。
<グラフ1>は iPhoneの売上数と売上高を示したものだ。2007年の発売以来、前年同期比は300〜8000%にまでに及び(グラフのスケールに違いすぎるため、グラフからは割愛)、順調な伸びを示している。売上数の変動は3G, 3GSなど新バージョンの発売時期に合わせて明確に上下しているが、それでも売上高は着実に伸びているようだ。
<グラフ2>では、同様にiPod(iPod basic, iPod mini, iPod nano, shuffle, iPod touch) の売上数と売上高、またそれに加えて売上数と売上高の前年同期比も一緒にプロットしてみた。
このグラフからもわかるように、先四半期の2009年第3四半期(2009年4月〜6月)には売上数1,020万個という7%の減少を示し、2001年の発売以来初めて、前年同期比マイナスを記録した。(ちなみにアップルの会計年度はカレンダーイヤーよりも3ヶ月遅れているので、第3四半期は7〜9月ではなく、4〜6月となる)
では、実際この2つのプロダクトラインを比較した際、アップルのプロダクトの中で「スター」の座を獲得したのはどっちなのか?ここ近年の話題性から判断すると断然iPhoneだという気がするが、実際の「実力」、つまり売上高に対する貢献度はどのようになっているのか。<グラフ3>では、アップル全体の売上高に対してiPhoneとiPodそれぞれの貢献度をプロットしてみた。すると意外なことに、実力に基づく「スター」の座についていたのは、先四半期までiPod。そしてそれが入れ替わったのは、たった数ヶ月前のことだった。
ここでさらに、7月の業績報告で明らかにされた面白いデータを紹介したい。この鈍化傾向にあるiPodカテゴリの中で、実は倍以上に売り上げを伸ばした商品が一つだけあると言う。それはiPod touch だった。逆に言うと、iPod touchの好調な売り上げによってiPod全体へのダメージは最小限に押さえられた、とも言えるだろう。(詳細な内訳データは残念ながら非公開)
では、iPod touchとは何者なのか?2007年9月に発表され(これも9月!)、簡単に言えば、電話機能のないiPhoneだ。iPhoneと同じバージョン Mac OS Xが搭載されているので、標準のiPodの機能に加えて、ユーチューブのビデオを見たり、メールしたり、ウェブサーフィンしたりというのも問題なくできる。アップルは公式な内訳数を公開していないが、 今までの売り上げは2,000万個と見られている。
ここで前後するが、アップル恒例の9月の新商品お披露目の予測に話を戻したい。実は多くの業界人やブロガーは、 今年はiPod touch関連、もしくはその進化版では?という予測をたてているのだ。どのように変身するかというアイディアは様々だが、堅実なところでは、メモリーが 2倍になり、カメラ機能が搭載されることにより、写真をブログにアップロードしたり、ビデオを撮ってYoutubeにアップロードできるようになるだろう、などなど。
ある記事によるとマイク機能もつくとか。となると、電話機能はないものの、スカイプなどを使ってインターネット電話が可能になる。つまりいわゆるキャリアを通した電話はかけられないものの、広い定義での「電話機能」は備えることになり、「電話機能のないiPhone」というジレンマ(?)から脱することができるかもしれない。
またさらには、Amazon Kindleに対抗したような電子本機能も備えるのでは、という噂も。すでに McGraw Hill や Pearson を含んだ12の大手教科書出版社がiPhoneと iPod touchへのコンテンツ提供の話をアップルと進めてるという話も出ている。となると、電話や音楽プレーヤーの域を超えて、現在はアマゾンが独占している電子本業界 (Amazon Kindle DX )、さらには出版業界の域まで踏み込んでくることになる。しかもここまで機能を備えてくると、ネットブック業界もうかうかしていられないだろう。
‘phone’じゃないからiPhoneの仲間に入れてもらえないiPod touch, でも機能性的にはiPodという枠には収まらない多様性を兼ね備えている。何だか、どこにもフィットできないはみ出しもの、みたいな可哀想な気すらしてくるが、この9月でさらに進化を遂げて、ついにiPhoneの仲間入りができるのか、はたまたiPhoneにもないような機能までを身につけてスターの座を奪回するのか。。。楽しみなところだ。
そして最後にちょっと余談。以前のTwitterの記事の中でも書いたけど、この業界について面白いなと思うのは、「業界」とか「カテゴリ」という垣根がないこと。ソーシャルネットワークというカテゴリで誕生したTwitterが、検索を脅かす(というか魅了する?)存在にまで成長している。iPodももともとは携帯型音楽プレーヤーだったのが、iPod touch という形に進化して、今では電子本、ネットブックやゲーム機までを脅かす存在にまでなっている。
今から10年前、どれだけの出版業者がアップルを潜在的な脅威と見ただろう?もしかしたらこの先10年後には、アップルは思いもよらない業界に進出しているかもしれない。例えば住宅業界、なんてことも?何の根拠もないけど、そんな無責任な想像してみるのも面白い。
とりあえず今は10年後よりも来月、ということで、アップルが9月にどう世間を驚かしてくれるのかを楽しみにしたい。
アップルは毎年9月に新しい目玉商品を発表してきたという歴史もあり、8月後半にさしかかった今、今年のアップルはどんな商品で世間を驚かせるのかというのがブロガーやコミュニティの間で話題になっている。ここ近年のアップル主流商品と言えばiPodとiphone だけに、それらの進化版が出てくるのではという憶測が強い。
では、まずは最近のアップルの業績状況、特にiPhoneとiPodに焦点を絞って見てみたい。
<グラフ1>は iPhoneの売上数と売上高を示したものだ。2007年の発売以来、前年同期比は300〜8000%にまでに及び(グラフのスケールに違いすぎるため、グラフからは割愛)、順調な伸びを示している。売上数の変動は3G, 3GSなど新バージョンの発売時期に合わせて明確に上下しているが、それでも売上高は着実に伸びているようだ。
<グラフ2>では、同様にiPod(iPod basic, iPod mini, iPod nano, shuffle, iPod touch) の売上数と売上高、またそれに加えて売上数と売上高の前年同期比も一緒にプロットしてみた。
このグラフからもわかるように、先四半期の2009年第3四半期(2009年4月〜6月)には売上数1,020万個という7%の減少を示し、2001年の発売以来初めて、前年同期比マイナスを記録した。(ちなみにアップルの会計年度はカレンダーイヤーよりも3ヶ月遅れているので、第3四半期は7〜9月ではなく、4〜6月となる)
では、実際この2つのプロダクトラインを比較した際、アップルのプロダクトの中で「スター」の座を獲得したのはどっちなのか?ここ近年の話題性から判断すると断然iPhoneだという気がするが、実際の「実力」、つまり売上高に対する貢献度はどのようになっているのか。<グラフ3>では、アップル全体の売上高に対してiPhoneとiPodそれぞれの貢献度をプロットしてみた。すると意外なことに、実力に基づく「スター」の座についていたのは、先四半期までiPod。そしてそれが入れ替わったのは、たった数ヶ月前のことだった。
ここでさらに、7月の業績報告で明らかにされた面白いデータを紹介したい。この鈍化傾向にあるiPodカテゴリの中で、実は倍以上に売り上げを伸ばした商品が一つだけあると言う。それはiPod touch だった。逆に言うと、iPod touchの好調な売り上げによってiPod全体へのダメージは最小限に押さえられた、とも言えるだろう。(詳細な内訳データは残念ながら非公開)
では、iPod touchとは何者なのか?2007年9月に発表され(これも9月!)、簡単に言えば、電話機能のないiPhoneだ。iPhoneと同じバージョン Mac OS Xが搭載されているので、標準のiPodの機能に加えて、ユーチューブのビデオを見たり、メールしたり、ウェブサーフィンしたりというのも問題なくできる。アップルは公式な内訳数を公開していないが、 今までの売り上げは2,000万個と見られている。
ここで前後するが、アップル恒例の9月の新商品お披露目の予測に話を戻したい。実は多くの業界人やブロガーは、 今年はiPod touch関連、もしくはその進化版では?という予測をたてているのだ。どのように変身するかというアイディアは様々だが、堅実なところでは、メモリーが 2倍になり、カメラ機能が搭載されることにより、写真をブログにアップロードしたり、ビデオを撮ってYoutubeにアップロードできるようになるだろう、などなど。
ある記事によるとマイク機能もつくとか。となると、電話機能はないものの、スカイプなどを使ってインターネット電話が可能になる。つまりいわゆるキャリアを通した電話はかけられないものの、広い定義での「電話機能」は備えることになり、「電話機能のないiPhone」というジレンマ(?)から脱することができるかもしれない。
またさらには、Amazon Kindleに対抗したような電子本機能も備えるのでは、という噂も。すでに McGraw Hill や Pearson を含んだ12の大手教科書出版社がiPhoneと iPod touchへのコンテンツ提供の話をアップルと進めてるという話も出ている。となると、電話や音楽プレーヤーの域を超えて、現在はアマゾンが独占している電子本業界 (Amazon Kindle DX )、さらには出版業界の域まで踏み込んでくることになる。しかもここまで機能を備えてくると、ネットブック業界もうかうかしていられないだろう。
‘phone’じゃないからiPhoneの仲間に入れてもらえないiPod touch, でも機能性的にはiPodという枠には収まらない多様性を兼ね備えている。何だか、どこにもフィットできないはみ出しもの、みたいな可哀想な気すらしてくるが、この9月でさらに進化を遂げて、ついにiPhoneの仲間入りができるのか、はたまたiPhoneにもないような機能までを身につけてスターの座を奪回するのか。。。楽しみなところだ。
そして最後にちょっと余談。以前のTwitterの記事の中でも書いたけど、この業界について面白いなと思うのは、「業界」とか「カテゴリ」という垣根がないこと。ソーシャルネットワークというカテゴリで誕生したTwitterが、検索を脅かす(というか魅了する?)存在にまで成長している。iPodももともとは携帯型音楽プレーヤーだったのが、iPod touch という形に進化して、今では電子本、ネットブックやゲーム機までを脅かす存在にまでなっている。
今から10年前、どれだけの出版業者がアップルを潜在的な脅威と見ただろう?もしかしたらこの先10年後には、アップルは思いもよらない業界に進出しているかもしれない。例えば住宅業界、なんてことも?何の根拠もないけど、そんな無責任な想像してみるのも面白い。
とりあえず今は10年後よりも来月、ということで、アップルが9月にどう世間を驚かしてくれるのかを楽しみにしたい。
2009年8月4日火曜日
驚異の顧客主義「Zappos.com」 ネットで靴を売るためにはここまでやる!
先月末、Amazon.comがオンライン靴販売サイトZappos(ザッポス)の買収を発表した。買収額は8億ドルとも900億ドルとも言われている。Amazon自体、2007年に独自の靴販売サイトendless.com を立ち上げていたが、このサイトはいまいち伸び悩みを見せていたため(赤字続きだとの噂もあり)、急速に伸びている競合のZapposの買収に踏み切ったと思われる。
Zapposは1999年に創立、靴を中心に衣料、バッグ、アクセサリーなどをオンラインで販売していて、ラスベガスに本社を持つ。 ここ最近では不景気にも関わらず、2008年には20%近い伸びを示した結果、予測よりも2年早く売り上げが$1 billion(10億ドル)に達したことで話題になった。
以下のグラフは、Zapposのセールスの伸びと、オンライン小売業全体のセールス(靴に限らず、小売業すべて含む)に占めるZapposのセールスの割合の伸びを示している。
ここからもわかるように、2つの指標とも、不景気にも関わらず急激な伸びを見せている。もちろんZapposも不景気の影響をまったく受けていないわけではなく、今年はじめには小規模なリストラなどコスト削減を余儀なくされたが、それはどの会社でも起こっていること。それ以上に特に目立った打撃は受けていないようだ。
アパレルや靴関連のオンライン販売なんて競争が激しく、また差別化がとても難しそうだが、そんな中で知名度を一気に広め、急成長を遂げたのにはいくつかの理由がある。
まずは徹底したカスタマサポート。24時間年中無休のコールセンターと無料の送料・返送料(365日以内の返品はOK)を基本的なポリシーとして掲げている。それに加えて全国4営業日での配送を確約しているが、多くの場合は翌日には配送されると言う。つまり確約を満たせば良し、とするのではなく、ユーザの期待を常に超えることを目的としている。
また、電話での対応も徹底している。最近ではコストや余計なトラブルを最小限に押さえるため、電話番号をウェブサイト上の目に着きやすい場所には載せず、メールやオンラインで質問や苦情を申告するようにユーザを導こうとする小売業サイトが増えている。サイトによっては、ホームページから10回くらいクリックした挙げ句にようやく隅に小さく書かれたカスタマサポートの番号を見つける、という例も少なくない。
その一方でZapposのサイトに行くと、フリーダイヤルの番号は全ページの一番上に記載されている。彼らのコールセンターでは、台本なし、時間制限なし、冷たい自動音声的な対応なし、というように、物騒な対応をされる伝統的なカスタマーサポートとはまったく異なる経験を提供している。
ただそれだけだったら、他の競合が真似できないこともなさそうだが、彼らのカスタマーサポートを特別なものにしているのは、そう言った文面に書かれたポリシーだけではなく、徹底したお客様主義が浸透しているその企業文化だ。
その象徴的な例は、それだけ重用視しているカスタマサポートの採用方法だ。
Zapposは新たにカスタマサポート要員を採用する際、4週間のトレーニングを義務づけ、ここでみっちりと会社の戦略、文化、顧客第一主義を叩き込む。トレーニング終了後に「オファー」が出されるのだが、その内容が普通じゃない。「今日会社を辞めれば、トレーニングを含めた今までの業務時間の給料に加えて、1000ドルのボーナスを払う」というのだ。会社としてトレーニングを受けさせるという投資をした上に、社員にボーナスを払って辞めさせるってどういうことなのか?
実はこのオファー、新社員に対する最終試験でもあり、1000ドルの現金に目がくらんで辞めるような社員であれば、この仕事に対する長期的な熱意や覚悟が足らず、そんな人員は不要だと言うことらしい。もし会社と新入社員の相性が悪いようであれば、無理して残ってもらうよりもお金を出してでも辞めてもらった方がお互いのために良い結果になる。それだけ強烈なカルチャーだということ、また、それだけカルチャーを重視しているということの裏付けとも言えるだろう。トレーニングを受けたコールセンターの新入社員の10%程度はこの時点で現金を選んで、会社を辞めていくという。
このオファー(退職金?)、そもそもは100ドルから始まったのだが、その後500ドルになり、1000ドルにまでなった。
ではこの会社の差別化のポイントは、お客様主義を徹底したカスタマサポート重視の文化だけなのか?
もう一つ面白い特徴を発見。それはソーシャルネットワークの積極的な活用だ。
Forresterリサーチによると、今日では、ネット利用者がソーシャルネットワークに費やす時間がemailに費やす時間を超えているらしい。また、トップ500のオンライン小売業サービス提供者のうち56.8%が フェースブック、28.6%がmyspaceにページを持ち、41.4%がユーチューブにチャンネルを持ち、20.4%がTwitterにアカウントを持っている。その統計データを見ると、Zapposがソーシャルネットワークを活用しているのも当然のように見える。ただその活用のレベルが半端ではなく、これまた「徹底」しているのだ。
と言うのも、ZapposのCEO Tony Hsieh自身が熱烈なソーシャルネットワーク、特にTwitterファン。会社についてのビデオブログを一日に最低一度は更新、社員の間でTwitterを使って状況を更新し合うサイトまで立ち上げている(もちろん他のTwitterのアカウントと同様、一般に公開)。
これは、以前にこのブログで紹介したような「新商品情報を発信」と言ったような典型的な企業の活用方法とはちょっと異なる。直接的なマーケティングツールとして利用しているわけではなく、どちらかと言うと社員が友達同士と話すノリで「今何してる?」という問いについて情報交換していて、それを外部にも公開しているのだ。外部に対する情報発信よりも、社内のコミュニケーションツールとして利用、社員間の結束を高める狙いが大きいと思われる。で、その結果、その様子が外部にも公開されて、「仲が良さそうで楽しそうな会社だな」とポジティブなイメージをアピールできればラッキー。
実際、メディアを通した大規模なマーケティングなんてする余裕がない小さいスタートアップのイメージって、そういったことの積み重ねで確立されていくことが多い。(最近Zapposのテレビコマーシャルを見かけたので、最近ではそういう余裕も出てきたのかもしれないけど、それもここ最近だけの話で、今までの積み重ねはすべて口コミと思われる)
でもその効果ってどうやって量れるのか?企業文化が企業の業績に対して持つ影響力って直接的に量ることは難しいが、間接的にそれを証明するようなデータを紹介したい。
まずわかりやすいのは、 雑誌Fortune による “100 best companies to work for” 入りを果たしたということ。これは給与やボーナスなど金銭なベネフィット、文化、給与以外の福利厚生、研修の充実、キャリア展開へのサポート、社員へのアンケートなどいくつかの観点から働くのにベストな企業をランキングしている。社員がハッピーな会社はさらに有能な社員を引きつけ、好循環が続く。
もう一つのデータポイントは、新規ユーザがどのようにZapposを知ったかと言うこと。
44 % のZappos新規ユーザーはオンライン上での広告によりサービスを知り、 43%はいわゆる口コミで知ったという。口コミ効果がここまで高いというのは、友達から聞いたり、誰かのブログで話題になったり、会社の特徴がビジネス関連の記事で取り上げられたりということの積み重ね、つまり徹底したカスタマサポートや強い企業文化が多く話題になって注目を浴びたことの結果だろう。多少間接的だが、ある意味企業文化が業績に好影響を与えたことの裏付けだとも言える。
また、ここまで口コミ効果が高いのなら、メディア広告に高額を投資するより、サービス自体の向上に投資した方が賢い。「ユーザーが快適にサービスを利用できるようにサービスの質向上に努力していれば、ユーザは自然に良い評判を流してくれる」、というのが彼らの信念で、上のデータはそれを見事に証明している。
そして最後に興味深いのは、以上に紹介した点がすべてうまくつながっていること。
顧客重視の文化を作りあげてそれを新入社員だけでなくて外部にも公開。それによって口コミ効果は一層高まり(もちろんカスタマサポートの質の高さも大きな要素)、顧客数とともに組織も拡大。文化がカギなわけだから、新入社員の採用が慎重に行う。選ばれた社員たちは、トレーニングとソーシャルネットワークを通して文化をさらに強化していく。
オンラインでの靴マーケットはまだ成長の余地があると予測されている。アマゾンに買収されたことで、今後の海外進出もやりやすくなるだろう。この強烈な文化をいかに世界中に浸透させていくか、というのが課題の一つだ。
Zapposは1999年に創立、靴を中心に衣料、バッグ、アクセサリーなどをオンラインで販売していて、ラスベガスに本社を持つ。 ここ最近では不景気にも関わらず、2008年には20%近い伸びを示した結果、予測よりも2年早く売り上げが$1 billion(10億ドル)に達したことで話題になった。
以下のグラフは、Zapposのセールスの伸びと、オンライン小売業全体のセールス(靴に限らず、小売業すべて含む)に占めるZapposのセールスの割合の伸びを示している。
ここからもわかるように、2つの指標とも、不景気にも関わらず急激な伸びを見せている。もちろんZapposも不景気の影響をまったく受けていないわけではなく、今年はじめには小規模なリストラなどコスト削減を余儀なくされたが、それはどの会社でも起こっていること。それ以上に特に目立った打撃は受けていないようだ。
アパレルや靴関連のオンライン販売なんて競争が激しく、また差別化がとても難しそうだが、そんな中で知名度を一気に広め、急成長を遂げたのにはいくつかの理由がある。
まずは徹底したカスタマサポート。24時間年中無休のコールセンターと無料の送料・返送料(365日以内の返品はOK)を基本的なポリシーとして掲げている。それに加えて全国4営業日での配送を確約しているが、多くの場合は翌日には配送されると言う。つまり確約を満たせば良し、とするのではなく、ユーザの期待を常に超えることを目的としている。
また、電話での対応も徹底している。最近ではコストや余計なトラブルを最小限に押さえるため、電話番号をウェブサイト上の目に着きやすい場所には載せず、メールやオンラインで質問や苦情を申告するようにユーザを導こうとする小売業サイトが増えている。サイトによっては、ホームページから10回くらいクリックした挙げ句にようやく隅に小さく書かれたカスタマサポートの番号を見つける、という例も少なくない。
その一方でZapposのサイトに行くと、フリーダイヤルの番号は全ページの一番上に記載されている。彼らのコールセンターでは、台本なし、時間制限なし、冷たい自動音声的な対応なし、というように、物騒な対応をされる伝統的なカスタマーサポートとはまったく異なる経験を提供している。
ただそれだけだったら、他の競合が真似できないこともなさそうだが、彼らのカスタマーサポートを特別なものにしているのは、そう言った文面に書かれたポリシーだけではなく、徹底したお客様主義が浸透しているその企業文化だ。
その象徴的な例は、それだけ重用視しているカスタマサポートの採用方法だ。
Zapposは新たにカスタマサポート要員を採用する際、4週間のトレーニングを義務づけ、ここでみっちりと会社の戦略、文化、顧客第一主義を叩き込む。トレーニング終了後に「オファー」が出されるのだが、その内容が普通じゃない。「今日会社を辞めれば、トレーニングを含めた今までの業務時間の給料に加えて、1000ドルのボーナスを払う」というのだ。会社としてトレーニングを受けさせるという投資をした上に、社員にボーナスを払って辞めさせるってどういうことなのか?
実はこのオファー、新社員に対する最終試験でもあり、1000ドルの現金に目がくらんで辞めるような社員であれば、この仕事に対する長期的な熱意や覚悟が足らず、そんな人員は不要だと言うことらしい。もし会社と新入社員の相性が悪いようであれば、無理して残ってもらうよりもお金を出してでも辞めてもらった方がお互いのために良い結果になる。それだけ強烈なカルチャーだということ、また、それだけカルチャーを重視しているということの裏付けとも言えるだろう。トレーニングを受けたコールセンターの新入社員の10%程度はこの時点で現金を選んで、会社を辞めていくという。
このオファー(退職金?)、そもそもは100ドルから始まったのだが、その後500ドルになり、1000ドルにまでなった。
ではこの会社の差別化のポイントは、お客様主義を徹底したカスタマサポート重視の文化だけなのか?
もう一つ面白い特徴を発見。それはソーシャルネットワークの積極的な活用だ。
Forresterリサーチによると、今日では、ネット利用者がソーシャルネットワークに費やす時間がemailに費やす時間を超えているらしい。また、トップ500のオンライン小売業サービス提供者のうち56.8%が フェースブック、28.6%がmyspaceにページを持ち、41.4%がユーチューブにチャンネルを持ち、20.4%がTwitterにアカウントを持っている。その統計データを見ると、Zapposがソーシャルネットワークを活用しているのも当然のように見える。ただその活用のレベルが半端ではなく、これまた「徹底」しているのだ。
と言うのも、ZapposのCEO Tony Hsieh自身が熱烈なソーシャルネットワーク、特にTwitterファン。会社についてのビデオブログを一日に最低一度は更新、社員の間でTwitterを使って状況を更新し合うサイトまで立ち上げている(もちろん他のTwitterのアカウントと同様、一般に公開)。
これは、以前にこのブログで紹介したような「新商品情報を発信」と言ったような典型的な企業の活用方法とはちょっと異なる。直接的なマーケティングツールとして利用しているわけではなく、どちらかと言うと社員が友達同士と話すノリで「今何してる?」という問いについて情報交換していて、それを外部にも公開しているのだ。外部に対する情報発信よりも、社内のコミュニケーションツールとして利用、社員間の結束を高める狙いが大きいと思われる。で、その結果、その様子が外部にも公開されて、「仲が良さそうで楽しそうな会社だな」とポジティブなイメージをアピールできればラッキー。
実際、メディアを通した大規模なマーケティングなんてする余裕がない小さいスタートアップのイメージって、そういったことの積み重ねで確立されていくことが多い。(最近Zapposのテレビコマーシャルを見かけたので、最近ではそういう余裕も出てきたのかもしれないけど、それもここ最近だけの話で、今までの積み重ねはすべて口コミと思われる)
でもその効果ってどうやって量れるのか?企業文化が企業の業績に対して持つ影響力って直接的に量ることは難しいが、間接的にそれを証明するようなデータを紹介したい。
まずわかりやすいのは、 雑誌Fortune による “100 best companies to work for” 入りを果たしたということ。これは給与やボーナスなど金銭なベネフィット、文化、給与以外の福利厚生、研修の充実、キャリア展開へのサポート、社員へのアンケートなどいくつかの観点から働くのにベストな企業をランキングしている。社員がハッピーな会社はさらに有能な社員を引きつけ、好循環が続く。
もう一つのデータポイントは、新規ユーザがどのようにZapposを知ったかと言うこと。
44 % のZappos新規ユーザーはオンライン上での広告によりサービスを知り、 43%はいわゆる口コミで知ったという。口コミ効果がここまで高いというのは、友達から聞いたり、誰かのブログで話題になったり、会社の特徴がビジネス関連の記事で取り上げられたりということの積み重ね、つまり徹底したカスタマサポートや強い企業文化が多く話題になって注目を浴びたことの結果だろう。多少間接的だが、ある意味企業文化が業績に好影響を与えたことの裏付けだとも言える。
また、ここまで口コミ効果が高いのなら、メディア広告に高額を投資するより、サービス自体の向上に投資した方が賢い。「ユーザーが快適にサービスを利用できるようにサービスの質向上に努力していれば、ユーザは自然に良い評判を流してくれる」、というのが彼らの信念で、上のデータはそれを見事に証明している。
そして最後に興味深いのは、以上に紹介した点がすべてうまくつながっていること。
顧客重視の文化を作りあげてそれを新入社員だけでなくて外部にも公開。それによって口コミ効果は一層高まり(もちろんカスタマサポートの質の高さも大きな要素)、顧客数とともに組織も拡大。文化がカギなわけだから、新入社員の採用が慎重に行う。選ばれた社員たちは、トレーニングとソーシャルネットワークを通して文化をさらに強化していく。
オンラインでの靴マーケットはまだ成長の余地があると予測されている。アマゾンに買収されたことで、今後の海外進出もやりやすくなるだろう。この強烈な文化をいかに世界中に浸透させていくか、というのが課題の一つだ。
2009年7月10日金曜日
イラクとTwitter
一時期は話題に上らない日がなかったイラクだが、選挙戦が落ち着いてからは、ニュースのヘッドラインを飾るのは相次ぐ企業の経営破綻や不景気に集中していて、イラク関連のニュースはめっきり減っている。
と思ったら、最近テクノロジー欄でイラクの話題をちらほら見かけるようになった。フェースブックは今年の3月からアラビア語に対応した結果、5月から6月の1ヶ月でユーザ数が400か45,000に激増。またその成長を後押しするかのように、4月に米国務省がGoogle, Twitter, Youtube, AT&T などのエグゼクティブとシリコンバレーのスタートアップ一団をイラクに派遣した。イラク政府の幹部や会社経営陣に対して新しいウェブ技術の導入を紹介、国のトップと国民がコミュニケーションを図る有効な手段としての活用を促すという目的だ。また、テクノロジーを駆使することによって、国の安定化と政治の透明性を高めるという大きなゴールも視野に入れている。
そのツアーの結果、グーグルはYoutubeを使って政治的な報道とか政府からのメッセージを流すことを計画。つまりYouTubeが国営テレビ局のような役割を果たすことになる。またその直後にイラクのサリフ副首相もTwitterを開始、今では1500人程度が’フォロー’している。いかに普及させるかという教育問題はもちろんのこと、インフラが整っていないだけに携帯からの利便性を高めるなどチャレンジは山積みだが、テクノロジーがそうやって世界を変えていくのを見るとわくわくする。
また思いがけないところでテクノロジーの話題と言えば、先週ウィンブルドンを見てたところ、ここでも話題は何故かTwitterに。Serena Williamsが試合前のロッカールームで「飲食禁止」という張り紙を発見、主催者によってロッカールームに用意されているバナナやスナックを食べちゃいけないってこと?とTweetを発信している。試合直前にそんなことする余裕があると言えばさすがだが(そしてもちろんその試合は余裕勝ち)、他にストレッチとか何かやることあるんじゃないかなぁと思ったりする。でもそれだけ病み付きになるということだろう。
と思ったら、最近テクノロジー欄でイラクの話題をちらほら見かけるようになった。フェースブックは今年の3月からアラビア語に対応した結果、5月から6月の1ヶ月でユーザ数が400か45,000に激増。またその成長を後押しするかのように、4月に米国務省がGoogle, Twitter, Youtube, AT&T などのエグゼクティブとシリコンバレーのスタートアップ一団をイラクに派遣した。イラク政府の幹部や会社経営陣に対して新しいウェブ技術の導入を紹介、国のトップと国民がコミュニケーションを図る有効な手段としての活用を促すという目的だ。また、テクノロジーを駆使することによって、国の安定化と政治の透明性を高めるという大きなゴールも視野に入れている。
そのツアーの結果、グーグルはYoutubeを使って政治的な報道とか政府からのメッセージを流すことを計画。つまりYouTubeが国営テレビ局のような役割を果たすことになる。またその直後にイラクのサリフ副首相もTwitterを開始、今では1500人程度が’フォロー’している。いかに普及させるかという教育問題はもちろんのこと、インフラが整っていないだけに携帯からの利便性を高めるなどチャレンジは山積みだが、テクノロジーがそうやって世界を変えていくのを見るとわくわくする。
また思いがけないところでテクノロジーの話題と言えば、先週ウィンブルドンを見てたところ、ここでも話題は何故かTwitterに。Serena Williamsが試合前のロッカールームで「飲食禁止」という張り紙を発見、主催者によってロッカールームに用意されているバナナやスナックを食べちゃいけないってこと?とTweetを発信している。試合直前にそんなことする余裕があると言えばさすがだが(そしてもちろんその試合は余裕勝ち)、他にストレッチとか何かやることあるんじゃないかなぁと思ったりする。でもそれだけ病み付きになるということだろう。
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