2010年12月29日水曜日

ヒップな若手人材がスタートアップの拠点を決める?人材の集まるところに拠点を構えるスタートアップ。

このブログを気軽に「シリコンバレー日記」と名付けたものの、良く調べてみると「シリコンバレー」というエリア名には、定義上21もの町が含まれるらしい。

とは言っても、つい最近までの「シリコンバレー」は、南部のいわゆる「ペニンスラ」が中心だった。ここに含まれるのは、スタンフォード大学の位置するパロアルト(Palo Alto)やレッドウッドシティー(Redwood City)、グーグル本社のあるマウンテンビュー(Mountain View)、さらに南に位置するサンノゼ(San Jose)、サニーベル(Sunnyvale)、サンタクララ(Santa Clara)、クバチーノ(Cupertino)などで、アップル、HP、eBayなどが本社を構えている。

この状況に最近変化が起きている。近年の多くのスタートアップの拠点が、「ペニンスラ」よりさらに北部のサンフランシスコ都市部に移りつつあるのだ。代表するのがZyngaTwitterYelpDiggなどだが、明日のTwitterを目指す無名のスタートアップも、このトレンドに従ってサンフランシスコに拠点を構える傾向が強いようだ。

この背景の一つとしては、ここ近年はやりの産業の性質があげられる。アップル、グーグルやHPに代表されるようなハードウェア系やインフラに投資が必要な産業というよりは、既存のiphone、アンドロイドやfacebookというプラットフォームの上に載せる、いかにクリエイティブなアプリを作るかといったアイディア勝負の競争が繰り広げられているのだ。

となると、スタートアップは若い人材や創造性を備えた人材を求め、必然的にそういう人材の集まる都市部にオフィスを構えるという流れになる。

ライフスタイル的に都会で少しとがった傾向を好む若い人材のことを、こっちでは俗語で「hipster」(ヒップスター)と呼ぶ。仕事には没頭するけどファッションやライフスタイルにもこだわりがある。食通で単にグルメな人もいれば、有機野菜や健康食に没頭する人もいる。環境問題への意識も高いので、Zipcarに代表されるような車のシェアリングサービスも人気がある。洗練された現代のヒッピーといったところだろうか?

この傾向を検証すべく、実際にベンチャーキャピタルからの投資案件数や投資額が都市別にどのような推移を示しているのか、調べてみた。

残念ながら2010年第2〜4四半期のデータは見つけられなかったので、多少2009年から2010年初めにかけての多少古いデータになってしまうが、それでも2009〜2010年にかけての傾向が少なからず掴めると思う。

まずはバックグラウンドとして、州べつのVCからの投資額と投資案件数の推移を比較してみたい。2009年第2四半期〜2010年第1四半期にかけて、不動のトップ3はカリフォルニア州、ボストンのあるマサチューセッツ州、そしてニューヨーク州となっている。カリフォルニアが全体的に下がり気味とは言うものの、まだダントツの一位であることは変わりない。マサチューセッツ州はヘルスケアや環境ビジネスなど、どちらかというと多額の投資を必要とする業界に強いことが投資額%の増加につながっているのだと思われる。一方、カリフォルニアで増えているアプリやゲームの開発などは、それほどの投資額を必要としない。

次に、分野別ではない町ごとの投資額、案件数のランキング。分野に問わず、VCからの投資案件数と投資額を町別にランキングしたものだ。















これまた残念ながら2009年の第2、3四半期のデータしかないのだが、案件数と投資額ともに、サンフランシスコがパロアルト(Palo Alto)やサニーベル(Sunnyvale)を引き離していっきに一位に踊り出ているのが顕著だ。カリフォルニア全体で見ると、マウンテンビュー(Mountain view)、サンタクララ(Santa Clara)、メンロパーク(Menlo Park)などは揃って増加傾向にあるが、逆にパロアルトに関しては、2009年第3四半期から第4四半期にかけて、投資額で100Mドル、約35%の減少となった。

2009年後半と言えば、サンフランシスコに本社を構えるZyngaが、ソーシャルゲーム業界では過去最大の約180億円という投資を受けたタイミングでもあり、ランキングもその影響を強く受けた。マウンテンビューに拠点を構える競合のPlaydomも大きな投資を受けたタイミングではあったが、それでも約43億円なのでZyngaにはとてもかなわない。ちなみにこのplaydom、2010年7月にディズニーに約700億円で買収されている。

次に「インターネット」分野別でのランキングを見てみたい。インターネットという分野に限った条件で、VCからの投資額と投資案件数を町別にランキングしたものだ。こちらについては2009年第3、4四半期と2010年第1四半期のデータが見つかった。
































サンフランシスコはいずれの四半期も、投資案件数と投資額ともに一位であるが、数値自体も一部を除いて上昇していることに注目してもらいたい。2010年第1四半期の投資額は、2位のニューヨークに迫られてきているものの、投資案件数では逆にニューヨークを引き離す形となった。また他のシリコンバレーの町と比較すると、Redwood city、Menlo Park、Mountain View が毎期順位も絶対数値も下げている一方で、サンフランシスコだけが一位の座と数値を保っていることがわかる。


では、この傾向が業界や労働市場にもたらす影響とは?以前にも何度が書いているように、いまや業界の垣根があってないようなもの。検索のグーグルとソーシャルネットワークのフェースブックが競合関係にあり、アップルとグーグルが携帯で競っている。その携帯の上に載るアプリの開発と言えば、手をつけていない会社がないと言えるほどだろう。

垣根がなくなって同じ土俵で勝負するということは、どの会社も同じような人材を欲しがるということ。グーグル、アップルなどの大手が社員用にサンフランシスコから無料のシャトルバスを走らせるようになってから、すでにだいぶ経つが、いまやサンフランシスコに面白いスタートアップが溢れ帰り、1時間以上の通勤をしてまで大手に入社したいという人も減ってきている。

これらのスタートアップの多くは、グーグルなどの買収候補になることも多いので、運が良ければ(もしくは悪ければ?)結果的には買収されてマウンテンビューの本社に吸収されてしまう、というパターンも少なくない。ただそこは、サンフランシスコをこよなく愛するヒップスター。そうなればなったで、またサンフランシスコに拠点を構える新たなスタートアップを見つけて、転職を繰り返していくのだ。

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