2013年3月20日水曜日
口コミによって会社をクビになる日は来るのか
先日紹介したウーバー(Uber)だが、先週、サンフランシスコの本社の外で大きなデモが繰り広げられたという記事を目にした。
デモを主導したのは最近ウーバーの登録から外されたドライバーたちだ(正式な社員ではないので、「クビ」ではない)。会社から不当な扱いを受けたというクレームで、会社の文化を「アプリを利用したバーチャルなスウェットショップ」と表現している。
インタビューを受けたデモに参加していたドライバーによると、先月だけで500人のドライバーが登録を外され、その一方で、最近新たに登録されたドライバーの中にはプロのドライバーとして商業用の保険を持っていない"soccer mom"(子供のサッカーの試合の送り迎えに忙しい子育て真っ盛りのママのこと)や大学を卒業したての"kids"が含まれているという。
ウーバーの差別化はそのタイムリーさと高サービスなので、ドライバーのサービスの質は当然大きな要素となる。ユーザーからのレビューを受けての判断なのか、それ以外の問題もあったのかは不明だが、ウーバーが大きくなればなるほどこの手の問題は避けられないだろう。
一歩引いて、この話題について考えてみる。
今の世の中、いろんなサービスに対して口コミとレビューが入手できる。街角の小さいレストランだってオンラインのレビュー一つで閉店に追い込まれることもあれば、大繁盛して店舗拡大なんてことにも成りかねない。
今月はじめに紹介したAirbnbについても、レストランレビューの最大手のYelpも、料金とロケーションを除けば、レビューが最大の購買決定要因になる、と言っても過言ではないだろう。
今回のウーバーの例が象徴しているのは、このオンラインでの評価システムが誰にでも起こりうるということ。サービス業とか小売業だけでなく、わたしたち一人一人が労働力として、星で評価されるようになるかもしれない。
ただし、労働力の評価ってそう簡単には行かない。リソースが不足しているプロジェクトに配置された場合とリソースに余裕のあるプロジェクトの場合。チームのメンバーと打ち解けなかったり、複数の関連者との調整が必要な場合もあれば、極めて率直なタスクもある。また本人には能力があるのに、会社の方向性が急に変わってしまったために今までの仕事が無駄になってしまったなんてことも少なくはない。
レビューシステムが社会全体に浸透すればするほど、評価側もその重みをちゃんと受け止めて、真剣な姿勢でフィードバックを書かないといけない。
2013年3月13日水曜日
見知らぬ他人の自宅に泊まることに抵抗ありますか?
先月ハワイに行ってきたのだが、その旅行で一番印象に残った滞在場所(寝泊まり処)はプライベートビーチのついたチェーンホテルでも、景色の良い大型ホテルでもなかった。
それはオンラインでブッキングした見知らぬ誰かの家。着いた先はマウイ島の東端にある「ハナ」という町で、雨が多くうっそうと生い茂る緑に覆われた、昔ながらのハワイの風景が残るとても静かなエリアだ。アクセスが困難なことでも知られていて、空港から車で3時間、しかも道幅は狭く、車が一台しか通過できない橋が54カ所、600あまりのカーブが続く峠道を運転してやっと到着する。
住所の表示がなく、家を見つけるまでに10分ほどかかり、ついには何度も目の前を通っていた家であったことが発覚。見つけてからはすべてがスムースだった。ロックのかかった郵便受けに入ったカギを取って家に入る。入った途端に目の前には大きなリビングルーム、奥にはベッドルームと隣接したバスルーム。リビングの目の前にはバーベジュー・グリルの設置された広いバルコニーがあり、朝にはコーヒーを楽しめそうなアウトドア用のテーブルと椅子も用意されていた。フルキッチンに調理用具も完備。
一軒家の2階だけを借りたので1階には別の家族が泊まっていたが(入り口は別)、下からの音もほとんど聞こえなかった。
こんな隔離した町だけに、町にあるホテルは一軒だけ。しかも超高級ホテルで一泊500ドル以上はする。
でも値段以上に、印象に残ったのはその静けさとリラックス感。ホテルでありがちな、清掃の時間とか他の宿泊客をまったく気にせずに、静けさの中でハワイアンミュージックとか聞いていると、まるでハワイの自分の別荘にいるかのような幻想に陥る。
このブッキングのプロセスだが、いたって簡単だった。オンラインのサイトでサーチして、過去の滞在者のレビュー/評価をチェック、空き状況を確認したら、クレジットカードで支払いを済ませてブッキングが完了だ。その過程で詳細について質問があったので、直接オーナーにメールのやり取りを行ったが数日以上待たされることはなかった。(やり取りのすばやさもレビューの一貫に反映されるので、貸し主側は即時に対応してくれることが多い)
このように、使っていない自宅、アパートの一室や別荘を丸ごと借りるサービスを急展開しているのが、「airbnb」という会社だ。
この会社、日本語サイトも立ち上げて(翻訳は微妙)日本でのホストも600件ほど登録されているようだ。登録件数やユーザ数はアメリカに比べるとまだまだ見劣りするが、最低限の翻訳しかなされていないサイトを見ると、まだまだ力を入れてないことは明らかなので仕方ないとも言える。
ただ、そもそもこの手のサービスが日本で成功するかどうかという質問には、いろいろな意見がある。
「シェアリング」サービス一般的に、各マーケットの国民性や文化がその成功に大きく影響すると言われるが、これはコンテンツとかリンクとか写真の「シェアリング」ではなく、物理的な「住居」の「シェアリング」となる。従って、文化的な壁はさらに高い。どちらかというと、アメリカでは大きく成長した"Craig's list"のようなClassifiedサービスが日本でうまくいかなかったという議論に似ているような気もする。クラシファイドサイトでの大きなカテゴリーである中古品売買もルームシェアも、日本では受けいられなかった。
アメリカでは大学生のほとんどが学内の寮に住み、一部屋をもう一人のルームメイト、もしくはそれ以上とシェアする。高学年になると数人で一軒家を借りてシェアするなど、物理的な空間をシェアするのに慣れている。卒業して社会人になっても、しばらくお金が貯まるまではルームメイトと一軒のアパートをシェアすることが稀ではない。
日本では、そういう習慣はまったく根付いていない一方で、有名人が田舎のお宅にお邪魔して泊まらせてもらったり、有名人が海外のホストファミリーのところに泊まらせてもらって異文化体験をするなどのテレビ番組が人気なのも事実。誰もがそういう体験に憧れをもっていることは伺える。
日本人が日本国内を旅行するときには、あまりにも習慣の壁が高くて浸透しない可能性が高い。今や安くてきれいなビジネスホテルも増え、温泉を楽しめる旅館もさまざまな値段で楽しめるのに、何故わざわざ見知らぬ人の家に?というのが率直な反応だろう。
それだけに、airbnbのようなサービスにとっては、海外旅行者向けに節約というよりも異文化体験を売りにし、また、ルームシェアという概念に慣れた外国人が日本を旅行する際のオプションとしてポジショニングするのが、比較的受け入れやすいエントリー戦略かもしれない。
ちなみに去年末に行われたCEOのインタビューを読んでいると、airbnbのホストは、「異文化交流」とか「新しい交流を求めて」部屋や家を貸し出すことは少ないと言う。大部分は(少なくとも当初は)小銭稼ぎが目的だが、結果的に思わぬ交流や出会いが生まれ、ゲストと友達として連絡を取り続けることは少なくない。
日本人のホストに向けては、むしろ異文化交流の要素を全面に打ち出すのが効果的かもしれない。
2013年3月6日水曜日
ヤフーが巻き起こした在宅勤務論争
2012年7月にヤフーのCEOに就任して以来、次々と話題を繰り広げてきたMarissa Mayerだが、先週の発表は、今までで一番物議を呼んだ社内改革の一つと言えるかもしれない。
彼女自身、就任したときには妊娠5ヶ月、出産の2週間後には職場に復帰したというスーパーウーマン。就任以来、プロダクトの改善に留まらず、社員食堂(というと何か暗いイメージだが、実際は明るいカフェテリアというイメージ)での食事をすべて無料にしたり、iphoneを社員全員に配布したりと、シリコンバレーの代表企業では当然とされていることを積極的に取り入れ、「カルチャー」の改善にも余念がない。ここまでの変化は概ね好評で、少なくとも株価にはポジティブに反映されている。投資家には合格点をもらっているようだ。
今回のアナウンスは、いわゆる'work from home'と呼ばれる在宅勤務を禁止するというもの。今までの彼女の「カルチャー改革」の中でも、もっとも物議を呼んでいる一つと言えるだろう。
この'work from home'、日本ではまだあまり馴染みのないコンセプトだが、共働きが多く、リモートで勤務する環境に慣れているアメリカでは、週の数日もしくは毎日を自宅から勤務するという形態が稀ではない。日本の東京集中型と違ってビジネスの拠点が複数に分散しているアメリカでは、同じ国内でもニューヨークとシカゴとロスとサンフランシスコに分散したバーチャル・チームでプロジェクトを周していく、なんてことも多々ある。なので、メールや電話やスカイプ越しで顔を合わせずに仕事することに慣れている。
もう一つの背景は、評価方法にあると思う。日本ではまだまだ対面時間がとても大事で、さらに決定的なのは、それが仕事の評価に反映されることが多い。シリコンバレーの会社では、勤務時間が指定されていたり、歯医者で外出する場合は上司の許可が必要とか、そういう規則は聞いたことがない。それどころか、最近こっちではやっているのは「無制限の有給休暇」。根底にあるのは、自分に任された責任をきちんと果たして結果を出してさえいれば、それ以外の時間の使い方は個人に任せる、というカルチャー。結果がすべてで、仕事の評価も結果に基づいて行われるべき、という姿勢の反映したシステムだ。
ところが今回Marissa Mayerが打ち出したポリシーは、この自由奔放なシリコンバレーに逆流するものとも言える。
この決断の裏として憶測されているのが以下のような背景だ。
まずは、ヤフーではこの「在宅勤務」システムが乱用化されているのではないかという疑惑。つまり結果次第でそのプロセスは個人任せという信頼関係の上ではじめて成り立つこのシステムなので、そもそもの前提である信頼関係が崩れたら、システム自体も崩壊してしまう。
2点目は、この勤務体系の廃止をすることで、間接的なレイオフを狙っているのではという憶測。このポリシーの変更に賛同しない社員や毎日通勤することが不可能な社員が自主的に辞めれば、会社の課題となっている人件費の軽減が、低コストで実現できる。
この発表に、ヤフーの社員に限らず、あらゆる業界のあらゆる人たちが反応した。否定的な声を発したのは、共働きの両親(特にワーキングマザー)コミュニティーからRichard Brandson(Virgin Airの創設者でチェアマン)などのセレブリティまでに至る。
Marissa Mayer自身が出産2週間で職場に戻ったワーキングマザーだが、自分のオフィスの横に育児書を設立し、子供を連れてきているらしい。会社のお金ではなく自己負担で作ったというものの、そんな優遇された環境が持てる社員は他にいない。その不公正さがさらに不満の声を高めている。
一方、既存の社員は(おそらく在宅勤務を必要としない既存社員に限られると思われるが)おおむね好意的に受け取っているようだ。それぞれの事情は理解しようとするものの、やはり机を並べてホワイトボードに絵を書きながら議論するのと、音質が悪い電話会議で時間を気にしながら議論をするのを比較すると、明らかに生産性に違いが出る。株価は上がりつつあるものの、プロダクトの質やマーケットシェアではまだ競合他社に引けを取り、厳しい状況が続くヤフー。そんな状況で暢気に在宅勤務をしている場合ではないだろう、という危機感もあるようだ。
ヤフーの発表から1週間ほどたった今日、大手電気ディスカウントチェーン店であるBest Buy が、似たようなアナウンスを行った。今まで、在宅勤務に上司の許可は不要だったが、今後は上司の許可を必須とするという発表をした。「今までは結果のみを重視してきたけど、今後は結果だけではなくそれにたどり着いたプロセスも重視したい」とのこと。
行くところまで行き着いた観のあるシリコンバレー企業の個人主義文化だが、「基本に戻れ」的に逆流してきているのが面白い。
2013年3月2日土曜日
ゲーム・アプリも教育のためだったら良し?
英語で「toddler」とか「Preschooler」と言うと、赤ちゃんでもなく幼稚園児でもなく、よちよち歩きの2歳から4歳くらいの幼児のことを指す。言葉を話し始め、指示を理解するようになり、何事にも興味を示して好奇心旺盛になってくる年頃だ。この幼児をターゲットにしたスマートフォン、タブレットの「教育」アプリ開発が注目を集めている。
子供向けゲームと言えば拒否反応を示す親が多いが、現実的には今の社会と環境でゲームやスマートフォン、タブレットから子供を完全に切り離すことはもはやできない。親である大人が片時も携帯やタブレットを離せない生活になってしまった以上、家族の時間からそれを排除するのはどんどん難しくなっている。家庭内での使用を禁止しても、友達の家に行けばみんなタブレットで遊んでいる。だとしたら、どうやって最適コンテンツを選別し、子供がそれらのデバイスに触れている時間を最大限に活かすことができるか?というのが次の課題になってくる。
ちなみにアメリカのリサーチ会社NPD Groupの発表によれば、北米の2歳〜17歳のうち、91%はゲームを楽しんでいるという。
アメリカで人気がある幼児向けゲームと言えば、Angry Birds(教育という分野には属さないが)やディズニー、ThupのMonkey Preschool Lunchbox, Duck Duck MooseのWheels on the Busなど、大手からスタートアップが広く混在している。
また、Leapfrogのように幼児向けのおもちゃで大手の会社も、独自のデバイスをローンチするなどしてバーチャルな世界に参入しようとしている。
この分野での日本とアメリカの違いは何か。アメリカの方が有料のものが多い印象を受ける。一方で日本のアプリは、無料(少なくともデフォルトでダウンロードされる限定された機能については)にしているものが多いように見られる。つまり、アメリカの消費者の方がそれらのゲームに対してお金を出す価値を見いだしているのかもしれない。無料のものには広告が伴うのがお約束だが、広告というのは当然利用者の目を引きやすいようにデザインされていて、直感的に反応する子供は特に目が奪われやすい。さらに問題なのは広告の質で、日本のいくつかのアプリを使ってみると、まったく無関連もしくは不適切な大人向けの広告が出てきたりするのだ。
それだったら1ドルや2ドル出した方が良い、というのには同感できる。
アメリカでのこの手のアプリの一番の使い道はロードトリップでの車中。日々の通勤でも、週末の気軽な旅行にしても、この車社会では、数時間から一日近くかけてドライブすることは少なくない。飽きやすい子供相手(特に幼児)を歌や読書で30分以上エンターテインするというのは、不可能に近い。
子連れで飛行機で乗るときにも、必需品となっている。
先日外食に行ってある光景にびっくりした。同じレストラン内に大人子供含めて10人を超える大きなグループがディナーをしていたのだが、幼児を含めて子供たちは一人一台iPadを持ち、全員が下をうつむいてそれぞれのゲームに没頭している。一方の大人たちは、リラックスした様子でワインとおしゃべりを楽しんでいる。
そういった食事時の光景には賛否両論あるが、たまには騒ぐ子供を静まらせながら肩身の狭い思いをしないで、ゆっくりと会話を楽しみながら外食したいというのが親たちの本音だろう。
どんな統計値よりも、幼児・子供向けアプリの今後の可能性を印象づける象徴的な光景だった。
子供向けゲームと言えば拒否反応を示す親が多いが、現実的には今の社会と環境でゲームやスマートフォン、タブレットから子供を完全に切り離すことはもはやできない。親である大人が片時も携帯やタブレットを離せない生活になってしまった以上、家族の時間からそれを排除するのはどんどん難しくなっている。家庭内での使用を禁止しても、友達の家に行けばみんなタブレットで遊んでいる。だとしたら、どうやって最適コンテンツを選別し、子供がそれらのデバイスに触れている時間を最大限に活かすことができるか?というのが次の課題になってくる。
ちなみにアメリカのリサーチ会社NPD Groupの発表によれば、北米の2歳〜17歳のうち、91%はゲームを楽しんでいるという。
アメリカで人気がある幼児向けゲームと言えば、Angry Birds(教育という分野には属さないが)やディズニー、ThupのMonkey Preschool Lunchbox, Duck Duck MooseのWheels on the Busなど、大手からスタートアップが広く混在している。
また、Leapfrogのように幼児向けのおもちゃで大手の会社も、独自のデバイスをローンチするなどしてバーチャルな世界に参入しようとしている。
この分野での日本とアメリカの違いは何か。アメリカの方が有料のものが多い印象を受ける。一方で日本のアプリは、無料(少なくともデフォルトでダウンロードされる限定された機能については)にしているものが多いように見られる。つまり、アメリカの消費者の方がそれらのゲームに対してお金を出す価値を見いだしているのかもしれない。無料のものには広告が伴うのがお約束だが、広告というのは当然利用者の目を引きやすいようにデザインされていて、直感的に反応する子供は特に目が奪われやすい。さらに問題なのは広告の質で、日本のいくつかのアプリを使ってみると、まったく無関連もしくは不適切な大人向けの広告が出てきたりするのだ。
それだったら1ドルや2ドル出した方が良い、というのには同感できる。
アメリカでのこの手のアプリの一番の使い道はロードトリップでの車中。日々の通勤でも、週末の気軽な旅行にしても、この車社会では、数時間から一日近くかけてドライブすることは少なくない。飽きやすい子供相手(特に幼児)を歌や読書で30分以上エンターテインするというのは、不可能に近い。
子連れで飛行機で乗るときにも、必需品となっている。
先日外食に行ってある光景にびっくりした。同じレストラン内に大人子供含めて10人を超える大きなグループがディナーをしていたのだが、幼児を含めて子供たちは一人一台iPadを持ち、全員が下をうつむいてそれぞれのゲームに没頭している。一方の大人たちは、リラックスした様子でワインとおしゃべりを楽しんでいる。
そういった食事時の光景には賛否両論あるが、たまには騒ぐ子供を静まらせながら肩身の狭い思いをしないで、ゆっくりと会話を楽しみながら外食したいというのが親たちの本音だろう。
どんな統計値よりも、幼児・子供向けアプリの今後の可能性を印象づける象徴的な光景だった。
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