ことの発端は、Yale大学法学部教授のAmy Chuaの回想録 "Battle Hymn of the Tiger Mother" のプロモーションのために、彼女がWall Street Journalに寄せた記事だった。その名もズバリ、"Why Chinese Mothers Are Superior"(何故中国人の母親は優れているのか)。
ちなみに中国では、ライオンではなくて虎が獣の王様とされているので、"Lion Mother"ではなく、 "Tiger Mother"らしい。
記事の反響の大きさだが、オンラインで100万回以上読まれていて(つまり100万人が読んだと仮定していい)、今週半ばの時点で7000件以上のコメントが寄せられている。コメントの大多数は怒りの声で、さらには彼女のところには脅迫文まで送られているらしい。しかも意外なことに、同じようなバックグラウンドをもつアジア系アメリカ人からの怒りの手紙も少なくなかったという。
ではそこまでアメリカ中に議論を巻き起こした記事、どんな内容なのだろうか。
記事の内容を一言でまとめると、中国系アメリカ人2世である彼女が、いかに厳しく自分の2人の娘を育てたかというもの。多くの読者にショックを与えたエピソードとしては、ピアノの曲がうまく引けずにあきらめようとする7歳の娘に、引けるようになるまで夜通しで練習させ、食事もトイレ休憩もなくピアノの前に縛り付けたというもの。また、気に障るような言動を取った自分の娘を他人の前で「ゴミ」と呼んだり、娘の作ってくれた手作りの誕生日カードの出来に満足がいかず「こんなのいらない」と突き返したり。成績もA以外は問題外で、Aを取れなかった科目については次のテストに向けてとれるまで練習を繰り返させるなど、昼メロドラマでいじわるな義理の母親が娘に対して取りそうな言動の数々だ。
彼女のやり方は確かに極端だけど(しかも読み物として面白くするために、多少大げさに書かれている感もある)、一般的な子育てに関するアジア文化と西欧文化の違いが浮き彫りになっているのも確かだ。
記事の反響を受けて様々な意見がネット上で飛び交っているが、その中で中国人とアメリカ人の子育てに関する違いをまとめているものがあったので、紹介したい。
まず、アメリカ人の親は子供の自信とか気持ちをとても大事にし、子供が自信をなくすことや傷つけることをとても恐れる。一方で中国人の親は、そもそも子供は強いもので、親からの厳しい言葉をバネにして成長すると考える。
次に中国人の考えとしては、子供は親にすべてを負っていて親の期待に応える義務があるというのが基本にある。だから親(家族)のために成功して、将来恩返しすることが期待されている。一方のアメリカ文化では、子供は親を選ぶことができないのだから、親は子供にすべてを与える義務があるという真逆の考え方。
3点目として、中国人の親は、子供にとって何がベストかということを自分が一番知っていると確信している。子供が何をしたいかを尊重するのではなく、親が子供にとって一番だと思うことを優先するのだ。アメリカ文化では、子供が好きなことをさせてあげるという考え方なので、これまた真逆だ。
Chuaも言っているが、根本的な違いとしては、中国人は子供が強いものだと信じて厳しく育てる。それに比べて西欧文化では、子供が傷つきやすいから守ってあげるものだと信じて注意深く育てるところにあるようだ。
では果たしてどっちが正しいのか?というのが疑問になるが、昨年12月に発表された the Program for International Student Assessment (PISA) のレポートによると、世界中で行われた共通テストの結果、理科・数学・国語のすべての教科において平均最高点を取ったのは、上海の子供たちだった。アメリカの子供は国語で17位、理科で23位、数学は 31位に終わっている。もちろん中国どこでも上海の教育水準が見られるわけではないけど、点数という点からは中国(アジア?)方式が勝っていると仮定するのに十分なデータだと思われる。
この結果は謎でも何でもなくて、中国の子供たちがアメリカの子供たちより、もっと一生懸命勉強しているというだけのこと。集中して、長い時間勉強していることが統計的にも証明されている。一方アメリカ人の子供は、教室で過ごす時間よりもテレビを見る時間の方が長いということも報告されている。
となるとアメリカ式の育て方は間違っているのかというと、そういうことでもない。アメリカの高等教育の質と成果は全世界から一目置かれる。これはもちろんカリキュラムとか教授の質とかって要素も多少はあるんだろうけど、ルールや法則に従っていかに早く効率よく問題を解決できるかではなく、法則には必ずしも当てはまらない現実問題をいかに知恵を絞って解決していくか、を重んじるアメリカ教育だからこそだと思う。小さい時からコミュニケーション、チームワーク(協調性)、創造性、リーダーシップなどの経験を繰り返しているから、単なる計算問題を超えた現実問題に直面したときに、法則以上の知識や経験、知恵を駆使しようという柔軟性を持っているような気がする。
それらのソフトスキル(計算力などのハードスキルに対して、コミュニケーションなどのソフトスキル)と質の高い高等教育を特徴とした、アメリカ式教育の結果を証明している地のひとつが、シリコンバレーだと言える。中国や日本をはじめとした各国がシリコンバレーのような文化と場所、そして同じような高等教育システムを作リ出そうと努力してきた。ただこれは一夜にして生まれるものではなく、その地に根付く文化だったり若い人材をサポートするコミュニティーだったり、周りを取り囲むエコシステムがあって始めて存在する。
外国人や移民の両親に育てられた起業家も多いので、彼ら全員がいわゆる「アメリカ式」の教育を受けて育ってきたわけではないけれど、このコミュニティーが「アメリカ式」教育理念を基盤にして成り立っていることは間違いない。
特にシリコンバレーに関して強調してもしきれないのが、失敗の捉え方。失敗を経験として評価し、起業家たちに失敗を恐れずにチャレンジすることを強く促す文化はこの地ならではで、アメリカの「ほめて育てる」式に通じるところがある。それなしでは、今日のシリコンバレーはないと言っても過言ではないだろう。
では、日本はどうだろうか。訓練と練習を繰り返して、パターンを頭に叩き込むことが得意な中国教育について上で述べたが、この点は間違いなく日本にも通じる。
ただ最近は、日本でも子供を傷つけないようにとか、思いやりとか公平性を重んじて、アメリカ型にシフトしてきているようだ。成績表も5段階評価でなく◎○△評価だったり、学芸会なんかも主人公とハッキリ分かる物はやらないとか。。。例えば孫悟空なら孫悟空役が5人もいたりなんて話を聞くと、親の目を気遣う学校のやり方や、競争意識をなくすのに必死な学校の姿には首をかしげたくなる。はじめから一番なんかじゃなくていいよって言われたら、努力してできることも拍子抜けして努力しなくなる。
ほめまくるのがいいのか、叱ってのばすのがいいのか。
ありきたりの結論だけど、どっちも良いところを取り入れるというのがやっぱり一番なんだと思う。ただどちらかと言うと個人的には、小さいときは訓練を繰り返すアジア式、大きくなるにつれてアメリカ式を取り入れるというのが理想なのではと思ったりする。
実際にアメリカでも日本の公文がはやっていて、小さい頃から練習を繰り返して(訓練して)テクニックを身につけるタイプの学習方法が注目されている。一方日本の教育でも(特に高等教育)セミナー式のクラスやグループワークが増えてきている。
ちょっと余談だが、ここシリコンバレー近辺では、アジア系移民が増えたために学校の成績水準(特に数学)があがりすぎ、違う学区に引っ越していくアメリカ人の家庭が多いという話を良く聞く。代表的なのはアップルが本社を構えるクパチーノ市。ここは中国人とインド人の移民が近年急激に増えた地域だ。
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