歴史に残る選挙が終わりメディアもしばらくは休みモードに入るかと思いきや、選挙後もメディア合戦はとまらない。McCain敗北とObama勝利を分 析、それぞれの政治人生を超えた秘話、子供時代、家族との裏話、そしてもちろんPalinの今後について、などなど。選挙活動中はとかく、今までの経歴や 個人的な交遊関係に関する批判、ちょっとした失言をつつき合い、言った言わない議論などを繰り返す2人の候補者に対して、議論の焦点は今後の政策にあるべ きと強く批判してきたメディアだが、皮肉にもその焦点を見失っているのはメディア側のようだ。
この1年以上選挙を追いかけてきたObama, McCainの専属リポーターや、選挙のために特別番組で忙しくしていたアンカーたち、今後は職を失うのではないかと人ごとながら心配していたが、このメ ディア合戦の勢いはとどまることを知らない。選挙は終わりではなくあくまでも始まりに過ぎず、これからObama政権がどのようにこの歴史的な不景気や ファイナンス業界の立て直しに取り組んでいくのか、というところに関心が集まっているのはもっともだ。ただ、純粋に関心が集まっているのか、それともここ 数ヶ月のお祭り騒ぎに勢いづいてしまい止まれないのか、ふと首をかしげてしまうこともある。
そんな中、先日ビジネスウィークで面白い記事 を見かけた。かの有名なMichael Porterが、今だから見直すアメリカの「国の競争優位」について書いている。個人的な話になってしまうが、わたし自身がアメリカに来た理由、来てから 肌身感じたこと、などがうまく言葉にまとまっていたので、是非ここに書き留めたいと思った。
まずは1つ目。言うまでもなく、アメリカには起業文化とそれを支える環境とインフラが整っていること。そしてそれは次以降にあげていく多くの「国の競争優位性」基盤となっている。
2 つ目、アメリカの起業文化はサイエンスやエンジニアリングの発展に大きく支えられていて、その点では世界一と言えるだろう。他の国々がR&Dに予算やリ ソースを費やしているのに対して、アメリカはその革新を研究の世界に閉じ込めず、ビジネスに結びつけることが抜群にうまい。2007年、アメリカでは合計 80,000件の特許がレジスターされた。この数はアメリカ以外すべての国で受理された特許数の合計数をすでに上回っている。
3つ目、アメリカは世界トップレベルの教育機関が集まっている。優秀な研究者や教授を抱える教育機関はさらに世界中から優秀な学生を引きつける、という良い循環を生み出していて、優秀な人材を抱えた結果、学術界とビジネスのつながりはさらに強力になっていく。
4つ目、アメリカが競争とフリーマーケットへのコミットメントが人一倍強い社会であること。非効率なものを排除してより良いものを取り入れようとする文化であり、その結果、リストラや常に生産性の向上を目指す精神が根付いている。
5 つ目、これがわたしが個人的には一番面白いと思うのだが、アメリカという国はエリアや州に専門性がある。ひとつのまとまったアメリカの経済、というよりも まさに違う強みを持った複数のエリアの寄せ集めなのである。エンターテイメントと言えばハリウッド、バイオと言えばボストン、というように。その専門分野 に伴って産業や教育機関が発達し、より優秀な頭脳を全国から引きつけてさらに専門性を強めていく。各州やエリアがそれぞれの強み、つまり「競争優位性」を 意識し、積極的にそれを州の発展に利用していこうと努力する。
6点目。アメリカは、若者が起業して大金を手にした末、それをすべて失っても、また新しい会社を立ち上げて成功するということが起こり得る数少ない国の一つである。リスクをとることが評価され、リスクとリターンの法則が実証される場所である。
そして最後に、アメリカのもつ多様性、変化を恐れない実行力、そして失ったものを惜しみつつも次に進んでいくポジティブさがある。
こ れってアメリカのことっていうよりもシリコンバレーの話?と思わせるほど、この地にいるとほぼすべての点が実感できる。個人的な経験に結びつく点、知り合 いやテレビを通して間接的に経験する点、もちろん理解のレベルはそれぞれだが、この国に来て4年そこそこのわたしが何となくうなづいてしまうのである。こ れもこの国の強みのひとつではないだろうか、とふと思った。つまり多様性を価値あるものと見なし、そして透明性が高い社会だからこそ、外国人のわたしに も、何となくうなづけて、個人的な経験に結びついたような気になってしまう。
そして逆に言うと、これらのポイントは今まで何度も聞かれた質問「何故日本にシリコンバレーが生まれないのか?」の答えにもなっているような気がする。
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