2013年2月5日火曜日

ファッションとシリコンバレー


ファッション関連のビジネスと言えば、いまだにニューヨークが主要拠点だというイメージが強いが、最近はシリコンバレーに拠点を構えるファッション関連のスタートアップが増えてきている。

ファッション関連のビジネスと言っても、単にオンラインショッピングを提供するサービスではなく、ソーシャル性を組み込んだり、伝統的な小売業のトレンドを予測するなど、斬新なアイディアを実装したサービスが次々と生まれている。

例えば、modcloth

ファッション業界は、毎シーズンのトレンドや売れ筋を正確に予測するのは難しい。一方で、全国的、世界的に大規模で展開しているブランドにとっては、商品が店頭に並ぶ前に需要を予測、それに見合うだけの大量生産を始めないと供給が追いつかない。ある程度シーズンのトレンド予測はつくものの、リスクが高い賭けのようなものだ。

一般的にアパレル商品のマージンは高いと思われがちだ。確かに通常価格で店頭で売れれば60〜80%以上と高いが、アウトレットに送られた途端のそのマージンは30%に落ち、さらにTJMaxsなどに代表されるディスカウント店に送られた途端に10〜20%となる。いかに通常価格で売りさばくかが、売り上げ高の大きなカギとなる。

そんな業界のチャレンジを克服するために、今年のトレンドや売れ筋を試すサイトを立ち上げたのがmodcloth.comだ。大量生産を始める前に試作品としての商品をオンサイトで販売し、ユーザーの反応をモニター。反響の大きさを受けて、実際のプロダクションに入る商品を決める。

他にファッション関係と言えば、当然のごとく、Pinterestがあげられる。去年の前半ほど話題にのぼることがなくなったものの、いまだにマーケティングツールとしてファッション業界だけでなくインテリアデザイン、アートなどいろいろな観点で目が離せない。

そして、Palo Alto発で"the most popular fashion site on the Internet"と言われているのは、Polyvore

誰もが自分のファッションセンスを表現できるプラットフォームを、というコンセプトで始まったサービス。オンラインストアなどから「切り抜いた」画像を使って、誰でも洋服やアクセサリーのコーディネートのアイディアが作って、他のユーザーに共有できるサイトだ。ファッション好きな女性ユーザーの自己表現の場として人気を集めるだけでなく、大手ブランドが自社商品を使ったコーディネート例を宣伝する場となっている。サイトを経由して商品の購入もできるので、ユーザ数やトラフィックだけ集めたものの収益に結びつかない多くのスタートアップと違って、確実にマネタイズできることを証明している。毎月1,300万人以上のユーザーを抱え、4,500万以上のイメージ(コーディネート例)が作成されているというから、その数値からもユーザーのエンゲージメントが高いことがわかる。

一方、一見良くあるようなオンラインショッピングのサイトに見えるが、特定のユーザー層と商品にターゲットを絞っているOne King's Lane もサンフランシスコ発だ。高級家具、インテリア関連の商品や台所用品などをディスカウント価格で提供している。昨年12月にはSeries Dとして50 millionドルを集め、設立以来、合計117 millionドルの投資を受けたことになる。2012年の予想年間売り上げは200 million ドル、毎日6百万人のユーザーがサイトを訪れる上でのさらなる追加投資だから、今後も積極的な展開を進めていくのは明らかだ。

扱っている商品はすべて高級ブランド、ビンテージ商品や、有名デザイナーのものだったりするところが他サイトとの差別化と言える。今までの高級家具と言えば、数が限られていたり取り扱い店が限られていたので、買い手にとっては必然的に選択肢が限られていた。デザイナーにとっても、大手チェーンでない限りは、ディストリビューションのネットワークは限られていて、売れ切らないリスクは高かったのだと思われる。そんな買い手と売り手の距離を縮めたのがOne King's Laneだ。サイトを見ると、ディスカウントという安売りしているイメージはまったくなく、洗練された印象だ。また、2ドルのコップから数千ドルの高級家具まで売られているので、家具以外の気軽な買い物もできる。

前述のmodclothのように、伝統的なファッション業界のチャレンジを克服するため、ファッションショーなど特定の業界人の反応ではなく、実際の顧客が何を買い求めるかのトレンドをより正確に予測するサイト。また一方でPolyvoreのように、ユーザーから能動的に、今のファッションを定義させるサイト。そしてPinterestのように、それらのサイトにトラフィックを呼び込むサイト。一見競合関係に陥りそうな各サービスだが、いまのところはうまく共存しているようだ。実際昨年のPolyvoreの発表によると、PolyvoreにとってはPinterestが2つ目に大きなトラフィックソースだそうだ。Pinterestにとっても、Polyvoreはもっとも"pinned"されたサイトの第6位にランクインするとのこと(2012年3月のデータ)。

ところで、これらのサイトを見ていると、日本のファッション雑誌を思い出さずにはいられない。日本の雑誌を見るたびに関心するのが、その実用性とか具体性。例えば30日着回し術とか、春から秋への着回し術とか。アメリカのファッション雑誌は半分以上が広告で、実際に自分が着られそうな服はほとんど見つからなかったりする。日本の雑誌も半分以上広告だったりするが、広告を広告のように見せないところがすごい。着回し術の特集だと思っていたら、実はすべて同じブランドの服で、そこがスポンサーしている特集だったりするけど、それを思わせないような構成になっている。シリコンバレーのスタートアップが今後使えるアイディアが日本にはすでに存在しているのかもしれない。

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