アメリカでも状況は同じで、はやりのフードトラック(いわゆるランチやスナックの販売車)や地元の家族経営のレストラン、街角のキオスクでは、支払いは現金のみということが多かった(少なくとも最近までは)。
小売決済はカードが主流なのに、個人や個人事業主がカード加盟店になるのはむずかしい。仮に、加盟店になれたとしても、カード決済端末は高く、ランニング費用もかかる。よって、25ドル以上の購入に限りカード利用可など、金額を決めている店も少なくない。
そんな不便さと非効率を解決しようと勢いを増しているのがサンフランシスコ発の会社、スクエアだ。最近特にサンフランシスコのあちこちに出没するフードトラックやファーマーズマーケットでは、ほとんどの業者がスクエアを取り入れているように見える。
Squareとは、スマートフォンやタブレットに小型のカードリーダーを取り付けてクレジットカード決済を可能にするサービスだ。また消費者向けには、Square Walletというプロダクトもある。これはモバイルペイメントアプリで、Square Walletを搭載したスマートフォンを持って店舗に入ると、スマートフォンの存在が認知されて、利用者が店舗で支払いをすると、Square Walletに紐づけられたカードから引き落としが行われる。レジではSquare Walletで登録したユーザーの写真が表示されるので、店員は顔写真を確認して支払いを受け付けられる。
日本だと、昨年楽天が同じようなサービスをローンチして話題になった。
アメリカでも、もちろん競合が黙っていないわけにいかない。Groupon、ペイパルなどの大手企業から、スタートアップまでさまざまな企業がこのエリアに参入している。
では、何故スクエアが有利なのか?
もちろん創業者がツイッターやフォースクエアに関与したジャック・ドーシーで、2億ドルを調達した最近のラウンドでの時価評価は32億ドル、といったバズがマーケティング効果をもたらしていることは間違いない。特にペイメントと言えば信用が何よりのサービスなので、超有名な創業者に超有名な投資家がバックアップしているということは、会社やサービスの信用度に大きな影響を与える。
加えて、積極的にマーケティングを繰り広げているようだ。最近はゴールデンタイムの大手チャンネルで、テレビコマーシャルを良く見かける。
ただそれだけではない。
小売業者の観点から言うと、何よりの魅力はその課金精度のシンプルさ。カードをスワイプした場合は2.75%、カード番号を手打ちで入力した場合は3.5% + $0.15がトランザクションごとにかかる。決して安いとは言えないものの、月額費や早期解約のペナルティーがないなど、総合的には多くのサービスより安いと受け取られているようだ。
一方で不満が集まっているのは、不正を防ぐためのポリシー。スクエアのサービスでは、カード利用者のクレジットヒストリーチェックなどを行わないため、ある一定額を超えたカード不在の購入(カードのスワイプではなく番号を手打ちした場合で、数千ドルを超えた購入)の場合、金額が数日以上振り込まれない。ただし、あくまでも数ドルのスナックを売るフードトラックなどが対象であれば、そういうケースは稀なのかもしれない。
もう一点話題となるのが、そのカスタマーサポートの薄さ。まずはウェブサイトから電話番号が見つけづらい。見つかった番号にかけても、留守電で、折り返しの連絡は数日後になる。手厚いカスタマーサポートを売りにする伝統的な会社ではないものの、やはり先述の「信用」に関わってくる業界だけに、ここは改善を期待したい。
消費者の観点からすると、利点はとてもわかりやすい。今までクレジットカードが使えなかったところで利用が可能になる。また、Square Walletを使えば、カードを持ち歩かずに携帯一台ですべての支払いが済む。それに加えて、ロイヤルティーカード機能(お買い物スタンプのようなもの)や検索機能も備えているので、買い物途中に時間が空いたときにお茶ができるカフェを近所で探したりできる。ちなみにSquare Walletはすでに20万店舗で利用可能で、特にサンフランシスコはサービス発祥の地であるだけに、スクエア加盟店が多く見つかる。
会社の昨年の一番と言ってもいいマイルストーンは、スターバックスとの提携だ。2012年秋からSquareはスターバックスの全米7000店においてクレジット・カード、デビット・カードによる支払い処理を担当することになった。Squareで支払いをするユーザーはiPhoneまたはAndroidのSquare Directoryで、近所のStarbucksの位置を知ることができる。(ちなみにスターバックスは2500万ドルに上るシリーズDの投資も行った)。
スターバックスのカードと言えば、昨年のクリスマスにもっとも売れたギフトカード。数人に一人のアメリカ人がクリスマスのギフトとして、スターバックスカードをもらったという統計が見た。わたし自身ももらったし、結局気が変わったものの、お世話になった人にあげようとも考えていた。今までなら現金がない場合、消費者はクレジットカード、スターバックスカード、スターバックスアプリでの支払いがオプションとしてあった。そこにスクエアが加わったことで、スクエアはある意味クレジットカード機能とアプリ機能の両方を兼ね備えることになる。ギフトカードをスクエア経由で使うことはまだできないようだが(少なくともわたしのAndroidでは、使えなかった)、そのうち複数のカード(クレジット、デビット、ギフト)が使えるプラットフォームとして、ますます用途が増えていくものとされる。
他の多くの成長中のスタートアップと同様、スクエアの2013年の課題はアメリカでのネットワーク(小売業そして消費者ともに)を広げていくとともに、海外での成長だと言う。ペイメントはさまざまな規制があり、各地でのクレジットカード会社とうまく協調していかないといけない。他のサービスやプロダクトのように簡単にスケール化できないだけに、そのあたりをどう解決していくのかが注目だ。