2013年2月26日火曜日

今度の風雲児は、ペイメント業界のスクエア

クレジットカードやモバイルペイメントがここまで普及した日本でも、屋台とか町の商店街では現金決済のオプションしかないことがほとんどだ。

アメリカでも状況は同じで、はやりのフードトラック(いわゆるランチやスナックの販売車)や地元の家族経営のレストラン、街角のキオスクでは、支払いは現金のみということが多かった(少なくとも最近までは)。

小売決済はカードが主流なのに、個人や個人事業主がカード加盟店になるのはむずかしい。仮に、加盟店になれたとしても、カード決済端末は高く、ランニング費用もかかる。よって、25ドル以上の購入に限りカード利用可など、金額を決めている店も少なくない。

そんな不便さと非効率を解決しようと勢いを増しているのがサンフランシスコ発の会社、スクエアだ。最近特にサンフランシスコのあちこちに出没するフードトラックやファーマーズマーケットでは、ほとんどの業者がスクエアを取り入れているように見える。

Squareとは、スマートフォンやタブレットに小型のカードリーダーを取り付けてクレジットカード決済を可能にするサービスだ。また消費者向けには、Square Walletというプロダクトもある。これはモバイルペイメントアプリで、Square Walletを搭載したスマートフォンを持って店舗に入ると、スマートフォンの存在が認知されて、利用者が店舗で支払いをすると、Square Walletに紐づけられたカードから引き落としが行われる。レジではSquare Walletで登録したユーザーの写真が表示されるので、店員は顔写真を確認して支払いを受け付けられる。

日本だと、昨年楽天が同じようなサービスをローンチして話題になった。

アメリカでも、もちろん競合が黙っていないわけにいかない。Groupon、ペイパルなどの大手企業から、スタートアップまでさまざまな企業がこのエリアに参入している。

では、何故スクエアが有利なのか?

もちろん創業者がツイッターやフォースクエアに関与したジャック・ドーシーで、2億ドルを調達した最近のラウンドでの時価評価は32億ドル、といったバズがマーケティング効果をもたらしていることは間違いない。特にペイメントと言えば信用が何よりのサービスなので、超有名な創業者に超有名な投資家がバックアップしているということは、会社やサービスの信用度に大きな影響を与える。

加えて、積極的にマーケティングを繰り広げているようだ。最近はゴールデンタイムの大手チャンネルで、テレビコマーシャルを良く見かける。

ただそれだけではない。

小売業者の観点から言うと、何よりの魅力はその課金精度のシンプルさ。カードをスワイプした場合は2.75%、カード番号を手打ちで入力した場合は3.5% + $0.15がトランザクションごとにかかる。決して安いとは言えないものの、月額費や早期解約のペナルティーがないなど、総合的には多くのサービスより安いと受け取られているようだ。

一方で不満が集まっているのは、不正を防ぐためのポリシー。スクエアのサービスでは、カード利用者のクレジットヒストリーチェックなどを行わないため、ある一定額を超えたカード不在の購入(カードのスワイプではなく番号を手打ちした場合で、数千ドルを超えた購入)の場合、金額が数日以上振り込まれない。ただし、あくまでも数ドルのスナックを売るフードトラックなどが対象であれば、そういうケースは稀なのかもしれない。

もう一点話題となるのが、そのカスタマーサポートの薄さ。まずはウェブサイトから電話番号が見つけづらい。見つかった番号にかけても、留守電で、折り返しの連絡は数日後になる。手厚いカスタマーサポートを売りにする伝統的な会社ではないものの、やはり先述の「信用」に関わってくる業界だけに、ここは改善を期待したい。

消費者の観点からすると、利点はとてもわかりやすい。今までクレジットカードが使えなかったところで利用が可能になる。また、Square Walletを使えば、カードを持ち歩かずに携帯一台ですべての支払いが済む。それに加えて、ロイヤルティーカード機能(お買い物スタンプのようなもの)や検索機能も備えているので、買い物途中に時間が空いたときにお茶ができるカフェを近所で探したりできる。ちなみにSquare Walletはすでに20万店舗で利用可能で、特にサンフランシスコはサービス発祥の地であるだけに、スクエア加盟店が多く見つかる。

会社の昨年の一番と言ってもいいマイルストーンは、スターバックスとの提携だ。2012年秋からSquareはスターバックスの全米7000店においてクレジット・カード、デビット・カードによる支払い処理を担当することになった。Squareで支払いをするユーザーはiPhoneまたはAndroidのSquare Directoryで、近所のStarbucksの位置を知ることができる。(ちなみにスターバックスは2500万ドルに上るシリーズDの投資も行った)。

スターバックスのカードと言えば、昨年のクリスマスにもっとも売れたギフトカード。数人に一人のアメリカ人がクリスマスのギフトとして、スターバックスカードをもらったという統計が見た。わたし自身ももらったし、結局気が変わったものの、お世話になった人にあげようとも考えていた。今までなら現金がない場合、消費者はクレジットカード、スターバックスカード、スターバックスアプリでの支払いがオプションとしてあった。そこにスクエアが加わったことで、スクエアはある意味クレジットカード機能とアプリ機能の両方を兼ね備えることになる。ギフトカードをスクエア経由で使うことはまだできないようだが(少なくともわたしのAndroidでは、使えなかった)、そのうち複数のカード(クレジット、デビット、ギフト)が使えるプラットフォームとして、ますます用途が増えていくものとされる。

他の多くの成長中のスタートアップと同様、スクエアの2013年の課題はアメリカでのネットワーク(小売業そして消費者ともに)を広げていくとともに、海外での成長だと言う。ペイメントはさまざまな規制があり、各地でのクレジットカード会社とうまく協調していかないといけない。他のサービスやプロダクトのように簡単にスケール化できないだけに、そのあたりをどう解決していくのかが注目だ。

2013年2月12日火曜日

2013年のPinterest。このままの勢いを続けられるのか、もしくは昨年のInstagramのように失速してしまうのか。


先日ファッションとシリコンバレーという記事を書いたが、そこであまり触れなかったPinterestについて。画像を使ったSNSということで去年から一気に注目を浴びるようになった。それもそのはず、ユーザ数とトラフィックが急激な伸びを見せて、特に小売り業や大手ブランドではないサイトへの大きなトラフィックの原動力となってきている。

仕組みはフェースブックやTwitterの’いいね!’や’retweet'と似ていているが、ユニークなのはその対象コンテンツが画像ということだ。ウェブブラウジングをしていて気に入った洋服、写真、家具、その他何でもイメージがあれば、’Pin'して自分独自のオンラインのスクラップブックを作る('board'と呼ぶ)。それを他の人に公開すると同時に、他の人のスクラップブックをフォローすることもできるので、友達、同じ趣味を持つ人、また、会社がオフィシャルに立ち上げたアカウントをフォローして、最新商品やコーディネート例を参考にしたりできる。家のインテリアデコレーションの検討、結婚式のプランニングをするときのアイディア集めなど、画像やイメージでの情報集めが威力を発揮するケースで、特に好んで使われているようだ。

Nielsenのレポートによると、今までのFacebook, Twitter, Linkedinというソーシャルサイトのビッグ3に、2012年にはPinterestがビッグ4として名乗りをあげた。2012年にもっとも伸びを示したのがPinterestだからだ。

ユニークPCユーザ数で1,047%の伸びを記録。ちなみに第2位はGoogle Plusで80%だったから、いかに飛び向けた数値かがわかるだろう。モバイルアプリのユニークユーザ数は1,698%、モバイルウェブのユニークユーザ数は4,225%という、驚異的な伸びを示した。ちなみにモバイルアプリの第二位はTwitterで134%、モバイルウェブはRedditで153%と桁違いで引き離している。

ソーシャルサイトにとっては、多くの人がサイトを訪れることは重要だが、各ユーザのエンゲージメントは同様に成功のカギとなる。そのエンゲージメントの指標となるminutes spent(サイトやアプリ上で過ごした時間)では、モバイルアプリでは6,056%の伸びを示して、第4位となった。

特徴的なのはユーザーの大部分が女性ということ。アプリユーザの84%、モバイルウェブユーザーの72%、PCユーザーの70%が女性という圧倒的な数値になっている。

女性ユーザーが中心というのも直感的に納得がいく。'cars and motorcycles' などを含んだ20あまりのカテゴリーに分かれているものの、画像を使ってビジュアル的にアピールするプロダクトなので、必然的に利用されるのはファッション、デザインとかインテリアデザイン。アーティスティックで洗練された写真がそのまま商品購入につながるのだから、見た目に楽しいだけでなくマネタイズにもつながる。

ユーザーの一人としては、検索機能を充実してほしいとか、もっと細かいサブカテゴリーを提供してほしいと思うわけだが、pinterestの考えている方向性とは一致しないのかもしれない。

Pinterstの一番の目的は、ユーザーが新しいコンテンツや商品を発見する場の提供だ。もし検索機能を充実させたり、細かいサブカテゴリで検索を絞り込んだら、ユーザーは探しているものを見つけてそれで「検索」という目的は果たされてしまう。となると究極のところ、グーグルの画像検索と変わらない。例えば結婚式のプランニングでどんなイメージ/テーマにしたいかわからないときに、とりあえずいろんなアイディアを見てみたい、というときにPinterestが使える。ウェディング雑誌をめくるように、pinterestの'board'をブラウズするのだ。つまり検索機能を充実するということは、逆にこのサービスのユーザー・プロポジションに反する可能性がある。

昨年、楽天が$50 millionの投資を行って日本でも有名になったPinterest。今後どのようにプロダクトを充実していくのか、どのようなポジショニングを行うのか、そしてこの勢いを2013年も続けられるのが、目が離せない。ちなみに2011年に一番の伸びを見せたInstagramだが、Nielsenの2012年トップ10のリストからは漏れている。

2013年2月5日火曜日

ファッションとシリコンバレー


ファッション関連のビジネスと言えば、いまだにニューヨークが主要拠点だというイメージが強いが、最近はシリコンバレーに拠点を構えるファッション関連のスタートアップが増えてきている。

ファッション関連のビジネスと言っても、単にオンラインショッピングを提供するサービスではなく、ソーシャル性を組み込んだり、伝統的な小売業のトレンドを予測するなど、斬新なアイディアを実装したサービスが次々と生まれている。

例えば、modcloth

ファッション業界は、毎シーズンのトレンドや売れ筋を正確に予測するのは難しい。一方で、全国的、世界的に大規模で展開しているブランドにとっては、商品が店頭に並ぶ前に需要を予測、それに見合うだけの大量生産を始めないと供給が追いつかない。ある程度シーズンのトレンド予測はつくものの、リスクが高い賭けのようなものだ。

一般的にアパレル商品のマージンは高いと思われがちだ。確かに通常価格で店頭で売れれば60〜80%以上と高いが、アウトレットに送られた途端のそのマージンは30%に落ち、さらにTJMaxsなどに代表されるディスカウント店に送られた途端に10〜20%となる。いかに通常価格で売りさばくかが、売り上げ高の大きなカギとなる。

そんな業界のチャレンジを克服するために、今年のトレンドや売れ筋を試すサイトを立ち上げたのがmodcloth.comだ。大量生産を始める前に試作品としての商品をオンサイトで販売し、ユーザーの反応をモニター。反響の大きさを受けて、実際のプロダクションに入る商品を決める。

他にファッション関係と言えば、当然のごとく、Pinterestがあげられる。去年の前半ほど話題にのぼることがなくなったものの、いまだにマーケティングツールとしてファッション業界だけでなくインテリアデザイン、アートなどいろいろな観点で目が離せない。

そして、Palo Alto発で"the most popular fashion site on the Internet"と言われているのは、Polyvore

誰もが自分のファッションセンスを表現できるプラットフォームを、というコンセプトで始まったサービス。オンラインストアなどから「切り抜いた」画像を使って、誰でも洋服やアクセサリーのコーディネートのアイディアが作って、他のユーザーに共有できるサイトだ。ファッション好きな女性ユーザーの自己表現の場として人気を集めるだけでなく、大手ブランドが自社商品を使ったコーディネート例を宣伝する場となっている。サイトを経由して商品の購入もできるので、ユーザ数やトラフィックだけ集めたものの収益に結びつかない多くのスタートアップと違って、確実にマネタイズできることを証明している。毎月1,300万人以上のユーザーを抱え、4,500万以上のイメージ(コーディネート例)が作成されているというから、その数値からもユーザーのエンゲージメントが高いことがわかる。

一方、一見良くあるようなオンラインショッピングのサイトに見えるが、特定のユーザー層と商品にターゲットを絞っているOne King's Lane もサンフランシスコ発だ。高級家具、インテリア関連の商品や台所用品などをディスカウント価格で提供している。昨年12月にはSeries Dとして50 millionドルを集め、設立以来、合計117 millionドルの投資を受けたことになる。2012年の予想年間売り上げは200 million ドル、毎日6百万人のユーザーがサイトを訪れる上でのさらなる追加投資だから、今後も積極的な展開を進めていくのは明らかだ。

扱っている商品はすべて高級ブランド、ビンテージ商品や、有名デザイナーのものだったりするところが他サイトとの差別化と言える。今までの高級家具と言えば、数が限られていたり取り扱い店が限られていたので、買い手にとっては必然的に選択肢が限られていた。デザイナーにとっても、大手チェーンでない限りは、ディストリビューションのネットワークは限られていて、売れ切らないリスクは高かったのだと思われる。そんな買い手と売り手の距離を縮めたのがOne King's Laneだ。サイトを見ると、ディスカウントという安売りしているイメージはまったくなく、洗練された印象だ。また、2ドルのコップから数千ドルの高級家具まで売られているので、家具以外の気軽な買い物もできる。

前述のmodclothのように、伝統的なファッション業界のチャレンジを克服するため、ファッションショーなど特定の業界人の反応ではなく、実際の顧客が何を買い求めるかのトレンドをより正確に予測するサイト。また一方でPolyvoreのように、ユーザーから能動的に、今のファッションを定義させるサイト。そしてPinterestのように、それらのサイトにトラフィックを呼び込むサイト。一見競合関係に陥りそうな各サービスだが、いまのところはうまく共存しているようだ。実際昨年のPolyvoreの発表によると、PolyvoreにとってはPinterestが2つ目に大きなトラフィックソースだそうだ。Pinterestにとっても、Polyvoreはもっとも"pinned"されたサイトの第6位にランクインするとのこと(2012年3月のデータ)。

ところで、これらのサイトを見ていると、日本のファッション雑誌を思い出さずにはいられない。日本の雑誌を見るたびに関心するのが、その実用性とか具体性。例えば30日着回し術とか、春から秋への着回し術とか。アメリカのファッション雑誌は半分以上が広告で、実際に自分が着られそうな服はほとんど見つからなかったりする。日本の雑誌も半分以上広告だったりするが、広告を広告のように見せないところがすごい。着回し術の特集だと思っていたら、実はすべて同じブランドの服で、そこがスポンサーしている特集だったりするけど、それを思わせないような構成になっている。シリコンバレーのスタートアップが今後使えるアイディアが日本にはすでに存在しているのかもしれない。